Supplement of Association of Next Generation Scientists Seminar in The Japanese Pharmacologigal Society
Online ISSN : 2436-7567
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Displaying 1-6 of 6 articles from this issue
  • Kumiko Taguchi, Tsuneo Kobayashi
    Session ID: 2024.2_AG1
    Published: 2024
    Released on J-STAGE: October 01, 2024
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    マイクロパーティクル (MPs) は、血小板・赤血球などの血中循環細胞や血管内皮細胞・平滑筋細胞といった血管構成細胞の活性化に伴い、これら宿主細胞の細胞膜から放出される微細な膜断片である。MPs内部には宿主細胞由来の多様な分子が含まれており、これらの分子を他の細胞へ伝達する細胞間コミュニケーションの一端を担うことが明らかにされている。一方で、糖尿病の長期罹患は、血管内皮機能障害を引き起こし、これが心血管疾患の発症を誘発する要因となると考えられている。血管内皮機能障害を引き起こす要因として、さまざまな液性および血行力学的因子が挙げられるが、我々はこれまでに、細胞外小胞の一種であるMPs がその要因の一つとして重要な役割を果たしていることを示唆してきた。さらに、糖尿病病態時に産生・放出されるMPsが血管に強固に接着し、内皮細胞型NO合成酵素を包含する形で内皮細胞からMPsを再放出することで、血管弛緩機能不全を誘発する可能性があることを示唆している。MPsの血管への接着を制御できれば、心血管イベントを防ぐことができるのではないかという考えから、最近では、接着分子に注目をしている。中でも糖尿病時に発現が増加しているintercellular adhesion molecule-1 (ICAM-1) に着目し、ICAM-1とMPsの関係を検討した結果を本発表では示したいと考えている。本研究は、糖尿病性血管内皮機能障害の発症メカニズムの解明に寄与するだけでなく、ICAM-1誘導阻害剤の活用や、MPsの血管接着を阻止する薬剤の開発など、心血管イベントを予防するための臨床応用にもつながると考えられる。

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  • Asami Mori
    Session ID: 2024.2_AG2
    Published: 2024
    Released on J-STAGE: October 01, 2024
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

     緑内障や糖尿病網膜症は視機能低下をもたらす。これら眼疾患の発症や進行には、網膜循環障害が関与していると考えられている。私たちは、網膜循環障害の改善がこれら眼疾患の予防や治療に有用な方策となると考え、網膜循環調節に関する一連の研究を進めてきた。

     網膜血管の恒常性維持には、血管周囲に存在する神経細胞やグリア細胞との相互作用が重要である。緑内障や糖尿病の病態時には、これら相互作用が破綻することが報告されている。そこで本講演では、網膜における神経細胞やグリア細胞を介した血管拡張機序と病態時における変化について、独自に構築した小動物用 in vivo 網膜循環評価システムを用いて得られた研究成果の一部について報告する。

     まず、健常ラットにおいて、網膜の神経細胞を刺激するために N-メチル-D-アスパラギン酸 (NMDA) を硝子体内投与すると、神経細胞から産生・遊離された一酸化窒素 (NO) がグリア細胞を刺激することにより、網膜血管は拡張した。また、NO 供与体の硝子体内投与による網膜血管拡張反応には、グリア細胞から産生・遊離されるエポキシエイコサトリエン酸 (EETs) やプロスタグランジン E2 が関与することを見いだした。

     次に、緑内障のモデルである網膜神経傷害ラット及び超高血糖モデルであるストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットでは、いずれも NMDA あるいは NOR3 硝子体内投与による血管拡張反応が減弱することが明らかになった。網膜神経傷害ラットでは、網膜神経の傷害により、グリア細胞が代償的に血管緊張度を調節することが示唆された。一方、糖尿病ラットでは、網膜血管の高コンダクタンス Ca2+ 活性化 K+ チャネルの機能障害が、神経細胞及びグリア細胞を介する血管拡張反応の減弱に関与することが示唆された。これらの結果は、網膜血管の緊張度がその周囲に存在する神経細胞やグリア細胞によって調節されていることを示しており、網膜における神経細胞やグリア細胞の相互作用の破綻が、網膜循環障害、ひいては緑内障や糖尿病時の視機能の低下に関与していることを示唆している。

     したがって、緑内障や糖尿病網膜症などの眼疾患に対する新規予防・治療薬の開発には、血管のみならず、神経細胞及びグリア細胞を含む、網膜全体の恒常性維持という視点が重要であると考えられる。

