物性若手夏の学校テキスト
Online ISSN : 2758-2159
最新号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
  • 矢花 一浩
    p. 1-30
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    会議録・要旨集 フリー
    本講義では、光を照射した物質中で起こる電子の超高速運動 —フェムト秒 (10−15s) からアト秒 (10−18s) の時間スケール— に関し、理論と計算科学の方法の発展を中心に紹介する。量子多体問題の教科書を開くと、系に一定振動数の外場を加えた振動数領域の応答に対し、時間に依存する摂動論を用いた記述が採用されている。これは、重ね合わせの原理が成り立つシュレディンガー方程式の線形性から自然なことである。 では、本講義で時間軸を用いた記述に転換する理由は何か。 まず先端の光科学実験で、アト秒 (10−18s) のパルスを用いた物質中の電子運動の測定など、時間領域の測定が台頭しており、時間軸の理論や計算が必要とされている。また振動数表示に比べ、時間軸を用いると物理現象に対し、はるかにわかりやすいイメージを持つことが可能になる。そして計算機の発展に伴い、アト秒からフェムト秒程度の時間スケールで起こる現象を第一原理レベルで計算することが可能となっている。 講義ではまず、電子の運動を記述する第一原理計算法として知られる時間依存密度汎関数理論を基礎として、原子や分子などの簡単な物理系を例にとり、線形・非線形光応答で現れる電子ダイナミクスを紹介する。続いて、固体(結晶)中の電子ダイナミクスの記述に進み、誘電率や電気伝導度などの線形応答関数が時間軸での電子ダイナミクスとどのように関連するのかを調べる。また最近高い興味を集めている高次高調波発生などの非線形光応答を論じる。最後に、物質中の光の伝搬を記述する巨視的・微視的電磁気学を、物質科学の第一原理計算から出発して構築する試みを紹介し、それがどのような現象の理解に繋がるのかを論じる。
  • 佐藤 昌利
    p. 31-49
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    会議録・要旨集 フリー
    トポロジカル超伝導体とその周辺物質を波動関数のトポロジーによって分類するというトポロジカル相の概念は、1980年の量子ホール状態の発見に起源をもつ。トポロジカル数によって状態を特徴づけるというアイデアやバルクのトポロジカル数と境界のギャップレス状態との関係 (いわゆるバルク・境界対応) という現在知られているトポロジカル相の基本的な性質は、90 年代の半ばまでに知られていたが、2000 年になる頃までは、量子ホール効果以外の興味深い現象は知られていなかった。そのような認識が変化することになる最初のきっかけの一つが、Reed と Green による量子ホール状態との類似性を用いた超伝導状態の研究である。彼らは、カイラル超伝導状態が量子ホール状態と類似のトポロジカル数で特徴づけられることに注目し、それによってカイラル超伝導体がギャップレスのエッジ状態や超伝導体渦中にゼロモードを持つことが説明できることを見出した。更に超伝導体特有の電子・正孔対称性によって、それらの状態がマヨラナフェルミオンとなること、またそれにより超伝導渦の統計性が単純なボース統計やフェルミ統計でなく、交換操作で新しい状態となる非可換エニオン統計となることを指摘した。この発見は、超伝導体がトポロジカル相として、量子ホール効果以外の特徴をもつことを見出したものであり、現在も広く興 味を持って研究が進められている。本講演では、トポロジカル超伝導体の話を中心にトポロジカル相の基礎および最近のトピックについて解説を行う。
  • 今田 真
    p. 50-65
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    会議録・要旨集 フリー
    磁性や強相関電子物性が電子のスピンや軌道角運動量と深いつながりを持つことは言うまでもない。そのつながりを解明するために「電子分光」が貢献できる場合がある。光電子分光や内殻光吸収、X線共鳴非弾性散乱といった手法において、高分解能化だけでなく、励起光の偏光制御や電子スピンの観測を組み合わせることで、かなりの情報を得ることができることを紹介する。講義では、フント則などの基礎に言及した後、遷移金属や希土類を含む物質に関するトピックスの中から題材を選んで進める。
