農研機構研究報告
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2021 巻, 8 号
震災復興特集号
選択された号の論文の32件中1~32を表示しています
表紙・目次・編集委員会・奥付
巻頭言
解説記事
  • 万福 裕造
    原稿種別: 解説記事
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 3-10
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    2011 年に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により,福島県などを中心に広範囲が放 射性物質に汚染された.事故直後,大気から降下した放射性物質が直接作物の葉や枝に沈着する直接汚染が発生し,直接汚染状況の影響が少なくなると,土壌に沈着した放射性物質を吸収する間接的汚染が問題となった.福島県災害対策本部は農作業を延期し,福島第一原発の半径30 km 圏内および土壌中の放射性セシウム濃度が5,000 Bqkg-1 を超える水田作付けを禁止した.農研機構は組織的にこの災害と向き合い,種々の成果を公表,2012 年には東北農業研究センターの福島研究拠点に「農業放射線研究センター」を設置して,被災地における継続的な研究体制づくりを進めた.筆者は, 2012 年4 月から現在(2020 年度)まで,福島県伊達郡飯舘村に派遣され,復興対策課専門員として自治体の職員と共 に関係各省庁との協議,住民説明会,除染の対応,廃棄物の対応,営農に関する対応を経験した.この間の除染から営農再開,除染廃棄物を含む環境回復を,農研機構の研究と重ねて紹介する.

1章 農耕地の除染と農業用水の放射性物質への対応
  • 2021 年 2021 巻 8 号 p. 11
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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  • 土原 健雄, 石田 聡
    原稿種別: 総説
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 13-18
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    農地の除染の効果を確認するためには,除染前後で放射能モニタリングが必要である.本稿では,農地の除染前後の放射性セシウムの分布状況を迅速・高精度で把握する空間ガンマ線測定システムと,システムをラジコン制御可能な移動走行車に搭載したモニタリング技術を紹介する.NaI(Tl)シンチレーション検出器を使用した本測定システムの全体の重量は5 kg 程度であり,ここで紹介する移動走行車以外にも,無人ヘリや気球等への搭載も可能である.高感度の検出器を用いることで10 秒間の測定で十分な測定精度が得られ,移動しながらの測定が可能であることが示された.本システムでは測定と同時に測定地点の位置情報が記録されるため,ガンマ線強度の空間分布を把握できる.また,得られた測定結果は空間線量率に換算可能であることが示され,二つのモニタリング試験では,いずれの圃場においても除染前後で空間線量率が低下していることが確認できた.農地の除染効果の確認という観点からは,本システムは十分な解像度を有しており,除染前後のガンマ線強度を容易に可視化することが可能である.

  • 八谷 満
    原稿種別: 総説
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 19-27
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    東京電力福島第一原子力発電所事故からの速やかな復旧・復興を目指して,著者らは食料生産の基盤である農地の復旧を目的として放射性物質除去のための技術開発に取り組んだ.特に,農地土壌や畦畔,農道,水路,周辺の森林等に蓄積した放射性物質からの放射線による外部被ばく対策を取り上げ,汚染表土の削り取りを目的として開発した農地周辺除染用作業機の特徴と,これを用いた現地実証試験等の結果を中心に報告する.併せて,運転者の外部および内部被ばくの抑制を目的として開発した除染作業用シールドキャビン付きの農用トラクタの概要について記す.さらに,放射性物質を含む農産物の生産・流通を未然に防止するため,穀物乾燥調製施設の稼働再開に向けた,当該施設で生じる恐れのある交差汚染を防止するための取り組み事例を紹介する.

