日本語教育
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146 巻
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【特集】心理学の観点から見た第二言語としての日本語教育
寄稿論文
  • 飯高 京子
    原稿種別: 寄稿論文
    2010 年 146 巻 p. 4-17
    発行日: 2010年
    公開日: 2017/03/21
    ジャーナル フリー

     日系移住労働者子女の言語やコミュニケーション発達の遅れは,人生の最も大切な初期母子交流不足から生じやすい。その結果,認知発達や自己像形成も遅れる。さらに幼児期の養育環境が貧しいと,相手の話を注意して聞く態度や一定時間集中して課題に取り組む姿勢が育ちにくい問題がある。したがって子どもたちは就学後の学習活動に適応することが難しい。彼らの落ち着きのなさや学習効果の欠如は,神経学的素因による発達障害の臨床像に類似して誤解されやすく,専門家の助言が必要な場合も多い。彼らは不登校になりやすく日本語読み書き能力も不足しており,就職はきびしい。日本社会への適応も困難になる。ゆえに就学前の子どもたちへの指導は非常に大切である。日本語だけでなく,学習活動準備や認知発達促進を意図したプレスクール実施指導書の紹介がなされた。同時に日本語教師の待遇改善と外国人移住労働者子女への支援システム形成の重要性も強調された。

  • 岩下 倫子
    原稿種別: 寄稿論文
    2010 年 146 巻 p. 18-33
    発行日: 2010年
    公開日: 2017/03/21
    ジャーナル フリー

     本稿で報告する研究はMackey & Philp (1998) を基盤に2種の文法項目における集中言い直し訓練の効果を調査したものである。12週間にわたる母語話者との毎週1時間の会話練習に参加した5人の学習者が後半の6週間,会話練習前に15分言い直し集中訓練を受けた。訓練前後に行った算出テストの成績を比べた結果,先行研究の結果と同様に学習者の2種の文法項目の使用における正確度が向上した。しかし研究対象となった2種の文法項目が似通っているために,訓練前に正しく使用できた項目の正確度が訓練後一時的に後退したが,すぐに回復した。その後言い直し訓練の効果は六か月後に査定したテストの結果においても正確度は後退しなかった。本研究の結果は現場の教師の間違い訂正ストラテジーに応用することには無理があっても,フィードバックの効用性に新しい局面を展開する。

  • ――伝達目的での読解と作文の実験とともに――
    柏崎 秀子
    原稿種別: 寄稿論文
    2010 年 146 巻 p. 34-48
    発行日: 2010年
    公開日: 2017/03/21
    ジャーナル フリー

     より良い教育のためには,その対象たる学習者の心理を知ることが不可欠である。心理には情意的側面だけでなく認知的側面もあり,学習者の内部でどのようなことが起きているのか,その認知過程を踏まえることが大切である。本稿では,文を越えたまとまりである文章の理解・産出過程が,単語や文の理解に加え,知識による推論も含んだ,全体として結束した一貫性ある心的表象を形成する過程であることを示し,心理学諸研究を概観した。その上で,相手に伝える目的を持った読解と作文との融合実験から,伝達目的を持つことが想定相手の理解も推測した状況モデルの構築と産出を促進することを示し,かつ,実証的研究の取り組み方と日本語教育への示唆を述べた。さらに,第二言語としての日本語教育における最近の心理学的研究に触れ,認知過程を踏まえた教育の発展を希求した。

  • ――異言語間の形態・音韻・意味の類似性をめぐって――
    邱 學瑾
    原稿種別: 寄稿論文
    2010 年 146 巻 p. 49-60
    発行日: 2010年
    公開日: 2017/03/21
    ジャーナル フリー

     本稿では,日本語学習者が日本語の漢字語彙をどのように処理するのかを,認知心理学及び第二言語習得の分野における単語認知研究の成果に基づいて考察する。近年,モノリンガルやバイリンガルを対象とした研究では,単語の処理過程において,ターゲット語の意味表象が活性化するだけでなく,ターゲット語と関連する複数の語義も活性化し,ターゲット語の処理に促進効果や干渉効果をもたらすことが明らかになっている。これらの効果は,日本語学習者でも見られることが予想される。日本語学習者の語彙処理過程で異言語間の相互作用が生じる場合は,どのような特徴をもった単語で観察されるのであろうか。また,相互作用はどのような条件で生じるのであろうか。本稿では,この問題に焦点を当て,先行研究を概観しながら議論を展開する。そして,日本語をはじめとした言語の学習における情報処理のメカニズムに迫る。

  • 田中 共子
    原稿種別: 寄稿論文
    2010 年 146 巻 p. 61-75
    発行日: 2010年
    公開日: 2017/03/21
    ジャーナル フリー

