次世代薬理学セミナー要旨集
Online ISSN : 2436-7567
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選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
座長:衣斐 大祐(名城大・薬・薬品作用学)、大垣 隆一(大阪大・院医・生体システム薬理学)
  • 平山 重人, 藤井 秀明
    セッションID: 2025.1_AG1
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/13
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    オピオイド受容体サブタイプ(μ、δ、およびκ)のうち、δオピオイド受容体(DOR)は、鎮痛作用に関与するばかりでなく抗うつ作用や抗不安作用を示すこと、またμオピオイド受容体作動薬にみられる薬物依存性やκオピオイド受容体作動薬にみられる薬物嫌悪性を示さないことから、魅力的な創薬標的である。また、最近では片頭痛発作時の鎮痛薬としても期待されている。実際、アストラゼネカは選択的DOR作動薬AZD2327およびAZD7268を抗うつ薬として第IIa相臨床試験を実施したが、有意な抗うつ効果が観察されなかったため、開発は中止された。しかし、AZD2327は有意な抗うつ効果を示さなかったものの、臨床試験でAZD2327による抗不安効果が示されたと報告されており、DOR作動薬が医薬品候補になり得ることを示唆している。我々は、既にキノリノモルヒナン骨格を有するDOR作動薬KNT-127 を報告している。KNT-127は用量依存的な鎮痛作用、抗うつ作用、抗不安作用を示したが、SNC80などの古典的なDOR作動薬においてしばしば認められる痙攣作用を示さなかったことから、医薬品として有望なリード化合物である。さらに我々は選択的DOR作動薬NC-2800を見出し、現在は第I相臨床試験を終え、第II相臨床試験の準備中である。一般に、医薬開発の過程においては化合物の好ましくない物理化学的性質やADMET(吸収・分布・代謝・排泄・毒性)特性などの問題から、医薬開発が継続できなくなることがある。このため、通常バックアップ化合物が準備される。そこで、バックアップ化合物としてNC-2800とは異なった骨格を有する新規DOR作動薬の設計・合成を試みた。化合物設計においてはKNT-127が設計されたときに考慮されたファーマコフォア情報を参考に、ピラゾロモルヒナン誘導体を設計した。設計化合物は、ナルトレキソンを原料に数段階を経て合成した。その際、設計化合物の位置異性体も得られた。評価の結果、設計化合物ばかりでなく、その位置異性体も選択的なDOR作動活性を示した。本シンポジウムでは、ピラゾロモルヒナン誘導体の設計、構造活性相関の詳細について述べる。また、高活性かつ高選択的であったSYK-1106 の抗うつ作用に関する検討結果についても紹介する。

    COI:演題発表内容に関連し,筆頭および責任発表者の過去3年間のCOI関係にある企業などは以下のとおりです。受託研究・共同研究費:日本ケミファ株式会社

  • 高橋 葉子
    セッションID: 2025.1_AG2
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/13
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     近年、種々の中枢神経系疾患の病態や発症メカニズムなどの解析が進み、その創薬への応用が期待されている。また多様なモダリティ開発も盛んだが、それらを最大限活用するためには、ドラッグデリバリーシステム(DDS)技術開発も重要といえる。しかし脳組織が標的となる中枢神経系疾患においては、血液脳関門(BBB)の存在がDDS開発の大きな障壁となっている。

     これまでに我々は、ポリエチレングリコール修飾リポソームに超音波造影ガスを封入した超音波応答性のナノ粒子(ナノバブル)を開発してきた。ナノバブルは、超音波照射に応答して振動・圧壊が誘発され、それらの挙動を利用することで、超音波造影輝度の向上、あるいは生体内バリアの透過性亢進を可能とする。これらの現象は超音波を照射した部位に限局したものであることから、標的部位における薬物・遺伝子・核酸などの生体内バリアの突破を目的としたデリバリーツールとしての期待は大きい。実際に、ナノバブルと種々のモダリティの混合溶液を局所あるいは全身投与し、体外からの超音波照射を併用することで、極めて短時間で標的組織内へのデリバリーが可能となることを明らかとしている。また臨床においては、超音波造影剤であるマイクロバブルと集束超音波の併用により、BBBを一時的に開口させ悪性脳腫瘍への抗がん剤デリバリー効率を向上させる技術が利用され始め、その他の疾患への応用も期待されている。

