高等学校における日本語教育および言語力評価についての体制の構築は近年の課題となっている。筆者らは,高等学校において日本語指導が必要な生徒への包括的な言語教育の確立に向けて実践を行なっている。本稿では,大阪府立高等学校のなかでも,日本語指導が必要な生徒の受け入れ校での新たなことばの教育のカリキュラムの構築に向けての取組みを報告する。
本研究では,日中の初対面・友人同士の会話において,ほめに対する同意の応答がどのように行われているか,どのような会話のプロセスを経て現れているかを,談話分析の手法を用いて分析した。その結果,いずれの会話場面においても,ほめに対する同意の応答の数は上位を占めていた。また,同意の応答の発話に注目して分析した結果,「同意のみ」と「同意と他の要素との組み合わせ」の割合には,日中言語文化と親疎関係による相違がなかった。さらに,ほめに対する同意の応答に至るまでの会話展開の特徴として,初対面会話では,日中ともに「先行文脈に受け手の肯定的な自己評価が含まれている」ケースがほとんどであった。一方で,友人同士の会話の場合,日本語では「先行文脈に受け手の肯定的な自己評価が含まれている」ケースが多かったのに対し,中国語では「受け手が率直にほめを受け入れる」ケースが多かった。
本稿の目的は「DLA〈読む〉」と代替となるテキストの難易度検証を通して,「DLA〈読む〉」の評価ツールとしての構成概念妥当性を検証すること,また市販の学年準拠の国語副読本を代替テキストとして活用する可能性を探ることである。19 テキストのリーダビリティー値を算出した上で,日本語母語児童213 名の協力を得て学年相当テキストの読解力・音読行動得点を求めるとともに,評定値の共通尺度化によりテキスト難易度の順序性を分析した。結果として,テキスト要因としては3 テキストで値が低い傾向が見られたが,16 テキストでは一部特徴的な文字種の割合の影響を排除することで妥当な値が得られた。個人要因の分析からは,別の16 テキストが学年相応レベルであると確認できた。順序性についても2 テキストで想定より低い値となり,順序の逆転が見られたが,それ以外では概ね実証された。また低学年では音読の流暢さの習熟度が難易度規定に影響することが示唆された。
本研究が対象とするフィンランドは,日本語との接触機会が少ない孤立環境である。調査当時,日本語教育は縮小の一途をたどっており,中級以上の教室学習の機会が極めて少ない厳しい学習環境であった。本研究は,フィンランド人日本語学習者を対象に学習動機・学習困難度についての質問紙調査を行った。得られた174 部の回答に対して因子分析を行った結果,学習動機では7 因子(異文化理解・将来の実用性・日本語自体への興味・外国語習得への興味・自己研鑽・大衆文化への興味・洗練された文化への興味),学習困難度では5 因子(上達への困難さ・低い接触頻度・漢字学習の困難さ・厳しい学習環境・日本語運用力の欠如)が抽出された。また,初級・中上級という日本語のレベルの違いにより,学習動機・学習困難度に差異があることも確認された。これらの結果から,日本人や他の学習者と繋がる機会の提供など,孤立環境下の学習者に対する支援の提案を行った。
本稿では,日本語を母語とする女性の二者間初対面会話における話題転換箇所について,「内容の関連性」「先行話題の終了のプロセス」「後続話題の導入のきっかけ」「話題領域」「話題導入発話の行為的機能」「相手への働きかけの姿勢」という6 項目の多角的な指標を用いたラベル付けを行い,そのうち「内容の関連性」を主たる説明変数として,その他の項目との関係を,独立性の検定によって調べた。その結果,「先行話題の終了のプロセス」との関係では,内容の関連が「発展」である話題転換では先行話題の終了プロセスが行われない「突発的転換」が多く,終了プロセスが十分に行われる「協働的転換(十分)」が少ない一方,内容の関連が「新出」「再出」である話題転換では「協働的転換(十分)」が多いことがわかった。また,「後続話題の導入のきっかけ」および「相手への働きかけの姿勢」との間でも,「内容の関連性」の各指標との関連が示された。