  • 若杉 晃介
    原稿種別: 総説
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 29-34
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    放射性物質が堆積された水田において,作付け制限により耕耘されていない場合,表層2 ~3 cm に放射性物質が多く蓄積しているため,表土の剥ぎ取りは早期かつ確実な除染対策とされる.一方で,大量の汚染土壌の発生してしまうことに加え,一般的な建設機械では剥ぎ取り厚さを数センチで制御することは難しいため,十分な除染効果の発揮に懸念がある.そこで,本研究では除染事業で使用される建設機械を用いて剥ぎ取り厚さを2 ~3 cm に制御することで,発生する汚染土壌を最小限にし,かつ確実に剥ぎ取る工法の開発を行った.本工法では,表土剥ぎ取り前に土壌固化材を散布することで,汚染された土壌を固化し,さらには白色にマーキングすることで取り残しの発生を防ぎ,確実に除染することができる.また,油圧ショベルの旋回駆動を活用し,表土剥ぎ取りに特化した操作方法やバケットの改良を行うことで,効率的かつ確実な除染が可能となった.

  • 栂村 恭子
    原稿種別: 総説
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 35-41
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    放射性セシウムに汚染された牧草地においては除染作業を兼ねた草地更新が進められた.しかし,機械作業が困難な傾斜地を永年草地として利用している場所では,作業機が転倒する危険性があるため,草地更新は困難であった.そこで,15 ~30°の急傾斜草地の草地更新作業を低重心の無線で操作する傾斜地用トラクタ(以下,「無線傾斜地トラクタ」という)で行う技術を開発した.無線傾斜地トラクタは河川敷の草刈りに利用されており,最大100 m 離れて操作でき,無線が届かないと自動停止する.装着できるロータリを松山株式会社と共同開発したことにより,製品化されているフレールモーア,散布性能を確認したブロードキャスタ,試作したローラと組み合わせて,前植生の刈払い,施肥,耕うん,播種,鎮圧の一連の草地更新作業が遠隔作業で安全に実施できるようになった.開発したロータリは地表の凹凸の追従性が高く,丁寧に耕うんができ,石礫に当たっても耕うん爪が折れにくい特徴を有する.実証試験において,草地の空間線量率は除染前の約70% に,翌年の牧草の放射性セシウム濃度は未除染の場合と比べて37 ~78% に低減した.その一方で,石礫が多い草地では,ロータリに石がつまることにより,作業効率が著しく低下する場合があった.4 箇所の実規模草地での一連の草地更新の作業時間は,10a 当たり4.05 時間であった.この作業体系は草地除染の事業にも採用され,栃木県,福島県,宮城県,岩手県の公共牧場などの急傾斜草地の除染に活用され,草地の利用再開に貢献した.全国には急傾斜が原因で十分な草地管理が行えず植生悪化や生産性低下に陥っている草地があり,この作業体系はこれらの草地の草地管理にも利用できる.

  • 久保田 富次郎
    原稿種別: 総説
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 43-54
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    東京電力福島第一原子力発電所の放射性物質放出事故に伴う水系における放射性セシウムの動態と農業用水への影響について,農研機構で実施した調査研究を中心にレビューを行った.その内容は,水中の低濃度放射性セシウムの分析法や用水路の堆積物に含まれる放射性セシウムの実態,農業用水中の放射性セシウム濃度のリアルタイム把握手法,用水に含まれる放射性セシウムの除去の試み,農業用水を通じて水田に流入する放射性セシウムの定量化などである.

  • 吉永 育生 , 濵田 康治, 久保田 富次郎
    原稿種別: 総説
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 55-65
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    ため池における放射性セシウムの蓄積状況は,行政機関による調査が先行し,水から放射性セシウムが検出されることは少数である一方,場合によっては底質から8 kBq/kg を大きく越える値が検出されることが報告された.試験的な底質の除染実施や種々の調査研究によって,放射性セシウムは底質の表層に吸着し,細粒分と有機分に多く吸着しやすいことが明らかとなった.2014 年3 月には環境省が除染にかかる方針を示し,国によってため池の放射性物質対策が進められることとなった.ため池の底質における,ホットスポットや深さ方向の分布を把握することができるプラスチックシンチレーションファイバー(PSF)や貫入型のセンサー等の技術が開発された.継続的な除染の実施により,底質の放射性セシウムの濃度が8 kBq/kg を越えるため池の数や観測結果の最大値は減少している.