     本講演では、我々のナノバブルと超音波照射によるマウス脳組織でのBBBオープニング技術について紹介しつつ、これまでに開発してきた種々のナノバブル技術と下肢虚血モデルマウス・腫瘍モデルマウスなどを用いた検討も通じて、超音波応答性ナノバブルを用いたDDSの可能性について議論したい。

    COI:発表内容に関連し,筆頭および責任発表者の過去3年間,開示すべきCOI関係にある企業などはありません。

  • 杉山 栄二, 水野 初
    セッションID: 2025.1_AG3
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/13
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    質量分析イメージング(MSI)は、標本中の各位置に含まれる成分をレーザー等によりイオン化して質量分析する手法であり、特に免疫組織化学やオートラジオグラフィーに代わる低分子のイメージング法としてその有用性が認められている.また、様々な分子を一斉かつ直接検出できるため、空間メタボロミクスを担う手法としてヒトを対象とする大規模研究にも利用されている[1]。本セミナーでは、発表者が過去に実施したリソソーム病の1種であるGM2ガングリオシドーシスのモデルマウスを用いた解析[2]と誘導体化法を用いたマウス脳内モノアミンの解析[3]を中心として、MSIが病態解明、薬効評価、代謝解析にどのように活用できるかを紹介する。GM2ガングリオシドーシスのモデルマウスの解析では、免疫組織化学の適用が困難なGM2の分布をMSIで直接可視化すると共に、改変型酵素の脳室内投与によりモデルマウス中に蓄積したGM2が「どこ」で「どの程度」減少したかを可視化した。また、当初予想していなかった病態関連分子を見出し、その構造を推定した。マウス脳内モノアミンの解析では、内標準法を適用した定量的MSIの条件を構築してマウス脳の主要な断面を解析することで、それまで見過ごされていたモノアミン共集積核を同定した。また、この神経核を含む7神経核を対象にAcute Tryptophan Depletionのモデルマウスを解析し、複数の対照群と局所セロトニン量を比較することで、モデルマウスのみで有意なセロトニン量変化を示す神経核群を明らかとした。セロトニンやドーパミンの代謝回転が速いことに着目すると、外部から投与した安定同位体標識アミノ酸に由来する標識されたモノアミンを他と区別して解析することができるため、実際の代謝解析例を併せて紹介したい。また、発表者が近年取り組んでいる、通常のMSIで識別困難な異性体の選択的イメージング法[4]を紹介し、関連する近年の技術的進歩についても紹介したい.

    参考文献: [1] HuBMAP Consortium, Nature, 574, 187–192 (2019); [2] K. Kitakaze et al., J. Clin. Invest., 126, 1691–1703 (2016); [3] E. Sugiyama et al., iScience, 20, 359–372 (2019); [4] E. Sugiyama et al., Chem. Commun., 59, 10916–10919 (2023).

    COI:発表内容に関連し,筆頭および責任発表者の過去3年間,開示すべきCOI関係にある企業などはありません。

  • 林 到炫
    セッションID: 2025.1_AG4
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/13
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    ドパミンは中枢神経系において重要な神経伝達物質であり、運動調節、報酬系、認知機能などに深く関与している。その異常は統合失調症やパーキンソン病、ハンチントン病などの中枢神経疾患の発症に関わることが知られており、これらの疾患の治療薬開発においてドパミン関連分子が重要な標的となる。ドパミンの神経伝達は、シナプス前ニューロンから放出された後、受容体を介したシグナル伝達を行い、その後トランスポーターによる再取り込みや分解によって調節される。この過程において、ドパミンD2受容体(D2R)と小胞型モノアミントランスポーター2(VMAT2)はそれぞれ異なる役割を果たしながら、ドパミンのシグナル伝達と恒常性維持に関与している。D2Rはシナプス後膜に存在し、ドパミンのシグナルを受容することで神経活動を調節する。一方、VMAT2はシナプス小胞においてドパミンを細胞質から小胞内に取り込み、神経伝達物質の適切な放出を制御する。本研究では、D2RとVMAT2の立体構造を決定し、それぞれの分子機構および薬剤との相互作用を解析することにより、効果的な治療戦略の確立を目指した。

