日本語教育
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138 巻
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【特集】多文化共生社会と日本語教育
寄稿論文
  • ――持続可能な協働実践の展開を目指して――
    野山 広
    原稿種別: 研究論文
    2008 年 138 巻 p. 4-13
    発行日: 2008年
    公開日: 2022/10/30
    ジャーナル フリー

     本稿では,まず,「多文化共生」ということばの意味について考える。次に,多文化共生と地域日本語教育支援に関して,先行研究からみえてくることを概観するとともに,支援の位置付けについて,日本語教育政策研究という観点から言及する。そして,総務省の多文化共生推進プランの展開や自治体の動向について触れた後,文化庁が展開した地域日本語教育・学習支援の充実に向けた政策・施策について概観する。さらには,日本語教育政策の転換年として捉えられる2007年の国の政策動向や,自治体における,これまでの支援方策の展開や,日本語を通した協働実践活動の事例等について紹介する。最終的には,持続可能な実践の展開を目指すためには,つなぎ役であるコーディネータの育成や確保が特に重要であることを改めて指摘しながら,今後の支援の在り方について展望したい。

  • 西口 光一
    原稿種別: 研究論文
    2008 年 138 巻 p. 24-32
    発行日: 2008年
    公開日: 2022/10/30
    ジャーナル フリー

     在住外国人がそれに参加することで日本語を習得していくという要素は,地域日本語活動の重要な要素である。しかし,「日本語の習得支援=日本語を教えること」ではない。一方,海外で行われている成人に対する第二言語教育に目を向けてみると,しばしば議論される「生活日本語」と対比して「おしゃべり日本語」というものが抽出できる。「おしゃべり日本語」の能力は文化的に生きる人間の重要な要素であり,現代の自然習得者は,ある程度数が限られた日本語話者との多かれ少なかれ個人的な交流を継続的に続けることでそのような日本語力を自然に習得している。地域日本語教室は,在住外国人にそれに類した日本語習得環境を提供できる環境条件を備えている。その習得環境は,個々の人の現在の日本語力には配慮しながらも,市民ボランティアが在住外国人と対等な人間として自然に接して交流することで,巧まずして構成できる自然習得環境である。

  • ――ドイツ語教育を中心として――
    平高 史也
    原稿種別: 研究論文
    2008 年 138 巻 p. 43-52
    発行日: 2008年
    公開日: 2022/10/30
    ジャーナル フリー

     本稿では,前半でドイツにおける移民の受け入れの歴史を概観し,移民に対する言語教育の変遷について論じる。後半では,第2言語としてのドイツ語教育の現状を顕著に示す3つのトピックを扱う。まず,近年注目を集めているヘッセン州のケースを例に,就学前の移民の子どもに対するドイツ語教育について論じる。次に,ニーダーザクセン州を事例として,小中学校で行われているドイツ語の学習支援についての方策をいくつか取り上げる。最後に,成人に対するドイツ語教育の例として,2005年に発効した「移民法」を受けて実施されている移民に対する統合コースを扱う。このコースはドイツ語教育600時間,ドイツ事情を扱うオリエンテーションコース45時間からなっている。ドイツでは,外国人の統合には連邦や州だけではなく,外国人委任官や宗教団体など多様なアクターがかかわるべきであることが,「移民法」にも謳われている。

一般論文
研究論文
  • 大工原 勇人
    原稿種別: 研究論文
    2008 年 138 巻 p. 53-62
    発行日: 2008年
    公開日: 2022/10/30
    ジャーナル フリー

     近年,日本語のフィラーを学習者に指導すべきだという主張が活発になされているが,フィラーを効果的に指導するためには,個々のフィラーの用法に関する知見が必要だろう。本稿は,「あの(ー)」・「その(ー)」という2種のフィラーの用法を明らかにした。まず,これらのフィラーはア系・ソ系指示詞が文法化したものであり,その性質を保持していると仮説を立て,アンケート調査およびコーパスの調査の結果によって,それを検証した。その結果,「その(ー)」はソ系指示詞の性質の保持により生起環境が制約されること,「あの(ー)」とア系指示詞との連続性はそれほど強固ではなく生起環境の制約がほとんどないこと,「その(ー)」の用法には,再提出型,推論型,不定型があり,それぞれ特有の効果を派生すること,不定型の「その(ー)」は「あの(ー)」に置き換えにくいこと,が明らかになった。

  • ――中国語を母語とする日本語学習者(JFL)のクレームへの応対を中心に――
    服部 明子
    原稿種別: 研究論文
    2008 年 138 巻 p. 63-72
    発行日: 2008年
    公開日: 2022/10/30
    ジャーナル フリー

     中国でビジネス日本語を学ぶ日本語学習者(JFL)を対象に,ビジネスにおいて必須業務である電話会話に焦点をあて,人間関係を維持するために重要であるといわれる終結部でどのようなやりとりが行われるかを観察した。

