日本化学会誌(化学と工業化学)
Online ISSN : 2185-0925
Print ISSN : 0369-4577
1985 巻, 3 号
選択された号の論文の54件中1~50を表示しています
  • 上田 龍雄, 川喜田 正之, 大辻 吉男
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 271-281
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    テトラブチルアンモニウムニプロミドの存在下,ベンゼン-水中, Fe(CO)5 と NaNO2 との反応によって,トリカルボニルニトロシル鉄酸(1-)テトラブチルアンモニウム n-Bu4N[Fe(CO)3NO](TBAF)を合成した。 TBAF は空気や湿気に安定で種々の(η3-アリル)ジカルボニルニトロシル鉄錯体の合成に利用できた。たとえば,ハロゲン化アリルと TBAF との反応では,(η3-アリル)鉄錯体が生成した。このアリル鉄錯体をハロゲン化アリルおよびハロゲン化アシルまたはアルコキシカルボニル=ハロゲニドで処理すると, 1,5-ジエン誘導体と β,γ-不飽和カルボニル化合物とがそれぞれ得られた。また,共役ジエンの存在下,ハロゲン化アルキルと TBAF とを反応させると,アシルメチル基を置換基としてもつ(η3-アリル)鉄錯体が生成した。この鉄錯体を NaOCH3 および LiAlH4 処理すると,共役ジエノン誘導体とホモアリルアルコールとがそれぞれ得られた。本報では,これらの反応の特性についてもあわせて検討した。
  • 酒井 鎮美, 和田 信人, 東堂 陽一, 柴田 剛, 藤波 達雄
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 282-287
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    4,5-ジフェニル-および 4,5-ビス(p-トリル)-1,3-ジオキソレン-2-チオン[1]を当量のヘキサカルボニルモリプデン MO(CO)6 とトルエン中, 6 時間加熱還流すると[1]の脱硫反応が起こり,相当する 4,5-ジアリール-1,3-ジオキソレン-2-イリデンモリプデン錯体[2]を低収率で生成した。このミさい,アセチレン類[3],ビニレンガーボネート類[4]および 1,2-エタンジオン類[5]が副生するが,これらの化合物は[2]の熱分解で生成することを確めた。ジオキソカルベン錯体[2]生成の選択性および収率は過烈の Mo(CO)6 を使用するといちじるしく向上した。さらに,トリフェニルポスフィン共存下この反応を行なうと,テトラカルボニル(4,5-ジフェニル-1,3-ジオキソレン-2-イリデン)(トリフェニルポスフィン)モリブデン[6]を 30% の単離収率で得た。
    このジオキソカルベン錯体[2]を熱分解しても,期待したテトラカルボニルビス(4,5-ジアリール-1,3-ジオキソレン-2-イリデン)モリブデン[9]あるいは相当するカルベン二量体は得られず,[3],[4]および[5]が得られた。しかし,[1]あるいは 1,3-ジチオラン-2-チオン[10]のようなトリチオカーボネートの共存下,[2]はビス(ジオキソカルベン)錯体[9]に変化した。後者の[10]の場合,[2]の一部は[10]と反応して[1]となった。[2]は酸素および硫黄と反応し,それぞれ[4]および[1]を生成した。
    最後に,ヘキサカルボニルクロムあるいは-タングステンによる[1]の脱硫反応は進まず,原料回収に終った。
  • 今泉 真, 松久 敏雄, 専田 泰久
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 288-294
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    共役ジエンの s-trans 配座から直接 π-アリルパラジウム錯体が得られるかどうかを調べるため,共役ジエン部分が s-trans 形に固定された 3-メチレンシクロヘキセン[7a]と 6-メチル[7b], 6-イソプロピル-[7c]および 6-t-プチル-2-メチレンシクロヘキセン[7d]からの錯体合成を試みた。合成した錯体の溝造は 1H- および 13C-NMR スペクトルにより分析した。メタノール中,[7[とテトラクロロメラジウム(II)酸ナトリウムの低温下での反応では,それぞれメトキシル基が共役ジエンの環内栄端炭素に付加した環外 π-アリルパラジウム錯体[10]を生成した。加温下での反応では,[7a]と7b]は相当する[10]を生成したが,[7c]と[7d]は共役ジエンの環外末端炭素に水[ 素を付加した環内 π-アリルパラジウム錯体[11c]と[11d]を生成し,テトラヒドロフラン中での反応では[7b]から[11b]が得られた。これらの錯体は[7]から直接得られたものであり,共役ジエンからの π-アリルパラジウム錯体は s-cis 配座ばかりでなく s-trans 配座からも合成できることを実証しだ。さらに,[11]に取り込まれた水素は過剰に用いた[7]の異性化,脱水素によるものであることを明らかにし,[11]の生成機構について論じた。
