本稿の目的は,戦後初期の奈良師範学校女子部附属小学校(以下,吉城学園)における授業研究の分析を通して,同校の授業研究が,どのような教師の力量形成を意図し,カリキュラム開発においてどのような役割をもっていたのかを明らかにすることである。吉城学園で行われていた授業研究として,「プラン会議」と「研究授業」という二つの校内授業研究会を取り上げた。毎週土曜日に開かれていた「プラン会議」の分析では,「プラン会議」が週計画である学習指導計画表を再構成する営みであると同時に,年間計画の再構成にも結びついていたことが明らかとなり,そこにカリキュラム開発への遡及の在り様を見ることができた。また,「研究授業」の分析では,「研究授業」が子どもの活動の精細な観察を通した教師の力量形成を意図し,さらに単元の再構成に寄与するものとして位置づけられていたことが明らかとなった。吉城学園における授業研究の特徴は,(1)綿密な計画と観察によって,実際の活動と計画のずれを認識していたこと,(2)同僚間の話し合いによって子どもの活動の方向性を掴み,計画を修正していたこと,(3)その方向性の把握とは,実際の子どもの活動が教師として価値あるものと判断できるかを吟味するものだったこと,であった。吉城学園の授業研究は,日常的な計画の再編成とそのために必要な教師の力量形成が促される場であり,カリキュラム開発の基盤にもなっていたのである。
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