     ソーシャルスキルは,対人関係の形成・維持・発展に役立つ技能を指す心理学の概念であり,内容や機能に関する調査や実験が蓄積され,教育訓練の方法が発達している。異文化圏では,挨拶,主張,遠慮,社交辞令などの対人行動が未知であると,困難や誤解が生じる。そこで,文化的行動の背景や異文化交流の要領として,異文化圏での人付き合いに役立つ認知や行動を抽出し,社会的行動の学習を試みるのが,異文化間ソーシャルスキル学習である。本稿では,在日留学生を対象とした研究をもとに異文化適応とソーシャルスキルの関わりを論じ,この心理教育を異文化間教育として使う場合の概念枠組みと学習セッションの概略を紹介する。そして,将来的な研究課題を述べる。ソーシャルスキルが適応にどのように関わるのか,ホストとの対人関係形成,およびホスト文化への関わり方の観点から考察し,日本語教育との接点を探る。

  • ――日本におけるアジア系留学生を対象に――
    一二三 朋子
    原稿種別: 寄稿論文
    2010 年 146 巻 p. 76-89
    発行日: 2010年
    公開日: 2017/03/21
    ジャーナル フリー

     多言語・多文化社会では,異文化接触場面によりさまざまな心理的変容が起こり,そうした変容は共生のための学習と捉え得る。本稿では,接触場面でのコミュニケーションで行われる異なる意識的配慮に焦点を当て,意識的配慮がどのような要因で学習されるかを明らかにすることを試みる。アジア系留学生150名を対象に質問紙調査を行い,因子分析によって共生的学習に関わる要因と意識的配慮を特定し,次に,パス解析によって共生的学習の過程を考察した。その結果,意識的配慮の学習には自他の行動に関する信念が複雑に関与していること,その信念には日本での留学生活の質や日本人の態度などが影響を与えていることが明らかになった。

  • ――研究方法と個人差について――
    村上 京子
    原稿種別: 寄稿論文
    2010 年 146 巻 p. 90-102
    発行日: 2010年
    公開日: 2017/03/21
    ジャーナル フリー

     ここ四半世紀の「日本語教育」誌に掲載された実証的研究105編を対象に,データ収集の方法,取り上げられた要因,分析方法について分類した結果,学習者のレベルや母語,学習環境間の比較が中心であることがわかった。これらのグループ間の差を調べることは現状の記述にはなっても,その差異を生み出す原因が何であるのかを探求することは難しい。なぜならば,その差異を生み出す原因をレベルや母語,学習環境に帰してしまうと,そこで追及が終わってしまうからである。一見,母語や学習環境は学習者の習得の差を生みだす直接の原因のようにみえるかもしれないが,実際にはその中に多くの要因が含まれ,相互に関連している。その要因を分析するためには,仮説検証アプローチ,研究成果の蓄積,研究デザインの共通枠組みの構築,個人差研究のダイナミックな視点が必要であることを述べた。

研究論文
  • 萩原 章子
    原稿種別: 研究論文
    2010 年 146 巻 p. 103-116
    発行日: 2010年
    公開日: 2017/03/21
    ジャーナル フリー

     初中級の日本語学習者は,インタビューなど即時に文の産出を求められる場面では,既習の文型を用いて複文を構成するのが困難であることが報告されている(近藤2004等)。これは学習者にとって,接続助詞など文に結束性をもたらす要素は音声から把握しにくいことを示唆する。その理由としては,文の中央部分に位置する文法要素は記憶に残りにくいという現象(serial order effect)が挙げられる。本研究では,学習者に複文を音声で聞かせ,できるだけ正確に再生させる誘導模倣の手法を用い,複文のどの部分が再生困難なのかを実証した。実験の結果,学習者にとって接続助詞は他の文法項目と比較し再生が困難であり,中でも学習期間が短く複文の中央付近に位置する接続助詞は特に再生が困難であることが明らかとなった。また,文全体の意味理解に直接影響を及ぼさない要素は,文末であっても正確に再生されにくい傾向も観察された。

一般論文
研究論文
  • 今井 新悟
    原稿種別: 研究論文
    2010 年 146 巻 p. 117-128
    発行日: 2010年
    公開日: 2017/03/21
    ジャーナル フリー

     受身文は直接受身文と間接受身文に分けられてきた。所有(持ち主)受身を立てることもあるが,これも,間接受身の亜種とされることが多かった。これに対し,本稿では,所有受身が間接受身ではなく,直接受身であることを主張する。その証拠として二重対格制限,ガノ交替,主格降格と参与者数,付加詞・必須項,主語尊敬構文「お~になる」の尊敬対象,再帰代名詞「自分」の先行詞,および数量詞遊離に関しての統語論的な現象を示す。これらは先行研究でも繰り返し使われた統語的テストであるが,統一した結論に至っていない。本稿の分類により構文と意味の対応,すなわち,「直接受身=中立の意味」ならびに「間接受身=迷惑の意味」の単純な結論に収束することを示す。日本語教育にあっては,本稿の言語学的な裏づけにより,所有受身を間接受身とせず,構文と意味の明確・単純な対応を示すことで混乱なく受身の指導ができる。