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  • Akiko Uyeda, Rieko Muramatsu
    Session ID: 2024.2_AG3
    Published: 2024
    Released on J-STAGE: October 01, 2024
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    要旨本文:自閉スペクトラム症 (ASD) は社会的コミュニケーションにおける困難や、興味の限局を主徴とする発達障害群である。近年大規模なシークエンス解析が進められており、その発症には遺伝的要因が大きく寄与することが明らかとなりつつある。ASDとの関連が示唆される遺伝子には、脳のみならず末梢臓器で機能する遺伝子も含まれる。脳や脊髄からなる中枢神経系は、血液循環や神経経路を介して末梢臓器と相互作用しているため、末梢臓器におけるASD関連遺伝子の機能不全がこのような経路を介して脳機能を制御する可能性が考えられる。しかし、ASD関連遺伝子の機能解析は脳内細胞に限局しており、末梢由来の病態制御機構については知見が乏しい。我々はASDモデルマウスと野生型マウスの並体結合実験から、ASD関連症状が末梢環境により制御され得ることを見出した。このメカニズムについて、末梢臓器由来の液性因子の血中変化を、脳血管内皮細胞が感知することでASD関連症状を誘導する機序が存在することが示唆された。これらの結果をもとに、ASDを含む中枢神経疾患の治療標的としての末梢由来因子の有用性・妥当性を議論したい。

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  • Shotaro Michinaga
    Session ID: 2024.2_AG4
    Published: 2024
    Released on J-STAGE: October 01, 2024
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    外傷性脳損傷(TBI)は事故や転倒などにより頭部を強打することで脳が損傷した状態であり、一命をとりとめた場合でも持続的かつ不可逆的な後遺症によりQOLの著しい低下を招く。日本の年間患者数は約30万人と推定されており、迅速な対応が望まれているが、有効な治療薬は確立されておらず、新規治療薬の開発が急務である。TBIにより脳血管が傷害を受けることによって血液脳関門(BBB)が破綻し、脳内への血管内容物の漏出や免疫細胞の浸潤による脳浮腫や神経炎症が惹起されることで死亡や後遺症の一因となる。したがって、脳血管の傷害を軽減してBBBの破綻を抑制することはTBIに対する有効な治療戦略であると想定される。本研究では、流体衝撃傷害を与えることによりTBIモデルマウスを作製し、脳血管に対して傷害的あるいは保護的に作用することが見いだされた種々の生理活性物質に着目することでTBIに対する新規治療薬の創出を目指す。

    TBIモデルマウスの脳組織ではBBBの破綻を促進させることが示唆されているマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)およびエンドセリン(ET)の発現量が増加しており、これらの発現増加はBBBの破綻が進行する時間経過と一致していた。MMPinhibitor、抗VEGF抗体、ET受容体拮抗薬を投与したTBIモデルマウスではBBBの破綻が抑制されていた。TBIモデルマウスの脳組織ではBBBの破綻を抑制することが示唆されているアンジオポエチン(ANG)およびソニックヘッジホッグ(SHH)の発現量も増加しており、これらの発現増加はBBBの破綻が修復される時間経過と一致していた。ANGおよびSHHを投与したTBIモデルマウスではBBBの破綻が抑制されていた。さらに、SHHの作用発現の中核を担う膜タンパク質スムーズンドの活性化薬を投与した場合でもBBBの破綻が抑制されていた。本研究結果より、MMP、VEGF、ETの作用を阻害する薬物およびANG、SHHの作用を促進する薬物は脳血管を保護することによりBBBの破綻を抑制し、TBIに対する新規治療薬となり得ることが想定される。

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  • Iyuki Namekata, Maika Seki, Taro Saito, Ryosuke Odaka, Haruhito Hiiro, ...
    Session ID: 2024.2_AG5
    Published: 2024
    Released on J-STAGE: October 01, 2024
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

     肺から左心房に血液を送る血管である肺静脈は、心筋組織を有しており(肺静脈心筋)、肺静脈心筋の異所性興奮が心房に伝播することで心房細動が発症することが明らかになっている。肺静脈は心房細動の新たな治療ターゲットとして注目を集めているが、既存の薬物には肺静脈心筋の異所性興奮の抑制を意図したものは存在しない。我々は、肺静脈心筋自発活動の機序を解明し、肺静脈選択的な治療薬の開発に繋げたいと考え研究を行っている。我々はモルモット肺静脈心筋に微小電極法を適用し、電気的自発活動を記録した。肺静脈心筋の活動電位は左心房筋と比較して静止膜電位が浅く、これは内向き整流性K+電流密度が小さいことに起因することが判明した。すなわち肺静脈心筋は再分極力が弱く、脱分極およびそれに続く自発活動の発生を許容しやすい性質を有すると考えられた。また我々は、肺静脈心筋の自発活動の発生に一部Na+チャネルが寄与していることを見出した。Na+電流は、心筋の急速な脱分極時に一過性に流れる大電流成分であるpeak INaと、持続的に流れる小電流成分(ここではlate INaと呼ぶ)に大別される。自発活動をしている肺静脈心筋組織標本に微小電極法を適用し検討したところ、peak INaを遮断する薬物は活動電位の立ち上がりを抑制して興奮伝導を抑制するのに対し、late INaを選択的に遮断する薬物は自発活動の緩徐脱分極相の傾き(slope)を減少させ、自発活動の発火頻度を低下させることが明らかとなった。単離肺静脈心筋細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察し細胞内イオン動態を測定した結果、late INaを増大させるATX-Ⅱは、緩徐脱分極相の傾きを増大させる以外にも、細胞内Na+濃度を上昇させ、Na+/Ca2+交換機構のreverse modeを介して細胞内Ca2+濃度を上昇させることが明らかとなった。さらに、ATX-ⅡはCa2+ sparkやCa2+ waveなどのCa2+ オシレーションを誘発することで種々のCa2+依存的な酵素群を活性化し、電気的自発活動を誘発しうることが示唆された。既存の抗不整脈薬を含め、心臓本体の機能を抑制してしまう薬物は、臨床で使用する場合に大きな問題となるが、選択的なlate INa遮断薬やNa+/Ca2+交換機構阻害薬は、正常な心臓の機能には影響を与えることなく、肺静脈で発生する電気的興奮を抑制しうることが明らかになった。このように肺静脈自動能に関与する分子や病態との関連を明らかにすることで、肺静脈選択的な治療薬の開発に繋がると期待される。

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  • Tetsuro Marunouchi
    Session ID: 2024.2_AG6
    Published: 2024
    Released on J-STAGE: October 01, 2024
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    慢性心不全は、何らかの原因で心臓が全身組織の要求する十分な血液量を慢性的に駆出できなくなった状態の総称で、様々な心血管疾患の終末的な病態と定義される。慢性心不全心臓での心ポンプ機能不全の原因の1つに心筋細胞死に伴う心筋細胞数の減少が示唆されている。従来、心筋細胞死の誘因としてアポトーシスが考えられてきたものの、アポトーシスのみでは慢性心不全の心機能低下を十分に説明するには至らず、今もなお心不全心臓における細胞死形態に着目した研究が進められている。本研究では、心筋梗塞後心不全動物を用い、心不全病態下での心筋細胞死に、ともに制御されたネクローシス様(壊死様)細胞死のネクロトーシスおよびパイロトーシスの両細胞死が相互に関与するという新たな可能性を示した。さらに、これらの制御されたネクローシス様細胞死の調節因子として、分子シャペロン heat shock protein (Hsp) 90 の役割について検討し、Hsp90 の阻害を介したネクローシス様心筋細胞死の抑制が、慢性心不全病態下での心機能低下を軽減できるとの新たな知見を示した。つまり、Hsp90 は、心筋細胞死の抑制を介した慢性心不全治療の新たな標的となることを示唆し、新規心不全治療薬による薬物療法の開発に貢献できると期待される。一方、既存の Hsp90 阻害薬は、腎障害や網膜障害などの副作用が問題となる。そこで、既存の Hsp90 阻害薬に代わる化合物を探索するために、ドラッグリポジショニングの観点から、既承認薬で心不全心臓の Hsp90 を標的とする薬物の探索研究を実施した。有力な候補化合物として脂質異常症改善薬シンバスタチンに着目し、心筋梗塞後心不全への効果について検討した。心筋梗塞後心不全ラットへのシンバスタチンの投与は、ネクロトーシスおよびパイロトーシスの両細胞死を抑制し、心機能低下を軽減させた。心不全の治療薬としてシンバスタチンが有望であることを示唆する。以上、本研究は、慢性心不全進展過程における心筋細胞死メカニズムに関する新たな知見を提示するとともに、制御されたネクローシス様細胞死が慢性心不全の新規治療標的となる可能性を提示した。

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