日本内科学会雑誌
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72 巻, 5 号
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  • 根本 洋子
    1983 年 72 巻 5 号 p. 527-536
    発行日: 1983/05/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    甲状腺機能亢進症25例と甲状腺機能低下症15例においてrenin-angiotensin-aldosterone系とcatecholamineの分泌・代謝動態ならびにその相関を検討した.血漿renin活性(PRA)と血漿aldosterone (PA)の基礎値は,甲状腺機能亢進症では,甲状腺機能低下症と比べて有意に増加していた. PRAの夜間変動が,甲状腺機能亢進症で著明に認められたが,甲状腺機能低下症では低値に保たれていた. furosemideに対するPRAとPAの反応は,甲状腺機能低下症で低下した.甲状腺機能低下症において, ACTHに対するPAの反応は,薬理量(250μg)の1回静脈内投与では,甲状腺機能亢進症よりは低下していたが,微量持続投与では有意差を認めなかつた.一方尿中dopamine排泄は甲状腺機能亢進症で,血漿noradrenalineは甲状腺機能低下症で有意に増加した. metoclopramide (10mg, i. v.)に対するPA反応は,甲状腺機能低下症で低下した.甲状腺機能亢進症において, PRAと血漿adrenalineの間に有意の相関が認められたが,この時の血漿adrenalineは正常範囲内の変動であつた.これらの結果から,甲状腺機能亢進症におけるPRAの上昇は, β-受容体に対する感受性の亢進によることが示唆された.また甲状腺機能低下症では, dopamineはaldosteroneの分泌調節に, renin-angiotensinより,重要な役割を演じているとは考えられなかつた.
  • 門脇 孝, 羽倉 稜子, 梶沼 宏, 葛谷 信貞, 吉田 尚
    1983 年 72 巻 5 号 p. 537-546
    発行日: 1983/05/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    我々は最近, chlorpropamide投与により著明な精神症状を伴う低ナトリウム血症をきたした糖尿病の1例を経験した.症例: 67才,女性.糖尿病,高血圧に対し,長期間glibenclamide, trichlormethiazideの投与を受けていた.糖尿病のコントロール不十分のためchlorpropamide 500mgに変更後7日目より著しい全身倦怠感と異常行動が出現し,検査成績上著明な低ナトリウム血症(113mEq/l)を認めた.そこで, chlorpropamideを中止し, tolbutamideとbiguanide次いでglibenclamideに変更したところ, 6日後には血清ナトリウムは140mEq/lと正常化し,諸症状も消失した.他3症例でも同様に本薬投与により低ナトリウム血症を示し,他薬への変更によつて回復,再投与により再び低ナトリウム血症を示したので典型例として呈示した.次にchlorpropamideを投与中の176名のretrospectiveな調査により, 11名(6.3%)に129mEq/l以下の低ナトリウム血症を認め,対照としたglibenclamide, tolbutamide, trichlormethiazide各投与群に比し明らかに高率であつた. chlorpropamide投与群において,高令および利尿薬併用が低ナトリウム血症の危険因子と判明した.また,低ナトリウム血症の成立にはSIADH様の機作が関与している可能性が推定された. chlorpropamideは効果的な経口血糖降下薬の一つであるが,殊に高令者および利尿薬併用の場合には低ナトリウム血症の出現に配慮する必要がある.
  • 王 質彬, 長沢 俊郎, 桜井 徹志, 小宮 正文
    1983 年 72 巻 5 号 p. 547-552
    発行日: 1983/05/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    LE細胞の有するLE体(LEc)のDNA量を落射型蛍光測光顕微鏡を用いて測定した.好中球核の蛍光量を2Nとし, LEcのDNA量は2Nを200%として表示した.直接法1時間のLEcのDNA量は225±96%であり, 2N以上のDNA量を有するLEcが64%みられ, 5時間incubateするとDNA量は288±144%に増加(p=0.05), 2N以上のDNA量を有するLEcが80%に増加した(p<0.01).間接法でbuffy coatをsubstrateとし,好中球あるいは単球で貪食させた場合, incubation時間の経過によりLEcのDNA量は増大し,高いN数のDNA量を持つたLEcの出現頻度が高くなつた(p<0.001).また,食細胞が好中球の場合に比べ,単球の場合は, LEcのDNA量は,比較的低値であつた. substrateを好中球またはリンパ球とし,食細胞を好中球とした間接法では,好中球がsubstrateの場合は,核の分節にみあつたDNA量を持つたLEcが主として現れ,リンパ球をsubstrateとした場合は, 2Nに相当するDNA量を持つたLEcが主として出現した.直接法ないし問接法でLEcの平均DNA量がincubation時間の経過とともに増加した現象から,基本的に,リンパ球由来の2NDNAを持つたLEcと好中球の分節に応じた2NDNAのフラグメントを持つたLEcが食細胞内または外で融合する機転が推測された.今回の成績の分析では,リンパ球がLE因子のtargetになり易いことを考察した.