  • 作道 直幸
    p. 66-80
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    会議録・要旨集 フリー
    高分子ゲルは、架橋された高分子鎖からなる三次元網目が大量の溶媒を保持して膨潤した固形のソフトマターであり、ゼリー・豆腐などの食品や、ソフトコンタクトレンズ・止血剤などの医用材料が代表例である。溶媒をほとんど含まない高分子ゲルが、いわゆるゴムである。高分子ゲルは、固体と液体(弾性体と溶液)の要素を併せ持ち、その自由エネルギーは、弾性自由エネルギーと浸透圧の起源である高分子と溶媒の混合自由エネルギーの和で決まる。従って、高分子ゲルの熱力学を理解するには、弾性と浸透圧の研究が最重要である。 高分子ゲルの研究の歴史は長く、弾性と浸透圧について、それぞれ標準的な理論モデルが知られている。しかし、通常のゲル(またはゴム)は、制御および評価が困難な不均一な高分子網目構造を持つために、実験と理論の定量的な比較はほとんどなされていない。我々の研究グループは、近年開発された、極めて均一で制御可能な網目構造を持つ高分子ゲルを用いて、弾性・浸透圧・膨潤ダイナミクス・破壊など、高分子ゲルの基礎物理の全貌の解明に取り組んでいる。一連の研究から、標準的な理論モデルでは実験結果が説明できないことが明らかになりつつある。 弾性に関しては、高分子ゲルにおいて「負のエネルギー弾性」が発見された。ゴムやゲルに外力を加えて変形すると、高分子鎖が引き延ばされて復元力(エントロピー弾性)が生じるが、ゲルにおいては溶媒の存在により内部エネルギー変化由来の反対向きの力(負のエネルギー弾性)も生じて大幅に柔らかくなる。この発見は「ゴムとゲルの弾性率は、熱力学第二法則に由来するエントロピー弾性でおおむね説明できる」という長年の定説をくつがえす。 浸透圧に関しては、ゲルの浸透圧は「準希薄原理」で決まることが実験的に明らかとなった。これは、十分な溶媒を含む高分子ゲルは、十分に長く枝分かれのない高分子鎖(直鎖高分子)の溶液でよく知られる「準希薄状態」になっているという主張である。準希薄原理は、従来の標準的な理論(Flory-Huggins 理論)よりもシンプルな上に、ゲルの実験結果を正確に再現できる。また、準希薄原理を認めれば、磁性体(スピン系)や気液相転移などの臨界現象でよく知られる臨界指数が、ゲルの膨潤実験から実験的に決定できる。 第 67 回物性若手夏の学校の講義では、上記の弾性と浸透圧について、教科書レベルの基礎事項から始めて、最近明らかになった最先端のゲルの研究成果について解説した。本稿では、弾性についてゲルとゴムに共通の基礎事項である、古典的なゴム弾性理論について解説する。ゲルの弾性と浸透圧については、最近の解説記事 (弾性 [1, 2]、浸透圧 [3]) と重複するために省略した。 本稿のタイトル「高分子ゲルの熱力学」は、講義のタイトルであって、本稿の内容は「ゲル弾性を理解するためのゴム弾性入門」である。ゲルの弾性と浸透圧に関心のある方は、上記の解説記事に加えて、原論文 (弾性 [4]、浸透圧 [5, 6]) を参照していただきたい。
  • 北村 想太
    p. 81-151
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    会議録・要旨集 フリー
    物質の性質を自在に設計・制御することは凝縮系物理学の究極の目標の一つといえるが、物性制御の新たな可能性を切り開く試みとして、光誘起相転移の研究が挙げられる。新たに光という自由度を導入することは、単に既存の相図に新しい軸を加えることに留まらず、動的に物性をスイッチングできる可能性をもたらしたり、強い外場によって起こる非平衡現象を利用することで平衡状態では思いもかけないような状態を実現させたりといった、質的に新しい物理を生み出す舞台を提供する。一般には強い外場のもとでの非平衡状態を微視的な理論に基づいて解析することは困難であるが、外場が時間に関して周期的である場合には、Floquet の定理を用いて非平衡系のダイナミクスを実効的な平衡系の問題と対応づけることで、多くの情報を引き出すことができる。特に近年では、外場のもとで異なる時刻のハミルトニアンが非可換となることに起因する量子効果によって、トポロジカル量子相をはじめと するさまざまな新奇相が実現される可能性が議論されている。本講義では、周期外場に駆動された量子系を対象として、Floquet 理論を用いた物性の解析方法や、様々な新奇量子相の実現方法の理論提案について基礎的な部分から解説する。
