年報政治学
Online ISSN : 1884-3921
Print ISSN : 0549-4192
ISSN-L : 0549-4192
最新号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
《特集》
  • ―人の移動をめぐる制度と実態についての考察
    湯浅 剛
    2024 年75 巻2 号 p. 2_23-2_37
    発行日: 2024年
    公開日: 2026/01/16
    ジャーナル フリー

     本稿は、ソ連解体後のロシアにおける人の移動や管理について、周辺地域の住民への国籍付与(パスポート化)や、労働移民の受入れ制度の変遷を検討し、その変化や課題について考察することを目的とする。

     もともとパスポート化政策は、ソ連国内の居住者の移動や生業を管理する仕組みであった。しかし、社会主義体制崩壊後もこの制度は廃止されることはなく、形を変えて継続しており、ロシアの政権にとって有効な、人の移動の管理政策や国籍付与の一助となっている。当該政策によって、ロシアの立場からすれば準成員である周辺諸国のロシア系住民への国籍付与を促進している側面があり、これは現在のウクライナにおける軍事侵攻では、ロシアによる占領地域の実効支配を正当化する手段ともなっている。また、ソ連解体後の労働移民の受入れ政策は、紆余曲折を経ながらも、より簡易な手続きで移民がロシア国内で就労できる仕組みを打ち立てた。ただし、その運用には問題点も多く、さらなる制度改革を含め今後の推移を見守っていく必要がある。

     2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻に前後して、外国人の帰化や移民の受入れ状況にも変化が表れている。なかでもタジキスタン出身者の帰化・移民は存在感を高めている。この動向に象徴されるようにロシアにおけるムスリム系の定住者のロシア社会での定着が課題となっている。人の移動をめぐる諸制度とその運用の実態を研究することは、ロシアの国家形成の謎を探るヒントとなるのではないか。

  • ―欧州渡航情報認証制度(ETIAS)を事例に
    堀井 里子
    2024 年75 巻2 号 p. 2_38-2_57
    発行日: 2024年
    公開日: 2026/01/16
    ジャーナル フリー

     諸国家は、人の移動を事前に把握し、「安全な渡航者」と「懸念すべき渡航者」に選別し、その移動を管理・規制することに大きな関心を寄せてきた。国境のデジタル化は、こうした渡航管理の政治においていまや不可欠な要素となっている。本稿は、欧州連合(EU)による「欧州渡航情報認証制度(ETIAS)」を事例に、渡航管理の政治の現在地を明らかにすることを試みる。ETIASは、ビザ免除国の国民が、自由移動の空間であるシェンゲン圏に短期滞在目的で渡航する際に、事前に渡航承認を得る制度である。本稿では、グローバルな渡航管理の政治の展開に関する先行研究を整理し、次にETIASの法的根拠であるETIAS規則が成立した歴史的な流れを追った。これによって、誰の移動が問題化されてきたのかについて明らかにするとともに、EUにおける渡航管理体制の発展のなかでのETIASの位置づけと、安全保障との連結だけでない複合的な要素が国境のデジタル化に影響したことを指摘した。また、本稿は、技術と国家と個人の関係性と、国家の統治と個人の移動の自由について問い直す必要性を提起した。

  • ―ヘテロナショナリズムに揺れるウクライナ
    和田 賢治
    2024 年75 巻2 号 p. 2_58-2_73
    発行日: 2024年
    公開日: 2026/01/16
    ジャーナル フリー

     本稿は戦時下のウクライナにおけるシビル・パートナーシップを事例にセクシュアリティと安全保障の関係を考察する。同性婚の合法化は異性愛を規範とする国民の範囲を画定する境界線を移動させる。しかし、国内社会の性的寛容性の高まりは国際社会に新たな分断を生じさせる。アメリカによるホモナショナリズムはゲイの権利を近代化の基準とし、それを満たせない側を人種的に劣った「他者」とみなす。他方、ロシアによるヘテロナショナリズムは異性愛を「伝統的な家族の価値観」とし、同性婚などゲイの権利を推進する側を道徳的に劣った「他者」とみなす。ウクライナ政府は「伝統的な家族の価値観」を共有するロシアと戦争する最中、同性パートナーにも婚姻の平等を要求する請願書への対応を求められる。ロシアか同性愛者か、ウクライナの将来にとってよりリスクの少ない「他者」の選択である点で、政府からのシビル・パートナーシップの提案は自由主義的価値観の受容やホモフォビアの根絶によるものではなく、セクシュアリティを友/敵の判定基準とする安全保障によるものと考えられる。

  • 友次 晋介
    2024 年75 巻2 号 p. 2_74-2_93
    発行日: 2024年
    公開日: 2026/01/16
    ジャーナル フリー