  • 杉山 博通
    1983 年 72 巻 5 号 p. 553-561
    発行日: 1983/05/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    成人発症糖尿病において,高血圧や腎機能不全を認めない腎症初期症例のレニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系動態を観察し,自律神経障害との関連を追求した.糖尿病43例(持続的蛋白尿陽性15例・陰性28例)および対照21例について, 1)安静時およびfurosemide 40mg静注+立位負荷時の血漿レニン活性(PRA)・血漿アルドステロン濃度(PA), 2) angiotensin II (AII) 5およびl0ng/kg/min注入時のPA反応, 3)臥位深呼吸時の心電図R-R間隔変動および起立時血圧変化を測定した.蛋白尿陽性糖尿病群では,安静時・負荷後のPRA・PAはいずれも他の2群より低値であつたが, PA/PRA比はむしろ高値を示した. A II負荷によるPA反応には3群間に有意差を認めなかつた.蛋白尿陽性群・陰性群を含めた糖尿病例で, PRA負荷後上昇量, R-R間隔変動,起立時収縮期血圧変化の3者間に有意な正相関を認めた.以上の成績より,成人発症糖尿病腎症初期の機能的代償期にも,すでに低レニン,低アルドステロン状態が存在するが,アルドステロン分泌反応は保たれ, RAA系低下の一次的原因としてレニン活性の障害が推定し得る.また腎症を発症する以前の段階から自律神経異常が存在し, RAA系低下に関与している可能性があると考えた.
  • 今中 俊爾, 松岡 徹, 伊藤 貴志男, 岡田 義昭, 森本 茂人, 李 捷之, 大西 利夫, 熊原 雄一
    1983 年 72 巻 5 号 p. 562-568
    発行日: 1983/05/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    高カルシウム血症が悪性腫瘍に認められることがあるが,これには腫瘍の骨転移によるもの以外に,腫瘍から血中に分泌される体液性の骨吸収促進因子によつて起こされる場合もある.我々は,肺原発の腺癌が脳および腋窩ジンパ節に転移したと推定された1例において,血清Ca値が最高13.6mg/dlに上昇したので,その原因について検討した.本例の全身骨X線検査および骨シンチグラフィで明らかな骨転移巣が認められず, 45Caで標識したラット前腕骨からの45Ca放出を指標にした生物学的測定法により血清中の骨吸収活性が高値を示した.したがつて,本例の高カルシウム血症は体液性因子により引き起こされたものと考えられた.しかし,血清副甲状腺ホルモン, 1, 25(OH)2 vitamin Dおよび尿中c-AMPは高値を示さず,副甲状腺ホルモンあるいは1, 25(OH)2, vitamin D以外の骨吸収促進因子の存在が疑われた.一方,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)は血清中で794pg/ml,組織中では16.7ng/wetgの高値を示し,血清コーチゾール,尿中170HCS, 17KSの高値も認めた.しかし, Cushing症状は認めなかつた.本例は,骨吸収促進因子およびACTHを同時に産生している症例と考えられた.
