日本語教育
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163 巻
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
一般論文
研究論文
  • ――横断調査から示唆される語彙力の「伸び」――
    西川 朋美, 細野 尚子, 青木 由香
    原稿種別: 研究論文
    2016 年 163 巻 p. 1-16
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/04/26
    ジャーナル フリー

     本稿では,日本生まれ・育ちの日本語を第二言語とする(以下,JSL)子どもの中にも,日本語モノリンガル(以下,Mono)にとっては“簡単な”和語動詞が十分に使いこなせていない子どもがいることを指摘した西川他(2015)の報告に,JSL・Mono各グループ内の学年間の語彙力の違いに関する検証を加える。研究1では,小2~中1のJSL163名とMono1,333名について,合計得点の変化を量的に分析し,JSL・Mono共に概ね学年とともに得点が上昇するが,JSLはMonoに追いついてはいないことを明らかにした。研究2では,Mono幼稚園児60名のデータも加え,各アイテムの正答率の変化を検証した。JSL・Mono共に,自身の経験が乏しい動作に対応した動詞・用法が苦手だが,JSLの場合は,経験に伴う自身の経験の蓄積が,Monoのようには日本語語彙の習得には結びついていない例があることを明らかにした。

調査報告
  • ――インターネット調査の結果から――
    嶋津 拓
    原稿種別: 調査報告
    2016 年 163 巻 p. 17-31
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/04/26
    ジャーナル フリー

     海外に対する「日本語の普及」は,今日,国際文化交流事業の「重点領域の一つ」とされている。しかし,この「日本語の普及」という営みに対する日本国民の意識に関しては,それに焦点を合わせた総合的かつ大規模な調査が,過去に一度も実施されたことがない。

     このような状況を踏まえ,筆者は日本国籍を有する成年男女約5,400人を対象に,彼らの日本語普及事業に対する意識に関し,インターネット調査を行った。その結果,日本語学習者を「増やす」という営み(日本語普及事業)は,国際文化交流事業全体の中で必ずしも優先度の高い事業とは見なされていないこと,また,とくに若い世代において,日本語学習者が「増える」という現象に比べて高くは評価されていないこと等がわかった。さらには,日本語普及事業のみならず,日本語学習者の増加という現象に対しても,世代間で意識の違いがあることがわかった。本稿では,この調査結果の概要について報告する。

  • ――主節末の推量のモダリティを中心に――
    梁 婷絢
    原稿種別: 調査報告
    2016 年 163 巻 p. 32-47
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/04/26
    ジャーナル フリー

     本稿では,韓国人中上級日本語学習者(韓国人学習者)と日本語母語話者の作文コーパスを用いて,主節末に現れる推量のモダリティを中心に仮説条件として使用された条件表現「~と」の分析を行ない,韓国人学習者の条件表現「~と」の使用実態を明らかにすることを試みた。その結果,次のようなことが分かった。1)韓国人学習者は仮説条件「~と」の後件に推量のモダリティ,特に「と思う」を多用する傾向があるが,日本語母語話者の使用例はあまり見られない。この背景には,日本語学習者全般の「と思う」の多用傾向と「~と」を用いる文の機能に関する認識の違いがあると思われる。2)韓国人学習者が用いた仮説条件「~と」の多くは「~ば」の誤用であり,韓国人学習者は中上級レベルになっても「~と」と「~ば」を混同している。韓国人学習者の「~と」と「~ば」の混同を減らすためには,「~と」と「~ば」の前件と後件の意味的関連性の違いを理解させる必要がある。

  • 岡田 美穂, 林田 実
    原稿種別: 調査報告
    2016 年 163 巻 p. 48-63
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/04/26
    ジャーナル フリー