2章 稲作における放射性セシウムの動態と吸収抑制対策
  • 原稿種別: とびら
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 67
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて,主食であるコメの安心・安全を確保するために,様々な取り組みが行われてきた.本章ではまず,玄米の放射性セシウム濃度を低減するために実施された対策と低減対策に関する研究を概観する.次いで,水田の周辺環境における放射性セシウムの動態とともに,農地土壌において植物が吸収しやすい形態の放射性セシウムを評価する手法を紹介する.最後に,放射性セシウムが水稲により土壌から吸収され,玄米に蓄積されるまでの経路について明らかになってきたことを解説する.

  • 藤村 恵人
    原稿種別: 総説
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 69-75
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    2011 年3 月11 日の東京電力福島第一原子力発電所における事故により拡散した放射性セシウムによる玄米の汚染を 抑制するため,被災地では①作付制限,②農地除染,③カリ上乗せ施用および④全量全袋検査の4 つの対策が実施されてきた.①作付け制限は,避難指示が出された区域において2011 年に実施されたが,2012 年以降は避難指示の解除に伴って作付制限も解除が進んだ.避難指示が出された区域外のうち,2011 年に放射性セシウム濃度が100 Bq/kg を超える玄米が生産された地域において,2012 年の作付けが制限された.②農地除染は,2011 年に技術開発と実証試験が行われた後に2012 年から事業として進められた.③カリ上乗せ施用は,慣行施肥前の土壌中交換性カリ含量が25 mg/100g 以上になることを目標として2012 年から実施された.2015 年から,カリ上乗せ施用後に玄米の放射性セシウム濃度が基準値を超過しないことを確認するための実証試験が始められ,2016 年以降カリ上乗せ施用の中止が進んでいる.④全量全袋検査は,基準値を超過した玄米を出荷しないために2012 年から実施され,2020 年からは避難指示等があった12 市町村を除いて抽出検査に移行した.

  • 井倉 将人, 江口 定夫, 吉川 省子
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 77-82
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    東京電力福島第一原子力発電所事故後の毎年の放射能モニタリング(2012 ~2019 年)により,福島県内の農地土壌および農作物の放射性セシウム濃度における継続的な減少が確認されるとともに,土壌中に存在する放射性セシウム形態の分布状況が明らかにされた.また,周辺林地内の放射性セシウム移動量が存在量に対して極めて小さいことや,中山間水田内の放射性セシウム存在量が物理的半減期より早く減少することが明らかにされた.これらの研究結果は,中山間地域が広く分布する福島県内において,放射性セシウム濃度の低い農作物が生産できるか判断するための重要な情報であると考えられた.土壌中において植物が利用しやすい溶存態放射性セシウム量の評価方法も検討され,営農再開農地での利用が期待された.

  • 石川 淳子, 羽田野 麻理
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 83-88
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    セシウムは根に局在するカリウム輸送体の一部を経由して作物体内に取り込まれるため,カリウムとセシウムの吸収は拮抗する.イネにおいては,高親和性カリウム輸送体OsHAK1 が根からのセシウム取り込みの大半を担っている.土壌カリが不足する条件下では,上記の拮抗作用に加え,根におけるOsHAK1 発現量の増加がセシウム吸収をさらに助長する可能性がある.地上部においては,出穂期以降にセシウムの動態が大きく変化し,出穂期までに葉身に蓄積されたセシウムが転流するとともに,最上位節間に最も蓄積する.地上部でのセシウム動態に関わる輸送体はまだ明らかになっていない.土壌カリが不足する条件下では,放射性セシウムの玄米への分配割合が増加する.したがって,玄米への放射性セシウム蓄積を抑制するためには「根での拮抗反応」「根の輸送体発現量」による吸収面での影響,また「可食部への分配割合」による蓄積面での影響の両面から,栽培期間中の土壌カリレベルを極端に低下させないことが極めて重要である.また,土壌特性やイネの生長等によって変化する土壌中の可給態カリウム・セシウムの動態も十分に考慮する必要がある.

