年金研究
Online ISSN : 2189-969X
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3 巻
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論文(査読あり)
  • ~政策提言を具体化した試案の効果検証~
    小野 暁史
    2016 年 3 巻 p. 1-40
    発行日: 2016/06/28
    公開日: 2017/04/06
    ジャーナル オープンアクセス

     高齢者世帯の公租公課には、世帯における人的構造や世帯収入額が同じでも収入構造の違いにより相対的負担水準に相当の世帯間格差があること、同一世帯類型でも世帯収入の増に伴い負担が急増するポイントがあること等、今後全体的に負担水準が上昇する中で一段と顕著となり問題となりかねない事実を小野(2016)は指摘し、これらの負担格差や非連続的変化等を抑制するための総合的一体的な政策提言を行った。

     本稿では、上記政策提言に沿った公租公課制度の具体的な試案を一つ作成した。そして、それに基づいて高齢者世帯の多様性に着目しつつ各種公租公課を一体的に世帯単位で試算し、提言の企図した効果を検証した。

     その結果、試案の下では、全体的な負担水準は現行制度から大きく変わることなく、世帯類型間における負担水準格差が縮小するとともに、世帯収入増に伴う負担急増ポイントが解消されていることを確認できた。前者は、現行の「所得+各種所得控除方式」を「実収入+最低生活費相当額等免税方式」へ組みかえた結果、世帯における収入構造の差異による影響を限定できたからであり、後者は、収入増に伴い段階的に負担が増加する要素を排し連続的に増加するような仕組みに組みかえたからである。ちなみに、これらの組みかえにより、試案における制度の仕組みは全体として現行より大幅に簡素なものとなっている。

     また、公租と社会保障給付による2重の保護を排する仕組みも取り入れ、両者が複合して過剰な保護となることを抑制する効果も確認できた。

     以上から、小野(2016)が問題とした「負担の格差や非連続的な変化等」への公租公課側からの対応として、試案は一つの解であることを確認できた。

特集:中年独身者の老後生活設計
特集:論文(査読あり)
  • 丸山 桂
    2016 年 3 巻 p. 42-77
    発行日: 2016/06/28
    公開日: 2017/04/06
    ジャーナル オープンアクセス

     本研究は、40 代、50 代の未婚者の職歴、公的年金等の加入状況、老後への準備状況と老後の不安感との関係について分析を行った。その結果、以下の点が明らかになった。 ①非正規労働者や無職など経済的に脆弱な層は、男性よりも女性に多い。現在の従業上の地位と初職の従業上の地位には強い関連性があり、初職がキャリア形成に及ぼす効果は非常に大きいことが確認できた。また、家族の中に要介護者がいた経験は、非正規労働者ではなく、失業や非労働力など労働市場から退出させる強い効果があり、それは男性よりも女性に現れやすいことが分かった。 ②本来社会保険に適用されるべき非正規労働者の多くが、厚生年金などの被用者保険の適用漏れになっている可能性が高いことが分かった。結果として、厚生年金の適用外となった非正規労働者の約3 分の1 が国民年金の保険料を免除または滞納しており、老後の低年金リスクを負っている。 ③中高年未婚者のうち、老後への準備を何もしていないと回答する者は非正規労働者や失業者、国民年金保険料の免除・滞納者に多い。また、マクロ経済スライドの適用による公的年金の給付水準低下が予想される中で、老後の生活費を補完する企業年金や個人年金などへの加入は、老後の生活費不安を軽減する効果は認められたが、不安自体を大きく解消するまでにはいたっていない。 中高年層に対する就職支援や社会保険の適用拡大が、未婚者の生活リスクを軽減するための政策手段として必要である。 本研究は、老後の不安感との関係について分析を行った。その結果、以下の点が明らかになった。

    ①非正規労働者や無職など経済的に脆弱な層は、男性よりも女性に多い。現在の従業上の地位と初職の従業上の地位には強い関連性があり、初職がキャリア形成に及ぼす効果は非常に大きいことが確認できた。また、家族の中に要介護者がいた経験は、非正規労働者ではなく、失業や非労働力など労働市場から退出させる強い効果があり、それは男性よりも女性に現れやすいことが分かった。

    ②本来社会保険に適用されるべき非正規労働者の多くが、厚生年金などの被用者保険の適用漏れになっている可能性が高いことが分かった。結果として、厚生年金の適用外となった非正規労働者の約3 分の1 が国民年金の保険料を免除または滞納しており、老後の低年金リスクを負っている。

