年報政治学
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69 巻, 2 号
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〔特集〕 選挙ガバナンスと民主主義
  • ―選挙管理委員会に対する調査結果から―
    河村 和徳
    2018 年 69 巻 2 号 p. 2_15-2_39
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/12/26
    ジャーナル フリー

    近年の総務省投票環境の向上方策等に関する研究会の取り組みにみられるように, 投票弱者の投票環境を改善する取り組みが進められており, 高齢社会の到来によって, 交通弱者となった高齢者の投票権保障策としての移動支援が幾つかの市区町村選管で試みられている。本稿では, 全国の市区町村選挙管理委員会事務局に対して実施した調査データを用い, こうした取り組みについて検討を行った。選管調査のデータによると, 2016年参院選において移動支援を行っている自治体は13.1%に留まっており, 導入のコストと公平性に対する懸念が実施の足枷になっていることがうかがえた。またロジスティック回帰分析を行った結果, こうした移動支援は高齢化が進んだ合併自治体が実施する傾向があることが明らかとなった。移動支援策の実施は, 合併後の過程でもたらされた投票区合区の影響を多分に受けているようである。高齢化の進展によって, 移動支援の重要性は増すことが予想され, こうした投票支援策に関する研究を進めていく必要に我々は迫られている。

  • 選挙公報のネット掲載を中心に
    岡本 哲和
    2018 年 69 巻 2 号 p. 2_40-2_59
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/12/26
    ジャーナル フリー

    2011年の東日本大震災をきっかけとして, インターネットによる選挙公報の掲載が可能となった。だが, 実際にはすべての地方自治体が選挙公報のネット掲載を実施しているわけではない。また, ネット掲載を実施していたとしても, それを掲載している期間の長さについても様々である。このような自治体ごとの違いをもたらしている要因を, 2017年2月に実施された全国市区町村選挙管理委員会・事務局調査から明らかにすることが本稿の目的である。結果として, 選挙管理委員会による情報発信行動に対しては, 政治的要因よりもむしろ選挙管理委員会事務局の選好が影響を及ぼしていたことが示された。

  • 2016年参院選における護憲派による改憲勢力への投票
    飯田 健
    2018 年 69 巻 2 号 p. 2_60-2_81
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/12/26
    ジャーナル フリー

    2016年参院選では自民党, 公明党, おおさか維新の会などが議席を伸ばし, 何らかの意味で憲法改正を支持する政党の議員が衆議院だけでなく参議院でも議席の3分の2を占めることとなった。しかし選挙前の世論調査によると, 有権者は必ずしも圧倒的に憲法改正を支持していたわけではなかった。本研究では, それにもかかわらずなぜ改憲勢力が大勝したのか, なぜ護憲派の有権者が改憲勢力に投票したのか, 参院選前後に実施したインターネット調査データを分析することを通じて検証した。その結果, 改憲争点における自民党の立場について 「わからない」 と答えた護憲派ほど改憲勢力に投票する傾向があること, また改憲勢力に投票した護憲派は選挙後その投票について後悔していること, さらにその傾向は期日前投票を行った有権者の間で強く見られたことがわかった。これは, 重要な争点における政党の立場を正しく知らないことで, 有権者による実質的な投票権の行使が困難になる可能性を示唆する。

  • 何がトップの選出方法を説明するのか
    松本 俊太
    2018 年 69 巻 2 号 p. 2_82-2_106
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/12/26
    ジャーナル フリー

    選挙管理組織 (Electoral Management Body: EMB) の形態とその影響に関する多国間比較の研究は進んでいるが, その知見を先進民主主義国の代表であるアメリカ合衆国に応用することは難しい。そこで本稿は, 州レヴェルに着目し, 州政府のEMBについて, トップの選出方法の多様性と共通点を記述し, それを説明することを目的とする。

     まず多様性については, EMBの組織形態は, 単独のトップが選挙で選ばれる形態・単独のトップが政治的に任命される形態・超党派のメンバーで構成される委員会がトップとなる形態の3つに大別される。計量分析により, 民主党への支持が強い州ほど選挙管理委員会の制度を採っているという仮説が緩やかに支持されるが, こうした短期的な政治的要因以上に, それぞれの州が選挙管理委員会制度を採用した際の経緯と, その後の制度の継続性の方が重要である。他方, 50州に共通する点は, EMBのトップが何らかの党派性をもっていることである。とくに最近では無党派のEMBを求める声の高まりにも拘わらずそれが実現されていない。その理由は, 選挙ガヴァナンスへの注目が高まったことで, かえってEMBの組織形態が党派的な争点となったことである。党派的に独立した選挙管理委員会を一度は設立しながらも廃止するに至ったウィスコンシン州の事例によって, このことを確認する。