  • 高橋 秀年, 肥田 敏比古, 臼井 康雄, 中居 賢司, 土井尻 健一, 本間 博, 市川 隆, 加藤 政孝, 鈴木 是光
    1983 年 72 巻 5 号 p. 569-575
    発行日: 1983/05/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    心内膜下梗塞と急性腎不全を合併した本態性出血性血小板血症の1例を経験した.本症例は鉄剤投与により,血清鉄と血小板数との間に負の相関を示しながら血小板数が減少した希な症例と思われたので報告する.症例は56才,女性.主訴は呼吸困難.昭和56年1月27日,急性心不全の診断で某院へ入院した.その後,血液異常,心電図異常,乏尿などを指摘され,岩手医科大学第二内科に転院した.肝1横指,脾4横指触知し,検査成績では低色素性貧血,白血球数,血小板数の著増がみられた.末血標本では血小板の大小不同,巨核球の出現・骨髄所見では巨核球数増加と血小板の巨大集塊が認められたが,白血病細胞, Ph'染色体などは認められなかつた.尿素窒素,尿酸, GOT, LDH,好中球アルカリフォスファターゼ活性指数の上昇,仮性高カリ血症が認められた.血小板凝集検査上ADP,エピネフリン,コラーゲンでは凝集能正常,入院時の心電図上II, III, aVF, V2~5で陰性T波, ST降下があり,心内膜下梗塞と思われた。腎動脈造影では腎内動脈の狭窄所見は認めなかつた.心内膜下梗塞と急性腎不全の発生は一過性に血液粘度の増加などの血液性状異常により血栓形成がおきたためと思われた.治療として鉄欠乏性貧血に対し鉄剤を投与したところ血小板数の低下を認めた.しかし,末梢血中の巨核球数や大小不同の血小板数に変化はなかつた.今後,他の骨髄増殖性疾患へ移行する可能性も否定出来ないと思われた.
  • 茂木 良弘, 高後 裕, 漆崎 洋一, 高橋 文雄, 笹川 裕, 熊井 良司, 斉藤 甲斐之助, 新津 洋司郎, 漆崎 一朗
    1983 年 72 巻 5 号 p. 576-581
    発行日: 1983/05/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    症例は38才,女性で幼児期より口唇,指趾に色素斑を認めた. 23才時,鉄欠乏性貧血と診断され,この頃より時折腹痛を自覚するようになつた. 32才時,腸閉塞にて開腹術を施行,その際,小腸ポリポーシスを指摘された. 38才時,貧血,右難聴,右顔面神経麻痺を主訴に当科受診,精査のため入院となつた.口唇,口腔粘膜,指趾,上腕に黒色の小色素斑を認め,消化管X線検査,内視鏡検査にて胃,十二指腸,小腸,大腸に多発性のポリープを認めた.大腸より摘出したポリープは組織学的に過誤腫性ポリープであつた.以上より遺伝性は不詳であるが特有の色素斑と消化管ポリポーシスからPeutz-Jeghers症候群と診断した.一方,頭部CTスキャンにより右小脳橋角部に腫瘍を認めたため脳神経外科へ転科,手術を施行,組織学的には神経鞘腫であつた.本症に聴神経腫瘍を合併した例はこれまで報告がなく,きわめて希と考えられる.
  • 細胞性免疫と液性免疫の検討
    大久保 喜雄, 岡野 芳紀, 和田 龍蔵, 望月 一郎, 草間 昌三, 小島 荘明
    1983 年 72 巻 5 号 p. 582-587
    発行日: 1983/05/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    われわれはサワガニ摂取歴がある蕁麻疹様皮疹と,蕁痒を初発症状とした宮崎肺吸虫症例(28才,男性)を経験した.検査所見としては,白血球増加(13,000/μl),好酸球増加(6,300/μl)を認め,胸部X線写真上右側下肺野に浸潤影と左側胸水を認めた.胸水の所見は黄色で混濁があり,細胞数は10,900/μl(好酸球75%,リンパ球25%)IgEは23, 4451U/mlであつた.免疫学的検査は宮崎肺吸虫抗原による皮内反応が陽性であつた.患者血清と宮崎肺吸虫およびウェステルマン肺吸虫抗原に,明瞭な沈降線を認め, Ouchterlony test陽性であつた. enzyme linked immunosorbent assayによる宮崎肺吸虫およびウェステルマン肺吸虫に対する抗体価はそれぞれ640倍以上, 640倍であり,宮崎肺吸虫に対して抗体価が高かつた.以上生活歴および検査所見より,われわれは本例を宮崎肺吸虫症と診断した,さらに今回患者の末梢血,胸水を用いて宮崎肺吸虫,ウェステルマン肺吸虫,肝蛭を抗原とするリンパ球増殖反応を検討した.宮崎肺吸虫抗原には胸水由来のリンパ球のみが高反応性を示したが,他2種の抗原に対しては末梢血,胸水のリンパ球とも低反応性を示した.この結果は胸水中にのみ宮崎肺吸虫特異的リンパ球増殖細胞が存在することを示す,したがつて血清学的に交叉反応を示す宮崎肺吸虫症とウェステルマン肺吸虫症の鑑別診断には,この抗原特異的リンパ球増殖反応を施行することは有用と思われる.