  • 和田 真, 桜井 庸二, 秋葉 欣哉
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 295-302
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    アルキルマグネシウムハライドあるいはアルキルリチウム試薬とヨウ化銅(I)ならびに三フッ化ホウ素から得られる錯体(RCu・BF3 あるいは R2CuM・BF3)は α-水素を有するアルジミンへ容易に求核付加反応し,収率よく第二級アミンを与えることを見いだした。さらに,アルキニルリチウムと三フッ化ホウ素から得られる錯体(R-C≡C-Li・BF3)もα-水素を有するアルジミンに対して容易に付加し, a-(1-アルキニル)アミン類を収率よく与えることを見いだした。これらの反応では三フッ化ホウ素を加えないとアルジミンへの求核付加反応はまったく進行しない。これらの結果から,反応の機構についても若干の考察を加えた。
  • 大久保 正夫, 時貞 充尚, 権藤 孝行
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 303-309
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    アリールイミノジマグネシウム(ArN(MgBr)2, IDMg)試薬の合成化学的応用を拡張する目的で,アミンの塩酸塩やヒドロキシルおよびアミノ置換基をもつアニリン類が Grignard 試薬(EtMgBr)による処理に直接利用しうるかどうかを検討した。その中で,アニリン塩酸塩および o-フェニレンジアミンが, 3 当量の EtMgBr による処理でそれぞれ IDMg 型試薬を与えることがわかった。後者の 4個の活性水素原子のうち 3 個を MgBr に変換した試薬を用いて p-(メチル,メトキシ,およびクロロ)置換および o-ヒドロキシ置換ニトロベンゼンとの縮合を試みた結果,主生成物として o-アミノおよびo-ヒドロキシ置換アゾベンゼン類が 30~40% の奴率でえられた。既報の典型的アリールーIDMgとニトロベンゼン類との反応におけるアゾキシおよびアゾベンゼン類の高い合計坂率とは対照的に後者の試[B]との反応における o-アミノアゾベンゼン類の収率向上は困難であった。有機マグネシウム試薬の反応の諸特徴を説明するために最近提案された作業仮説に基づき,o-アミノアゾベンゼンと 5 種の副生成物の収率分布を試薬[B]の高い一電子供与能力と立体障害のある構造とによって論じた。
  • 松村 昇, 浅井 僑幸, 米田 茂夫
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 310-316
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    1,3-二置換チオ尿素と臭化エチルマグネシウムとから調製したチオウレイドーマグネシウム(II)錯体は,二酸化炭素をカルパマート型として取り込み,取り込んだカルボキシラト基を活性メチレン化合物に移す機能を示した。なかでも,六員環および七員環の環状チオ尿素を用いたカルパマート錯体は温和な条件できわめてすぐれたカルボキシノヒ化能を示し,ケトン類のほか従来カルボキシル化されにくかったエステル類の α-位カルボキシル化に対しても有効であった。
    なお,モノカルバマート錯体とジカルバマート錯体のカルボキシル化能を比較した結果,後者がはるかにすぐれていることを認めた。
  • 安田 源, 福井 宗夫, 荒木 長男, 中村 晃
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 317-323
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    アルキル亜鉛およびアルキルアルミニウム化合物とケトンの反応において,アルキル置換基の種類によって反応形式がどのように変化するかを明らかにするために,ジエチル亜鉛および 3 種類のトリアルキルアルミニウムと 9 種類のケトンとの反応を検討した。ジエチル亜鉛は 2-アルカノンや環状ケトンと 90℃ 以上で反応しケトンの縮合二量体である α,β-不飽和ケトンを収率よく与えた。トリメチルアルミニウムは 0.5mol 当量までの 2-アルカノンに対しては付加反応するが,それ以上のケトンに対しては縮合反応を起こす。トリエチルアルミニウムは 30℃ で当モルのケトンと付加,還元またはエノール化反庵を行なうが,置換基の種類によってその割合が異なる。トリイソプチルアルミニウムは当モルのケトンに対しては還元反応を行なうが,さらにケトンを加えると縮合反応のみが進行する。 α,β-不飽和ケトンは以上いずれの系でも長時間反応を行なうと β,γ-不飽和ケトンへ異性化した。
