次世代薬理学セミナー要旨集
Online ISSN : 2436-7567
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選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 木瀬 孔明
    セッションID: 2023.2_AG-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/14
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    多くのイオンチャネルは制御サブユニット(auxiliary subunit)と複合体を形成することで多様な生理的機能を獲得する。我々は、これまでに電位依存性K+チャネルKv4複合体の電位依存性とゲート開閉の機能制御機構をクライオ電子顕微鏡によって明らかにした(Kise et al., Nature, 2021)。今回は、電位・Ca2+依存性K+チャネルSlo1複合体の電位依存性、Ca2+依存性の制御機構を報告する。Slo1はβ1-4やγ1-4制御サブユニットと複合体を形成し、電位・Ca2+依存性やキネティクスが多様に変化する。特に一回膜貫通型タンパク質γ1がSlo1と複合体を形成すると、電位依存性が大きく過分極側へとシフトすることで、非興奮性細胞においてもSlo1が機能する。Slo1-γ1複合体は分泌上皮細胞などで発現し、分泌液中にK+を放出することで免疫機能などに関わることが示唆されている。本研究では、Slo1-γ1複合体のクライオ電子顕微鏡構造解析と電気生理学的解析によってγ1によるSlo1の制御機構を明らかにすることを目指した。その結果、γ1の膜貫通領域がSlo1の電位センサードメインと相互作用し、これまでに報告されている電位依存性イオンチャネル複合体とは異なる機構で電位感知の中心的役割を担うS4ヘリックスを脱分極状態で安定化していることが分かった。また細胞内領域ではγ1のArgクラスターがSlo1のCa2+センサードメインと相互作用し、Ca2+結合状態を安定化することによって、Slo1の電位依存性が制御されることが分かった。さらに、これらの相互作用によって、γ1が従来知られていた電位依存性だけでなく、Ca2+依存性も制御することを明らかにした。

    また、我々のクライオ電子顕微鏡を用いた創薬への取り組みについても紹介する。

  • 森本 悟
    セッションID: 2023.2_AG-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/14
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    筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、RNA結合タンパク質であるTDP-43の異常局在や蓄積を特徴とする神経難病である。我々は、ALS患者iPS細胞由来運動ニューロンおよび既存薬ライブラリーを用いることで、ALS運動ニューロンにおけるTDP-43の異常および細胞障害を改善する薬剤として、ロピニロール塩酸塩(パーキンソン病の治療薬として用いられている、ドパミンD2受容体アゴニスト)を同定した(ドラッグリポジショニングおよびiPS細胞創薬)。さらにロピニロール塩酸塩は、孤発性ALS患者モデルの約70%程度の効果を示すことも併せて確認した。また、トランスレーショナルリサーチとして、ALS患者に対するロピニロール塩酸塩を用いた医師主導治験(ROPALS試験)を実施し、その安全性と忍容性、さらにはALS患者の運動機能を改善する効果を確認した。これにより、iPS細胞創薬の臨床PoCを取得し、TDP-43の恒常性を維持することの臨床的意義が示された。しかしながら、当該試験において、ロピニロール塩酸塩に対するresoponderとsuboptimal responderの存在が明らかとなった。そこで、リバーストランスレーショナルリサーチとして、全治験参加ALS患者からiPS細胞を樹立、運動ニューロンを作製してロピニロール塩酸塩を処置したところ、in vitroにおいてもresoponderとsuboptimal responderが存在し、それらは由来患者の薬剤反応性と良く相関することが明らかとなった。さらに、疾患進行や薬剤の効果を反映するサロゲートマーカーとして、ニューロフィラメント軽鎖(NF-L)や過酸化脂質を同定した。これらの結果により、ROPALS試験は、ヒト疾患iPS細胞を用いたモデリングや創薬に対する試金石と言える。

  • 矢吹 悌, 塩田 倫史
    セッションID: 2023.2_AG-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/14
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    プリオン性タンパク質の一つである α-シヌクレイン (αSyn) の封入体はシヌクレイノパチー (パーキンソン病、レビー小体型認知症など) の神経病理学的特徴であるが、細胞内における αSyn 凝集機構は不明である。これまでに私達は、核酸高次構造であるグアニン四重鎖 RNA (RNA G-quadruplex; G4RNA) が遺伝性神経変性疾患である脆弱X関連振戦/失調症候群 (FXTAS) の発症に関わるプリオン性タンパク質のゾル-ゲル相転移を誘導し、凝集体形成を促進することを見出した (Sci Adv. 2021)。本研究では、G4RNA が αSyn ゾル-ゲル相転移を起こし、神経変性を誘導することを見出した。αSyn 凝集シーズである preformed fibril (PFF) を神経細胞に処置すると、リン酸化陽性の凝集体となる前に P 顆粒と呼ばれる液-液相分離 (LLPS) 体に局在することがわかった。精製 αSyn は分子クラウディング条件下において単独で液滴を形成し相分離するが、細胞から抽出した RNA を処置するとゾル-ゲル転移した。 RNA Bind-n-seq 及びゲルシフトアッセイ解析から、精製 αSyn は G4RNA に特異的に結合し、G4 構造を形成しない RNA にはほとんど結合しなかった。また、G4RNA を添加することで αSyn はゾル-ゲル相転移を引き起こし、凝集体を形成した。細胞実験において、αSyn は PFF 処置によりG4RNA と共凝集するが、それに先駆けてG4RNA 顆粒が細胞内で増加・肥大化していた。この結果は、細胞ストレスによる G4RNA 増加・会合がα-Syn 凝集の足場を形成する可能性を示唆している。そこで、培養神経細胞およびマウス黒質ドパミン神経細胞において光遺伝学的手法を用い G4RNA を会合させたところ、内在性 α-Syn が共凝集し、神経機能障害が誘導された。さらに、RNA 免疫沈降シーケンス解析により、αSyn 凝集に寄与する内在性 G4RNA を同定した。最後に、G4 作用薬は G4RNA による αSyn 凝集を抑制し、神経機能障害が改善した。これらの結果は、G4RNA 相転移が αSyn 凝集による病原性獲得のキーファクターであることを示唆している。