3章 畑作物,草地,果樹における放射性セシウム移行抑制技術,および農産物の加工・調理による放射性セシウムの低減効果
  • 原稿種別: とびら
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 89
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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  • 松波 寿弥
    原稿種別: 総説
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 91-96
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    2011 年3 月11 日の東日本大震災にともない,東京電力福島第一原子力発電所で事故が発生し,多量の放射性物質が 外部環境中に放出され,福島県を中心とした東日本の広範囲において農作物や土壌が放射性物質に汚染された.福島では,農業と環境への深刻な被害が依然として大きな懸念事項となっている.137Cs は半減期が長く,土壌に長期間保持されるため,作物への移行は長期的な問題となる.農研機構は,事故発生直後から農林水産省,福島県およびその周辺県の公設試,大学などの研究機関と連携し,農産物や土壌などの汚染実態の把握,農地等における放射性物質吸収抑制対策技術および除染後農地の地力回復技術の開発等の研究を実施してきた.本報では,畑作物の放射性セシウム吸収抑制対策に係る既往の学術文献を引用しつつ,事故後に実施された研究成果について概説する.

  • 渋谷 岳
    原稿種別: 総説
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 97-108
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    2011 年3 月の東京電力福島第一原子力発電所事故の発生により,牧草地等へ放射性物質を含む粉じんが降下した.農 研機構では,関係する行政機関や公設試とともに,この事態に対処し,飼料の安全を確保するための技術開発に取り組んできた.牧草地では,土壌交換性カリ含量を高めた上で草地更新することが有効であることを確認し,土壌中の交換性カリウム濃度を維持(30 ~40 mg-K2O/100 g 乾土)することが放射性物質の移行低減対策として有効であることを示 した.トウモロコシやイタリアンライグラス等の単年生飼料作物栽培においては,事故以前から畜産農家で行われていた,堆肥施用基準を遵守した栽培により,十分に放射性セシウム(RCs)濃度が低い飼料が得られることを示した.本稿ではその他,飼料イネの移行低減,汚染堆肥利用などの移行低減対策を紹介する.飼料生産分野では取り扱う作物が多く,生産基盤も永年草地,畑,水田等にわたり,立地・土壌条件も異なっていることから,検討すべき要因が多い.そのため,未だに解決できていない課題もあり,今後も長期の取り組みが必要である.

  • 久保 堅司
    原稿種別: 総説
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 109-115
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    2011 年の東京電力福島第一原子力発電所の事故の後,2012 年産の玄そば(そば子実)の放射性セシウム濃度に基準値 超過が認められた.そこで著者らは,圃場に沈着した放射性セシウムの玄そばへの移行を低減する技術の開発に取り組み,土壌の交換性カリ含量を30 mg K2O 100 g-1 以上とした上で地域の施肥基準に応じた施肥を行い栽培することで,玄そばの放射性セシウム濃度は基準値以下となることを明らかにした.また,倒伏した作物体から得られた玄そばには土壌等異物の混入や玄そば表面への土壌等の付着が認められ,倒伏のない作物体から得られた玄そばよりも脱穀・風選後の放射性セシウム濃度が高い値を示す場合があったが,それらについて磨きを行うことにより,玄そば表面への土壌の付着は除去され,放射性セシウム濃度は磨き前と比較して低減することを明らかにした.これらの知見をもとに実施された移行低減対策により,玄そばの放射性セシウム濃度の基準値超過は2013 年以降1 点のみである.2014 年からは避難指示が解除された地域の除染後圃場においても,玄そばへの放射性セシウムの移行を低減する技術を実証し,生産者団体による営農再開を支援した.

  • 堀井 幸江, 八戸 真弓, 草塲 新之助, 濱松 潮香
    原稿種別: 総説
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 117-124
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    2011 年3 月の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により放射性物質が大気中に放出され,落葉期 の果樹は,樹皮等の樹体表面が汚染された.福島県と連携し,果樹の樹体および果実への放射性セシウムの移行解明とその低減技術の開発に取り組んだ.土壌に沈着した放射性セシウムのほとんどが土壌表層に留まった一方で,吸収根域はそれよりも深いため,樹体内への放射性セシウムの移行は,土壌からの経根吸収よりも樹皮等の樹体表面から移行した割合が多いと考えられた.そのため,放射性セシウムの低減には,樹皮洗浄やせん定等の地上部の除去管理が有効であるが,事故発生からの時間の経過に伴い,樹皮から樹体内部への移行が進行するため,汚染後速やかに樹皮を除去することが最重要であることが示唆された.また,あんぽ柿の生産工程においては,放射性セシウム濃度の低い原料果実の確保,加工時の工程管理,および製品の放射性セシウム検査を行うことにより,栽培から出荷まで一貫したリスク管理が実施されている.