  • 坂根 壮一, 丸岡 啓二, 山 本尚
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 324-327
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    トリアルキルアルミニウムと分子内エチレン結合をもつアルデヒドとの 1:1 複合体を低温で調製し,璽それを徐々に昇温していくさい,顕著な溶媒および温度効果が観測された。その結果,反応条件を制御することにより各種の生成物が高度の選択性で得られることを見いだした。たとえば,トリメチルアルミニウムとシトロネラールの 1:1 複合体を -78℃ で形成したのち徐々に室温まで昇温した場合,ヘキサン中ではメチル化された化合物がおもに生成した。同様の反応を -20℃,1,2-ジクロロエタン中で複合体を調製したのち徐々に室温ま志昇温すると,環化一脱プロトン化体であるイソプレゴールのみ,が選択的に得られた。ところがトルエンやジクロロメタン溶媒を用いると,新たに環化一メチル化体が生成することを見いだした。さらに過剰のトリメチルアルミニウムを用いてジクロロメタン中 -78℃で反応を完結させると,環化-メチル化体がもっとも高い選択率で生成した。また他のトリアルキルアルミニウムとの反応では,還元体であるシトロネロールが主生成物として得られた。その他のアルデヒドを用いても,シトロネラールの場合と同様の結果が得られた。
  • 早瀬 修二, 大西 廉伸, 鈴木 脩一, 和田 守叶
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 328-333
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    いくつかの強酸タイプのエポキシ化合物用光重合触媒が見いだされているが,これらとは異なった新しいタイプの非強酸系光重合触媒を見いだし,しかも強酸タイプには見られない優れた特性を有していることがわかった。本触媒はナルミニウム錯体と o-ニトロベンジルシリルエーテルからなる複合触媒系である。エポキシ樹脂の光硬化する時間は,アルミニウム錯体と o-ニトロベンジルシリルエーテルまをきぎちの構造によって変わった。ニトロ基の吸収が光照射により消去するので深部の触媒にまで光がとどき,深部まで硬化する。本触媒で光硬化させたエポキシ樹脂は優れた電気特性を有している,体積抵抗率は,本触媒系によって硬化した樹脂の方が強酸系の触媒よりも 102 倍良好である。さらにクーロスタット法で触媒の金属に対する腐食性を比較したところ,本触媒系は強酸タイプの 1/100~1/1000 であった。
  • 持田 邦夫, 釘田 強志
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 334-338
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    トリアルキルゲルミル陰イオン, R3Ge- とアリールスズ化合物, ArSnR3' の反応について研究した。トリメチルゲルミル陰イオソ(R=Me)とアリールスズ化合物をヘキサメチルリン酸トリアミド(以下HMPA と略記する)/エーテル溶媒中,-30℃, 5 分間で反応させると置換生成物のアリールトリメ チルゲルマン, ArGeMe3 と還元生成物, ArH を主生成物として生じる。この反応に遊離基捕捉剤のジシクロヘキシルポスフィンを共存させると,置換生成物の大部分が還元生成物に変換する。この事実は,アリール遊離基が反応の重要な中間体であることを示唆する。
  • 落合 正仁, 浮田 辰三, 長尾 善光, 藤田 榮一
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 339-349
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ビニルスルホン類の脱スルホン反応として,著者らはスズ原子を活用する新しい手法を確立した。ビニルスルホン類へのトリプチルスタンニルリチウムの共役付加反応はテトラヒドロフラン中 -78℃ で進行し,得られた β-トリプチルスタンニルスルホンをシリカゲルと処理すると,β-脱離反応が速やかに起こり脱スルホン化物が高収率で生成した。(E)-および(Z)-7-フェニルスルポニル-7-テトラデセン[10f]の脱スルホン反応では,原料の立体化学は生成物に反映されずいずれの場合にも(E)-7-テトラデセン[15f]が主として生成した。本法を利用すれば,ビニルスルホン類のスルホニル基を親電子試剤で置換することも可能である。反応の立体化学についても考察した。
  • 村山 榮五郎, 菊地 憲裕, 西尾 裕幸, 植松 正裕, 佐々木 光太郎, 五月女 宣夫, 佐藤 匡
