以上本稿は, 2003年の総選挙時点での衆議院議員各候補者の政策位置を, 東京大学・朝日新聞社共同政治家調査データを用いて推定, 分析した。カテゴリカル主成分分析に投入した20種類の争点態度は, ひとつの「保守-リベラル」対立軸に要約できる。各党候補は, 保守からリベラルに向かって, 自民党, 民主党, 公明党, 社民党, 共産党という順番に並んでいる。同一選挙区内における自民, 民主候補の相対的位置についても, 自民=保守, 民主=リベラルという差が認められる。確かに民主党のオブジェクトスコアの分散は大きく, 冷戦下のような世界観に至る違いを自民-民主両党に期待するのは無理だが, さりとて自民党と民主党を双子の兄弟に準えるのは過言であろう。
各候補者の政策位置を決定する要因としては, 前述の所属政党に加えて, 有権者の選好や候補者の属性が影響力を持っている。選挙結果に対する政策位置の影響に関しては, とくに民主党候補について, 政策位置が保守的 (リベラル) になるほど, 得票率が高く (低く) なることが明らかになった。候補者が所属政党による政策の違いを保ちながら, 個人的信条や選挙民の選好に合わせて自らの政策位置を調整することによって, 同一党内でもある程度の政策の多元性が存在する「輪ゴム効果」が, 日本の政党にも観察され始めたようだ。
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