「知人の苗字の1文字目しか出てこない」との主訴で受診したSemantic dementia例の呼称障害の特徴を検討した.症例は55歳,右手利きの女性で,左側頭葉吻側の萎縮と左下側頭葉の血流低下を認めた.「失語症語彙検査」の同一目標語における呼称と聴覚的理解にて,呼称は不可だが,聴覚的理解は可能な語彙が多くみられた.呼称の誤反応は迂言や語性錯語の他に,目標語の語頭音や音節数を答えるTip of the tongue現象がみられた.これらの誤反応は,その目標語の聴覚的理解の可否で異なる傾向を示した.以上の特徴から,本症例の呼称障害は軽微な意味記憶の損失と語彙検索障害であることを示唆した.
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