年金研究
Online ISSN : 2189-969X
ISSN-L : 2189-969X
11 巻
選択された号の論文の2件中1~2を表示しています
  • 丸山 桂
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 11 巻 p. 1-23
    発行日: 2019/03/26
    公開日: 2019/03/27
    ジャーナル フリー

     本研究では、30~54歳の就業歴、公的年金加入歴を含む個票データを用いて、年長非正規労働者や求職活動をしていない無業者の生活や公的年金加入に関する状況を分析した。本研究で明かになった点は、以下の3点である。

     ①年長非正規労働者や求職活動をしていない無業者の家計は正社員の家計よりも経済的余裕がなく、相対的貧困率も高い。また、生活全般を親に依存し、経済面でも家事の面でも親から援助を受ける者が多い。そして、非正規労働者や無業者、正社員等に比べ、社会から孤立している者が多く、経済面だけでなく社会面でも厳しい状況にあることが明かとなった。

     ②現在、非正規や無業(非求職)である者は、初職も非正規や無業であることが多く、また職歴も非正規や無職中心であることと関連が高かった。そして、正社員中心の職歴であった者に比べ、非正規中心の職歴であった非正規労働者は公的年金の累積未納率が高くなりやすいことが明かになった。しかし、無業者(非求職者)の場合には、過去の職歴による累積未納率には差異が認められなかった。

     ③初職前年の有効求人倍率が、その後のキャリアや生活水準、年金の納付行動に及ぼす影響を分析した。その結果、男性の場合、前年の景気状況が初職やその後のキャリア形成に影響を及ぼすことが分かった。初職が非正規や無業であった場合、男性のほうが初職の影響が長期化し、現在の生活水準を示す等価世帯収入の引き下げ、公的年金の累積未納率を引き上げるという負のプロセスを確認できた。女性の場合、男性とは異なり、初職が非正規や無業であったことはキャリア形成に必ずしも不利に働いておらず、人生における無業歴の長さと現在の等価世帯収入や年金の累積未納率との相関が認められなかった。この要因は、女性にとっては結婚が生活を安定させる手段になり得ることや公的年金の第3号被保険者制度の恩恵を受けたことが、無業であっても経済面での不利につながらないことになったと考えられる。

     すでに就職氷河期世代は中年世代にさしかかっており、非正規労働者や無業者に自助努力だけで老後の準備をすることは限界がある。社会保険の適用拡大のさらなる拡充や就職支援に向けた政策などの対応が急がれる。

  • 前田 佐恵子
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 11 巻 p. 24-44
    発行日: 2019/03/26
    公開日: 2019/03/27
    ジャーナル フリー

     本論文では、長期にわたる日本の被用者所得に関するパネルデータを用いて所得過程を推定し、その結果を用いて個人の賃金変化とそこから生じる所得格差の推移を考察した。 特に、後年の所得に影響を与えるショックの違いに注目した。 使用した統計資料は、厚生年金制度に加入している(いた)人の年金加入記録に記載された報酬額の推移に係る回顧型パネルデータである。Abowd and Card (1989) 等に示された手法に倣い、所得変動の分散共分散構造を利用して、被用者間に生じている賃金格差を、一時的に生じている格差(一時所得に影響を与える格差)と恒常所得に影響を与える格差、に分けた。

     賃金格差全体は年齢を経るにつれて拡大する傾向があるが、このうち一時所得の格差は若いころにより高く、恒常所得の格差は若年時点と50歳以上の時点で高くなる時期が多くみられた。また、一時所得の格差よりも恒常所得の格差の方が大きい傾向にある。世代別にみると恒常所得の格差の水準やそれが拡大するタイミングが少しずつ異なっている部分もある。拡大の要因は様々であると考えられるが、団塊の世代の50歳以降の時期については退職が、また、就職氷河期世代の若年時では初職の状況に左右される世代効果がそれぞれ影響していた可能性が高い。

feedback
Top