教育方法学研究
Online ISSN : 2189-907X
Print ISSN : 0385-9746
ISSN-L : 0385-9746
39 巻
選択された号の論文の22件中1~22を表示しています
原著論文
  • 授業中の子どもの私語に対する教師の対応に着目して
    笹屋 孝允
    2014 年 39 巻 p. 1-12
    発行日: 2014年
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー
      本研究の目的は,学問的知識と日常的経験を統合する学習が展開される教室の対話空間を「第三の空間」と見なすギュティエレス(Gutierrez, K.)らの考えに基づき,第三の空間を成立させる要件となる教師の対応の特徴を明らかにすることである。その要件の1つである教師のスクリプトを「崩壊させるアンダーライフ」を構成する子どもの行動として,授業中の子どもの私語と,私語に対する教師の対応に着目した。小学6年生の授業中の子どもの私語とそれへの教師の対応が見られた3場面における教師と子どもたちの発話の内容を分析し,それぞれの教師の対応の特徴を考察した結果,以下の2点が示された。第1に,第三の空間を成立させる教師の対応には,(1)私語を即座に注意するのではなく,私語の内容を尋ねてそれを発言する機会を子どもに提供する点,(2)一見すると学習内容と関連しない私語の内容と教科書の内容とを関連づける解釈をして,その解釈を提示する点,(3)私語の内容について質問をくり返す点,の3点に特徴があることが示された。第2に,これらの特徴がある対応のいずれも行うことが第三の空間の成立の要件となり,いずれかの対応だけでは第三の空間が成立しないことが示された。第三の空間を成立させる教師の対応は複雑であること,また,第三の空間を成立させるには,教師が教師スクリプトを維持し授業を構造化する役割から離れる必要があることも示唆された。
  • 「図形楽譜づくりJを教材とした音楽科鑑賞領域の授業の分析
    横山 真理
    2014 年 39 巻 p. 13-24
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー

      本研究の目的は,個のイメージがどのような社会的相互作用の影響を受けながら構成されていくのかについて,「図形楽譜づくり」を教材とした音楽科鑑賞領域の授業を分析することを通して明らかにすることである。

      最初に,先行研究よりイメージの概念を検討し本研究におけるイメージを再定義した。「図形楽譜づくり」を教材とした音楽科鑑賞領域の授業におけるイメージとは,外的世界と内的世界との聞の相互作用や社会的相互作用によって生成される新しい内的情報である。次に,中学校特別支援学級における,宮城道雄による〈さくら変奏曲〉を使った音楽鑑賞の授業を分析した。

      結論は次の通りである。 (1)教師と生徒らは社会的相互作用を通して媒体を使って学習の場を生成する。その過程で個のイメージが生成される。 (2)複合媒体による表現(身体動作を伴う口ずさみ)は個のイメージの構成過程を中軸とする音楽鑑賞学習にとって重要である。(3)個のイメージの構成過程は非言語コミュニケーションによる社会的相互作用の影響を強く受けている。

  • N. ウェブの「援助要請」を手がかりとして
    山路 茜
    2014 年 39 巻 p. 25-36
    発行日: 2014年
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,中学校数学科のグループ学習のあり方が課題の目的に応じてどのように異なるかを明らかにすることである。その為に同一4人グループの談話をウェブによる「援助要請」に手がかりを得て検討した。授業で教師によって提示された課題はその目的の違いから【解決志向課題】と【意味理解志向課題】に分けられた。【解決志向課題】では生徒が正しく答えを得ること,【意味理解志向課題】では生徒が数学における定義や性質に立ち戻りながら,なぜその解き方がよいのかを相互に探究することが目指されていた。各課題に取り組む際の援助者と被援助者の関係を分析した。  その結果,以下の3点が示された。第1に【解決志向課題】に際しては,該当の問題を解ける生徒が解けない生徒に知識を伝達し解き方を教えるタイプの談話が生じやすい一方で,【意味理解志向課題】については,自分たちの思考や問いを話題として数学の意味を協働的に探究するタイプの談話が生じていたことがわかった。第2に課題の目的に応じて生徒は各々援助要請と援助のバランスやパターンを変えてグループ学習に参加していた。そして第3に精緻化された援助がなされた議論の際には,納得するまでパターンを変えつつ諦めずに援助要請を続けること,誤ることをおそれず自分の考えを述べること,受けた説明を自分の言葉で言いかえることという援助要請の振る舞いが重要な役割を果たしていることが描かれた。