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 350-361
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    スズ化合物について 2-位から10-位に脱離基をもつ一連の化合物を合成し, Lewis 酸を作用させることによって生じるカチオン中心へのスズー炭素 σ 結合の反応性を調べた。 1,2-および 1,3-型の化合物ではそれぞれ 1,2-脱離および 1,3-脱離によりオレフィンまたは三員環化合物を生成するのに対し,それ以上反応中心が離れるとヒドリド移動が起こるようになった。適当な位置に水素原子をもつ場合,ミ1,5-ヒドリド移動がもっとも起こりやすく,ついで 1,6-ヒドリド移動が起こった。これらの位置に水素原子がない場合は三員環または五員環への閉環が可能であれば閉環反応が起こるが,それ以外では反応は複雑になった。各反応形式は反応中心間の炭素鎖の炭素数によってきわめて選択的に起こり,合成反応としての応用性が期待できる。
  • 丸山 和博, 宅和 暁男, 曽我 治
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 362-369
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    アリルスズ試剤(アリルトリプチルスタンナン[2], trans-2-プテニルトリプチルスタンナン[3])と 1,2-ナフトキノン類の反応を三フッ化ホウ素工一テル錯体共存下で行なうと,4-アリル-1,2-ナフタキレンジオールが高収率で得られる。[3]と 1,2-ナフトキノン類との反応でのクロチル側の位置選択性は, 1,2-ナフトキノンの 3-位の置換基の電子的効果に支配される。すなわち,3-位に電子供与性基が存在する場合には α-付加体が選択的に生成するのに対し,強い電子求引性基が存在する場合には γ-付加体が優先的に生成する。これらの反応を Lewis 酸非共存下で行なうと,生成物の取率は低下するものの同じ生成物を与える。しかし,クロチル側の位置選択性はいちじるしく向上し α-付加体だけを与えた。さらに Lewis 酸が存在する系ではクロチル基は立体選択的に導入されるのに対し,非共存下では立体選択性は低下した。より強い Lewis 酸である無水塩化スズ(N)や塩化アルミニウム共存下での反応では,位置選択性に変化がみられ, Lewis 酸が強くなると γ-付加体の生成が増加する傾向がみられたが収率はよくなかった。また,本反応を o-ベンゾキノン類に応用したところ,α-付加体が選択的に得られ,γ-付加体が選択的に得られる p-ベンゾキノンとはいちじるしく異なる選択性を示した。これは p-キノンでは 1,2-付加,ついでアリル転位により反応が進行するのに対し, o-ベンゾキノンの場合には Michael 付加で反応が進行するためと示唆された。
  • 志村 眞, 荻野 博, 田中 信行
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 370-372
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    N -(2-Hydroxyethyl)ethylenediamine-N, N', N'-triacetato(hydroxymethyl)chromium(III)complex, [Cr(CH2OH)(hedtra)]-, reacts with chloropentaamminecobalt(III) in an aqueous solution to give [Cr(hedtra)(H2O)] and cobalt(II). The reaction proceeded through a biphasic process; (i) formation of an intermediate species and (ii) the decomposition of the intermediate species accompanied by the cleavage of the chromium-carbon bond and the reduction of cobalt(III) to cobalt(II). Kinetic measurements for the second step were made at =1.0 (LiClO4) and 25.0°C. The reaction obeyed the rate law, -d[intermediate]idt={k[H+]/(K+[H+])}[intermediate] and the k and K values were k= (5.1±0.3) × 10-2 s-1 and K= (3.80.3) × 10-5 mol⋅ dm-3.
