本研究では,東南アジアの大学で教える日本語母語話者教師(NT)と非母語話者教師(NNT)間での日本語ナラティブ作文評価で重視する項目を比較分析する。3つのトレイト【内容】【構成】【日本語】⑴に属する15評価項目の重視度を比較し,「困難/大変だったこと」「忘れられない出来事」をテーマとする作文各6編に対する順位付け評価と上位作文の決め手に関する自由記述を質的に分析した。その結果,NT・NNTともに【内容】の重視度が高いが,【構成】と【日本語】については,複数の項目でNNTによる重視度がより高く,NNTが全体的に多くの評価項目を重視していた。実際の作文評価では,NT・NNTともに両テーマで[興味深さ]と[正確さ],「困難/大変だったこと」で[課題達成],「忘れられない出来事」で[出来事の描写]を上位作文の決め手にしていた。一方,NTのみ,NNTのみが重視する評価項目も見られた。
本研究は上海で実施された「実践を省察するラウンドテーブル型教師研修」を取り上げ,継続的に参加した大学教員の気づきと学びを明らかにし,その上で本研修の可能性について検討する。本研修に継続して参加した7名を対象に半構造化インタビューを行い,M-GTAで分析した。その結果,参加した教師らは実践をふり返ることから得た気づきや学びから回を重ねるごとに本研修の特長や意義を見い出した。さらに,それらを研修後に自身の勉強会に還元する等の意欲を示し,具体的な行動に移していたことがわかった。このような参加者らの行動の変化は,参加者が研修の参加ごとに「語り手」と「聴き手」を経験し,そこから双方の役割を理解し,学びを深めたことによると示唆される。本研修は省察的実践者の育成を促すとともに教師をエンパワメントし,これまでの研修に対する認識に影響を与え,参加者が主体的に学び合うコミュニティの構築に貢献した。
教師が行う実践研究は自己評価的な要素が強く,担当教師以外の評価を授業改善に反映させようとする観点が弱い。本研究は,実践関係者が協働で学びの場をつくるために,教師と学習者の対話および教師間の対話による実践評価が授業改善に与える影響を質的に分析した。学習者は授業の目的と意義を理解したうえで具体的な授業改善案を述べた。それは,学習者それぞれの学習観・評価観に基づいており,教室参加者が互いにその重なりやずれを認識し,合意を形成することで,授業の枠組みを柔軟につくりかえていくことが可能となる。一方,教師間の対話による評価は,そうした実践内部者の評価を外部者の視点から問い直し,教師に内省を促すことで授業の改善を理念的に支えるものとして機能していた。
本研究では,立場の異なる日本語教師間での協働を重視して,授業観察を用いた教師研修を設計・実施し,研修の評価を行う。本実践では,授業研究の知見をもとに,協働に必要だと考えられる要件を3点抽出した。そして,設計した研修を日本語学校の日本語教師6名の協力を得て実施した。3つの要件がどのように機能していたかを明らかにするため,事後インタビュー調査の回答,授業デザインシートの記載内容,検討会時の発話を分析した。その結果,研修では,1)ファシリテーターによる研修時間内外での雰囲気づくりと定期的な連絡調整が協働を支える要素として捉えられていること,2)事前検討会では,授業意図・課題意識の言語化を通した授業視点の拡大が各教師に生じること,3)事後検討会では,観察者が,授業者の視点に寄り添ったフィードバックをする場面と,一方向的なフィードバックをする場面の両方が見られること,が確認された。
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