  • ― 従来の保育記録と保育者の「葛藤」概念の検討をとおして ―
    渡辺 桜
    2014 年 39 巻 p. 37-47
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,従来の保育記録と保育者の「葛藤」概念の検討をとおして,集団保育に有効な園内研究のあり方を明らかにすることである。集団保育における遊びや幼児同士の人間関係を成立させているものは,モノ・人・場の関係性である。河邉(2013)は,こうした関係性を踏まえ,全体環境が捉えられる保育記録を提案した。これは,特定の子や遊びにのみ着目した従来の保育記録とは異なり,大変画期的であったが,河邉の記録には保育者の位置が記されておらず,また,どのようにしたら保育者が遊びに関わりながら全体を見ることを可能にするのかといった規範理論が示されていないため,保育者が集団を対象としながら幼児個々の自己実現を保障するといった両義的な「葛藤」を想定したものではないといえる。

     本研究により,集団保育における「葛藤」概念とは,保育者が担任として全体状況を把握しながら一つ一つの遊びや個々の幼児の要求に優先順位をつけて援助せざるを得ない状況に生じる悩みであることが明らかになった。その「葛藤」を質的に変容させ,集団保育の保育課題解決に有効な園内研究を実施するためには,以下の重要性が認められた。

    1.集団保育という制度的制約を踏まえた規範理論を前提に置き, 全体状況が捉えられる環境図を活用する

    2.1のキー概念を用いて指導計画や保育実践映像を読み解き,保育者同士の「対話」を促す

  • ― プラグマティズムとの関連性に着眼して ―
    森 玲奈
    2014 年 39 巻 p. 49-58
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー

      本稿では,日本におけるワークショップの展開とその特質に関し,ワークショップ実践史を整理する。その上で,これまでワークショップ実践史の源流にあるとされてきたデューイの教育思想を手がかりとし,実践者育成のための方法を検討することを目的とする。本研究では,以下の作業を通じ,日本のワークショップの系譜とその背景にある思想を明らかにする。第一に,アメリカを中心とした海外のワークショップ実践の背景を整理し,その背景にあった社会状況を明らかにする。第二に,日本におけるワークショップ実践史を,海外から方法の移入した状況や契機,実践者同士の交流と相互作用に着眼し記述,整理する。第三に,海外におけるワークショップの系譜と,日本におけるワークショップの系譜との差異について確認し,日本におけるワークショップの系譜が独自の展開を遂げてきたことを示す。これらを通じ,(1)海外では各領域における問題解決のための「新しい方法」としてワークショップが生み出されており,その時期は領域によって差があること,(2)日本では,1970~80年代にその契機があり,個々の領域において領域に特化された手法として別個に導入されたため,実践者育成が領域の中の細分化された集団で行われることが多かったこと,(3)ワークショップをプラグマティズムという思想潮流の中で捉えることにより実践者の育成に貢献できること,を論じる。