  • 栗村 芳實, 高木 康行, 須賀 正浩, 水越 千博, 土田 英俊
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 373-377
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    5-メチルシクロペンタジエニル)トリカルボニルマンガンを担持した高分子錯体から調製した膜を用い,窒素雰囲気下,常温で,可視光を照射することによって,窒素分子が配位した錯体を合成した。アルゴン雰囲気および窒素雰囲気下における反応を膜の可視ならびに赤外スペクトル変化の追跡によって検討した。その結果,高分子錯体膜一窒素ガス系の光照射で,高分子鎖上にはマンガンにエンドオン形に窒素分子が配位した錯体ユニットと窒素を配位していない橋かけ構造を有する化学種が結合した生成物を生じる反応機構が推定された。
  • 西長 明, 山崎 茂曽, 野草 秀夫, 下山 徹, 松浦 輝男
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 378-386
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    有機ペルオキシド金属錯体を単離してその反応性を研究することは金属触媒を用いる有機ヒドロペルオキシド酸化反応の機構を知るうえで重要である。 t-BuOOH と Co(salen)との反応で好収率で得られる (t-BuOO)Co(salen)は 2,6-ジ-t-プチルフェノール類(PH),ヒドラゾン類と反応して基質の水素を引き抜き, t-BuOOH 存在下では, t-BuOO-基をこれらの基質に定量的に導入する。この反応は触媒き的に進行し, p-位にアルキル基,置換フェニル基,アシル基をもつ PH では 4-t-ブチルジオキシ-2,6-ジ-t-プチル-2,5-シクロヘキサジエノン誘導体が選択的に生成し,p-位に置換ビニル基をもつ PH ではビニル基が回転自由である場合には t-BuOO-基は側鎖に,画転障害が起こると o-位にそれぞれ選択的に導入される。ケトン類の p-ニトロフェニルヒドラゾンでは t-BuOO-基は C=N 基炭素上に導入され,gem-アゾペルオキシ化合物を少量の対応するアゾキシペルオキシドとともに生成する。いずれの反応も基質ラジカルと t-BuOOH との反応として理解することができる。この酸化反応は Co(salen)を触媒としてもまったく同様に起こり,ペルオキシ錯体が触媒活性種となっている。
  • 大勝 靖一, 大野 雅司, 大井 時夫, 井上 祥平
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 387-393
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    モノオキシゲナーゼのモデル系として,コバルト錯体-NaBH4-O2系を選び,オレフィンのヒドロキシル化反応を試みた。この触媒系はスチレンおよびスチレン誘導体以外のオレフィンをヒドロキシル化するだけの活性を示さなかった。コバルト錯体としては[CoII(tPP)]が Schiff 塩基コバルト(II)錯体より活性があり,オレフィンとしてはスチレン,β-メチルスチレン,α-メチルスチレンの順にヒドロキシル化され難くかつた。スチレンの場合,主反応生成物は 1-フェニルエタノールであったが,[CoII(tpP)]のフェニル基が核置換されたポルフィリン錯体を用いたり, NaBH4/CoII の比を低下させると,アセトフェノンやポリ(スチレンペルオキシド)も生成した。不斉配位子を有する Schiff 塩基コバルト(II)錯体を用いると,その配位子の種類に依存するが,得られるアルコールに不斉誘導されることがわかった。たとえば[CoII(sal2-R-chxda)]-NaBH4-O2-スチレンの系では,(R)-(十)-1-フェニルエタノールがe.e.8.1%で生成した。反応結果から,不斉誘導される機作も含めて反応機構を検討した。
  • 金井 宏椒, 平林 和幸, 中山 大成
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 394-399