     放射性物質、あるいは関連する資機材に関わる破壊活動全般が、国際政策の場裏で安全保障課題としての「核テロリズム」と総称されていく行程は、モノや人が流動するグルーバル社会における、幾つかの可視的で記念碑的な出来事と並行して進行した。民生用途の放射性物質が地球規模で広がり、どこにでもある、という状態が出現したことが前提としてあり、スリーマイル・アイランド原子力発電所の事故、チェルノブイリ原子力発電所の事故、ソ連の崩壊、ブラジルのゴイアニアにおける大規模な被ばく事故、及び9/11同時多発テロの発生を経て、包括的な概念としての「核テロリズム」は生まれた。原子力施設への攻撃、原子力発電に利用可能で核兵器の原料となる核物質の国際輸送中の盗取を含意した当初の「核テロリズム」は、非国家主体による核施設への攻撃、ウランやプルトニウム以外の放射性物質を用いた「汚い爆弾」の使用、原子力施設の損壊を含む、包括的「核テロリズム」言説へと変わった。「核テロリズム」の意味は、「社会」という固定的、静的な存在が変えたのではなく、放射性物質というモノと人との相互作用が変えたのである。

  • ―サイバー空間の領域化とデータ主権の台頭
    須田 祐子
    2024 年75 巻2 号 p. 2_94-2_110
    発行日: 2024年
    公開日: 2026/01/16
    ジャーナル フリー

     本論はサイバー空間を通じた情報の越境移動と主権の問題状況を明らかにしようとする試みである。主権国家は領域内で生じる事象をコントロールする正当な権力を持つ存在であり、さらに国内に影響を及ぼす越境フローをコントロールする存在であるが、仮想空間であるサイバー空間はいずれの国家の領域でもない。そこでインターネットが急速に普及し始めた当初は、サイバー空間は国家の支配が及ばない新しいフロンティアであるとされた。しかしサイバー空間を物理的に構成するコンピューターやネットワーク設備はいずれかの国家の領域内に存在するのであり、サイバー空間は実質的には国家の主権が及ぶ領域となっている。サイバー空間にある情報(データ)にも国家の主権が及ぶというデータ主権の台頭はサイバー空間の領域化の現れである。国家は、情報の越境移動のベネフィットとリスクを天秤にかけ、ベネフィットがリスクを上回ると判断すれば情報の自由な移動を促進し(アメリカやEU諸国など)、リスクがベネフィットを上回ると判断すれば情報の移動を制限する(中国やロシアなど)。今後、国家間の競争が激しくなるにつれ、情報の越境移動の管理は強化されていくであろう。

  • ―国際移動における「現実」という概念について
    清水 耕介
    2024 年75 巻2 号 p. 2_111-2_127
    発行日: 2024年
    公開日: 2026/01/16
    ジャーナル フリー

     本論文は、量子論と仏教を通して得られる実在の視点から、国際移動を取り巻く「現実」という概念について分析する。そこではニュートン物理学が前提とするような強固で確立された世界ではなく、量子論・仏教が前提とするような常に変化し続ける世界を前提とする。この視点に立った時、アクターは本質を持たず常に様々な関係の中で形成されていく。そしてこの形成過程も必ずしも一直線ではなく、アクターのアイデンティティは蛇行・円環を繰り返しながら変化していく。つまり、ここでの実在とは変化そのものなのである。この現実を国際移動という文脈に落とし込んだ時、「難民」「移民」という言葉が当事者を決定していることが見えてくる。つまり、観察者の前に「難民」「移民」がいるのではなく、観察者と彼・彼女たちとの関係が「難民」「移民」を生み出すのである。本稿ではこの視点を活かしながら「難民」「移民」とセキュリタイゼーションの問題に焦点を当てる。

《公募論文》
  • ―対台湾チャネルを中心に
    三代川 夏子
    2024 年75 巻2 号 p. 2_128-2_149
    発行日: 2024年
    公開日: 2026/01/16
    ジャーナル フリー

     本稿は、1983年から1986年における中曽根内閣期の自民党政権と対外政策との関係を、「二つの中国」問題、とりわけ当時既に外交関係を断絶していた台湾とのチャネルに焦点を当てて検証するものである。本稿では、対外政策決定過程におけるアクターの役割として、外務省のほか、当時の自民党政権で要職に就いていた「親台湾派」政治家に着目し、日本や台湾で新たに公開された政府史料、関係者の個人史料や回想録、インタビュー調査などを用いながら、台湾との間で生じた問題の処理過程を実証した。

