本稿は、ソ連解体後のロシアにおける人の移動や管理について、周辺地域の住民への国籍付与(パスポート化)や、労働移民の受入れ制度の変遷を検討し、その変化や課題について考察することを目的とする。
もともとパスポート化政策は、ソ連国内の居住者の移動や生業を管理する仕組みであった。しかし、社会主義体制崩壊後もこの制度は廃止されることはなく、形を変えて継続しており、ロシアの政権にとって有効な、人の移動の管理政策や国籍付与の一助となっている。当該政策によって、ロシアの立場からすれば準成員である周辺諸国のロシア系住民への国籍付与を促進している側面があり、これは現在のウクライナにおける軍事侵攻では、ロシアによる占領地域の実効支配を正当化する手段ともなっている。また、ソ連解体後の労働移民の受入れ政策は、紆余曲折を経ながらも、より簡易な手続きで移民がロシア国内で就労できる仕組みを打ち立てた。ただし、その運用には問題点も多く、さらなる制度改革を含め今後の推移を見守っていく必要がある。
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻に前後して、外国人の帰化や移民の受入れ状況にも変化が表れている。なかでもタジキスタン出身者の帰化・移民は存在感を高めている。この動向に象徴されるようにロシアにおけるムスリム系の定住者のロシア社会での定着が課題となっている。人の移動をめぐる諸制度とその運用の実態を研究することは、ロシアの国家形成の謎を探るヒントとなるのではないか。
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