  • ――「一次的ことばと二次的ことば」の観点による言語発達の限界と可能性――
    菊岡 由夏, 神吉 宇一
    原稿種別: 研究論文
    2010 年 146 巻 p. 129-143
    発行日: 2010年
    公開日: 2017/03/21
    ジャーナル フリー

     本研究は「生活者のための日本語教育」構築の基礎として,外国人を含む就労現場の言語活動に着目し,それを通した第二言語習得過程での言語発達の限界と可能性を明らかにすることを目的とした。具体的には,外国人が働く工場でフィールドワークを行い,その言語活動を「一次的ことばと二次的ことば」の観点から分析した。その結果,外国人作業員は一次的ことばによる作業員同士の言語活動には堪能な一方,二次的ことばによる「他者」との言語活動には困難を生じることがわかった。これは二次的ことばが一次的ことばとは異なる「自覚性と随意性」という言語的思考を要するためだと考えられた。換言すれば,これは無自覚な言語使用は可能でも自覚的な言語使用が不十分だという第二言語習得過程での言語発達の限界を示す現象だと考えられた。最後に,この限界を超え可能性を生かす日本語教育が目指すべきものとして,「越境のための日本語」という概念を提示した。

  • ――『初級日文模範教科書』から『日本語入門篇』へ――
    川上 尚恵
    原稿種別: 研究論文
    2010 年 146 巻 p. 144-158
    発行日: 2010年
    公開日: 2017/03/21
    ジャーナル フリー

     本稿では,北京近代科学図書館で編纂発行された日本語教科書『初級日文模範教科書』と『日本語入門篇』の分析を行い,編纂背景をふまえ,占領初期の華北における日本語教育の一側面を明らかにした。『初級日文模範教科書』は,国定国語教科書と内容が重なる部分と例文・会話文の部分からなっていた。教科書に付された「教授参考」では,対訳的ではない中国語を利用した教授が提唱されており,日本語の学習過程をふまえた学習者への配慮が見られた。しかし,それを入門用教科書として再編纂した『日本語入門篇』では,中国語での説明が増加し,「読書的な対訳法」に近づいた教科書となった。両者の編纂には日本人図書館職員・中国人日本語講師が関わっていたが,特に『日本語入門篇』には中国人の伝統的日本語学習法が強く反映していた。今後の中国人の日本語学習・教育史をふまえた研究の必要性を指摘した。

調査報告
  • 山本 冴里
    原稿種別: 調査報告
    2010 年 146 巻 p. 159-173
    発行日: 2010年
    公開日: 2017/03/21
    ジャーナル フリー

     本稿は,文部省の刊行した「教育白書」(1953~2000)において,日本語教育に関係する内容がどのようなカテゴリで提出されていたのかを調査した結果である。調査の結果,当初「教育機会の均等」を謳うカテゴリ内で扱われていた日本語教育関連内容は,1980年以降「国際化」の文脈で扱われるという形が成立・定着したことや,1988年以降,「国際化」の名のもとに,より充実した対外交流・学習が志向されると同時に,「日本」的であることが価値づけられ称揚されていたことなどがわかった。日本語教育は,基本的には前者の流れの内にあるが,後者の機能もまた併せ持つものであると考えられる。

研究ノート
  • ――非対格自動詞の場合を中心に――
    庵 功雄
    原稿種別: 研究ノート
    2010 年 146 巻 p. 174-181
    発行日: 2010年
    公開日: 2017/03/21
    ジャーナル フリー

     中国語話者は漢語の知識があるために習得が容易な場合もあるが,日中両言語の間の「ズレ」のために習得が阻害される場合もある。本稿では漢語サ変動詞のうち,非対格自動詞の場合について,アンケート調査を用いて中国語話者による習得状況を見た。その結果,学習者の回答に「される」が相対的に高い割合で見られるものと「される」がほとんど見られないものが存在することがわかった。これは英語のL2習得で主張されている「非対格性の罠」の例の一つと考えられる。さらに,日本語能力がより高い中国語話者に対しても同じ調査を行い,その後フォローアップインタビューを行った。その結果,事態の成立に「外的な力」が感じられるか否かが「される」の使用動機となっていることが示唆された。

  • 澤邉 裕子
    原稿種別: 研究ノート
    2010 年 146 巻 p. 182-189
    発行日: 2010年
    公開日: 2017/03/21
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,韓国の高校で日本語を学ぶ高校生と日本の高校で韓国語を学ぶ高校生間における交流学習の意義を質的研究の手法を用いて考察することである。高校の第二外国語教育としての日本語教育,韓国語教育の共通点としては「生きたコミュニケーション活動と文化理解」「学習者志向・学習者参加型の活動」が内容・方法の指針とされていることが挙げられる。本稿ではこれらを考慮した上でデザインされた交流学習について,参加者に対し自由記述型アンケートとインタビューを行い,質的研究のグラウンデッド・セオリーを援用して結果を分析した。その結果,共に学び合う仲間の存在が意識され,言語面と文化面において学習意欲が高まり,交流活動に積極的に関わろうとする態度が形成される等の意義が示唆された。

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