原発性甲状腺機能低下症に低Na血症を合併した1症例を経験し,低Na血症の発現機序におけるantidiuretic hormone (ASH)の役割について検討した.症例は66才の男性. 15年前より尿量が減少し,浮腫が出現していた. 1年前より寒冷に過敏となり,前医で119mEq/
lの低Na血症を指摘され,当科に入院した.入院時,甲状腺を触知せず,浮腫を認めた.血清Na 130mEq/
l, K 4.3mEq/
l,血漿浸透圧261mOsm/kg,尿中Na 136.5mEq/日.糸球体炉過率53ml/分, BUN,クレアチニン,および尿酸は正常であつた.基礎代謝率-33%, T
3 10ng/dl, T
4 n. d, TSH 100μU/ml,血中ACTH 22.1pg/ml, cortisol 4.8μg/dl,尿中17-OHCS 1.6mg/日, 17-KS 2.8mg/日.血中ADH 2.3pg/ml,尿中ADH 23.4mg/日.血中ADHは,高張食塩水負荷による血漿浸透圧の増加に全く反応せず,血漿浸透圧に比し高値にあつた.急性の水負荷試験では,尿ADHクリアランスの減少と血中ADHの抑制不全とともに,高度の水利尿不全を認めた.しかし, cortisone併用による水負荷では,水利尿不全が改善し,同時に尿ADHクリアランスが増加して,血中ADHの血漿浸透圧の減少に対する反応性も改善した.甲状腺薬補充の初期には, prednisoloneの併用時に血清Na値が改善した.また,長期の甲状腺薬の補充によつても,副腎皮質機能が改善し,血清Na値が正常化した.本例では,主として甲状腺機能低下による副腎皮質機能低下が, ADHの過剰をもたらLて,低Na血症を発現させたものと考えられた.
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