緊急手術時の輸血後に,溶血性貧血,播種性血管内凝固症候群(DIC),急性腎不全(ARF)などを合併した症例を報告する.このような合併症のtriggerとなつた溶血の成因には, Diego b抗原(Di
bと略)を欠くまれな血液型が関係し,高力価に各種の不規則抗体の出現を認めた.患者は26才,女性. 1976年初回(長女)分娩時に, 1単位の輸血をうけたが特に異常は無かつた.今回は2度目の妊娠で, 1983年6月22日,某病院で,卵管妊娠破裂の緊急手術をうけO型洗浄赤血球8単位の輸血をうけた.輸血直後よりチアノーゼ,発熱を認め, 23日には黄疸出現,貧血増強, 24日にはDIC, ARFの症状が出現した.このためヘパリンの投与や,透析を必要とし,回復には約20日間を要した. ABO血液型0型の患者は,まれなDiego(a+b-), Kidd(a-b+)などの血液型を有していた.第5病日の検査では,抗Di
b抗体価×l024,抗Jk
a抗体価×512,抗(E+c)抗体価×4096であつたが, 133日後の検査ではこれらの力価の低下が認められた.前回の供血者に問題となる赤血球抗原の総てが認められたので,問題抗原の一部しか有しない長女妊娠時の母児感作よりも,前回輸血による潜在性感作状態の上に,今回の輸血が加わつたために,迅速型の強い合併症と,高力価の不規則抗体の出現に至つたものと理解した.今後輸血が必要な場合に備えて,回復後に患者の自家面液を1000ml採取し,凍結保存した.
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