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    極性エーテル中,ジエチルビス(2,2'-ビピリジル)コバルト(III)テトラエチルアルミン酸塩から調製したエチルビス(2,2'-ビピリジル)コバルト(I)は,共役ジエンを選択的に水素化し内部 cis-オレフィンを主として与えた。誘導期はあらかじめ錯体と共役ジエンを反応させることによって消失した。水素化は錯体濃度に一次,水素圧に一次,ジエン濃度に 0 次であった。水素化速度は仕込みのジエン濃度と錯体濃度の比とともに増大した。内部置換 1,3-ジェンの水素化は,内部オレフィン生成の選択性が失なわれた。 2,5-ルボルナジエンの水素化は,反応初期にはノルトリシクレンが優先的に生成するが,ノルボルネンへの異姓化が併発するため時間とともにその選択性は減少した。エチルビス(2,2'-ビピリジル)コパルト(I)からエチレンが脱離して生成したコバルト(I)ヒドリド錯体が活性種で,共役ジエンとの反応で anti-形 η-アリルコバルト錯体が優先して生成し,水素の付加によって選択的に内部 cis-オレフィンが生成する機構を提案した。
  • 大西 正義, 平木 克磨, 北村 精一, 大浜 祐七郎
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 400-405
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    熱的には反応不活性なヒドリドコバルト(I)錯体[CoH{PPh(OEt)2}4]の光励起により容易に発生する配位不飽和なヒドリド活性種 "CoH{PPh(OEt)2}3" に注日して, 2-シクロヘキセンー1一オールからシクロヘキサノンへの分子内水素移動反応を行なった。この反応は "Photoassisted" であった。副生成物として, 3-シクロヘキセン-1-オールが二重結合移動により,またシクロヘキサノール, 2-シクロヘキセン-1-オン,および 3-シクロヘキセン-1-オンが分子間水素移動により生成した。シクロヘキサノンの生成初速度の逆数は,基質 2-シクロヘキセン-1-オールの初濃度の逆数と一次の関係にあった。これは酵素反応における Michaelis-Menten 機構に類似しているので,その解析法に準じてこの水素移動反応を議論した。シクロヘキサノンを生成する分子内水素移動反応全体に対する見かけの活件化エネルギーは, 29.6kJ・mol-1 であった。
  • 御代川 貴久夫, 瓦田 力, 増田 勲
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 406-408
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Thermal decomposition of solid aquamethylcobalt (III) complexes with quadridentate Schiff base ligands as N, N'-ethylenebis(salicylideneamine) and its analogues was investigated by TG, DSC, and pyrolysis gas-chromatographic (PGC) analyses. The coordinated water was eliminated in the temperature range of 68∼116°C, and then, the methyl group was dissociated in the range of 138∼218°C accompanied by partial conversion into methane and ethane. The PGC analysis indicated that the molar ratio of methane and ethane evolved varied depending on the nature of the Schiff base. The results were discussed in comparison with those reported for the solution reaction.
