年金研究
Online ISSN : 2189-969X
ISSN-L : 2189-969X
12 巻
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年金研究 第12号
  • 高山 憲之, 白石 浩介
    2020 年 12 巻 p. 1-28
    発行日: 2020/01/28
    公開日: 2020/01/29
    ジャーナル フリー

     本論文では、60歳定年の経験がある男女2251人を取り上げ、彼ら(彼女ら)の属性および、その後の再就職と離職の状況を調べた。主な使用データは厚生労働省「中高年縦断調査」(第1回~第10回)である。この調査は平成17(2005)年10月時点で50~59歳だった全国の男女を対象として、平成17年11月に第1回調査が実施された。その後、毎年11月に同一の男女を追跡調査したものである。本論文で利用したのは第10回(2014年)までの10年分である。分析によって得られた主要な知見は以下のとおりである。

    1) 60歳定年による離職月の分布は男性の場合、誕生月が37%、誕生月を含む年度末が45%、その他17%であった。また、女性の場合、それぞれ30%、52%、18%であった。

    2) 60歳定年後に就業しなかった人の割合は男性が25%、女性が45%であり、60歳定年時に就業から離脱する人が男女とも少なくなかった。ただ、66歳時点においても男性の約40%、女性の30%前後が就業しており、定年後就業者に限定すると、男女とも半数を超える人が66歳時点で就業していたことになる。

    3) 公的年金の定額部分に係る法定支給開始年齢の引き上げは男性の就業を促進した。一方、女性の場合、その促進効果は必ずしも明確ではなかった。

    4) 年齢が高くなるにつれて就業率は総じて低下するものの、落差が比較的大きいのは65歳前後であった(男性の場合)。ただ、同一年齢(たとえば男性65歳、女性63歳)に着目すると、その就業率は生年が遅いほど少しずつ高くなっていた。

    5) 2014年調査によると、定年後に就業した男性の場合、その40%強が65歳時点まで定年後の離職を1回も経験していなかった。また、定年後離職1回経験者を含めると、定年後就業者の60%強が65歳時点で就業していた。さらに、両者あわせて定年後就業者の40%程度が67歳時点で就業していた。

    6) 2014年11月時点で就業していなかった人については、60歳定年後に就業したとしても、2回以上就業した人の割合は高々20%程度であり、低かった。一方、同時点で就業していた人の定年後離職回数は総じて少なく、男性の場合、63歳未満の離職経験者は10%未満、64歳時点においても離職経験1回の人が20%前後、2回以上が5%にそれぞれとどまっていた。女性の場合、64歳時点における離職経験1回の人は男性と同様に20%前後であった。ただ、2回以上は8~22%となっていて、男性のそれより高めであった。

    7) 男性サンプルに関する回帰分析結果によれば、60歳定年直後の就業継続と定年後しばらくたった後の就業継続では就業を左右する要因に一部、違いがあった。すなわち、住宅ローンの残っている人や妻が仕事をしている人(1950年度以降に生まれた世代に限る)、健康状態の良い人などは、いずれの段階でも就業確率が高かった。60歳到達直後に限定すると、定年前に1つの企業に20年以上勤務した人より複数企業に20年以上勤務した人の方が就業継続可能性が高かった。60歳定年直後からしばらくすると、留保賃金を上回る市場賃金は就業に対して概ね促進的であった一方、定額部分の支給開始や親族介護の必要性(66~67歳時点)は就業を抑制する効果があった。

  • 平河 茉璃絵
    2020 年 12 巻 p. 29-53
    発行日: 2020/01/28
    公開日: 2020/01/29
    ジャーナル フリー

     本研究では、2009年に改正され2010年に施行された改正育児・介護休業法が、第一子出産後の母親の就業確率にどのような影響を与えたか分析した。分析の結果、①出産1年前に民間企業の正社員として働いていた女性のうち、2010年以降に出産した母親において出産1年後の就業確率が上昇していること、②「子どもが小さいうちは、特に3歳までは母親が子どものそばにいて、育児をすることが子どもにとって一番望ましい」という価値観をコントロールしても、2010年以降に出産した女性の出産1年後の就業確率が上昇していること、の2点がわかった。さらに、出産1年前に勤めていた企業の従業員規模別(100人以上、100人未満)に分析した結果、出産1年前に100人以上企業に勤めていた女性において、2010年以降に第一子を出産した女性で就業確率が大きく上昇したことを示した。2009年の育児・介護休業法の改正では、父母ともに育児休業を取得した場合に育児取得可能期間が1歳から1歳2か月まで延長できる「パパママ育休プラス」が制定され、短時間勤務制度・所定外労働の制限が義務化された。2010年以降に第一子が生まれた父親の育児休業取得率は非常に低い。よって、2010年以降における女性就業率上昇の要因の1つとして、短時間勤務制度や所定外労働の制限の義務化による子どもをもつ女性の働きやすさの向上が考えられる。

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