    ③中高年未婚者のうち、老後への準備を何もしていないと回答する者は非正規労働者や失業者、国民年金保険料の免除・滞納者に多い。また、マクロ経済スライドの適用による公的年金の給付水準低下が予想される中で、老後の生活費を補完する企業年金や個人年金などへの加入は、老後の生活費不安を軽減する効果は認められたが、不安自体を大きく解消するまでにはいたっていない。

     中高年層に対する就職支援や社会保険の適用拡大が、未婚者の生活リスクを軽減するための政策手段として必要である。

  • 藤森 克彦
    2016 年 3 巻 p. 78-111
    発行日: 2016/06/28
    公開日: 2017/04/06
    ジャーナル オープンアクセス

     本稿では、40 代・50 代の未婚の男女を「2人以上世帯」と「単身世帯」に分けて、生活実態、未婚者における2人以上世帯の規定要因、老後リスクとその備え、現在及び老後の生活不安、を考察した。特に、2人以上世帯に属する中年未婚者――中年未婚者の6割を占める――の生活実態などは、これまであまり考察されてこなかった。本調査では、以下の点が明らかになった。

     未婚者が属する2人以上世帯の構成をみると、未婚者の9割強は親と同居している。

     2人以上世帯の未婚者は単身世帯よりも正社員の比率が低く、無職者の比率が高い。また、2人以上世帯の未婚者は単身世帯よりも低所得者の比率が高い。

     一方、未婚者が属する2人以上世帯の「生計維持の中心者」をみると、未婚男性の4割、同女性の7割弱が生計維持の中心者は親となっている。特に、本人年収100 万円以下の未婚者では、その7~8割は親が生計維持の中心者である。

     住まいの状況をみると、単身世帯の6割強が「借家住まい」なのに対して、2人以上世帯では男性の5割強、女性の7割弱が「親の持ち家」に住んでいる。

     次に、未婚者について2人以上世帯の規定要因を分析すると、①年収が低いこと、②家族に要介護者がいること、③職場で社会保険に入れないこと(女性のみ)、があげられる。

     老後への備えをみると、2人以上世帯に属する未婚者の6割強は国民年金加入者(第1号被保険者)であり、厚生年金に加入していない。単身世帯の同割合は5割程度である。

     国民年金加入者で借家住まいの人は単身世帯の3割、2人以上世帯の1割程度である。

     これらの世帯の場合、老後の公的年金は基礎年金のみであることが想定されるので、高齢期に家賃負担が重くなる可能性がある。

     2人以上世帯の未婚者は親などと同居しているので、経済援助や看護・家事などで「頼れる人がいない」という人の比率は低い。しかし、老後は親などの同居人が死亡する可能性があるので、「頼れる人がいない」という人の比率が単身世帯に比べて著しく高まる。

特集:論文
  • 長野 誠治
    2016 年 3 巻 p. 112-129
    発行日: 2016/06/28
    公開日: 2017/04/06
    ジャーナル オープンアクセス

     少子高齢社会の進展とともに、人々の生き方や家族・世帯形態が多様化してきた。その中で、単身世帯が増加し、その傾向は今後さらに進むものとみられている。今回で4回目となる当調査では、近年の生涯未婚男性の増加やジェンダーの観点から、従来、女性のみに限っていた調査対象を男性にも拡大させた。

     調査はインターネット調査であり、2015年12月10~14日に実施した。調査対象は全国の40~59歳の生涯未婚の男女であり、有効回答者数は2,275人。主な調査項目は、仕事、家族・家計、住まい、今の生活、老後の生活、の5項目であり、調査票は本論文の末尾に示したとおりである。

  • 長野 誠治
    2016 年 3 巻 p. 130-188
    発行日: 2016/06/28
    公開日: 2017/04/06
    ジャーナル オープンアクセス

    (1) 仕事について

     男性の場合、50代後半で正社員の割合が激減する一方、無職や自営の割合が増加する。女性の場合、年齢階層が上がるにつれて非正規の割合が低下するものの、男性に比べると非正規の割合が高い。また、男性は専門職が多い一方、女性は事務的な仕事が圧倒的に多い。現在の仕事の継続期間は男女平均で12年4ヵ月。仕事の悩みのトップは「収入が少ない」であり、回答者の半数がそのように回答している。さらに、6割以上が定年制はあると回答。そして、「定年よりも前に適当な仕事があれば転職したい」という回答が男女全体では1 番多い。退職意向年齢は男女平均で63.7歳、男性の方が女性よりも2歳以上遅い。これまでの職歴では「最初の仕事と現在は異なる」が1番多く、過半数を占める。離職経験のある人の初職は男女ともに「正社員」が75%と1番多い。 ただし、初職が非正規だった人は男女ともに現在40代前半層が比較的多い。初職が非正規であった人で現在も非正規である人の割合が、現在は正社員である人の割合を大きく上回る。転職の回数は平均4回。現在、仕事についていない理由は「希望する仕事がない」が1番多い。女性では「親等の介護で手が離せない」が男性に比べて多い。