  • 榊原 保正, 松坂 茂生, 永峰 知, 酒井 睦司, 内野 規人
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 409-415
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    触媒量の[Ni{P(OPh)3}4][Ni(tpP)4]または[Ni{P(OPh)3}3(CO)][Ni(tpP)3CO]の存在下における,プロパジエンおよび 4,2-ヘキサジエンへのシアン化水素の付加について研究した。本付加の触媒としては[Ni(tpP)3CO]にくらべ,[Ni(tpp)4]が有効であり,いずれの基質からも,ヒドロシアン化生成物がかなりの好収率で得られた。反応は, 1,2-ヘキサジエンの場合には(1,2-ヘキサジエン/Ni(モル比)=15~60,トルエン溶媒)低温 60℃ において進行した。ニッケルカルボニル触媒によるアレンのカルボキシル化と対照的に,生成物として,アレン結合の C(1)および C(3)に CN 基が付加したアリル生成物が優先的に生成した。 1,2-ヘキサジエン-[Ni(tpp)4]において,高い 1,2-ヘキサジエン/Ni や HCN/Ni 比では,反応遠度と腹率がともに低下した。副反応としてアレンの低重合や重合が起こり,おもにそのために収率がおさえられた。高温においては,生成物,とくにアリル型生成物の炭炭素二重緒合の異性化が,いちじるしく進行した。
    [NI(tpp)4] を触媒とする本付加反応噂対々て,[Ni(CN)(H){P(OPh)3}2]を活性種とする反応機構を提案し,実験結果について考察を行なった。
  • 杉村 秀幸, 岡村 寿, 三浦 司和, 吉田 昌彦, 武井 尚
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 416-424
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    sp2-炭素-硫黄結合を含む不飽和スルフィド類は,ニッケル触媒存在下, Grignard 試薬と反応し,炭素-硫黄結合が切断され,新たに炭素-炭素結合が生成したカップリング生成物を与える。種々のニッケル錯体について,その触媒活性を検討したところ,ジクロロビス(トリフェニルポスフィン)ニッケル(II)は,立体的にかさ高いスルフィド類やアリール Grignard 試薬の反応ではもっとも活性が高いことがわかった。しかし,β-位に脱離しやすい水素をもつアルキル Grignard 試薬では,β-脱離による副反応をともなうため,カップリング生成物の収率は低下する。一方,ジクロロ[1,3-ビス(ジフェニルポスフノ)プロパン]ニッケル(II)は,第一級アルキル Grignard 試薬および単純なアリール Grignard 試薬との反応ではもっとも活性が高い。なお,アルケニルスルフィドの反応では,反応は立体特異的に進行する。また,競争反応を行ない,類似反応とその反応性を比較したところ,ヨードベンゼン > メチルフェニルセレニド ≫ プロモベンゼン > クロロベンゼン > メチルフェニルスルフィドであることもわかった。さらに,種々のアリール,アルケニル,および複素環スルフィドとアリール,アルキル Grignard試薬の反応例を示し,このカップリング反応の有用性と適用範囲の限界を明らかにした。
  • 井上 誠一, 内田 俊治, 小林 昌志, 佐藤 周一, 宮本 統, 佐藤 菊正
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 425-432
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    π-アリル型ニッケル錯体はハロゲン化アリル類から容易に合成でき,非プロトン性強極性溶媒中でハロゲン化アルキルと反応してオレフィン類を収率よく与えることに着目し,この反応を分子内アルキル化に応用して大環状ラクトンを合成する方法について検討した。その結果,中牲かつ穏和な条件下に炭素一炭素結合を形成させ不飽和大環状ラクトンを得ることができた。この方法では立体選択的に,trans-形ラクトンが生成した。また,16~14員環ラクトンは良収率で得られたが, 13 および 12 員環ではやや収率が低く,副生成物として二量化ラクトンが生成した。さらに,このようにこして得られたラクトンから天然香気化合物である exaltolide と(Z)-9-ドデセン-12-オリドを合成した。
    また,このラクトン合成法を用いて,プロパルギルテトラヒドロピラニルエーテルを出発化合物として短行程で,天然マクロライドである recifeiolide を立体選択的に合成することができた。
  • 梶谷 正次, 吉田 泰樹, 秋山 武夫, 杉森 彰
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 433-437
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Bis(1, 2-diaryl-1, 2-ethylenedithiolato)nickel complexes (X-DTNi; where X represents the substituent in the aryl moiety in the ligand) are efficient quenchers for singlet oxygen.
    The formation of 2, 5-dimethyl-2-hydroperoxy-5-methoxy-2, 5-dihydrofuran in the reaction. of 2, 5-dimethylfuran with 1O2 generated from H2O2 and NaC1O is suppressed more by 'X-DTNi with electron-donating X than by X-DTNi with electron-accepting X (Fig.1). Quenching of 1O2 by X-DTNi is not linear to the concentration of X-DTNi, and quenching is more efficient in higher concentrations of X-DTNi than in their lower concentrations. (Fig.1 and Table 2).
