先人たちの英知や身を削る努力によって,病原性の高い微生物による感染症は数多く制圧され,感染症による死亡者数は20世紀の間に激減した.ひとたび制圧あるいは根絶された感染症に対して人々は無防備になり,予防,診断,治療,研究開発等の予算も大幅に削減あるいは中止される.一方で, 20世紀の間にもたらされた科学技術の進歩によって,微生物の分離培養,大量培養,遺伝子改変等は極めて容易となり,わずかの知識と経験により,極めて危険な微生物を武器として加工することも可能である.悪意,憎悪,敵対心などに満ちたテロリストたちが,人類の多大な努力の結果制圧された感染症を使って人を襲う.これまで局地的であったテロもグローバリゼーションに伴い,規模,地域等の予測が立たなくなっている.天然痘や炭疽など,危険な病原体の知識と感染症学的な対応についての知識は,極めて重要なものとなっている.
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