  • 東 浩司
    p. 152-175
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    会議録・要旨集 フリー
    量子力学の完成から約1世紀になる.その間量子力学は,その解釈にこそ様々な疑問が呈されてきたが,素粒子から天文学に至る広範な物理現象に対し,正確な定量的理解を提供してきた.そのため,その正当性は今や疑う余地のないものとなってきている.一方で,1948 年に Shannon によって導入された情報理論は,抽象概念である「情報」や通信限界の定量化に成功しており,現代の通信社会を支える礎となっている.前世紀の末に,これらの理論は組み合わされ,量子情報理論となり,量子力学の下で許される情報処理の潜在能力や限界について新たな知見を与えている.より具体的には,量子計算や量子通信に象徴される,現代の計算や通信の枠を超える全く新しい情報処理の可能性が明らかになってきた.本講義では,量子力学を数学的枠組みとして捉えることから始め,量子力学特有の相関である「量子もつれ」が量子情報処理のリソースであることを示す.また現実的にそのリソースを供給する方法について解説し,これらの方法の実現が,なぜ将来の量子通信ネットワーク「量子インターネット」実現の礎となるのかについても解説する.
  • 岡本 博
    p. 176-187
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    会議録・要旨集 フリー
    可視光を照射したとき固体の電子相が一変する現象“光誘起相転移”は、フェムト秒レーザーパルスを用いたポンプ・プローブ分光により盛んに研究されてきた。その対象として注目されてきた物質群に強相関(電子)系がある。強相関系では、光照射によって生じた電子励起や光キャリアが強い電子間相互作用を通して周囲の電子系を変化させることにより、高速かつ高効率の光誘起相転移が起こる。最近では、中心周波数が約 1 テラヘルツである単一サイクルの電磁場=テラヘルツパルスや数サイクルの電磁場として得られる中赤外パルスを励起光に用いて、強相関系の電子状態を制御しようという研究も行われるようになってきた。本セミナーでは、最初に、強相関系である遷移金属化合物や有機分子性物質で生じるいくつかの典型的な光誘起相転移(光誘起絶縁体−金属転移や中性−イオン性転移等)について解説する。その後、テラヘルツパルスの電場成分を用いた光誘起相転移の研究を概説する。また、中赤外パルスを用いた分子振動励起による相転移やフォノンドレスト状態の観測等の最新のトピックスについても紹介したい。
  • 小澤 知己
    p. 188-202
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    会議録・要旨集 フリー
    光と物質の相互作用をコントロールすることで実現される人工量子系について多体物性・トポロジカル物性の観点からの入門的な講義を行う。人工量子系と言ってもその幅は広く、光でコントロールされた原子を扱う冷却原子系やイオントラップから、光そのものを研究対象にする光共振器列や導波路列、また光と物質の複合粒子である励起子ポラリトン系などさまざまである。人工量子系の物性物理の研究では、調べたい模型・現象を(近似的に)実現するような人工量子系の実現を目指す「量子シミュレーション」の形を取ることが多い。量子シミュレーションが物性物理にどういった知見をもたらすのかなど人工量子系研究のモチベーションを伝えたい。また、具体的な研究例として人工量子系でのトポロジカル物性の研究の進展も解説する。量子ホール効果に代表されるトポロジカル物性に関連した模型・現象の量子シミュレーションがさまざまな人工量子系で近年活発に議論されている。トポロジカル物性はもともとフェルミオンである固体電子系を中心に研究されてきたが、多くの場合ボソンを扱う人工量子系では固体電子系とは異なった現象が見られる。トポロジカル物性とレーザーを組み合わせたトポロジカル・レーザーや4次元以上の高次元物理をシミュレートできる人工次元の方法など人工量子系ならではのトポロジカル物性研究の最前線をお伝えしたい。