     日中平和友好条約締結後、外務省は中国との関係を重視する方針を取った。一方で、中曽根政権期においては「親台湾派」政治家が要職に就いたことで、彼らが直接、各省の方針に影響を及ぼし得た。国交断絶後に、日本と台湾との間には「準公式チャネル」が設置されていたが、日台間問題の処理にあたっては、「準公式チャネル」を超えた解決方法が多用されたのである。

     この時期、外交面においても包括政党化した自民党では、台湾側の意向を踏まえつつ、中国にも配慮した措置を取ることが可能な構造、すなわち「二つの中国」間でバランスをとることのできる体制が築かれていた。こうした事実は、外務省で対処が困難な外交上の問題を、政治家が担い得ることを示唆するものである。

  • ―ビネット実験による検証
    柳 至
    2024 年75 巻2 号 p. 2_150-2_172
    発行日: 2024年
    公開日: 2026/01/16
    ジャーナル フリー

     本稿では、地方自治体がどのような取組を行う場合に、住民が公共施設の統廃合を受容するかを、2022年2月に実施した住民調査の中でビネット実験を行うことにより検証した。ビネット実験では、シナリオ内の計画の基準や、統廃合の過程における手続きといった構成要素を変化させた仮想の公民館統廃合のシナリオを被験者に読ませて、シナリオに対する公正認知や、統廃合を受容できるかといった点を尋ねた。分析の結果、統廃合の検討過程で住民の意見を取り入れるためにワークショップや住民アンケートが行われた場合の方が、職員のみの検討がなされた場合や有識者による審議会が行われた場合よりも、統廃合の過程を公正と認識することがわかった。また、そうした取組の実施は、公正認知を媒介して、統廃合の受容につながっていた。これらの取組は、もともと公民館の統廃合に否定的な層に対して大きな影響を及ぼしていた。

  • ―デジタル立憲デモクラシーの方へ
    松尾 隆佑
    2024 年75 巻2 号 p. 2_173-2_194
    発行日: 2024年
    公開日: 2026/01/16
    ジャーナル フリー

     GAFAMなどのデジタルプラットフォーム企業は、莫大な資金に基づく政治的影響力を持つだけでなく、人工知能を含む先端的技術を用いて市民生活や公共的言論の諸条件を独自に左右できる、「新たな統治者」である。本稿の目的は、こうした企業の多面的権力が、リベラルで民主的な社会において正統化されうる条件を明らかにすることにある。本稿はまず、企業に正統性を調達させる手段として、多様なステークホルダーとの熟議が求められてきた点を確認する。次に、主権の一元性が揺らぐ現代のデジタル封建制における企業権力の源泉を論じ、監視資本主義を背景とするアルゴリズム統治の特徴を整理する。そして、GAFAMなどに国家と共通の憲法的制約を適用しようとするデジタル立憲主義がアルゴリズム統治の正統化に十分でないとの評価を示した上で、経営過程におけるステークホルダーの発言権と、市民によるアルゴリズムの監督、組織内権力分立を組み合わせた、デジタル立憲デモクラシーの構想を提示する。この構想は、国家と企業の抑制均衡を促す市民社会の役割を重視する点や、市民が企業に直接アカウンタビリティを問えるメカニズムを含む点で、独自の意義を主張できる。

  • ―政治哲学における多元的概念工学の擁護
    福島 弦
    2024 年75 巻2 号 p. 2_195-2_217
    発行日: 2024年
    公開日: 2026/01/16
    ジャーナル フリー

     政治哲学においては、政治哲学上の概念について概念使用の目的を度外視して単一の正しい理解の存在を前提とする「概念的一元主義」に根ざして他者の概念理解を批判することがしばしば見られる。本稿は、概念的一元主義に抗し、政治哲学において概念を目的に応じて多元的にデザインする「多元的概念工学」を擁護し、その方法を詳述する。本稿の意義は、多元的概念工学を擁護することで、政治哲学の方法にとって根本的に重要な概念規定に関し、概念規定を巡る不毛な論争を回避し実質的論争点を明確化するための方法論的基礎を与え、さらには目的に応じて適切な概念を入手する方法を提示できる点で、政治哲学の方法論に重要な貢献を果たせるところに存する。

     本稿はまず、既存の概念を評価・改善する試みである概念工学の発想と方法を概説した上で、概念工学の目的依存性及び目的の多元性が多元的概念工学の適切性を裏付けると主張する。続いて政治哲学に多元的概念工学を導入する意義を、《権利》、《デモクラシー》、《自律》の三つの概念を例に示す。最後に、政治哲学における多元的概念工学に対する四つの潜在的異論―不合意からの異論・廃絶主義からの異論・副次的影響からの異論・民主的自制からの異論―に応答する。