     クレーム場面の応対という設定でロールプレイを実施し,先行研究で学習者の問題点として指摘されてきた,(1)終結の前触れとして現れる終結のメタメッセージを理解することができるか。(2)人間関係を再確認する機能を持つ発話にはどのような表現が現れるか。(3)自ら円滑に別れの最終確認が行えるかについて日本語母語話者との比較から分析を行った。

     その結果,段階を踏まず唐突に終結したり,なかなか別れを切り出せない傾向が示された。また,人間関係を再確認する機能発話がないケースや特徴的な表現が見られた。

     これに対し,本研究では先行研究で指摘されてきた理由に加え,人間関係を再確認する発話に対する社会文化的規範の相違の可能性を指摘した。

調査報告
  • 小西 円
    原稿種別: 調査報告
    2008 年 138 巻 p. 73-82
    発行日: 2008年
    公開日: 2022/10/30
    ジャーナル フリー

     近年,コミュニケーション活動に応じた文法記述や日本語の使用実態調査が求められている。本稿はそのような観点から文法記述を行う一例として「なければならない」に代表される義務の表現を取り上げ,コーパスを用いてそのバリエーションの出現傾向を調査した。また,「話しことば/書きことば」というラベルの暖昧さを指摘し,調査データとなるコーパスを「媒体」「場」「聞き手との相互作用」の3つの言語外的要素から規定し,具体的な出現場面から義務の表現の各バリエーションの出現傾向を記述した。調査結果を簡単にまとめると,音声言語のコーパスでは「なきゃ+いけない」という形式が高い確率で出現し,文字言語では「なければ+ならない」という形式が義務の表現としてほぼ固定的に使用される。「ないと」を用いた義務の表現は,特に音声言語のコーパスにおいて,日本語能力試験出題基準に示されている「なくては+いけない」という形式よりも多く出現する。

  • 中山 恵利子, 陣内 正敬, 桐生 りか, 三宅 直子
    原稿種別: 調査報告
    2008 年 138 巻 p. 83-91
    発行日: 2008年
    公開日: 2022/10/30
    ジャーナル フリー

     日本語教育におけるカタカナ教育(カタカナ文字とカタカナ語の両方を含めた教育)の実態を教育現場の調査から明らかにした上で,その実態から窺える問題点を指摘した。調査の結果からは,多くの機関で,カタカナ文字もカタカナ語もひらがな文字やひらがな語,漢字や漢語とは異なり,あまり時間をかけることなく使用教材に出現したときに教える程度であることがわかった。それが学習者のカタカナ苦手意識や,カタカナ教育への要望につながる要因の一つになっていると考えられる。この実態の背景にあるのは,日本語教師にカタカナ語が日本語であるという認識が薄いこと,日本語教育で扱われるカタカナ語が実際に比べ少ないこと,教師用参考書等でも他の文字種やそれらの文字種で表記される語彙と同等の扱いをされていないこと,などである。従来のカタカナ教育を現代日本語の実態にあうものにするためにも,教師の意識改革および教材や教授法の開発が急がれよう。

実践報告
  • ――中国の日本語専攻出身の大学院生を対象に――
    砂川 有里子, 朱 桂栄
    原稿種別: 実践報告
    2008 年 138 巻 p. 92-101
    発行日: 2008年
    公開日: 2022/10/30
    ジャーナル フリー

     中国での日本語専攻の学部教育は,日本語の技能訓練を重視し,研究能力の育成に十分手が回らないことが多い。そのため日本語専攻出身の大学院生たちは「受身型」「独習型」の学習スタイルに慣れ,自主的・協働的な研究態度の基に成り立つ学術的コミュニケーション能力が身に付きにくいという問題を抱えている。筆者らはこの種の大学院生を対象に,上記の問題を克服する目的でジグソー学習法を取り入れた授業を行った。本稿ではその実践報告を行い,学生に実施したアンケートをもとにその活動を評価した。その結果,大多数は学術的コミュニケーションの技能獲得や研究に対する自己認識の高まりに達成感を得,「独習型」から「協働型」へ,「受身型」から「自主型」への意識の芽生えが確認できた。時間配分や論文の選択,教師の関わり方など運営面では課題を残す試行であったが,自主的・協働的な研究態度を自覚させる試みとしては一定の成果が認められた。

  • 吉田 美登利
    原稿種別: 実践報告
    2008 年 138 巻 p. 102-111
    発行日: 2008年
    公開日: 2022/10/30
    ジャーナル フリー

     作文が苦手な学習者は「何を書けばよいか」が分からないことが多い。そこで筆者は「アイディアシート」という構想支援のためのタスクシートを開発した。このシートは,思考プロセスを書き込むことで思考を可視化し,発想を広げられるようになっている。研究目的は,アイディアシートを使った作文構想活動の効果を検証することであった。調査対象者は,実験群15人と統制群12人で,全て中国人学習者とした。まず,予備調査として両群に第一作文を書かせた。次に,実験群のみ10分間シートを使って構想活動を行った後,両群に第二作文を書かせた。アイディアシートの効果を調べるため2(実験群・統制群)×2(第一作文・第二作文)の2要因分散分析を行った結果,実験群で内容(論理的整合)得点の向上と,文節数の増加という効果が見られた。

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