    D2Rは統合失調症治療薬の主要な標的であり、ブチロフェノン系抗精神病薬・スピペロンとの複合体構造をX線結晶構造解析により決定した。その結果、スピペロンの結合ポケットには特徴的な構造(Extendedbinding pocket, Bottom hydrophobiccleft)が存在し、D2Rの薬物選択性に寄与することが示された。また、機能性抗体を用いた解析により、抗精神病薬の結合メカニズムを詳細に検討した。一方、VMAT2はドパミンを含むモノアミン神経伝達物質を小胞内に輸送するトランスポーターであり、その阻害薬はハンチントン病や遅発性ジスキネジアの治療に用いられる。本研究では、クライオ電子顕微鏡(Cryo-EM)による単粒子解析を用いて、VMAT2のアポ状態、ドパミン結合状態、阻害薬テトラベナジン結合状態の構造を高分解能で決定した。ドパミンはGlu312と塩橋を形成し、複数の残基との相互作用を介して結合することが示された。また、テトラベナジンは輸送経路の構造変化を引き起こし、機能を阻害することが明らかとなった。さらに、Asp426およびAsp399がプロトン交換に関与し、輸送サイクルの重要な要素であることを示唆した。

    本研究の成果は、D2RおよびVMAT2を標的とした中枢神経疾患治療薬の作用機序を分子レベルで解明し、新規治療薬の開発に貢献することが期待される。

  • 船橋 靖広, Ahammad Rijwan Uddin , 張 心健, 河谷 昌泰, 吉見 陽, 坪井 大輔, 西岡 朋生, 黒田 啓介, ...
    セッションID: 2025.1_AG5
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/13
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    NMDA型グルタミン酸受容体(NMDAR)の機能異常は統合失調症、うつ病、認知機能障害などの精神・神経疾患と密接に関連しており、これらの疾患ではシナプス形成異常が認められる。NMDARはグルタミン酸によって活性化され、細胞内へのカルシウムイオンの流入を引き起こす。このカルシウム流入はCaMKIIなどのリン酸化酵素を活性化し、多様なタンパク質のリン酸化を誘導する。このリン酸化カスケードは神経細胞の興奮性、可塑性、遺伝子発現を制御し、学習・記憶の形成に寄与すると考えられるが、その全容は未解明である。本研究では我々が独自に開発した高感度リン酸化プロテオミクス法を用いて、マウス脳の線条体/側坐核におけるNMDAR下流のリン酸化反応を網羅的に解析し、100種類以上のタンパク質とそのリン酸化部位を同定した。パスウェイ解析により、NMDAR関連経路として低分子量Gタンパク質RhoA関連経路を特定し、NMDARの下流でCaMKIIがRhoAの活性化制御因子をリン酸化することを明らかにした。これらのリン酸化がRhoAの活性化を促進し、Rho関連キナーゼ(ROCK/Rho-kinase)を活性化することも示した。マウスに忌避刺激を与えた際、側坐核のドーパミンD2受容体発現神経細胞(D2R-MSN)においてCaMKII-RhoA-ROCKシグナル経路が活性化することを見出し、D2R-MSN特異的にROCKを抑制または欠損させると、シナプスの密度低下、長期増強の不安定化、忌避学習能力の低下が認められた。また、ROCKによってリン酸化されるタンパク質を網羅的に同定し、ポストシナプスタンパク質SHANK3のリン酸化依存的に、シナプス形態および忌避学習能が制御されることも明らかにした。さらに、NMDAR拮抗薬を連続投与した統合失調症モデルマウスでは忌避学習能が低下し、忌避刺激後のD2R-MSNの一過性発火が抑制され、NMDAR-CaMKII-RhoA-ROCK経路の活性化が抑制されることが判明した。これらの知見は、統合失調症などの精神疾患におけるNMDAR機能異常の分子メカニズムの理解を深め、新たな治療標的の同定につながる可能性がある。また、本研究で得られたリン酸化タンパク質データを、独自のデータベース「KANPHOS」に登録し、公開した。このデータベースの活用により、精神・神経疾患研究のさらなる進展が期待される。

    COI:発表内容に関連し,筆頭および責任発表者の過去3年間,開示すべきCOI関係にある企業などはありません。

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