年報政治学
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68 巻, 2 号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
〔特集〕 政治分析方法のフロンティア
  • 国連安保理決議をめぐる情報効果の研究
    多湖 淳
    2017 年 68 巻 2 号 p. 2_13-2_35
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    国連は第二次世界大戦後の世界において, きわめて重要な意味をもつ国際制度であり続けてきた。特に安全保障理事会 (安保理) は武力行使容認決議によって, 頻繁に軍事制裁行動を加盟国に許可してきた。数多くの軍事行動を行ってきたアメリカも例にもれず, たびたび国連安保理の 「お墨付き」 を得てきた。しかし他方で, すべての事案で決議を得たわけではなく, 場合によってはその決議を得ずに武力行使を行うこともあった。こういった経緯を踏まえ, 本稿は国連の授権決議がもたらす, 功利主義的な観点から 「帰結」 を論じる。そして, ここでは特に拒否権の行使が 「驚き」になり, ゆえに特別の情報を提供するという可能性について検討を行う。友好国である英国やフランスの拒否権が驚きとなり, アメリカの武力行使そのものの評価に大きく影響することをサーベイ実験のデータで示す。

  • 栗崎 周平
    2017 年 68 巻 2 号 p. 2_36-2_64
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    集団的自衛権の行使容認を中核とする日本の安全保障政策の転換を危機外交における軍事介入の問題と定式化した上で, それが, 平時外交における協調問題にどのような影響を与えるのか, ゲーム理論に基づく数理分析を行う。均衡は, 危機外交ゲームが平時の協調問題にどのように影響を与えるのかミクロ的基礎を提示し, 集団的自衛権の行使容認が安全保障のジレンマに影響を与えるのは, 非常に限定的な戦略的構造のもとでのみ可能であることが示される。その上で, 集団的自衛権の行使容認は, 危機発生を抑止する一方で, 日本が平時において非協調外交を推進する誘因を持つようになり, 安全保障のジレンマが悪化することが示される。これは, 危機外交と平時外交がリンクした結果, 平時外交における協調問題が, 将来の危機に備えたシグナリングの場へと変化してしまうからである。他方で, 集団的自衛権行使容認は, 相手国に協調外交への誘因を与え, 安全保障のジレンマを緩和する効果がある。

  • 日本の有権者の経済評価に関する考察
    大村 華子
    2017 年 68 巻 2 号 p. 2_65-2_95
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    本稿は, 日本の有権者に関して, 社会志向の経済評価が政府への支持, 投票選択に与える影響を測ることを目的とする。経済投票の研究においては, 社会志向の経済評価と各種の政治的な支持の間の内生性が指摘され, 経済評価の効果が実際には限定的であるとする経済投票修正主義 (the revisionism of economic voting) の知見が提示されてきた。本稿では, サーヴェイ実験によって外生的にもたらされた雇用に関する予測値を操作変数として利用し, 内生性の問題に対処する推定を試みる。操作変数を含んだモデルの推定からは, 内閣への支持に対して, 社会志向の経済評価が政党支持よりも影響を与えていることが示される。投票選択に関しては, 政党支持の効果量が各種の変数の中で最も大きいものの, 与党支持者, 及びそうではない回答者の場合にも, 社会志向の経済評価が政権与党の候補者への投票を促していることが明らかになる。これらの結果より, 経済投票修正主義とは異なり, 日本の有権者にとって経済分野にかかわる社会的なレヴェルでの評価が, 政治的な態度形成・意思決定において重要な意味を持つことを強調する。

  • 尖度と分位点回帰を用いた政策変化の量的把握
    曽我 謙悟
    2017 年 68 巻 2 号 p. 2_96-2_121
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    政策変化とその要因に関する長期にわたる計量分析において, 時期区分はどのように扱われるべきなのだろうか。本稿は 『日本の地方政治』 で行った計量分析を題材としながら, 時期ごとにデータセットを分割することなく, 大規模な変化と微細な変化を説明する方法を検討する。政策変化が漸進的なものなのか, それとも区切られた均衡を見せているのかを尖度を用いて把握することと, 分位点回帰によって, あらゆる政策変化に効果を持たずとも, 特定の変化, たとえば大規模な変化については効果を持つような要因を明らかにすることが, その方法である。このように, 平均と正規分布にばかり目を向けるのではなく, 分布の全体に目を向けることは, 安定と大規模な変化が伴う政治現象を理解するために有効な方法となるだろう。