本研究では,日本で勤務する日本語母語話者16 名と非母語話者18 名が作成した打ち合わせ日程の再調整を申し入れる際の日本語によるビジネスEメールを分析し,構成・内容に見られる両者の配慮言語行動の異同を明らかにした。調査はWeb調査およびオンラインによる半構造化インタビューを実施した。日本語ビジネスEメールの構成・内容は,村岡他(2005)の方法を援用して分析した。その結果,構成に関する配慮言語行動については,談話展開上の【謝罪】の構成要素の配置に共通点があった一方,【連絡理由】の構成要素の配置と【感謝】の構成要素の使用においては両者の違いが見られた。内容に関する配慮言語行動では,【謝罪】と【依頼】の構成要素に関する内容の一部において同様の選択傾向が見られたが,日本語母語話者または非母語話者のみが言及している内容もあった。上記の分析結果より,ビジネス日本語教育に還元するための教育的示唆を得た。
本研究の目的は,音声受容語彙知識を測定する日中バイリンガル日本語語彙サイズテストを開発し,妥当性の予備的検証を行うとともに,音声語彙知識の特徴を明らかにすることである。このテストを118 名の幅広い習熟度の中国人日本語学習者に実施した。ラッシュ分析の結果,内的一貫性,項目難度に基づく代表性,モデル適合度の観点からテスト得点の妥当性が支持された。また,語の使用頻度と項目難度との間に弱い相関が認められた。さらに,中国語母語話者の文字語彙サイズを調べた先行研究との比較を通して,(a)音声語彙知識と文字語彙知識の関連性は,和語,漢語,外来語の順に強くなること,(b)漢語については文字提示よりも音声提示の方が難しい一方で,和語・外来語は音声提示の方が易しくなること,(c)音声提示の場合は,和語・漢語・外来語の平均項目難度に有意差が見られなかったことが示された。これらは音声語彙に焦点を当てた学習の必要性を示唆している。
外国人住民のライフキャリア形成のための地域日本語教育を論じる上では,地域社会の中に日本語教育を定位する作業が不可欠である。本調査研究では,外国人散住地域X 市におけるフィールド調査をもとに,その外国人住民対応のあり様をローカル・ガバナンスの枠組みを利用し明らかにした。さらにその枠組みの検討から,散住地域における地域日本語学習支援は,ガバナンスにおいて独自の役割を持ち,現行の国の地域日本語教育施策と必ずしも整合するものではないことを示した。外国人住民のライフキャリア形成を支える日本語教育において,地域の日本語学習支援と国の地域日本語教育制度は両輪関係にある。本稿では,地域日本語学習支援が,地域の多様な人材が連携する日本語学習支援活動を通じて外国人住民を地域社会のネットワークに取り込み,その関係性の中でライフキャリアの形成を支える日本語学習・ことばの学習へと動機づけるとともに,地域外の多様なリソースへとつなぐ役割を持つことを述べた。
本研究では,ドイツ語を母語とする中上級日本語学習者を対象に,漢字2字熟語の意味推測課題を用いて,学習者がどのように推測を行ったかについて聞き取り調査を行った。その結果,学習者は漢字熟語を構成する個々の漢字の意味情報だけでなく,その漢字が熟語の左右どちらにあるかという位置情報に注目していること,全体的な傾向として右の漢字を重視し,漢字熟語の右の漢字が基本的に中心的な意味を担うと考えることを明らかにした。そのような知識は,明示的に与えられたものではなく,漢字を学習する中で学習者が自分で作り出したものであった。そして,そのような知識の影響によって,漢字熟語の意味推測がうまくいかなくなることが示された。この結果をふまえ,中級以降の漢字学習に必要な支援は何かを考察した。
本稿は,筆者らが所属する大学の日本語教育課程で実施した,日本語指導が必要な児童生徒を対象とした日本語教育実習の報告である。実習は東大阪市の公立小中学校で,2022 年9 月から10 月の間に,1 週間に1 日程度,合計5 日間行った。実習生は日本語教育課程を履修する学生4 名である。指導は日本語指導の加配教員1 名が担当した。加配教員は本務校以外に複数の巡回校へも出向いているため,実習生も加配教員とともに巡回校を回って授業を見学し,最終日に教壇実習を行った。実習においては,日本語指導の実態を理解することと,大学で学んできた知識を活かすことを目標とした。実習生が実習期間中に毎日作成した見学の記録と,教壇実習後に作成した最終レポートを分析したところ,実習生は児童の力や課題の把握から,児童たちに何を学んでほしいかを明確にし,それを授業デザインに反映させていたことがわかった。本実習の目標は概ね達成できたと考えられる。
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら