次世代薬理学セミナー要旨集
Online ISSN : 2436-7567
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選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
座長:東島 佳毅(宮崎大学 テニュアトラック推進室)、山下 智大(九州大学大学院薬学研究院創薬構造解析学分野)
  • 大浜 剛
    セッションID: 2025.2_AG1
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/08
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    リン酸化酵素(キナーゼ)の異常な活性化による細胞内タンパク質の過剰なリン酸化は、様々な疾患の発症や病態悪化に深く関与している。そのため、キナーゼ阻害剤はがんや自己免疫疾患を中心に臨床応用されてきた。しかし、がん領域では薬剤耐性や不応性の腫瘍が依然として大きな課題である。

    忘れてはならないのは、タンパク質のリン酸化はキナーゼのみならず、脱リン酸化酵素(ホスファターゼ)とのバランスによって制御されている点である。したがって、異常なリン酸化亢進は、「キナーゼの阻害」に加えて「ホスファターゼの活性化」によっても是正できるはずであるが、ホスファターゼ活性化剤はいまだ臨床応用に至っていない。

    我々はこの点に着目し、主要ながん抑制因子であるPP2A(protein phosphatase 2A)を標的として研究を進めている。PP2A活性は多くのがんで低下しており、その背景には、SETをはじめとするPP2A阻害タンパク質の発現上昇が関与している。したがって、これらのPP2A阻害タンパク質を標的にPP2A活性を回復できれば、従来の抗がん剤とは異なる視点から、腫瘍制御に寄与できると考えられる。

    本講演では、SETがPP2Aを阻害することでがんを悪性化させる分子機構と、NanoBiTシステムを活用して同定したSET–PP2Aのタンパク質間相互作用を標的とする新規化合物について紹介する。

  • 塩田 拓也, Germany Edward, 丸野 友希, Thewasano Nakajohn, 今井 賢一郎, 阿蒜 侑佳, Shen ...
    セッションID: 2025.2_AG2
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/08
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    グラム陰性菌は、WHOによる「喫緊に対策が必要な微生物感染症リスト」の実に70%を占めるグループである。グラム陰性菌に対する薬剤治療は、外膜というバリアの存在が問題である。外膜は、内側がリン脂質、外側がLPSからなる非対称膜に、リポタンパク質と外膜タンパク質が存在して形成されている。外膜タンパク質は外膜の主たる構成因子であると同時に、全ての外膜の構成要素の生合成に関与しており、そのバリア機能にとって最も重要な分子である。外膜タンパク質は、膜貫通領域がβバレル構造をとり、この立体構造形成を伴った膜挿入(アセンブリー)が機能を発揮するためには必須のプロセスである。アセンブリーは、グラム陰性菌の外膜に広く存在するBeta-barrel Assembly Machinery (BAM)複合体と呼ばれる分子装置によって行われる。BAM複合体はグラム陰性菌の生育に必須であるため、魅力的な抗菌薬の標的である。事実、BAM複合体への効果的な阻害剤が天然物や化合物ライブラリーから探索するトップダウン創薬により単離されている。しかしながら、これらの化合物は全てBAM複合体のラテラルゲートと呼ばれる触媒部位を標的としている。トップダウン創薬では、最も効果が強い部位にヒットが集中し、耐性菌に対して多様な選択肢を生むための、より広範な部位を標的とする創薬ができない可能性がある。より広範な部位をそれぞれ標的とするためには、詳細な分子機構の解析をもとに標的部位を増やした上で、それらに対して個別に阻害剤を見出していくボトムアップ創薬が求められる。

    我々は、グラム陰性菌から単離した膜画分を用いたin vitro再構築系として、EMMアセンブリーアッセイを開発した。この方法は検出感度が高く、変異体や阻害剤によるアセンブリーの影響を敏感に捉えることができる。この方法を用いることで、新規の薬剤標的として輸送される外膜タンパク質内に存在する内部シグナルとBAM複合体中の受容体BamDの関係性を明らかにした。さらに、抗菌薬が実際に作用する環境に着目することで、BAM複合体の生体内での必須遺伝子を発見した。これらは、重要な標的部位の拡大、さらには新規抗菌薬の開発に資するものである。

  • 岩野 智
    セッションID: 2025.2_AG3
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/08
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    ホタルに代表される発光生物が放つ生物発光は有機小分子の発光基質とタンパク質/酵素による化学反応の結果、生じる。生物発光は、生体内で起こる現象を可視化するバイオイメージング技術として、生命科学研究の現場で汎用される。

    本発表では生物発光反応を利用した生命現象のイメージング技術開発に関する取り組みをいくつか報告する。

     近赤外光(波長650-900 nm)は、血液中のヘモグロビンの光吸収の影響を避けられることから、生体透過性が高いと考えられており、深部組織の高感度なイメージング実現に必須であると考えられている。発表者はin vivo 生物発光イメージングの高感度化を目指し研究を行ってきた。2018年に報告した人工生物発光システムAkaBLIは、近赤外発光を示す人工発光基質AkaLumineとそれに最適化した人工酵素Akalucから構成される(Iwano et al, Science 2018)。AkaBLIは肺・脳などの深部組織イメージングにおいて、従来技術の100-1000倍もの検出感度を示した。加えて、AkaBLIは標識細胞1個がマウスの肺に捕捉される様子の可視化や非侵襲・自由行動下のコモンマーモセットの脳深部標識神経細胞からの発光シグナルの高速ビデオ撮影を実現した。現在、AkaBLI技術に基づく、生体分子プローブ技術を開発中である。

    また、AkaBLIと高い直交性を有する高輝度な新規近赤外生物発光システムも開発を実施した。AkaBLIと新規発光システムの直交する2つの近赤外発光システムにより、異なる2つの細胞種(免疫細胞と腫瘍細胞)の個体内動態の経時的な非侵襲イメージングを達成した(#Moriya-Saito R, #Iwano S et al, bioRxiv)。

    同様の開発戦略で新規青色生物発光システム(青基質/青酵素)も開発した。この新規青色生物発光システム(λmax = 450 nm)は、Nanoluc/Furimazine(Promega)と比較し、安定的な発光シグナルを生成し、100倍程度高いシグナル/ノイズ比での計測が可能である。また、青色酵素と各色蛍光タンパク質の融合により、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)による発光波長シフトが誘起されることを見出した。BRETに基づくバイオセンサー分子を新規に開発しており、生物学研究への実装を進めている。

     

  • 東島 佳毅
    セッションID: 2025.2_AG4
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/08
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    血管内皮細胞は全ての血管内腔を覆い、血液輸送に加えてホルモン産生、創傷治癒、代謝・凝固調節など多種多様な機能を担う。感染や炎症性サイトカイン刺激に応じて、血管内皮細胞では、急速に炎症性遺伝子の発現が誘導される。これは生体防御に不可欠である一方で、過剰応答や慢性化は致死的臓器障害や糖尿病・心血管病などの病態形成にも寄与する。我々は、血管内皮細胞における炎症性遺伝子発現のエピジェネティックな制御機構を、主にヒストン修飾およびエンハンサーの観点から解析してきた。その成果として、(1)血管炎症に寄与する新規ヒストン脱メチル化酵素の同定、(2)炎症性刺激によるクロマチン立体構造変動領域の同定、(3)アセチル化酵素CBP/p300を介したエンハンサー活性化機構の解明、(4)新規活性エンハンサーシグネチャーとしてのヒストンH2BN末端アセチル化の同定、などを報告してきた。本セミナーでは、次世代シーケンス解析および安定同位体を用いた定量プロテオミクスによる上記の研究成果に加え、現在導入を進めているヒトiPS細胞-血管内皮細胞分化系とデグロン技術を組み合わせた新たなアプローチについても紹介し、エピゲノム制御による血管炎症制御の可能性について議論したい。

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