  • 七〇年安保前後の東京と沖縄
    村井 良太
    2017 年 68 巻 2 号 p. 2_122-2_148
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    1960年代から1970年代の日本では保守長期政権下にもかかわらず 「革新自治体」 が全国に広がった。ここでは事例研究の一方法である政治史を用いて, 佐藤栄作政権 (1964 ~ 1972) が革新自治体の隆盛にどう向き合ったのかを, 特に重視された東京都と琉球政府/沖縄県に注目して分析した。明らかになったのは, 第一に, 保守中央政府・陣営も革新地方政府・陣営もともに日米安保条約が再検討期を迎える1970年を重視していた。第二に, 同じく双方とも, 政治・行政の科学化と社会開発を共通目標としていた。第三に, 佐藤政権は予想される70年安保や沖縄返還という困難な課題と向き合う中で革新地方政府を地域住民の代表として彼らと協働した。そして第四に, 革新自治体は複合的性格を持っており, 1970年以降, ローカル・オポジションの拠点から市民参加や自治体改善運動の場へと変化していった。

  • 統合制御法 (the synthetic control method) によるメキシコ1985年大地震の事例分析
    高橋 百合子
    2017 年 68 巻 2 号 p. 2_149-2_172
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    本稿は統合制御法を用いて, 大規模自然災害が体制移行に与える因果効果を検証する試みである。1985年にメキシコで発生した大地震の事例に着目し, 地震を経験しなかった反実仮想的なメキシコを合成的に作り出し, 実際のメキシコと合成メキシコの民主化動向を比較することによって, 地震が同国の民主化のペースを早めたことを示す。この分析結果は, 政治学方法論における比較事例分析と体制移行研究に新たな知見をもたらす。

  • 加藤 淳子, 境家 史郎, 武居 寛史
    2017 年 68 巻 2 号 p. 2_173-2_203
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    本稿では, 筆者らが最近行った脳神経科学実験を題材とし, 政治学における脳神経科学の方法の意義を考える。社会科学や哲学ではこれまで, 「無知のヴェール」 下で社会的平等につながる選択を行う動機付けとして, 「社会における正義の実現」 と 「個人のリスク回避」 という, 2つの相対立する想定がなされてきた。筆者らは, 平等の選択の背後にある神経基盤を解明することにより, この2つの動機付けが, 「今まで経験したことのない心理状態―他者の心理状態や将来の心理状態―に自身を置き想像する」 という神経過程を共有していることを明らかにした。このように脳神経科学実験の方法は人の行動の理解に資する一方, 政治学の行動分析の知見が神経科学実験に貢献することもわかった。特に, より現実社会の文脈に即した実験デザインや感情温度計などの行動指標による心理的態度の計測は, 神経科学実験に新たな視点を加えるものであり, 政治学の方法の有効性を示している。政治学の方法と脳神経科学の方法の融合により, 政治現象の理解がさらに深まる可能性が示された。

〔公募論文〕
  • 遠藤 知子
    2017 年 68 巻 2 号 p. 2_204-2_225
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    これまで就労と福祉を分離することの最大の規範的課題としてフリーライダーの問題に焦点が当てられてきた。スチュワート・ホワイトによれば, 他の条件が公正な場合, 社会的協働の成果を享受しつつその創造に参加しないことは貢献した人々から搾取することであり, 彼ら彼女らに対する互恵的な尊重を怠ることである。本稿では, 搾取とは当事者の間で協働のルールを決める手続きが不公正であることに起因する点を明らかにする。その上で公正な手続きにもとづいて導出されるロールズの自由原理を参照点とし, 働かずに福祉給付に依存することが労働者・納税者の平等な地位を侵害する搾取に当たるのかどうかを検証する。その結果, それぞれの自由の間で均衡を保つ閾値にまで働く人から働かない人に財を移転することは正当化しうることを明らかにする。互いの最大限広範な自由を平等に尊重することは公正な条件の下で両者にとって合意可能であるため, その限りで働く納税者が脱生産主義的な善の構想を抱く人々を支えることは, 両者の市民としての平等な地位を互恵的に尊重することと矛盾しない。

  • 1951年日米安全保障条約の法的意味とその理解
    楠 綾子
    2017 年 68 巻 2 号 p. 2_226-2_247
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    日本国内では1950年代半ごろまで, 日本の自衛力建設が進めば日米安全保障条約の相互防衛条約化と駐留米軍の撤退を米国政府に対して要請できるようになると考えられていた。相互防衛条約という形式と基地の提供は不可分ではないし, 米軍駐留と自衛力建設とのトレード・オフ関係が条約で規定されているわけでもない。にもかかわらず, 2国間の安全保障関係の態様と米軍への基地提供と再軍備がなぜ, このような関係でとらえられたのだろうか。本稿は, 1951年に調印された日米安保条約の形成過程と日本国内の批准過程に焦点を当て, 条約が法的に意味した範囲とその日本における解釈を明らかにする。北大西洋条約 (1949年7月) やANZUS条約と米比相互防衛条約 (1951年) とは異なり, 旧安保条約が基地提供に関する条項と2 国間の安全保障関係を一つの条約で規定したことと条約が暫定的な性格をもっていたことに注目し, なぜそうした方式が選択されたのか, それによって条約にどのような構造が生じ, いかなる解釈を可能としたのかを考察する。

