熱帯農業研究
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14 巻, 2 号
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原著論文
  • 近藤 友大, 雨宮 俊, 香西 直子, 緒方 達志, 米本 仁巳, 樋口 浩和
    2021 年 14 巻 2 号 p. 59-66
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル フリー

    生食用パッションフルーツの消費量が増加している.生食用果実には,低い酸含量と長い棚持ち期間が求められる.果実は成熟すると結果枝から脱落し落下する.落下が果実品質に及ぼす影響は明らかになっていない.収穫直後の果実を30,60,90,180 cmの高さから落とし,追熟後の果汁品質,棚持ち期間を落下させてない果実(0 cm区)と比較した.さらに,追熟中の呼吸速度,エチレン生成速度を測定した.90,180 cm区では酸含量が高く糖酸比が低かった.官能試験でも落下距離が長いほど酸っぱく感じられた.180 cm区では異味異臭が感じられた.180 cm区の30果のうち6果の果皮に亀裂が生じた以外は,外観の損傷はなかった.亀裂のある果実は亀裂のない果実よりも酸含量が低かった.60,90,180 cm区の果実の内部組織は損傷し,90,180 cm区では果実内部で果汁が仮種皮から漏出した.落下させた果実はカビにより棚持ち期間が短くなった.落下直後に呼吸速度が増加した.落下距離が長いほど落下直後の呼吸速度の増加は大きかった.落下させた果実の呼吸速度は落下から1~4日後に急激に減少した.6日後以降は落下距離が長い果実ほど呼吸速度が小さかった.0 cm区では収穫1日後にエチレン生成速度が増加したが,90,180 cm区では増加しなかった.追熟期間を通じて,90,180 cm区のエチレン生成速度は小さかった.落下距離が長いほど衝撃荷重が大きく,衝撃荷重が大きいほど追熟後の酸含量が高かった.以上から,収穫時の90 cm以上の距離の落下により果実品質が低下し,30 cm以上の距離の落下で棚持ち期間が短くなることが明らかになった.

  • 内野 浩二, 久木田 等, 川村 秀和, 岩田 浩二, 熊本 修
    2021 年 14 巻 2 号 p. 67-71
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル フリー

    本研究では,7年にわたって,カラタチ台タンカン‘垂水1号’の秋季から翌春までの褐色斑点発生葉率と落葉率を調査し,気象条件との関係を明らかにした.3月における累積褐色斑点発生葉率および累積落葉率は,それぞれ21.7~99.7%および5.7~88.3%の範囲で年次変動した.3月における累積褐色斑点発生葉率および累積落葉率がそれぞれ90%以上および80%以上の年を多発年,それぞれ50%以下および10%以下の年を少発年とした.3月の累積褐色斑点発生葉率および累積落葉率には,12月の平均気温と関係が認められた.12月の平均気温は,多発年には8.5~10.0 ℃,少発年には11.5~12.0 ℃であった.3月の累積褐色斑点発生葉率および累積落葉率には,11月の降水量とも関係が認められた.11月の降水量は,多発年では少発年よりも少ない傾向であった.褐色斑点葉が11月に発生した年には,11月の降水量が少なかった.

  • 岡田 正三, 上野 正実, 平良 英三, 渡邉 健太, 寳川 拓生, 泉川 良成, 川満 芳信
    2021 年 14 巻 2 号 p. 72-80
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル フリー

    温帯気候に属する愛知県東三河南部におけるサトウキビ生産の可能性を探るため,農林8号(NiF8)の栽培試験を行い,収量特性および生育特性を調査・分析した.4年間の単収は春植5.0~5.5t・10a-1,株出7.0~8.0 t・10a-1,同甘蔗糖度は春植12.2~14.9%,株出13.2~15.9%を示した.甘蔗糖度は12月下旬まで上昇し,12月下旬~1月初旬の間に最大値を示し,その後,低温や霜の影響で低下する傾向が見られた.なお,収穫したサトウキビから黒糖を生産することができた.仮茎長の伸長速度は,7月中旬~9月上旬において顕著に高く,この期間は沖縄島より高い値を示した.植付け時期を変えた試験では,茎長は3月植が最も長くなり,4月植は僅差で,5月植以降は順次低下した.東三河では3月下旬~4月下旬が植付の適期と言える.収穫は糖度が低下する前の12月が適期と考える.天水栽培では仮茎長の伸長に降水量が影響し,7月末~9月における降雨後の伸長速度は一旦増加して30 mm d-1 以上の値を示す場合も見られた.その後,晴天が続くと日ごとに減少し,0~1 mm d-1となる場合もあり,灌水の重要性を確認できた.作型による収量の比較から,2回株出までは春植より高い結果が得られ,株出栽培の有利性が示された.

