神経心理学
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33 巻, 3 号
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公募シンポジウムII 座長記
公募シンポジウムII 認知症の食行動異常
  • 品川 俊一郎
    2017 年 33 巻 3 号 p. 161-166
    発行日: 2017/09/25
    公開日: 2017/10/11
    ジャーナル フリー

    認知症患者に出現する食行動の問題は,身体合併症の原因となり,在宅介護に破綻をもたらし,病院や施設におけるケアでも問題となる.食行動異常の病態は多彩であるが,筆者らの調査では因子分析によって「食べ過ぎ」「嚥下」「食欲低下」「こだわり」の4因子に類型化することが可能であった.食行動には原因疾患や認知機能障害,BPSD,介護環境,社会文化的側面など多くの要素が関与する.原因疾患だけみてもアルツハイマー病,血管性認知症,前頭側頭型認知症,レビー小体型認知症各々の食行動異常のパターンは異なり,それによって対処も異なる.原因疾患や病態を正確に評価し,それに沿ったマネージメントをする視点が求められる.

  • 坂井 麻里子, 西川 隆
    2017 年 33 巻 3 号 p. 167-176
    発行日: 2017/09/25
    公開日: 2017/10/11
    ジャーナル フリー

    認知症における食行動異常と嗅覚・味覚の生理学的機能との関連についての近年の知見を概説した.嗅覚障害に関してはいくつかの認知症性疾患に合併するという多くの報告がある.アルツハイマー病(AD)とレビー小体型認知症(DLB)ではしばしば著明な嗅覚障害を早期より認めるが,他の認知症性疾患では著明な障害はみられない.一方,味覚についてはいまだ少数の研究しか見あたらず,結果にも相違がみられる.著者らはADの基本4味覚(甘味・塩味・酸味・苦味)の検知・認知閾値を測定し,認知閾値は初期から上昇するが,検知閾値は遅れて上昇することを見出した.また,意味性認知症(SD)に関する予備的研究では,検知・認知閾値ともに初期から上昇した.これらの知見は特に嗜好の変化を呈するADとSDにおいて基礎的な味覚機能が食行動異常の背景にあることを推測させる.

  • 里 直行
    2017 年 33 巻 3 号 p. 177-182
    発行日: 2017/09/25
    公開日: 2017/10/11
    ジャーナル フリー

    糖尿病が認知症の危険因子であることが疫学的研究により支持されている.しかし,どのような機序で糖尿病が危険因子となっているのかは十分には明らかでない.臨床画像・症状からも単純に血管性認知症あるいはアルツハイマー病(AD)のどちらかを促進するのではないであろうと考えられる.糖尿病合併ADモデルマウスの行動解析,免疫組織学的解析,蛋白解析,およびトランスクリプトーム解析の結果,糖尿病と認知症に関連して変動する分子群が明らかになりつつある.また糖尿病合併ADモデルにおいて,糖尿病からADへの病態修飾のみならず,逆にADが糖尿病の病態を悪化させることをも我々は見出しており,さらなる解析を進めている.

  • ~前頭側頭葉変性症を中心に~
    繁信 和恵
    2017 年 33 巻 3 号 p. 183-187
    発行日: 2017/09/25
    公開日: 2017/10/11
    ジャーナル フリー

    認知症疾患は進行に応じて様々な食行動の問題が生じる.またそれらの問題は認知症の疾患別によっても,進行のステージによっても異なる.また,食行動の問題によって早期に在宅生活が困難になる場合もある.疾患別の特徴的な症候や進行の仕方を念頭におき,毎日営まれる食事が長期にわたり,認知症者の楽しみになるように支援を考える必要がある.

原著
  • 浦野 雅世, 石榑 なつみ, 谷 永穂子, 中尾 真理, 三村 將
    2017 年 33 巻 3 号 p. 188-197
    発行日: 2017/09/25
    公開日: 2017/10/11
    [早期公開] 公開日: 2017/08/25
    ジャーナル フリー

    右半球病変で錯文法を呈した矯正右手利きの症例を報告した.呼称障害はごく軽微でありながら,自由発話/説明発話の別を問わず助詞の誤用が著明であり,脱落は皆無であった.逸脱語順や統語構造の単純化は明らかでなかった.理解面では語義理解は良好に保持されながらも,平易な会話の理解からしばしば困難を呈した.側性化の異なる失文法症例では統語的側面と形態論的側面の障害が共起しているのに対し,本例は形態論的側面のみに障害を呈しており,側性化の異なる失文法とは発現機序が異なると考えられた.本例の錯文法の発現は異常側性化に起因するものとであると推察された.

  • 稲富 雄一郎, 中島 誠, 米原 敏郎, 安東 由喜雄
    2017 年 33 巻 3 号 p. 198-206
    発行日: 2017/09/25
    公開日: 2017/10/11
    [早期公開] 公開日: 2017/08/25
    ジャーナル フリー

    55歳,男性.1年前に脊髄症と診断されていた.言動異常が出現した1カ月半後の初診時に,左同名半盲,記銘力低下,超皮質性感覚失語を認めた.また医師の面接時に,自身の症状,心配事について,毎回ほぼ同じ語句で一通り話してから診察に応じる反復性発話を認めた.スケジュールへの固執もあり,予定変更に際してしばしば激怒した.MRIでは右下前頭回,上~下側頭回,角回,側頭後頭境界,左縁上回から上側頭回の深部白質に病変を認めた.多発性硬化症の再燃と診断された.急性期以後は,症候は徐々に改善した.本例の反復性発話は,オルゴール時計症状に該当すると考えられた.

  • ―若年健常者における縦版,横版Trail Making Test成績の比較から―
    武田 千絵, 中嶋 加央里, 能登谷 晶子, 砂原 伸行
    2017 年 33 巻 3 号 p. 207-215
    発行日: 2017/09/25
    公開日: 2017/10/11
    [早期公開] 公開日: 2017/08/25
    ジャーナル フリー

    Trail Making Test(TMT)は,Halstead-Reitan Batteryの一つとして報告された縦型のTMT(縦版TMT)と鹿島らが作成した横型のTMT(横版TMT)の二つがある.しかし,2つのTMTでは成績が大きく異なり,その原因について詳細な言及はなされていない.今回若年健常者を対象に2つのTMTを実施し,所要時間を比較した.その結果横版TMTが縦版TMTよりも所要時間が延長し,Part A,B間で所要時間に差がなかった.縦版TMTの所要時間はPart Bで延長した.TMT完遂までに引かれる線の長さを除して検討したが,横版TMTが縦版TMTよりも遂行時間が延長した.縦版TMTは線が円を描く軌跡になるのに対し,横版TMTでは線がランダムに重なっていくため,視覚探索が困難となり所要時間の延長につながったと考えられる.

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