  • 八戸 真弓, 濱松 潮香, 川本 伸一
    原稿種別: 総説
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 125-133
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    東京電力福島第一原子力発電所事故は,環境中に放射性物質を放出し,国内産の農畜水産物に対する放射性物質汚染を引き起こした.国内農産物の放射性物質汚染は我が国にとってこれまでに経験のない事態であったが,食品中の放射性物質に対して,暫定規制値・基準値設定や食品中の放射性物質検査等の早急な行政対策が実施された.さらに,農地の除染対策や放射性物質の吸収抑制対策等により,市場に流通する農畜水産物の放射性物質汚染レベルは,一部の天然食材を除き事故直後から低い水準が維持されている.農畜水産物が加工・調理された食品は,原材料と比較して形態や状態が変化するだけでなく,汚染した放射性物質の濃度や含有量も変化する.今回の原子力発電所事故後には,直接口に入る食品の安全性に関する消費者の関心が高まり,国内の研究者を中心に国内農畜水産物を対象とした加工・調理に関する放射性セシウム動態研究の成果が盛んに蓄積されてきた.野菜や野草の表面に付着した放射性セシウムは水またはお湯による洗浄,茹で調理により除去される.さらに,内部汚染された穀類,豆類,肉類,山菜・キノコ類においても,特別な処理ではなく普段一般的に用いられている加工・調理による放射性セシウムの低減効果が示されている.

4章 原乳及び乳牛飼料に含まれる放射性物質の動態
  • 原稿種別: とびら
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 135
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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  • 小林 美穂, 鈴木 一好, 小迫 孝実, 秋山 典昭, 三森 眞琴, 宮本 進, 西村 宏一, 小松 正憲, 甘利 雅拡, 相川 勝弘, 大 ...
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 137-147
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    2011 年3 月11 日の東日本大震災とそれに続く津波による冷却機能の喪失により,東京電力福島第一原子力発電所 (FDNPP)が損傷し,放射能漏れ事故が発生した.農研機構は震災翌日の3 月12 日に付属農場の原乳を採取し,放射能漏れ事故直前の原乳中γ線核種濃度を得た.牛乳放射能の緊急時調査は3 月15 日18 時に採取した原乳から開始した.原乳中の131I 濃度は155.2 Bq/L,3 月23 日には最高値の244.8 Bq/L に達した後,徐々に低下し,2011 年5 月26 日には下限検出値まで低下した.一方,放射性セシウムの汚染レベルは,131I よりも遅れて上昇した.すなわち,3 月15 日に1.87 Bq/L の134Cs および2.24 Bq/L の137Cs を検出したが,3 月20 日まで濃度は顕著に上昇しなかった.3 月21 日には134Cs と Cs の合計値として10 Bq/L を超えるレベルで検出され,その後,3 ヶ月間に渡って,134Cs+137Cs の濃度は10 Bq/L 以上 を維持した.一方,乳中の90Sr 濃度はFDNPP の事故後も増加せず,事故前から10 ~30 mBq/L を維持していた.2011 年から開始した混合飼料(TMR)中の放射性セシウム濃度調査では,134Cs および137Cs 濃度の最高値は,2012 年11 月の7.78 Bq/kg(乾物)および13.44 Bq/kg(乾物)で,2011 年よりも2012 年の測定値が高かった.放射性セシウム濃度(134Cs+137Cs) は,原乳では0.2 Bq/L,TMR では2 Bq/kg(乾物)程度まで低下した後,横ばいで推移している.

