ティーチャー・イン・ロールとは,演劇的活動を用いた学習を行う際に,教師が役になって架空の状況へと参入する手法である。本稿では,この手法の教育方法としての意義について,この手法の開拓者とされるドロシー・ヘスカットのドラマ教育実践を分析することを通して考察した。まず,ヘスカットの実践の特徴として,ドラマを通しての理解の深まりが重視されている点を指摘した。そして,理解が次のようにして導かれていることを明らかにした。子どもは,架空の状況を,あたかもそれを実際に生きているかのように経験する。そして,教師からの介入を助けとして,その経験の意味を深めていく。次に,ティーチャー・イン・ロールが,ドラマを通しての理解の深まりを導くためにいかに用いられているかについて,具体的な実践事例に則して明らかにした。まず,この手法の全般的機能として,教師自らが虚構世界を信じていることを示す,虚構世界を対象化できることを示す,教師-子ども関係を組み替える,架空の状況の内側からの直接的な働きかけを可能にするという4点を見出した。さらに,ヘスカットが,架空の状況に子どもたちを巻き込む,予期せぬ展開をもたらすという活用方法によって,架空の状況における生きた経験のためにこの手法を役立てていること,また,考えをめぐらせる機会を設ける,儀式を行うという活用方法によって,経験の意味の深めのためにこの手法を役立てていることを指摘した。
抄録全体を表示