  • 倉内 祐樹
    セッションID: 2023.2_AG-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/14
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    私たちは天気の移り変わりを感知してその変化に適切に対処できるが、唯一、気圧の変化に対処する術はなく、体調不良を感じても何もできない。これは、気圧変化がもたらす“えも言われぬ感覚”を私たちが理解できていないからである。この感覚を明らかにするためには、気圧変化の情報を感知・処理する一連の生体システムをそれぞれ理解しなければならないが、そもそもの疑問は、“気圧が変化すると、本当に私たちの体の中では何か変化が起こっているのか?”である。我々はこれまでに、独自開発した気圧変動実験系と、自由行動条件下でのリアルタイムモニタリングデバイスを活用し、気圧変動と生体パラメーター変動の関係性について研究を進めてきた。本シンポジウムでは、脳内に埋植できる超小型CMOSイメージングデバイスによる脳血流モニタリング、熱電対デバイスによる脳温モニタリング、そして心電図デバイスによる心拍変動モニタリングの結果について紹介する。特に、個体差・性差に関する情報を共有し、気圧変動を感知・処理する生体システムについて議論したい

  • 船水 章大
    セッションID: 2023.2_AG-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/14
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    私達の研究は,脳の意思決定の神経基盤の候補として,機械学習のアルゴリズムに注目している.脳活動と機械学習の共通点や違いを,マウスで検証する.私達の最近の研究では (Ishizu et al, bioRxiv, 2023),マウスで,感覚刺激と報酬情報を統合する大脳新皮質の回路に注目した.ベイズ推定では,曖昧な感覚刺激に基づく行動決定では,感覚刺激だけでなく,報酬量や感覚刺激の予測 (事前知識) が,行動の最適化に重要である.このとき事前知識は,将来の行動の更新のために,脳内で保持される必要がある.意思決定の神経基盤検証で,従来研究の多くは,単一の脳領野の神経活動に注目した.そのため,大脳新皮質の複数領野が,どのように事前知識と感覚刺激を統合し,行動に結びつけるかは不明瞭である.本研究は,頭部固定マウスで,音周波数弁別課題を実施し,内側前頭前野・運動野・聴覚野の神経活動を電気生理学的に計測した.

     音周波数弁別課題でマウスは,音刺激の周波数 (低・高) に応じた左・右スパウトの選択で,報酬のスクロース水を得た.同課題は,事前知識の導入のために,左右スパウトの報酬量を約100試行で切り替えた (報酬量バイアス:3.8-1.0 ulから1.0-3.8 ul, 左-右).また,事前知識と感覚刺激のバランス操作のために,音提示時間を0.2秒・1.0秒用意した (音の不確実性操作).音提示時刻が1.0秒の長音試行の場合,0.2秒の短音試行に比べて,マウスの周波数弁別は正確であり,報酬量依存の行動バイアスも少なかった.この結果は,マウスが音の周波数だけでなく,音の長さや報酬量に依存して,行動を選択することを示す.

     上記の課題時に,内側前頭前野・聴覚野・二次運動野の神経活動を,Neuropixels 1.0で計測した.内側前頭前野の細胞群は,事前知識と感覚情報を統合し,行動選択に重要な価値関数を表現した.一方,聴覚野と二次運動野の細胞集団は,それぞれ,音刺激と行動選択を選択的に表現した.これらは,マウスの大脳新皮質による局所表現を示唆する.一方,機械学習での神経活動解析は,3領野全てによる事前知識表現を発見した.これらの結果は,大脳新皮質が局所表現・大域表現の両方で,ベイズ型行動選択を表現することを示唆する.

     上記の研究成果とともに,今回の発表では,音周波数弁別課題時のマウスの身体運動を,実時間駆動の人工神経回路網 (Recurrent neural network) でモデル化する試みを紹介する.この研究は将来,パソコン上で脳の神経回路を再現する「Mouse digital twin」を目指している.

  • 増田 隆博
    セッションID: 2023.2_AG-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/14
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    脳と脊髄から成る中枢神経系組織は、多種多様な細胞によって構成され、それらの複雑かつダイナミックな相互作用によって高度な機能が維持されている。その中でも、脳内免疫を担う脳内マクロファージは、実質に存在するミクログリアと、髄膜や血管周囲空間といった境界領域に存在する脳境界マクロファージに大別され、それぞれが脳の形成や組織の恒常性維持に重要な役割を果たしている。近年、1細胞解析等の研究技術の革新に伴って、これまでの明らかになっていなかった脳内マクロファージの発生・維持機構や多様性、さらには病態特異的なサブタイプの存在が次々に明らかになってきている。我々は最近、ヒトおよびマウスミクログリアの多様性および高度な可塑性を明らかにし、さらに多発性硬化症等の疾患特異的に出現するヒトミクログリアサブタイプを世界で初めて同定した。一方、脳境界マクロファージは、これまでほとんど研究が進んでいない第2の脳内マクロファージであるが、我々は独自に開発した特異的細胞機能操作ツール等と用いて、全く知られていなかった脳境界マクロファージの形成・分布メカニズムを明らかにしてきた。本講演では、研究技術の革新に伴って急速に理解が進む脳内マクロファージについて、特にその発生学的特性や疾患治療標的としての可能性という観点から、最新の知見を交えてお話ししたい。

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