5章 営農再開のための獣害対策と雑草管理の省力的技術
6章 営農再開に向けた施設園芸の復興支援
  • 原稿種別: とびら
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 163
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
    研究報告書・技術報告書 フリー
  • 岩崎 泰永
    原稿種別: 総説
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 165-171
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
    研究報告書・技術報告書 フリー HTML

    東北地方最大のイチゴ産地である宮城県亘理町,山元町は東日本大震災によって大きな被害を受けた.筆者らは,震災直後から地元普及センター,試験研究機関,JA に協力し,イチゴ産地復興のための技術的な支援を行った.2012 年から復興庁・農林水産省の復興支援プロジェクト「食料生産地域再生のための先端技術展開事業,(先端プロ)」が岩手,宮城,福島で実施された.施設園芸分野では,山元町に7200 m2 の高軒高ハウスが建設され,プロジェクトの拠点として専任の研究チームをおいて,新技術の実証や問題解決のための実験を行い,その成果を生産者に提供したり,地域の指導機関の活動に日常的に協力した.この地域では,地震と津波によってハウスが破壊されただけでなく,土壌に塩類が蓄積し地下水が塩水化したため,高設栽培の導入が必須と判断された.筆者らは技術の習得やノウハウの蓄積を効率よく進めるために,導入する高設栽培システムを統一することを提案し,その具体的な仕様として,独立プランター型の栽培ベッドとクラウン温度制御を採用したシステムを地域に提案した.イチゴ生産用ハウスが新しく建設され,2013 年9 月から営農が再開された後は,地域普及センターが組織するイチゴ団地支援チームのメンバーとして,講習会の開催,定期的な巡回調査や生産者に対する技術情報の提供を継続的に行った.

  • 石井 雅久
    原稿種別: 総説
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 173-183
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
    研究報告書・技術報告書 フリー HTML

    平成23 年東北地方太平洋沖地震によって発生した津波により,東北地方から関東地方の沿岸部では温室やパイプハウスなど園芸施設の損傷や倒壊,土砂や漂流物の堆積,土壌の塩類集積などの被害が生じた.また,内陸部では地震動による園芸施設の倒壊や損壊,また,停電や断水により環境制御装置や灌水装置が機能しなくなり,園芸作物の枯死や生育障害が生じた.本稿では,東北地方太平洋沖地震により被災した園芸施設の事例と,早期の復旧・復興に向けた取り組みを紹介する.また,わが国は地震だけではなく,台風や大雪などの気象災害も多発しており,施設園芸では施設構造の強化やライフライン停止に対応した事業維持計画(BCP)の確立が喫緊の課題である.

  • 福田 直子
    原稿種別: 総説
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 185-189
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    地震と津波,原発災害の影響を受けた福島県浜通り地域において,風評の対象になりにくい切り花の先端技術実証プロジェクトを実施し,トルコギキョウの周年生産を可能とする新たな生産技術を開発した.閉鎖型育苗装置による短期間で均質な苗生産,軽労化と効率生産を可能とするNFT 水耕栽培とその病害対策,省力化と熟練生産者レベルのハウス管理を実現するトルコギキョウの光合成モデルを核とした複合環境制御システム,冷却と加湿の分離が可能なダクト式パッドアンドファン,蕾収穫を可能とする着色ムラ防止剤などである.これらの技術を組み合わせることで,同地域の慣行が年1 作であったものを,作付け開始時期を問わない年3 作の栽培を可能にした.この技術を導入した複数のハウスでの栽培による出荷時期を分散させた周年栽培体系を設計し,実証した.新たな担い手による当技術体系の普及と,個別技術の慣行土耕栽培への適用が期待される.