  • 重富 秀一, 橋本 重厚, 福地 総逸
    1983 年 72 巻 5 号 p. 588-593
    発行日: 1983/05/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    典型的なβ受容体機能亢進状態を呈するとともに, renin分泌の抑制とphentolamineに対する奇異な血圧上昇反応を呈した1症例を報告する.症例は53才,女性,主訴は動揺性高血圧,動悸,四肢冷感,前胸部痛,呼吸困難.入院時血圧188/110mmHg,脈拍数80/分で,心室性期外収縮を認めた.尿糖および蛋白は陰性.末梢血白血球数10200/mm3,血液像に異常なし.基礎代謝率は亢進していたが,末梢血中甲状腺ホルモンは正常であつた.耐糖能低下を認めた.血中および尿中catecholamineはすべて正常範囲内であり,尿中catecholamine代謝産物(VMA, HVAおよび総metanephrine)も増加していなかつた.血漿renin活性は低値を示し,フロセミド立位負荷に対しても低反応であつた.循環血液量は軽度増加していた.心機能は軽度亢進していた.本症例に対しphentolamineを静注したところ,血圧は一過性に下降してのち著しく上昇し,脈拍数も増加した.少量のisoproterenolを点滴静注したところ,著明な脈拍数の増加と血圧上昇を認め,明らかな過敏反応を示した.本症例の基礎血圧は1日食塩摂取量の寡多に並行して変動し,食塩依存性高血圧を呈した. propranololとpenflutiazideの併用投与により血圧は下降,心室性期外収縮は消失した.本症例の高血圧その他の臨床諸症状は, catecholamineに対する生体のβ受容体の感受性亢進に基づくと考えられるが,高血圧の成因には一部食塩摂取過剰等による体液量増大も関与していると思われる.
  • 大宮司 有一, 泉 並木, 服部 光治, 川田 健一, 藤原 秀臣, 蓮村 靖, 武内 重五郎
    1983 年 72 巻 5 号 p. 594-599
    発行日: 1983/05/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    原発性胆汁性肝硬変の患者の家族に,抗ミトコンドリア抗体を含めた各種自己抗体の出現を高率に認めた家系を経験した.発端者症例は54才,女性で,皮膚〓痒感と心窩部重圧感を主訴として入院した.入院時検査で抗ミトコンドリア抗体160倍以上,血清IgM 628mg/dl,血清アルカリフォスファターゼ38.9KAU, γ-GTP 658U, TTT19.6Uであつた.胆石も認めたため,胆〓切除術および外科的肝生検を施行した.肝組織像では,門脈域の胆管の変性,破壊,消失や,肉芽腫形成を認め,慢性非化膿性破壊性胆管炎の像で, Scheuer分類によるI期の原発性胆汁性肝硬変と診断した.免疫異常の家族内集積を調べる目的で,患者同胞6名の免疫血清学的検査を施行したところ,抗ミトコンドリア抗体を3例(次姉,妹,娘)に認め,抗マイクロゾーム抗体を3例,抗核抗体,抗DNA抗体,抗甲状腺抗体を各1例に認めた.さらに患者およびその同胞のHLA抗原の検索では,何らかの免疫異常を示した同胞者は患者とまつたく同一のHLA抗原を有し, HLA A2, AW24, BW52, BW60, CW3, DR2, DRW9であつた.しかしながら,これと同一のHLA抗原を有しながら,免疫異常の明らかでない同胞者(長姉)もあり,免疫異常の出現や原発性胆汁性肝硬変の発症には,免疫遺伝学的背景の上に他の因子の関与が必要なことが示唆された.
