英語の心理動詞構文は,心的状態や心的状態の変化を表す動詞と2つの文法項からなる。2つの文法項の意味役割は,心的状態または心的状態変化の担い手を表す経験者とそのような状態変化をもたらす原因または対象である。Postal(1971)
1) の分析に始まる長い研究の歴史の中で,
love(愛する)や
fear(恐れる)のように経験者が主語,対象が目的語である心理動詞を含む文はそのままの語順で名詞化されるのに対して(例:
John loves Mary. →
John's love of Mary),
please(喜ばす)や
surprise(驚かす)のように主語が原因,目的語が経験者である心理動詞を含む文を名詞化するともとの心理述語構文とは語順が逆になることが知られてきた(例:
The music pleased John. →
John's pleasure at the music)。このタイプの動詞は語彙概念構造の状態変化の部分が名詞化されている可能性が影山(2008)
2) などにより指摘されている。一方,日本語においてはこのタイプの心理述語は使役で表現されるため,語順が逆になる現象は起こらない。本稿では日本語の心理動詞と心理形容詞を対象にして名詞化の意味を考察し,心理状態の名詞化という一般化によって,動詞タイプが異なる場合の共通性を捉えた。
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