  • 日置 友智
    p. 203-215
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    会議録・要旨集 フリー
    電子のスピン角運動量を利用するスピントロニクスでは、磁性体中の複数の素励起が織りなす相互作用を用いることで、磁気メモリや熱電変換素子などに有用な新現象を見出してきた。その中心にある素励起がマグノンである。マグノンは、磁化の歳差運動が波として磁性体中を伝搬する磁気秩序の素励起であり、マグノンと伝導電子スピン、フォトン、フォノンなどとの間の相互作用により多くのスピントロニクス現象が理解されてきた。マグノンには数と位相の自由度があるが、マグノンの位相は従来のスピントロニクスでは活用されていなかった。これは、ギルバート緩和と呼ばれる磁化ダイナミクスの緩和機構により、マグノンの位相コヒーレンスが数百ナノ秒で消失してしまうためである。しかし近年のパルスレーザーを代表とした高速測定技術の進展により、ごく短い時間での磁化ダイナミクスの励起や観測、時系列パルスの作製が可能となってきた。これにスピントロニクスが開拓してきたスピン角運動量の流れ「スピン流」の学理を融合することでマグノンの位相コヒーレンスを利用した新たな研究領域が創出されると期待されている。本集中ゼミでは、まずマグノンの定式化や関連する現象群について概説した後に、マグノンの密度行列を測定可能にするマグノントモグラフィ法について紹介し、現在の実験研究と今後の展望を示す。
  • 柳澤 実穂
    p. 216-227
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    会議録・要旨集 フリー
    生命現象の根底には数多くの物理法則が存在し、それは E.シュレーディンガーをはじめとする物理学者の興味を集めてきた。本講演では、生命の最小単位である細胞を、擬2次元膜で覆われたミクロ3次元液滴として捉え、細胞サイズの生体分子集合体が示す物性研究から、生命の物理的理解を目指すアプローチについて紹介したい。対象とする主な現象は、タンパク質1分子が示す分子拡散や、タンパク質集団が示す相分離・ゲル化などの相転移である。こうした現象はこれまで、目に見えるマイクロリットル量以上の体積スケール(以下、バルクと呼ぶ)に対して研究がおこなわれてきたが、細胞の体積は高々フェムトリットル~ピコリットルと少量である。こうしたミクロな系では、微小体積や表面を覆う膜の影響により、バルク系とは異なる分子挙動や相転移が観察される。本集中ゼミでは、人工細胞として用いられる液滴の説明から、バルクとは異なるミクロ系特異な分子拡散や相転移について説明する。また、これら細胞サイズ特異な現象が生じる要因について考察する。
  • 加藤 晃太郎
    p. 228-241
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    会議録・要旨集 フリー
    量子情報分野の発展に伴い、近年では情報エントロピーやエンタングルメント、量子誤り訂正符号といった情報理論由来の概念や手法が、基礎物理学的な観点からも注目されるようになってきた。中でもトポロジカル相に代表される非臨界系 (ギャップド系) の量子相の物理は、そうした情報理論的な解析手法が早期から取り入れられてきた研究領域である。本集中ゼミでは、量子情報理論の基礎的な概念の解説から始め、局所ハミルトニアン系の基底状態に対する応用を紹介することで、量子多体系に対する量子情報的なアプローチの一端に触れてもらうことを目標とする。応用例としては、トポロジカル量子コンピュータとの繋がりもある、スピン系のトポロジカル秩序相を中心的に取り上げる。
  • 大野 圭司
    p. 242-254
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    会議録・要旨集 フリー