  • 広瀬 昭憲, 塚田 勝比古, 高田 善介, 奥谷 博昭, 藤野 信男, 岡本 光弘, 伊藤 誠, 武内 俊彦, 寺尾 直彦, 増子 和郎
    1983 年 72 巻 5 号 p. 600-605
    発行日: 1983/05/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    著者らは,ウイルス性の心筋炎と肝炎が同時発症したと思われる症例を経験したので報告する.症例は34才の看護婦.昭和56年2月22日より発熱, 28日より悪心,嘔吐出現し3月4日当科へ入院.入院時血圧は触診にて収縮期圧80mmHg,中心静脈圧は28cmH2Oであった.胸部聴診所見では湿性ラ音およびIII音, IV音を聴取した,胸部X線所見では心陰影の拡大と両側に胸水の貯留を認めた,心電図では洞性頻脈, R波の減高, T波の平低化を, UCGでは左室腔の拡大と左室駆出率の低下を認めた.血液検査では血沈1時間値9mm,血小板25000,プロトロンビン時間18.2秒,フィブリノーゲン129mg/dl, FDP40μg/dl, GOT2800単位, GPT1900単位, LDH9400単位であつた.以上より心不全,うつ血肝, DIC症候群を合併した急性心筋炎と診断.強心薬,ステロイドホルモン,ヘパリン療法を行ない著明に改善したが,トランスアミナーゼは遷延した.第44病日に施行した肝生検では実質内の巣状壊死,好酸体,星細胞の増生を認め,急性ウイルス性肝炎の回復期の所見であつた.本症例はウイルスは同定できなかつたが,肝生検像および臨床経過より同一ウイルスにより心筋炎,肝炎, DIC症候群が惹起されたものと考えた.なお臨床上急性心筋炎と思われる症例でトランスアミナーゼ高値例や遷延例は肝炎を合併している可能性があり,うつ血肝と肝炎を的確に鑑別する上でも,積極的に肝生検を行なうことが大切と思われる.
  • 三浦 偉久男, 高橋 徹, 朝倉 健一, 山口 昭彦, 中本 安, 三浦 亮
    1983 年 72 巻 5 号 p. 606-610
    発行日: 1983/05/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    症例は15才,男子で, 10才時Recklinghausen病と診断された. 13才頃から頭重感あり近医で高血圧を指摘され精査のため当科に入院した.入院時, café-au-lait spotおよび皮下腫瘤を認め右上腹部で血管雑音を聴取した.腎機能は正常でIVPで左右差を認めなかつたが,レノグラムで左右差あり,大動脈造影で右腎動脈起始部の約90%の狭窄と発達した側副血行路を認めた.下大静脈および左右腎静脈の血漿レニン活性は左0.5,右1.3ng/ml/hと左右差があつた.二者負荷試験,三者負荷試験で血漿レニン活性はいずれも過大反応を示した.血中カテコールアミン,尿中VMAの増加なく他の内分泌学的検査はいずれも正常であつた.内科的治療を目的としてアンギオテンシンI変換酵素阻害薬captoprilを投与したところ,収縮期圧の降下はかならずしも十分ではなかつたが,拡張期圧は正常化し安定した.文献的には神経線維腫症に合併した腎血管性高血圧は世界で70余例の報告があり,本症例は本邦第3例目に相当すると考えられる.本例によつて内科的治療法の可能性を提示した.
  • 霜山 龍志, 上原 総一郎, 板垣 佑司, 泉山 滋, 平山 亮夫, 佐藤 竜雄, 石倉 正嗣
    1983 年 72 巻 5 号 p. 611-617
    発行日: 1983/05/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    高グルカゴン血症は, glucagonomaのほか,糖尿病,肝硬変,腎不全などで報告されているが,私達は,高血圧,尿管結石を合併するものの,上記のいずれにも該当しない高グルカゴン血症の女性例を経験した.血漿アミノ酸はやや低値,遊離脂肪酸は高値を示し,外因性グルカゴンに対する反応は正常で,グルカゴン抗体も認めなかつた.糖負荷による血漿グルカゴン活性(IRG)の抑制,アルギニン負荷に対するIRG反応は,ほぼ正常であつた.この患者の門脈血をゲル〓過で検討したところ, 30K抗体ではその95%がbig plasma glucagon (BPG)分画にあり,回収したBPGは尿素-酢酸緩衝液で解離せず,トリプシン処理では少なくともその一部はtrue glucagon分画に分解された.膵の組織学的検索ではラ島腫瘍は見出されなかつたが,ラ島の肥大とA細胞の過形成が認められた,また,この患者は遺伝的に規定された酵素欠損である肝性ポルフィリン症を合併しており,最近発見された家族性高グルカゴン血症例でも,高分子グルカゴンが主要な分画を占めることや,この患者のBPGがトリプシンで一部true glucagon領域に分解されたことを考えると,本症例の高BPG血症の成因として,酵素異常によるglucagon生合成過程の異常の可能性も考えられ, GPGの意義づけとも関連した貴重な臨床例であると思われる.
