急性四肢動脈閉塞症に対する治療法として,一般に早期の血栓および塞栓除去術が施行される.この場合,大多数の症例においては局所的にも全身的にも何ら障害を残すことなく回復する.しかし,少数例ではあるが,血栓および塞栓除去術施行後に,血流再開に成功したにもかかわらず, myonephropatic-metabolic syndrome (MNMS)を合併して,予後不良となる場合がある.今回,著者らは両側外腸骨血栓除去術施行後に,両下肢の疼痛性腫脹の増悪,高カリウム血症,代謝性アシドーシス,ミオグロビン尿,さらには重篤な急性腎不全に陥つたMNMS症例を経験し,頻回の血液透析療法を施行することによつて患肢の保護および救命をなし得た.本症例は両下肢の疼痛,腫脹,チアノーゼ等の症状を呈して,夜間緊急入院した.入院直後,動脈造影で両側外腸骨および内腸骨動脈の完全閉塞を認めたために,両側外腸骨動脈血栓除去術を施行した.しかし,血行再建に成功したにもかかわらず,その後高カリウム血症,心室性頻拍.筋逸脱酵素の著明な上昇,代謝性アシドーシス,ミオグロビン血症,ミオグロビン尿症,下肢の疼痛性腫脹の増強,さらには急性腎不全を合併したために血液透析療法を開始した.その後,合計17回の血液透析を継続し,腎機能の回復を認めた.さらに下肢の機能訓練も順調に進み,第131病日には軽度の尖足を残すのみで退院が可能となつた. MNMSは虚血範囲が広範型の場合には,血行再建術後に合併する場合があり,その死亡率は非常に高い しかし,代謝性アシドーシス,高カリウム血症,急性腎不全に対して十分な管理と対策を施せば,ほとんど障害を残すことなく回復し得るものと考えられる.
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