日本文学
Online ISSN : 2424-1202
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63 巻, 7 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
特集・中世の表記と文体
  • ――『鎌倉遺文』所収願文を中心に――
    山本 真吾
    2014 年 63 巻 7 号 p. 2-11
    発行日: 2014/07/10
    公開日: 2019/07/20
    ジャーナル フリー

    仏教儀礼文の一つである願文は、元来、対句を基調とする漢文体で記され、鎌倉時代になっても基本的には継承される。しかし、この時代になると仮名書きの願文が出現するようになる。鎌倉時代の願文における漢文体から仮名書きへの表記体の変換は、文体のうえでも変化をもたらし、漢文訓読体を基調としつつも和文の語彙、語法の混入を許容する契機を与えた。そして、この傾向は平仮名書き願文において早く進み、片仮名書きの願文はこれに比してなお漢文訓読体にとどまることが分かった。

  • ――新古今集以降の古筆切を対象として――
    佐々木 孝浩
    2014 年 63 巻 7 号 p. 12-20
    発行日: 2014/07/10
    公開日: 2019/07/20
    ジャーナル フリー

    和歌一首をどこで改行し何行で記すかという書式は平安末期には成立しており、定家も『下官集(げかんしゆう)』に関連する記述を遺している。三大手鑑に収載される『新古今集』以降の勅撰集の古筆切八〇葉五七種を対象として、装訂や書形とも関連させつつ、和歌の書式を確認し、行数の違いによる差異のあり方やその意味について考察し、特に一般的な二行書から一行書になる際に起こる、漢字表記の増大化傾向について具体的な検討を行った。

  • 平野 多恵
    2014 年 63 巻 7 号 p. 21-34
    発行日: 2014/07/10
    公開日: 2019/07/20
    ジャーナル フリー

    釈教歌が盛行しはじめる平安時代中期から、釈教歌には二つの文体があった。一つは、漢訳仏典を和語に翻訳して詠むことで、もう一つは漢語による仏教語をそのまま詠み込むことである。前者は経典の内容を詠む法文歌に見られる。当初は経典内容の叙述に詠み手の解釈や心情を加えた二元的構造の歌が多かったが、後に四季の叙景歌や恋歌そのものへと変化した。後者は僧侶の法縁歌・述懐歌に特徴的で、伝教大師や弘法大師などの高僧の伝承歌を始発とする。和語の使用を原則とする和歌が仏教語を許容したのは、当時の和歌が翻訳不可能な仏教語の力を必要としたからだろう。

  • ――〈左右〉の意識と左書きの来歴――
    寺島 恒世
    2014 年 63 巻 7 号 p. 35-44
    発行日: 2014/07/10
    公開日: 2019/07/20
    ジャーナル フリー

    歌仙絵の文字表記は、時代とともに多様化する。後代に受け継がれる業兼本三十六歌仙絵の書式は、歌合を志向したもので、その系譜に左方の歌を左から書く形が登場する。俊忠本等の資料に基づけば、その左書きの由来は歌合の場における声への関心にあり、受け継がれる中世の扁額では神への奉納と関わっていた可能性も窺われる。後代定着する顔の向きに添う書字方向の規則など、対幅書画等先例との相関を含め、改めて問い直されてよい。

  • ――『桂川地蔵記』の考察を起点として――
    佐倉 由泰
    2014 年 63 巻 7 号 p. 45-57
    発行日: 2014/07/10
    公開日: 2019/07/20
    ジャーナル フリー

    応永二十三年(一四一六)七月、桂川のほとりに、地蔵菩薩の石像が忽然と現れたという。その地蔵菩薩像の「示現」が巻き起こした祝祭の渦を描き出した『桂川地蔵記』は顧みられることの稀な書であるが、その記述には、室町時代の真名をめぐるリテラシーとレトリックの水準の高さが現れている。この真名表記テキストは、類書、往来物としての本質を生かし、名詞の列叙、用言の列叙を駆使して、世界の豊かさ、活力と秩序を表象している。そこには、吏の漢学から類書・往来物の漢学へと展開した数百年にわたる知の伝統が息づいている。この広範に流通した知の系脈の内実と意義を捉えることは、古代から中世に至る日本の表現史、文化史、学問史の帰趨を明らかにする上で不可欠である。

  • 渡辺 麻里子
    2014 年 63 巻 7 号 p. 58-68
    発行日: 2014/07/10
    公開日: 2019/07/20
    ジャーナル フリー

    談義や論義の場で生まれた書物には、時折、その場を彷彿とさせる表現が見られる。論義書の伝静明作『天台問要自在房(百題自在房)』十巻は、「申されずるでそう」「申されまじいて候」等、口語表現が多用されている点でも注目されてきた。本稿では、本書の他に、『鷲林拾葉鈔』や『轍塵抄』などの談義書について取り上げ、談義書に特徴的な表現について論じる。また、漢字の表記、特に読み方にこだわる表記をめぐる問題について検討する。

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