    (2) 家族・家計について

     世帯人数は本人のみの独居が1番多く40%を占める。同居相手は「母親」がトップ。 生計維持の中心者は「本人」「父親」の順。女性のみに限定すると、生計維持の中心者は「父親」が第1位。世帯全体の年間収入額は「200万円以上300万円未満」が1番多い。世帯の収入源は「自分の仕事の収入」がトップで8割弱、次いで「親の年金収入」が40%強。本人の仕事の収入は平均275万円。女性の方が男性よりも60万円程度低い。 「厚生年金に加入」が40%、「国民年金保険料を全額払っている」が14.4%。社会保険の加入状況は「国民健康保険」が55.5%でトップ、次いで「健康保険・共済組合(本人)」が40.8%。1ヵ月の生活費は「10万円未満」が25.8%でトップ。住宅ローンの保有割合は7%であり、平均残高は1,400万円。住宅ローン以外のローンは男性の方が女性よりも保有割合が高い。老後のための資産形成手段は「預貯金」が66.5%でトップ、一方で老後の資産形成を「何もしていない」が全体で24.5%を占め、女性、特に非正規女性の場合、その割合が高い。

    (3) 住まいについて

     現在の住まいは「親の持ち家」「賃貸住宅」「自分の持ち家」の順。家賃は月額平均5万2,000円。持ち家の築年数の平均は30年。老後の住まいと同居意向は、「現在の家に住み続ける」が6割、「1人で暮らす」が46%であり、それぞれ第1位。

    (4) 今の生活について

     健康状態は「まあ健康」が43%、充実した気持ちを感じる時は「趣味やスポーツに熱中している時」が26%で、それぞれトップ。病気の時の看護や家事・介護、あるいは経済的援助に関して頼りにできる人は現在「特にいない」が、ほぼ過半数を占める。老後においては、その割合がさらに高まる。生活の満足度は、仕事の内容、職場の人間関係、趣味やスポーツ活動、家族、友人等に関しては「まあ満足」がトップ。一方で、収入や資産・貯蓄といった経済面については「やや不満」が第1位。今の生活については、生活全般、自分の健康、生活費、面倒をみてくれる人がいないこと、雇用の不安定さ、のいずれも「少し不安に感じる」がトップ。老後についても多くの項目で「少し不安に感じる」が第1位。ただし、住宅、趣味や友人との交際などでは「あまり不安でない」がトップ。結婚の意向については、「結婚するつもりはない」が50%でトップだが、僅差で「適当な人がいたら結婚したい」。過去または現在の介護経験では17%が「ある」と回答し、その対象は「母親」が最も多く、「同居家族が介護した(している)」という回答が比較的多い。将来、家族が介護状態になった場合は「在宅介護を利用」が20%であり、第1位。

    (5) 老後の生活について

     老後の生活設計を考え始める時期は「まだ考えていない」が62%でトップ。老後に最低限の生活を営むために必要な1ヵ月の生活費は「10万円以上15万円未満」が33%、ゆとりある生活を営むのに必要な生活費は「20万円以上25万円未満」が27%であり、それぞれトップ。老後における収入源の2本柱は「公的年金」と「仕事による収入」。将来の公的年金の受取見込み額(月額)は平均9万5,000円。将来、自分が介護状態になった時の対処方法は「在宅介護」が34%でトップ。

  • 長野 誠治
    2016 年 3 巻 p. 189-209
    発行日: 2016/06/28
    公開日: 2017/04/06
    ジャーナル オープンアクセス

    (1)今回で「独身者の老後生活設計ニーズに関する調査」は4回目になる。本論文では独身女性について第2回から第4回までの調査結果について比較検討した。その結果 によると、今回、彼女らの雇用は回復しつつあるが、収入は伸びず、親と同居している人の割合が増えている。また、最も充実感を感じられるのは、一人でゆったりと休養している時で、老後のことはあまり考えていない。これが40~50代の独身女性の全般的なイメージである。

    (2)仕事については、雇用の回復傾向がうかがえ、第3回調査では「正社員」の割合がリーマンショックの影響から大幅に減少したが、今回調査では小幅増加するとともに、 「無職」の割合が減少した。現在の仕事の継続期間は、第3回調査に比べて勤続10年を境にして、それより短い期間の割合が減り、長い期間の割合が増加している。なお、60歳以降も働きたいという意向は今回調査では後退している。

