日本文学
Online ISSN : 2424-1202
Print ISSN : 0386-9903
60 巻, 7 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
特集・インターテクスチュアリティの中世
  • —歴史物語など—
    大橋 直義
    2011 年 60 巻 7 号 p. 2-13
    発行日: 2011/07/10
    公開日: 2017/05/19
    ジャーナル フリー

    『大鏡』『水鏡』などの歴史物語、『平家物語』とその周辺に位置する芸能テクスト、また室町物語『さゝやき竹』を概観しながら、それぞれのテクストの相互関係性を成り立たせている引用のありかたについて検討した。特に、この種のテクストの上位構造に位置する「大きな物語」(たとえば『水鏡』で言えば葛城山の仙人の物語)の性格について、その全体像を知覚しえない物語であるとして、その下位構造にある各テクストは、「大きな物語」への回路を持ちながら、その一部分がクロノロジカルなかたちで顕在化したものと位置づけた。

  • —和歌解釈の枠組みを考える—
    内藤 まりこ
    2011 年 60 巻 7 号 p. 14-24
    発行日: 2011/07/10
    公開日: 2017/05/19
    ジャーナル フリー

    「和歌」という詩的言語には、「叙景」と呼ばれる表現方法があるとされる。「叙景」の方法は古代にまで遡るとされるが、「叙景」という言葉は明治二〇年代に初めて登場した。本稿では、まず、「叙景」の成立を明らかにし、「叙景」の方法が古典詩歌の解釈の枠組みとなるまでの過程を考察する。次に、中世の「叙景歌」と呼ばれる歌について、「叙景」の枠組みでは捉えきれない歌の構造を、人称を手がかりに解き明かす。

  • —真名本から仮名本へ—
    会田 実
    2011 年 60 巻 7 号 p. 25-33
    発行日: 2011/07/10
    公開日: 2017/05/19
    ジャーナル フリー

    一般に曽我物語には大きく分けて真名本と仮名本との二種のテクストがあるが、両テクストの様相には大きな隔たりがある。真名本は、富士という〈場〉に収束してその主題を開示していると思われる。これは、東国に樹立された政権が富士という東国最大の地主神との折り合いをどうつけるかという現実が根底にあったからだろう。曽我兄弟の御霊化も、この富士という地主神と支配者としての頼朝との葛藤に関わることではじめて意味を持つのである。そしてこの物語で地獄と認識される富士という〈場〉は、古来から見られる神仙性のコード変換として物語の基層に意味づけられたものであった。

    これに対し仮名本は、真名本に対照すれば、地主神と支配者との切実な葛藤状況を脱した(御霊鎮魂の終結)上にあるように見える。真名本のいわば富士との縦関係のやりとりの中に収束して形成される構造に比して、仮名本は、意味の摩滅した言葉が無限定に拡散し横に拡がる様相である。そこでは意味の表層が過剰に消費された喧噪や多声環境が形成されている。従来荒唐無稽と言われた所以であるが、この多声性をどう考えるかが日本という土壌の心性を考える上でも重要なのではないか。なぜなら、近世に至って盛行するいわゆる曽我物はまさにこの多声性の上にあるからである。

  • —近松『女殺油地獄』と親鸞—
    正木 ゆみ
    2011 年 60 巻 7 号 p. 34-43
    発行日: 2011/07/10
    公開日: 2017/05/19
    ジャーナル フリー

    近松晩年の世話浄瑠璃『女殺油地獄』では、主人公の不良青年与兵衛が、日頃から自分に親切に接してくれていたお吉を殺害する。近松は、殺されたお吉の「救い」は保証したが、結末部分で悔悟した与兵衛の「救い」を保証することはなかった。本稿では、そのような二人の「救い」のゆくえを近松が対比して描いたところに、お吉が、深く信仰していた親鸞聖人の教えと通底するものが見出されることを指摘した。

  • —『通俗書簡文』を手がかりとして—
    榊原 千鶴
    2011 年 60 巻 7 号 p. 44-52
    発行日: 2011/07/10
    公開日: 2017/05/19
    ジャーナル フリー

    明治期に多く作られた女性向け書簡文範のなかには、中世の軍記物語を素材のひとつとするものがある。たとえば、樋口一葉晩年の作品として広く読まれた『通俗書簡文』では、一葉による本文とは別に、鼇頭が設けられている。両者は乖離することなく、書簡文範というひとつの世界を創造した。その世界で軍記物語は、どのような役割を果たしたのか。本稿では、近代における中世文学の再生の意味を、戦時下での女性像という面から考えた。

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