  • ~民主化と分散的設計のパラドクス
    伊藤 武
    2018 年 69 巻 2 号 p. 2_107-2_126
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/12/26
    ジャーナル フリー

    本稿は, 現代イタリアの選挙ガヴァナンスの特徴と課題を明らかにし, 特に積極的投票権保障に向けた選挙制度改革の可能性を考察することを目的とする。政府主導モデルとして理解されてきた選挙ガヴァナンスとは異なる, より多元的な見方を提示する。

     第2次世界大戦後のイタリアでは, 買収・利益誘導などの選挙不正がメディアを賑わせてきたにもかかわらず, 選挙管理の基本的制度は変わっていない。本稿では改革の不在のパラドクスを追究する前提として, 戦後イタリアの選挙ガヴァナンスを, 数次に渡って実施した選管関係者などのインタビューと資料調査の成果を基に再検討する。その結果, 政府主導モデルという比較選挙ガヴァナンス研究の位置づけとは異なり, 市民・行政・政党・議会・司法も参加する多元的・民主的なモデルが存在すること, そのモデルが強い規範的支持と制度的政治的均衡に立脚しているために積極的投票権保障も含めて変更しにくいことが明らかになる。

  • エストニアによる世界初導入へと至る政治過程
    中井 遼
    2018 年 69 巻 2 号 p. 2_127-2_151
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/12/26
    ジャーナル フリー

    エストニアが世界初の全国規模インターネット投票を導入した背景として, ①ソ連統治から離脱する過程の必要性から先行していた共通住民IDカードの存在と, ②民族主義的・自由主義的政党が長期間に渡り与党として君臨し, インターネット投票が自党の得票増に有効であるという主観的認識のもと強行採決も厭わない戦略を展開した, という2点が重要であった。特に論点となったのは, 投票環境を監督できないインターネット投票独特の問題に対する, 繰り返しの再投票による上書きという不正予防措置が, 可能であるか/合憲であるかという点にあったが, その議論の裏には各党の得票インセンティブも存在した。本稿では, 議事録・インタビュー・新聞報道なども用いて, 制度導入時の省内や議会内での議論を追い, 最終的には立法・行政・司法すべてを巻き込んだエストニア憲政史上類を見ない政治的闘争の結果としてインターネット投票が導入された過程を示す。それは, 電子立国としての長期的戦略と総意に基づいて導入されたというよりは寧ろ, 偶発的要素の中で様々なアクターが利害をめぐって相争った帰結とも言えるものであった。

  • シンガポールにおける選挙システムと有権者からの評価
    川中 豪
    2018 年 69 巻 2 号 p. 2_152-2_176
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/12/26
    ジャーナル フリー

    本稿はシンガポールの一党優位支配を支える選挙システムに対する人々の評価に影響を与える社会経済的な属性を探るものである。検証には, シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院の政策研究所が2011年と2015年に実施した選挙直後の世論調査を使用する。選挙システムに対する見方に関し, 世代間亀裂, 所得格差, 教育レベルの相違, エスニシティといった四つの社会的な亀裂が影響を与えているとの仮説に基づき, 年齢, 所得, 教育レベル, エスニシティの四つの変数を独立変数とし, 選挙システムの公平性評価および選挙システムの維持に対する選好を従属変数として回帰分析を行った。結果として, 世代間の亀裂, 教育レベルの違いが統計的に有意なレベルで選挙システムの公平性, 維持に対する選好に影響を与えていることが分かった。一方, 所得格差の影響は頑強ではなく, エスニシティの影響も限定的だった。

  • ―Discourse Analysisを用いた実証研究―
    ソジエ内田 恵美
    2018 年 69 巻 2 号 p. 2_177-2_199
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/12/26
    ジャーナル フリー