    半導体中の伝導電子や正孔を 3 次元的に閉じ込めた構造は原子のような離散的エネルギー準位を有する。量子ドット素子はこの閉じ込め構造にトンネル接合を介して電極を取り付けたものであり、その人工原子的振る舞いが電極間の電気伝導特性により研究されてきた。なかでも電子スピンに着目した研究は半導体量子ビット研究として大きく発展している。電子の閉じ込めは微細加工技術によるほか、半導体中不純物の局在状態を用いることもできる。 量子ドット素子の研究は比較的加工が容易な GaAs などの化合物半導体から始まりその後 Si に移行している。Si への移行はより長いスピンコヒーレンス時間が得られるほか、既存のシリコン技術との整合性がよくシリコン集積回路との良好な接続性が期待できるなど様々な利点がある。 この講義においてはこれまでに私がかかわってきた半導体量子ドット構造の実験研究を中心に、その物理と応用について話したい。応用としては電子スピンの長いコヒーレンス時間を生かした量子ビット応用を紹介する。具体的にはGaAs量子ドット素子の構造とその特性、特にその電子スピンに注目した仕事を紹介する。その後 Si の MOSFET 構造をベースとした量子ドット素子とその特性、特に電子スピン量子ビットとしての応用、なかでも高温での量子ビット動作 1)や、単一量子ビットを用いたシミュレーション実験を紹介する。シミュレーション実験は運動先鋭化および量子熱機関を扱う。以下のテキストは日本物理学会誌の記事(大野 圭司、森 貴洋、森山 悟士、最近の研究から:シリコン量子ビットの高温動作、日本物理学会誌、vol. 75, No. 8 pp.472-477 (2020))著者最終稿をもとに加筆修正したものであり、高温量子ビットとシミュレーション実験について解説している。
  • 佐藤 琢哉
    p. 255-267
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    会議録・要旨集 フリー
    マイケル・ファラデーは電磁誘導(ファラデーの法則)の発見でよく知られている。それとは全く別に、彼の名前を冠した「ファラデー効果」という現象がある。1845 年、ファラデーが磁性体で磁場を印加した鉛ガラスに直線偏光した光を当てたところ、偏光の向きが回転して出てきたのを見出したのがその発端である。このファラデー効果の発見をきっかけとして、光を用いて磁性体の性質を探る学問(磁気光学)が発展した。電気と磁気の 相互関係のように、磁気が光に影響を及ぼしうるなら、この逆効果として光も磁気に影響を及ぼしうるのでは、と考えるのは自然なことである。しかし当時の光源は弱すぎて観測は成功しなかった。ファラデーの時代から 100 年以上経った 1960 年代には、レーザーが発明されて、ようやくファラデー効果の逆効果、すなわち逆ファラデー効果の観測が可能になった。さらに現代では、人類はフェムト秒超短レーザーという超強力な光源を手にいれた。本ゼミでは、この新しいレーザー光源を用いてファラデーのやり残したこと、「光で磁性体を超高速に制御する」への挑戦について解説する。
  • 桂 法称
    p. 268-280
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    会議録・要旨集 フリー
    単純なルールで記述される古典統計力学の問題を数値的に調べてみたら、0.3333...という何やら意味ありげな値がエントロピーとして出力された—そんな状況に遭遇したら、あなたならどう思うだろう?本稿では、数値計算結果から解析的な結果を予想する研究—「実験数理物理学」の、古今東西の成功例や失敗例を紹介する。同時に、古典統計力学における転送行列法やフェルミオン系の基礎的事項などについても解説する。また、インターネット上のリソースである、On-Line Encyclopedia of Integer Sequences (OEIS) の積極的な応用方法も紹介する。
  • 與儀 護
    p. 281-292
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    会議録・要旨集 フリー