    本研究を通して,東三河南部におけるサトウキビの生育特性や植付および収穫の適期を明らかにした.東三河南部のサトウキビ生産は十分に可能であると判断する.

  • 比屋根 真一, 寺島 義文, 伊禮 信, 平良 英三, 鄭 紹輝, 野瀬 昭博, 川満 芳信
    2021 年 14 巻 2 号 p. 81-88
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル フリー

    沖縄の主要農作物であるサトウキビの収量は,水資源の脆弱さで不安定である.蒸発散量からサトウキビ収量を予測することは有益である.本報では,沖縄本島南部の異なる栽培時期を設定した新植と株出し栽培において,土壌水分量の変化を考慮した日射法を組み込んだ改良タンクモデルを用いて蒸発散量を推定した.さらに,同モデルを用いて求めた推定積算蒸発散量(ΣETe) と地上部乾物重(DW) の関係を検討した.ΣETeとDWの関係は,新植ではロジスティック曲線,株出しでは直線で近似することができ,有意な正の相関関係(新植,r=0.99; 株出し,r=0.99) が認められた.株出しにおけるDWの生育初期の推移は,新植と比較して急激であった.これは,株出しは新植と比較して出芽が速く,生育初期のLAIが高いことが影響したものと推察される.以上より,本モデルで推定したΣETeからDWを推定できることが明らかとなった.また,両者の関係は収量予測に加え,効率的な灌漑方法に応用できるため,限りある水資源の有効利用に寄与すると期待される.

  • 内野 浩二, 熊本 修
    2021 年 14 巻 2 号 p. 89-95
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル フリー

    マンゴー‘アーウイン’のハウス栽培では,赤あざ症およびまだら果症と仮称される果実の着色障害が発生する.赤あざ症は果面に赤色の斑点があざ状に出る症状で,まだら果症は果面に赤色と橙色がまだら状に出る症状である.本研究では,‘アーウイン’樹を高湿度条件に遭遇させ,着色障害および果実品質への影響を検討した.また,開花盛期後日数(DAFBS)と着色障害との関係も調査した.湿度処理の期間は,2019年5月15日~6月4日までの21日間であった.この間,加湿区では除湿区よりも相対湿度は高く維持され,日中の飽差の平均値は,加湿区では1.72 kPa,除湿区では10.36 kPaであった.赤あざ症,まだら果症およびやに果の発生程度は,加湿区では除湿区よりも高かった.赤あざ症およびまだら果症の発生程度は,70~90DAFBSでは80~100DAFBSよりも高かった.加湿区では除湿区に比べて,赤道部および果頂部のa*値は低かった.加湿区では除湿区より糖度は2 oBrix以上低かった.このように,マンゴー‘アーウイン’では高湿度が着色障害発生の一因であることに加え,糖度を低下させることを明らかにした.

  • 浅見 祐弥, 烏谷 亜紗子, 李 睿哲, 賴 宏亮
    2021 年 14 巻 2 号 p. 96-103
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル フリー

    シマカンギク(Chrysanthemum indicum)の頭花は生薬として用いられる.シマカンギクは野生品を用いられ,栽培方法が確立していないため,適切な窒素濃度の施肥および熱帯地域における栽培研究報告は少ない.また窒素葉面散布には土壌への窒素施肥に比べ,少量で即効性がみられ,収量増大が期待できる.そこで本研究では,まず異なる窒素濃度0, 4, 10および20 mMの4段階で土壌への最適な窒素施肥濃度を調査した後,異なる窒素葉面散布(Nitrogen Foliar Spray: NF)濃度0, 1, 2, 4および8 mMの5段階に設定し,生育,乾物重および花の成分含量を調査した.土壌への窒素施肥では生育および光合成速度の結果より,10 mM以上の時増加傾向にあった.さらに乾物重およびクロロフィル含量も同様に10 mMで飽和した.次に土壌へ10 mMの窒素施肥に加え,窒素葉面散布を行った結果では,NF 2 mM以上で葉乾物重および葉面積を有意に増加させた.総開花数および総花乾物重では,NF 8 mMで有意に高い値を示した.また1株あたりの頭花の総成分含量は6種の成分において,ともにNF 8 mMで有意に高い値を示した.以上より,土壌への窒素施肥は10 mMで飽和し,開花前後ではNF 8 mMの濃度が最適であることが示唆された.

2020年度日本熱帯農業学会学会賞学術賞特別講演要旨
2020年度日本熱帯農業学会学会賞奨励賞特別講演要旨
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