     本研究は,①「あの喫茶店コーヒーを飲む」のような誤用がどのような用法の「に」と動作場所を表す「で」の混同によるものであるかに焦点を当て,日本語学習者の「に」と「で」の習得の様子を探ったものである。まず,①の「に」を用いるという中級レベルの中国語話者計47人に対し翻訳調査などの予備調査を実施した。次に,日本語能力試験のN2に合格している中国語話者49人に対し「あの食堂(に・で・を・から)食事する」のような格助詞選択テスト式の調査を行い,49人の内10人にフォローアップインタビューを行った。回帰分析の結果,①の「で」→「に」は移動先を表す「に」と動作場所を表す「で」の混同による可能性があることが分かった。日本語学習者の習得は「場所への移動がある」と判断された場合に①の「に」が産出されるという段階を経て,その後,移動先を表す「に」と動作場所を表す「で」を正しく用いる段階に至るのではないかと考えられた。

  • 米澤 陽子
    原稿種別: 調査報告
    2016 年 163 巻 p. 64-78
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/04/26
    ジャーナル フリー

     本調査では,二人称代名詞「あなた」に関する日本語母語話者の使用意識を調べた。調査結果から,聞き手の社会的立場が上の場合は「あなた」はほとんど使用されず,対下位者・対同等者の場合でも,「まったく使わない」という回答の方が多いことがわかった。また,「あなた」の使用は,相手との社会的関係によってよりも,状況や場面によるところが大きいということが確認された。調査では「あなた」不使用の理由,またもし使用するなら,どのような場面でどのような相手に使用しうるのかも調べた。調査結果をもとに,現代日本語における「あなた」という言葉の本質的な機能,それが社会文化と切り離せないコンテクストとの関わりにおいて,どのような役割を持ち,どのように認識されるかというメカニズムを考察した。

  • ――DIC法とDIC-LP法の比較から――
    寺嶋 弘道
    原稿種別: 調査報告
    2016 年 163 巻 p. 79-94
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/04/26
    ジャーナル フリー

     本稿では,コロケーションテストにおいて日英バイリンガル辞書のみを用いる方法(以下:DIC法)と日英のバイリンガル辞書とレキシカルプロファイリングツールを併用する方法(以下:DIC-LP法)の比較を行った。

     実験の結果,DIC-LP法の得点のほうが有意に高かった。DIC法においては①適切な訳語の表示不足,②解答となる表現や解答につながる表現の表示不足,③複数の訳語表示とその違いを理解するための情報の不足,④過剰な訳語表示,⑤学習者の類推の誤り,⑥複数の辞書による不確認が得点に負の影響を,DIC-LP法においては⑦共起表現リストからの意味の検討,⑧共起表現の有無やその数の確認ができたことが得点に正の影響を与え,2つの方法の間に有意差が生じたと考察した。また,DIC法では過剰な例文表示や想定した助詞の誤り,DIC-LP法では想定した助詞の誤りや辞書で動詞の候補が絞れないことがコロケーションテストの得点に負の影響を与えた原因だと考察した。

研究ノート
  • ――LARP at SCUの分析結果から――
    胡 君平
    原稿種別: 研究ノート
    2016 年 163 巻 p. 95-103
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/04/26
    ジャーナル フリー

     日本語の使役文には様々な用法があり,中国語母語話者にとって習得が難しいと言われているが,運用上における使用実態は十分に明らかにされていない。本稿では作文コーパスLARP at SCUの分析結果から,台湾人学習者による日本語使役文の用法別の使用実態を明確にしたい。考察の結果,全体の使用率も誤用率も「他動的」>「心理的」>「基本的」で,誤用のパターンは用法別に異なる傾向が見られた。「他動的」は日本語の動詞自他用法の未習得による「させる」の不使用と過剰使用及び有対動詞の非用,「心理的」は被使役者を示す助詞「に」の過剰一般化,「基本的」は「てもらう」との混同に起因する誤用が多い。また「基本的」は一貫して誤用率が低いのに,「他動的」「心理的」は学習年数が経過しても依然として誤用率が高いことが分かった。以上のことを踏まえ,日本語教育の立場から「他動的」「心理的」を重点的に教えることが使役文の習得を促進させると言えよう。

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