  • ―投票率への影響
    芦谷 圭祐
    2024 年75 巻2 号 p. 2_218-2_240
    発行日: 2024年
    公開日: 2026/01/16
    ジャーナル フリー

     女性の政治家には、女性の政治参加を活発にする象徴的な効果があると指摘されている。一方で、既存研究には理論上、実証上の課題もある。その課題を克服するため本稿では、政令市議会議員選挙の投票所の投票率のデータを用いて、女性が選挙に立候補することによって女性の投票率が上昇するのかを分析した。分析からは、女性候補が1名増加するにつれて、その選挙区の女性の投票率が約0.50パーセントポイント増加することが明らかになった。また、このような効果は女性が政治家として「目新しい」存在であるときにより強いことも明らかになった。女性議員が少ない中で立候補する女性に対して、一部の女性有権者が好意的に反応しているのである。この結果は、議会が代表性を失えば、有権者の政治参加が低調になることを示唆している。民主主義と代表の関係について示唆深い発見である。

  • ―関係的平等説による評価と解決策の提示
    小林 卓人
    2024 年75 巻2 号 p. 2_241-2_262
    発行日: 2024年
    公開日: 2026/01/16
    ジャーナル フリー

     市民の政治的知識の欠如や信念形成の非合理性を示す経験的知見は、絶対的または相対的な「政治的無能性」についての懸念を生じさせる。しかし、政治的無能性はなぜ問題なのだろうか。また、この問題への適切な解決策とはどのようなものだろうか。本稿は、その問題の説明と解決策を人格の道徳的に重要な利害関心に依拠しつつ提示することを試みる二つの見解を検討する。一方の道具的見解によれば、政治的無能性が問題なのは、それが人々の〈結果への利害関心〉の毀損を招きうるからである。他方の非道具的見解、特に本稿が提示する関係的平等説によれば、政治的無能性が問題なのは、各人が有する〈抗―劣位性の関心〉、すなわち、他者に対して社会的劣位の地位に置かれないことへの関心をそれが毀損しうるからである。本稿は、道具的見解に基づく問題の説明が不十分となるような政治的無知や非合理性のケース(人種やジェンダーや所得と相関した政治的知識や合理性の格差等)を指摘する。その上で、その問題をより十全に規範的観点から評価し、それに対する解決策を提示するには、関係的平等説への部分的依拠が必要となることを示す。

  • ―混合研究法による実証的検討
    坂本 治也
    2024 年75 巻2 号 p. 2_263-2_285
    発行日: 2024年
    公開日: 2026/01/16
    ジャーナル フリー

     本稿は、日本各地に存在する青年会議所(JC)の事例を通じて、市民社会組織への参加が「善き市民」の育成に寄与するかどうかを検証したものである。既存研究では、市民社会の社会化機能をめぐって懐疑的な見解が存在する。本稿では定量的および定性的な分析の双方を用いた混合研究法(mixed methods research)によって、JC参加者を対象に分析を行った。分析の結果、JCへの参加が「善き市民」の育成に寄与していることが明らかになった。とくに、JC内での政治・行政アクターとの接触経験、組織内外の人的交流や事業運営の経験、人材の流動性を高く保つためのJC独自の人事制度といった要素が、参加者の政治・社会意識や参加行動の向上に肯定的な影響を与えている可能性が示された。本稿の知見は市民社会組織が「民主主義の学校」として機能するための諸条件を解明していくうえで一定の学術的貢献を成すものといえる。

  • ―経済的システム正当化への着目
    中越 みずき, 稲増 一憲
    2024 年75 巻2 号 p. 2_286-2_305
    発行日: 2024年
    公開日: 2026/01/16
    ジャーナル フリー

     経済的格差と貧困が拡大し、有権者を取り巻く状況が大きく変化するなかでも、自民党は長期政権を成立させ続けている。それでは、現代において自民党に投票する低所得者の心理背景はいかなるものなのか。本研究では、社会心理学の理論であるシステム正当化理論に着目し、選挙直後のweb調査を通して、所得とシステム正当化傾向がいかに投票政党の選択に寄与しているかを検討した。多項ロジット分析を行い、予測値を確認したところ、経済的システム正当化傾向(Economic System Justification: ESJ)が強くなるほど自民党へ投票する確率が高くなっていた。さらに、ESJと所得の交互作用を確認した。その結果、一定程度にESJが強いと、高所得者よりも低所得者の方が自民党への投票確率が高くなる傾向が示された。本結果は、経済的側面におけるシステム正当化プロセスが、低所得層における自民党への投票の心理基盤として存在している可能性を示唆する。

《学界展望》
《学会規約・その他》
feedback
Top