    戦後首相による所信表明演説を言説分析した結果, 終戦直後は, 「考えます」 「思います」 などの個人の内的意識を述べる “mental process” (心理過程) の割合が高かったが, 時代が進むと減少し, 次第に 「進めます」 「取り組みます」 と言った, 国民への約束や働きかけなど外的行動を表す “material process” (物質過程) が増加していた。この首相の言説変化を従属変数として, 経済の動向・メディアの発達・無党派層の増加の影響を重回帰分析によって検証した。その結果, ①高度成長期には, 首相演説はメディア普及率に最も強く影響を受け, 次に経済の動向の影響を受けた。②安定成長期も, メディアの普及率に最も強く影響を受け, 次に経済の影響を受けた。③バブル経済崩壊後は, メディア普及率に最も強く影響を受けたが, 同時に, 自民党分裂後に約50%に達した無党派層の急増の影響も受けていた。これらを解釈すると, 歴代首相は, 有権者に対してアカウンタビリティを果たさなければならないという意識が徐々に高まってきたと言える。そして, その首相の意識の変化には戦後一貫してメディアが最も強く影響してきたと, 本稿のデータは示している。

  • ―民主党分裂のケースから―
    谷 圭祐
    2018 年 69 巻 2 号 p. 2_200-2_223
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/12/26
    ジャーナル フリー

    政党やその執行部は, 与党からの転落や政党の消滅につながる, 所属議員の離党をどのように防いでいるのだろうか。先行研究は, 政党間移動を専ら議員が所属政党を選択する結果ととらえ, 議員の誘因の観点から説明を行ってきた。

     これに対して本稿は, 政党執行部が政党間移動に対し戦略的に対応していることを主張する。この戦略的行動とは, 政党にとって価値の高い議員に対して, 資源配分による 「補償」 を行い慰留するものである。

     実証分析では2011 ~ 12年に発生した民主党分裂を扱った。分析の結果, 議員と首相との政策選好の乖離が離党行動に与える効果は, 選挙区での政党への支持の大きさに条件づけられていた。すなわち, 政党への支持が小さい選挙区の議員ほど, より政党の議席拡大にとって重要であるため, 政策選好の乖離が離党行動に結び付きにくくなっていた。さらに, 政策選好の乖離が, 大臣ポストの配分に与える負の効果についてもこの交互作用があり, 政党からの資源配分による補償も確認できた。党内統治が失敗したとされる民主党において本稿の理論が実証されたことは, より一般的に政党間移動に対して執行部が主体的に行動していることを示唆する。

  • ―正当性と正統性
    福原 正人
    2018 年 69 巻 2 号 p. 2_224-2_245
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/12/26
    ジャーナル フリー

    民主主義は, どういった決定単位を採用するべきなのか。こうした問いは, 意思決定の母体集団, つまりデモスを特定する課題として, 「民主主義の境界問題」 と呼ばれる。しかし, 同意という現実の手続きは, その個別性ゆえに, 正しいと評価しえない母体集団を特定する一方, 集団構成や行為主体性に注目する境界画定の正当性は, その一般性ゆえに, アジェンダごとの考慮事項に耐えられる母体集団を特定できない。そこで本稿では, D. エストランドが定式化する 「適格な受容可能性」 という正統性条件を参照しながら, アジェンダごとの考慮事項を織り込む仮説的な手続きが, アジェンダごとの母体集団内部における意思決定のみならず, 意思決定の母体集団それ自体を構成する作業に適用されることで, 境界画定の正当性を担保する 「理に適った境界画定」 を構成することを擁護したい。

  • ―政策指針と政治哲学的構想の検討―
    大庭 大
    2018 年 69 巻 2 号 p. 2_246-2_270
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/12/26
    ジャーナル フリー

    社会保障構想の新たな潮流として 「事前分配 (pre-distribution)」 というアイディアを検討する。事前分配をめぐっては 「どのような政策を実施すべきか」 という実践的政策指針としての議論と, 「そもそも事前分配とは何か, どのようなものであるべきか」 という哲学的・規範的議論が混在している。本稿ではこの両方の位相における議論を扱い, 次のことを行う。第一に, 事前分配政策と既存の社会保障アプローチとの異同を明らかにし, 事前分配政策を社会保障のひとつのモデルとして提示する。第二に, J・ロールズの財産所有のデモクラシーを事前分配の政治哲学的構想を示すものとして位置づけ擁護する。本稿は事前分配の政策類型としての特徴を明確化すると同時に, それを評価するための視点としてどのような規範的構想が望ましいかを明らかにするものである。特に, 曖昧に語られている 「事前」 という言葉の意味に焦点を当てる。また, 本来つながっているはずでありながら分離して論じられがちな, 実践的政策提案の議論とあるべき政策をめぐる規範的考察の二つを接続し直すことも意図している。

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