  • 河野 公俊, 井上 孝利, 大久保 英雄, 活田 融, 石橋 大海, 平田 泰彦
    1983 年 72 巻 5 号 p. 618-623
    発行日: 1983/05/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    本症例は頭部外傷後9年間にわたり, diphenylhydantoin (phenytoin, DPH)を服用している49才,男子で,アルコール性肝障害と糖尿病の診断の下に入院したが, IgG350, IgA5, IgM710mg/dlとIgG, Aの低値, IgMの高値であることから, immunodeficiency with hyper-IgMと診断された. Ig低下の他にCH50 17.7, C331, C45, C5 6.4と補体価の低下もみられた.自己抗体はRA(+)以外はすべて陰性であつた.末梢血白血球数はやや減少し,リンパ球のT・B比は91:3とB細胞が減少していたが,末梢血リンパ球中の膜表面Ig (sm-Ig)保有細胞の比率はIgG, A, Mともに正常対照と比較して差がみられなかつた.末梢血リンパ球をPWMで刺激し, Igの分泌をin vitroの系で解析した結果, B細胞のIgGおよびIgA分泌細胞への分化・成熟障害が証明されたが, IgM分泌細胞への分化は正常であつた.またT細胞機能に異常はみられなかつた.本症例はDPHの長期間投与によつて惹起された可能性がつよく,現在,投薬を中止して経過を観察中である.
  • 平松 邦英, 川部 哲也, 雪村 八一郎, 橋爪 潔志, 佐藤 晁, 女屋 敏正, 山田 隆司
    1983 年 72 巻 5 号 p. 624-628
    発行日: 1983/05/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    尿崩症として数年間治療され,胸腺内の異所性副甲状腺から多量のPTHが産生分泌され,内分泌異常を伴つた原発性副甲状腺機能亢進症の症例について検討を行なつた.患者は32才の女性で口渇,多飲,多尿,全身倦怠感,食欲不振にて,他院で尿崩症として,数年間治療され当科へ紹介入院となつた.Tlシンチグラフィーにて,上縦隔部に異常集積像を示し,縦隔内副甲状腺腫による原発性副甲状腺機能亢進症と診断し,胸骨正中切開し一部嚢胞を形成した胸腺内腫瘤を認め摘出した.嚢胞液のPTH濃度は20ng/mlの高値を示した.本例では,血清Ca低下に,ステロイド,カルシトニンは殆ど奏効せず, 1日6lに及ぶ大量生食液点滴を必要とした.術前部位診断として,セレノメチオニンによるシンチグラフィーでは陽性の所見が得られず, Tlシンチにより明瞭な所見が得られ, Tlシンチの有用性を確認した.又,本例では,術前TRH投与後, TSHの上昇がみられず,術後血中Ca値が正常化につれ, TRH投与後TSH分泌は正常化した.従つて何らかの機序でTSH分泌を抑制したものと考えられるが,現時点では,十分な説明を与えることができない.
  • 森下 剛久, 重村 はるひ, 平野 正美
    1983 年 72 巻 5 号 p. 629-635
    発行日: 1983/05/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    高グルカゴン血症を伴つたインスリン自己免疫症候群の1例を報告する.症例は40才,男性.過去にインスリン注射の既往はない.初発症状は低血糖発作で,主として深夜,早朝に認められ,血糖値は13mg/dlであつた.血糖の日内変動では,朝食前の13mg/dlから昼食後90分の243mg/dlまで変化し,尿糖の出現を伴つていた. 2抗体法で測定した血中インスリン値は約10,000μU/mlと極めて高値を示した.酸エタノール抽出総インスリンおよびC-ペプチド値はそれぞれ1372μU/ml, 21ng/mlであつた. 125I-インスリン結合能は82%であつた. specific precipitation法で求めた患者血清中のインスリン結合抗体はIgG, κ型で,ヒトおよびブタインスリンはこ強く,ウシインスリンに弱い親和性を示した.インスリンレセプター抗体, C-ペプチド抗体は存在しなかつた.患者は自然寛解を示し,空腹時血糖,総インスリン, C-ペプチド値は正常値に近づいた.低血糖発作は寛解中認められなかつたが, 7カ月後再び出現した. 30Kを用いて測定した血中グルカゴン値は最高5290pg/mlと極めて高値を示したが,他の膵グルカゴン抗体を用いたRIAでは,より低値を示し,測定法により大きな差を生じた.
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