  • 法則の適合度と選挙の競争環境との関係
    久保谷 政義
    2017 年 68 巻 2 号 p. 2_248-2_269
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    M+1法則によると, 有効候補者数は選挙区定数 (magnitude) に1を加えた値になる傾向を持つとされている。これは 「小選挙区制は二大政党制を導く」 とするデュベルジェの法則を拡張したものであり, かつての中選挙区制下の衆議院選挙のデータによって実証がなされてきた。

     中選挙区制下での選挙区定数は3~5であったため, それらの先行研究は, 定数3~5の範囲内でM+1法則を実証してきたといえる。これに対し, 都道府県議会選挙の場合は, 1人区から定数10超の選挙区まで, 定数の幅が広い。この点に着目し, 本稿は, 都道府県議会選挙のデータを用いた実証を通じて, M+1法則に関する研究を発展させることをねらいとする。

     また, 本稿では, 都道府県議会選挙では選挙区の数が国政選挙に比べて多い点を生かしつつ, 都市化や選挙区定数の変更といった選挙の競争環境がM+1法則の妥当性にどのような影響を及ぼすのかについても検討を加える。

  • 憲法解釈をめぐる先例と顧問官統制を中心に
    萩原 淳
    2017 年 68 巻 2 号 p. 2_270-2_294
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は, 枢密院が自らの組織をどのように 「運用」 し, それらに内閣などがいかに対応してきたのかを, 明治期からの枢密院の憲法解釈と顧問官統制に着目して論じ, 昭和初期に枢密院が 「政治化」 した歴史的背景を考察することである。

     本稿は第1に, 昭和初期, 二大政党が議会回避を試み, 枢密院と対立を深めた背景には, 緊急勅令の先例や憲法解釈の曖昧さと二大政党の枢密院に対する戦略の相違が存在したことを指摘した。第2に, 倉富議長・平沼副議長は枢密院の運用にあたり枢密院の権限及び厳格な法令審査を維持し, 職権, 先例を踏まえて意思決定を行ったが, 両者は顧問官統制の失敗により予想外の紛糾を招き, 両者による枢密院の運用が大きく動揺したことを指摘した。

     結論として, 昭和初期, 枢密院と政党内閣が対立を深めた背景には, ①枢密院と二大政党の憲法解釈をめぐる攻防の顕在化, ②枢密院内部の統制難, という枢密院内外の問題が存在し, それらが絡み合っていたことを明らかにした。

  • 政治学教科書の引用分析の試み
    酒井 大輔
    2017 年 68 巻 2 号 p. 2_295-2_317
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    本稿は, 引用分析 (Citation Analysis) の手法を政治学史研究に適用し, 日本政治学史の把握のための新たな分析方法と論点を提起するものである。ここで引用分析とは, 文献間の引用―被引用関係の集積から知見を引き出す方法をさす。従来, テキストの質的分析が主流であるこの分野において, アプローチ上の制約から十分検討されていない論点が残されている。そこで, これらの論点を検証するため, 引用分析という量的アプローチを試みる。本稿では, 戦後刊行された70冊の政治学教科書の引用データをもとに, 日本政治学史についての通説を検証した。先行研究によれば, 日本政治学史には二つの転換, すなわち1945年の戦前・戦後の断絶と, 1980年代のレヴァイアサン・グループの登場による転換があったとされてきた。本稿の引用分析の結果, こうした二つの転換は確認されたが, しかし先行世代への引用の傾向について, 二つは対照的な特徴があることが判明した。この結果は, 政治学史研究における引用分析の有効性を示すものといえる。

  • 武居 寛史
    2017 年 68 巻 2 号 p. 2_318-2_335
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    合意形成は, 政治学において重要な課題であり, 近年では, 討議民主主義の観点からの検討が活発である。本稿では, 討議という個人間の相互作用と, それにより生じる合意形成という集団の性質の関係について, エージェント・ベース・モデルによって検討を行う。先行研究のシミュレーションでは, 2者間の相互作用による, 意見の変化の積み重ねに基づく合意形成が分析されてきた。しかし, 討議型世論調査のように, 集団での議論が行われる状況も, 合意形成の過程としては考えることができる。シミュレーションで, この2つの過程を比較した結果, 2者間相互作用の方が, 集団相互作用に比べて, 合意が達成されやすいことが示唆された。本稿の結果は, 討議の場を設けた場合に, より合意が生じやすい環境を発見することに貢献しうるものである。

〔学界展望〕
〔学会規約・その他〕
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