原発性胆汁性肝硬変の患者の家族に,抗ミトコンドリア抗体を含めた各種自己抗体の出現を高率に認めた家系を経験した.発端者症例は54才,女性で,皮膚〓痒感と心窩部重圧感を主訴として入院した.入院時検査で抗ミトコンドリア抗体160倍以上,血清IgM 628mg/dl,血清アルカリフォスファターゼ38.9KAU, γ-GTP 658U, TTT19.6Uであつた.胆石も認めたため,胆〓切除術および外科的肝生検を施行した.肝組織像では,門脈域の胆管の変性,破壊,消失や,肉芽腫形成を認め,慢性非化膿性破壊性胆管炎の像で, Scheuer分類によるI期の原発性胆汁性肝硬変と診断した.免疫異常の家族内集積を調べる目的で,患者同胞6名の免疫血清学的検査を施行したところ,抗ミトコンドリア抗体を3例(次姉,妹,娘)に認め,抗マイクロゾーム抗体を3例,抗核抗体,抗DNA抗体,抗甲状腺抗体を各1例に認めた.さらに患者およびその同胞のHLA抗原の検索では,何らかの免疫異常を示した同胞者は患者とまつたく同一のHLA抗原を有し, HLA A2, AW24, BW52, BW60, CW3, DR2, DRW9であつた.しかしながら,これと同一のHLA抗原を有しながら,免疫異常の明らかでない同胞者(長姉)もあり,免疫異常の出現や原発性胆汁性肝硬変の発症には,免疫遺伝学的背景の上に他の因子の関与が必要なことが示唆された.
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