  • 吉越 恆, 松田 周, 川嶋 浩樹
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 191-198
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    現地施工した建設足場資材利用園芸ハウスの構造解析を行い,耐候性を評価し,耐雪性を向上させる補強方法を検討 した.耐候性の評価では,概ね耐風速35 m/s,耐積雪深40 cm の設計強度が確認され,台風被害が少なく,積雪の少ない三陸沿岸南部では十分であるが,より積雪の多い県内他地域の設計用積雪深67 cm では,構造体の許容応力度は範囲内にあるものの,無柱断面における垂木のたわみが許容変形限界を大きく超えるため,垂木を支える補強が不可欠であった.現地施工モデルに3 種の耐雪補強方法を設定し,耐雪性を比較したところ,現地施工モデルの無柱断面に,作業性を悪化させないよう中柱を設置せず,垂木を支持する束,および梁と方づえを追加した補強方法では,屋根のたわみが軽減される可能性が示された.しかし,構造の一部にクランプの破壊に至るような曲げモーメントが作用することも予想されたため,75 cm を超える積雪地においては,中柱で支持する耐雪補強が望ましい.中柱を伴う補強方法では,資材に伴うコスト増を抑えるためにスパンを1.8 m から2.0 m に広げても,中柱を設置しない補強方法より構造全体の余裕が高まることから,安全かつ効果的な耐雪補強方法と考えられた.

  • 松田 周, 漆原 昌二, 千葉 彩香, 高橋 大輔, 吉越 恆, 川嶋 浩樹
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 199-210
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
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    東日本大震災以降,岩手県沿岸南部地域の主力品目であるキュウリの生産量や販売額は減少しており,産地復興に繋がる技術が求められている.本地域は降雪日が少なく,冬期の日照時間は比較的長い.そのため,多層保温被覆資材(以降,保温資材)を園芸施設の内張に使用し開閉する技術は,本地域における冬期の暖房燃料使用量削減に有効と考える.暖房燃料使用量は保温資材の開閉時刻に依存しており,保温資材を既に導入している生産者は,これまでの園芸施設内部環境データおよび経験からその最適な開閉時刻を決定している.保温資材を交換した場合,その最適な時刻を新たに模索することになるため,異なる保温資材における開閉適時の傾向を把握することが重要である.まず簡易な熱収支計算を用いて暖房燃料使用量を算出するモデルを作成した結果,本モデルによる暖房燃料使用量の加温開始時刻は,実際に測定した時刻より早く,終了時刻は遅くなる傾向が見られたものの,暖房燃料使用量の大まかな日変動を捉えることができた.次に,このモデルを異なる園芸施設の向き・保温資材に適用し,それぞれの開閉適時を算出した.その結果,保温資材を熱貫流率の大きい素材に変更した場合,開時刻は早く,閉時刻は遅くなる傾向が見られ,日射透過性の大きい素材に変更した場合,逆の傾向になることが明らかになった.保温資材を内張に導入している生産者は,これまでの内張開閉時刻にこの傾向を考慮することで,比較的労力を掛けずに保温資材交換後の開閉適時を求めることができる.

  • 山下 善道, 内藤 裕貴, 稲葉 修武, 根本 知明, 金井 源太, 星 典宏
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 2021 巻 8 号 p. 211-230
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2022/02/01
    研究報告書・技術報告書 フリー HTML

    福島県の被災地域では大規模水稲生産法人のほか,風評被害を受けにくいハウス農家を中心に営農再開している.生産者は避難に伴う転居先から生産現場まで距離がある「通い農業」の状態にあり,加えてハウスや耕地が分散していることが多いため,生産現場を頻繁に訪れることが難しい.一方,生産者は情勢の変化に応じて新しい換金作物への取り組みも始めている.このような実状に対応するため,営農形態の変化に応じた柔軟性のある遠隔監視システムが求められている.しかし,市販の遠隔監視システムは通年での契約を想定しており,育苗期間など短期利用には高価である.そこで,我々はWeb API を有する市販IoT プロトタイピング・キットとメッセージングアプリによるハウス遠隔監視システム「通い農業支援システム」を考案し,営農再開地域のハウスで多くの作物に対して実用試験を行った.本システムは温度,湿度,土壌水分,画像データ等に加えて,取得データの統計値やグラフを通知でき,データ通知のエラー率 1% 未満,温度の精度約± 1 ℃で運用できた.また,生産者が必要な間隔でデータを得て遠隔地の管理作業の要否を判 断できるなど,実用性・有効性を確認した.

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