    (3)家族・家計については、第3回調査に比べて一人世帯の割合が減少している一方で、親と同居している人の割合は第2回調査以降、一貫して増加傾向にある。世帯収入は、 全体として徐々に下方へシフトしてきている。本人の仕事の収入は「200万円以上300万円未満」が引き続き最頻値になり、回答した人の割合も増加傾向にある。世帯の生活費(月額)も収入と同様に下方へシフトしており、第3回調査に比べて「10万円未満」と回答した人の割合が増えている。老後のための資産形成は、「預貯金」という回答が7割を占めている。保有している金融資産額は、第3回調査に比べて2極分化の傾向が強まってきている。

    (4)住まいについては、現在の住まいが「親の持ち家」と回答した人の割合が増加傾向にあり、今回調査では44%になっていた。一方、「賃貸住宅」は漸増傾向、「自分の持 ち家」という回答は減少傾向にある。「老後も現在の住まいに住み続ける」という回答は増加傾向にあり、今回調査では6割に達した。

    (5)今の生活について、最も充実感を感じるのは「一人でいる時」や「ゆったりと休養している時」(第2位から第1位へ順位は上昇)、「特にない」の回答割合がそれぞれ増加する一方、「趣味やスポーツに熱中している時」が大幅に減少して第2位に転落した。生活の満足度は、生活全般や仕事の内容は過去調査から横ばい推移、収入や資産・貯蓄は「不満」と回答した人の割合が「満足」の割合を引き続き上回っているが、その差は縮小傾向にある。

    (6)老後の生活については、「生活設計をまだ考えていない」という回答が過半数を占め、その割合は増加傾向にある。老後の1ヵ月の生活費予想は、過去調査に比べて金額が上方にシフトしている。収入源は、「公的年金」「預貯金」「仕事による収入」の順となっており、過去2回の調査と変化はない。将来、自分に介護が必要になった場合の対処方法は、「在宅介護を利用」が第1位になる一方、前回調査でトップだった「公的介護施設に入所」は回答割合が大きく落ち込んで、第2位に落ちた。

  • 高山 憲之
    2016 年 3 巻 p. 210-262
    発行日: 2016/06/28
    公開日: 2017/04/06
    ジャーナル オープンアクセス

     世代間問題研究プロジェクト「くらしと仕事に関するインターネット調査」(2011 年)を利用して40~60 歳層に位置する未婚男性433 サンプルの生活実態と意識を調べた結果、次の諸事実が明らかになった。

    (1)未婚の中年男性は親と同居している人が相対的に多い。

    (2)未婚の中年男性は有配偶者と比べると、正社員で働いている人が少なく、非正規や失業中あるいは無職の人が多い。また、自営業や自由業を営んでいる人も多い。

    (3)向う2年以内における失業・解雇・転職の可能性は未婚中年男性の方が有配偶者より高めである。

    (4)未婚中年男性のうち仕事に不満を抱いている人の割合は40%に近く、彼らの多くは他の仕事に変わりたい、または仕事をすっかりやめたいと願っている。

    (5)未婚中年男性の3分の2近くが「40 代の女性も30 代の女性と同程度の妊娠可能性を有している」と誤解している。

    (6)妻との同居を老後に予定している未婚中年男性が17%、自分は妻に介護してもらうという未婚中年男性が12%いたが、彼らの40 歳以上における結婚可能性はほとんどゼロに近い。

    (7)未婚中年男性の方が有配偶者より肥満の人が多い。また、健康上の問題を抱えている人も多い。

    (8)自分でほとんど夕食を作らない人が未婚中年男性の54%を占めていた。

    (9)自分は価値のない人間だと思っている人や、気分が沈みこみ、気が晴れないという人が未婚中年男性には相対的に多かった。また、「これから先、楽しみにしている計画がない」という人が60%近くに及んでいた。

    (10)未婚中年男性の55%が「10 年後は今より生活水準が下がり、生活が不安定になっている」と回答していた。

    (11)未婚中年男性の60%は現在の生活に多かれ少なかれ不満を有していた。

    (12)未婚中年男性の65%が帰属階層は「下」または「中の下」であると思っている。

    (13)未婚中年男性の本人年収(2010年分)は平均値が390万円強であったものの、100万円未満の人が20%、100万円以上200万円以下が16%を占め、300万円未満の低所得者が合わせて48%に達していた。

    (14)未婚中年男性のうち父親から経済的支援を受けていた人が17%、母親から経済的支援を受けていた人が13%いた。また、母親から家事の手助けをしてもらっている人が34%(母親存命中の場合は59%)いた。

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