  • D. Hawkins によるMessing About 論を手がかりに
    石井 恭子
    2014 年 39 巻 p. 59-69
    発行日: 2014年
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー
      本研究は,日本の理科教育における科学的探究の意味づけとその課題を解決する展望を拓くために,1960年代の初等科学研究者であるDavid Hawkins による言説を検討したものである。
      その結果,次の二点が明らかになった。一点目は,Messing About 論における自発的な没頭と主題の意味の再解釈である。それは,科学者自らが現象の中に見る本質的な主題と同様に,子ども自身が豊かで複雑な現象の中から主題を見いだし没頭することの復権であった。彼が意味付けた主題とは,学問構造ではなく,現象から学習者自身が構造化していくものとしての主題であった。二点目は,子どもが科学する(do science)ことの重要性の主張に存在する,Hawkins の生涯を通じた科学教育目的観である。その形成においては,本人の科学哲学という学問的背景と同時に,科学哲学者として,原爆の開発と投下という,科学が社会に大きな影響を与えた経験に参加する物理学者と運命を共にした彼自身の経験が大きく影響していることが見いだされた。彼は,科学と社会の乖離に対する大きな警告をしていた。
  • 鈴木 悠太
    2014 年 39 巻 p. 71-82
    発行日: 2014年
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー
      本研究はマクロフリンの研究の系譜における教師の「専門家共同体」の形成と展開を明らかにすることを課題とした。その成果は以下の3つの契機に即し総括される。
      第一に,スタンフォードCRC は教職の「文脈」を中心概念とする学校改革研究のナショナル・センターとして出発した。マクロフリンは「現に存在する制約の中で」専門性開発を「実現可能にする」ことを目指し,教職の「文脈」に照準を合わせた。
      第二に,教師の「専門家共同体」の概念は教職の「文脈」の鍵概念として形成された。「専門家共同体」は,様々な重荷を抱える「今日の生徒」に対峙する高校教師の授業実践が多様な展開を示していることを踏まえ,最も革新的な授業実践を追求する教職の「文脈」としてマクロフリンらが同定した概念であった。
      第三に,マクロフリンらの研究の成果は,授業の3類型を中心とし,教師共同体の3類型,教職キャリアの3類型の連関において定式化され,「専門家共同体」は教職の多層的な「文脈」の中に位置づけられるに至った。
      これらを踏まえ,マクロフリンの研究の系譜における教師の「専門家共同体」は,教職の「文脈」の概念によって射程に収める,教師を中核とする多様な改革の担い手による学校改革の追求という構図の中にあり,あくまでも現存する制約の中で学校改革の実現可能性を追求するマクロフリンらの愚直な姿勢が鮮明となった。その中核に教師の「専門家共同体」の形成と展開があった。
  • エンゲストロームの活動理論を手がかりとして
    加登本 仁, 大後戸 一樹, 木原 成一郎
    2014 年 39 巻 p. 83-94
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー

      本研究の目的は,エンゲストロームの「活動システムモデルJを分析の枠組みとして援用することにより,フラッグフットボールの授業で子どもたちがどのような「活動システム」のもとで学習集団としての集団を発展させていくのかを事例的に明らかにすることである。
      筆者らは,小学校4年生で、行われたフラッグフットボールの授業を対象とした。そして,抽出したA班について,フラッグフットボールの授業における「活動システム」を解釈した。
      その結果,フラッグフットボールの単元前半から単元後半にかけて,A班の「活動システムjは肯定的な変容が解釈され,影響を与えた要因には,以下の4点が考えられた。
     1 )子どもが授業のねらいである戦術的課題に向かえるように使用するボールを易しいものにしたり, 基礎的なボール操作の技能を保障したりすること。
     2)一人ひとりの子どもの役割が明確になり,立案した作戦がゲームで生かされる必然性を持った教材を用意すること。
     3 )立案した作戦をゲ}ムによって検証し,よりよい作戦へ修正する時間を保障すること。 また,作戦 を修正するための戦術的知識を,集団思考によって深める時間を設定すること。  
    4)教師は,集団スポーツに潜む「優勝劣敗・弱肉強食」といった文化的特性に配慮するとともに,子どもたちの間で生起している「内的矛盾Jを適切に把握し,それに子どもたちを直面させ,対話を通して集団的に解決していくこと。
書評
図書紹介
日本教育方法学会第49回大会報告
feedback
Top