著者らは,血管内凝固症候群(DIC)を呈し死亡した,恙虫病の1剖検例を経験したので報告する.患者は69才,女性で,秋田県由利郡大内町の農村に住み,自宅周囲での山菜とりの生活歴がある.感冒症状で発症後, 39°Cの発熱,発疹を認めた. PC系, CER系抗生物質使用により改善せず,右鼡径部の刺し口,生活歴より恙虫病を疑い,発症13日目よりTC系抗生物質を使用したが,重篤なDICを呈しており死亡した.臨床検査成績では,血沈正常,白血球やや減少,核左方移動,血小板減少, CRP強陽性,肝機能障害,低蛋白血症,フィブリノーゲン低下, FDP上昇,ワイル・フェリクス反応陰性,心電図では心房細動を認めた.病原診断検査により, Gilliam型リケッチアの感染が確認された.剖検では,全身リンパ節には異常は見られず,フィブリン血栓も見られなかつた.本症例を含め,最近の死亡例3例を比較検討してみた所,いずれもGilliam型であり, DICの所見を示し,発症2週以内に死亡している.また,ワイル・フェリクス反応陰性例は2例であつた.本反応は陽性化するまでに,多くは2週以上を要するとされ,本症死亡例の診断には役立つていない.従つて,診断には刺し口,発疹,高熱,生活歴等で本症を疑つた時には,早期にインムノペルオキシダーゼ法,螢光抗体法による病原診断を行ない,早期に有効な抗生物質投与を開始することが肝要と考えられる.
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