本稿では、近代日本のベストセラーとなった徳冨蘆花『自然と人生』の巻頭作「灰燼」が、蘆花の没後ブームのなかで、夏川静江という役者をめぐって特異なメディアミックスがなされていく過程を検討した。
蘆花没後に、映画、演劇、ラジオ物語などの様々な舞台で展開された「灰燼」では、夏川演じるお菊が次第に物語上での役割を拡大させていった。その展開には夏川という役者の意欲的な姿勢やアクトが大きく関わっており、いわば夏川のために「灰燼」は作りかえられていった。文学や物語を流通させる当時の環境のなかで、原作者没後における「灰燼」のメディアミックスは、近代文学とショー・ビジネスにおけるスターシステムの実例と、その構造を推し量る現象として注目できる。
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