質量分析イメージング(MSI)は、標本中の各位置に含まれる成分をレーザー等によりイオン化して質量分析する手法であり、特に免疫組織化学やオートラジオグラフィーに代わる低分子のイメージング法としてその有用性が認められている.また、様々な分子を一斉かつ直接検出できるため、空間メタボロミクスを担う手法としてヒトを対象とする大規模研究にも利用されている[1]。本セミナーでは、発表者が過去に実施したリソソーム病の1種であるGM2ガングリオシドーシスのモデルマウスを用いた解析[2]と誘導体化法を用いたマウス脳内モノアミンの解析[3]を中心として、MSIが病態解明、薬効評価、代謝解析にどのように活用できるかを紹介する。GM2ガングリオシドーシスのモデルマウスの解析では、免疫組織化学の適用が困難なGM2の分布をMSIで直接可視化すると共に、改変型酵素の脳室内投与によりモデルマウス中に蓄積したGM2が「どこ」で「どの程度」減少したかを可視化した。また、当初予想していなかった病態関連分子を見出し、その構造を推定した。マウス脳内モノアミンの解析では、内標準法を適用した定量的MSIの条件を構築してマウス脳の主要な断面を解析することで、それまで見過ごされていたモノアミン共集積核を同定した。また、この神経核を含む7神経核を対象にAcute Tryptophan Depletionのモデルマウスを解析し、複数の対照群と局所セロトニン量を比較することで、モデルマウスのみで有意なセロトニン量変化を示す神経核群を明らかとした。セロトニンやドーパミンの代謝回転が速いことに着目すると、外部から投与した安定同位体標識アミノ酸に由来する標識されたモノアミンを他と区別して解析することができるため、実際の代謝解析例を併せて紹介したい。また、発表者が近年取り組んでいる、通常のMSIで識別困難な異性体の選択的イメージング法[4]を紹介し、関連する近年の技術的進歩についても紹介したい.
参考文献: [1] HuBMAP Consortium, Nature, 574, 187–192 (2019); [2] K. Kitakaze et al., J. Clin. Invest., 126, 1691–1703 (2016); [3] E. Sugiyama et al., iScience, 20, 359–372 (2019); [4] E. Sugiyama et al., Chem. Commun., 59, 10916–10919 (2023).
COI:発表内容に関連し,筆頭および責任発表者の過去3年間,開示すべきCOI関係にある企業などはありません。
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