    核磁気共鳴(NMR)は微視的視点から物質の電子状態を研究できる測定手法の一つである。NMRの最も多い利用例は共鳴スペクトル測定による有機化合物の分子構造解析だと思われる。これは原子核周りの微視的電子状態が分子構造により異なり,その結果として共鳴周波数が変化することを利用している。固体物性の研究においても,スピン磁化率など静的磁気特性の研究のために共鳴スペクトルの測定が行われている。また,NMRは緩和時間の測定を通して系の動的な性質(低エネルギー励起)に関する情報を得ることもできる。例えば,磁性体における磁気揺らぎや超伝導体のギャップ構造などの研究に用いられている。本集中ゼミでは固体物性研究への応用を視野に入れた核磁気共鳴の基礎について述 べた後に,Eu を中心とした希土類化合物への応用例を紹介する。静的磁気特性の測定例として,NMRスペクトル解析による磁気構造の研究について紹介する。具体的には,我々が最近行った Eu 化合物の磁気秩序状態におけるヘリカル構造と伝播ベクトルの NMRによる同定について説明する。また,NMR では核四重極能率を持つ原子核を用いることにより電気特性についても検出可能である。その例として,希土類元素の価数状態についてリガンド核の電場勾配の変化から見出した例について紹介する。最後に,動的特性の測定例として,Eu 化合物の価数状態と磁気揺らぎに関して紹介する。
  • 坂上 貴洋
    p. 293-303
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    会議録・要旨集 フリー
    細胞内での DNA、クロマチンの振る舞いについて、物理学の視点から講義する。生物の遺伝情報は塩基配列という形で DNAに蓄えられており、細胞内における DNAやクロマチン (DNA とタンパク質の巨大な複合体) の動態は遺伝子発現と密接に関連する。DNAの構造には明確な階層性が見られ、その振る舞いはスケールに依存する。例えば、たんぱく質との相互作用の舞台となる数十塩基対のスケールでは、二重螺旋構造を反映した弾性的な振る舞いを示す。他方、サブミクロン以上のスケールでは、屈曲性に富む高分子の振る舞いを示す。これらのことを念頭におき、DNAやクロマチンの多様な振る舞いと、そこに見られる普遍的な法則について理解を深めることを目指す。
  • 西口 大貴
    p. 304-320
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    会議録・要旨集 フリー
    バクテリアや自己駆動コロイドの集団運動の実験を参照しながら、アクティブマターにおける集団運動の標準模型やその数理を解説する。特に、実験的にも理論的にも理解が進んでいる集団運動状態である長距離秩序相とアクティブ乱流を詳細に取り上げる。その過程で、アクティブマター物理学の面白さや思想、そして今後の方向性についても議論する。
  • 羽田野 直道
    p. 321-331
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    会議録・要旨集 フリー
    ハミルトニアンを非エルミートにした量子系が盛んに議論されるようになりました。本ゼミでは、非エルミート性が(1)開放量子系の有効ハミルトニアンに現れる場合、(2)系全体に現れる場合、(3)他の模型を変換して現れる場合のそれぞれについて入門的な内容を概観します。(1)はエルミート系の一部分が有効的に非エルミートになる場合です。例として、量子細線が接続された量子ドットが挙げられます。量子細線との結合のために量子ドットのエネルギーが保存しないのが非エルミート性の原因です。実験では系に測定器を結合させるため、実験系は必ず非エルミート系です。(2)では実エネルギー固有値について考えます。系全体が非エルミートでも、PT 対称性のような物理的対称性のみを課すと実固有値が得られる場合があることを示します。(3)では (d + 1) 次元の古典統計力学系から d 次元の量子力学系への変換を例に、模型の変換により非エルミートハミルトニアンが得られることをみます。 多くの理論はエルミート系を対象としています。対応する実験系を実現するためには、(1)の理由で測定が系をできるだけ乱さないように特別な注意が必要です。一方、非エルミート量子力学では最初から測定系が注目系と強く結合している場合を扱うため、将来的に実験系の実現にも変革を起こすと期待しています。
  • 物性若手夏の学校準備局
    p. 332
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    会議録・要旨集 フリー
feedback
Top