    The durabilities of X-DTNi with electron-donating X against 1O2 are lower than those with electronaccentinu X (Fin.2).
  • 瀬恒 潤一郎, 松川 公洋, 北尾 悌次郎
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 438-441
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    o-プロモアニリン,あるいは, N-アセチル-o-プロモアニリン[2a]に対するマロン酸ジエチル銅(1)[1]の芳香族求核置換反応は進行しないが,[2a]のナトリウム塩と[1]との反応によって,2,2'-ジオキソ-3,3,-ビインドリン-3,3'-ジカルボン酸ジエチル[3]が得られた。強い塩基性の反応条件下で生成した,3-エトキシカルボニル-2-オキソ-3-インドリニル銅(I)が,熱的二量化を起こしたヤものと考えられる。インドール誘導体,3-アセチル-2-ヒドロキシィンドール[7a],N-メチル-2-インドリノン[7c],3-アセチル-2-メチルインドール[9a],および,3-(エトキシカルボニル)-2-メチルインドール[9b]が,o-プロモアニリノ基を有する活性メチレン化合物,N-アセトアセチル-o-プロモアニリン[6a],N-メチル-N-エトキシカルボニルアセチル-o-プロモアニリン[6c],N-(2-アセチル1-メチルエチリデン)-o-プロモアニリン[8a],および,N-(2-エトキシカルボニル-1-メチルエチリデン)-o-プロモアニリン[8b]の銅錯体の分子内芳香族求核置換反応によって,それぞれ 13, 25, 14 および, 46% の収率で単離された。
  • 今本 恒雄, 楠本 哲生, 杉浦 保志, 鈴木 伸予, 滝山 信行
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 445-450
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    無水塩化セリウム(III)に有機リチウム化合物を反応させ,有機セリウム反応剤を調製した。この反応剤は Grignard 反応剤や有機リチウム反応剤とくらべて塩基性が低く,2-テトラロンや1,3-ジフェニル-2-プロパノンのようなエノール化しやすいケトンとも円滑に反応し,対応する求核付加物を高収率で与えた。またリチウムエノラートに無水塩化セリウムを反応させて得られるセリウムエノラートは,立体的にかさ高いアルデヒドやケトンとも反応し,アルドールを良好な収率で与えた。
  • 小林 知重, 薪田 信
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 451-457
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    α-アジドスチレン誘導体[13]を Mo(CO)6 存在下煎熱すると 2,5-ジアリールピロール[15]およびアセトフェノン誘導体[16]が得られた。また 3-アリール-2H-アジリン[14]は Mo(CO)6 と加熱すると[15],[16]のほかに 2,4-ジアリールピロール[17]や 2,5-ジアリールピラジン[18]を与えた。[15],[16],[17]の生成には共通の中間体ビニルナイトレン錯体[22]が存在するものと推定され,[15]は[22]の二量化,[17]は[22]と[14]のカップリングさらに[16]は[22]の還元一加水分解による生成物であると考えられる。ナイトレン錯体が還元される経路を明確にするためにアジドベンゼン[19]と Mo(CO)6のプロトン性溶媒中での反応を検討しアニリン[20]が収率よく生成することも明らかにした。堕
  • 伊藤 卓, 森下 芳伊, 青木 淳, 鶴田 慎司
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 458-464
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    モリブデンの窒素錯体, trans-[Mo(N2)2(dpe)2][1](dpe=Ph2PCH2CH2PPh2)と脂肪族ジニトリル NC(CH2)nCN(アジポニトリル(n=4);スクシノニトリル(12=2))とは,トルエン中,室温ですみやかに反応し,錯体[1]あたり 1mol の窒素の発生をともなって,単核のニトリル錯体[Mo(N2){NC(CH2)nCN}(dpe)2]([2](n=4);[4](n=2))と,ジニトリルで橋かけした複核のニトリル錯体[Mo(N2)(dpe)2]2{μ-NC(cH2)nCN}([3]n=4);[5](n=2))を生成した。生成物の同定は IRスペクトル,NMRスペクトル,元素分析などによって行なった。これらの反応で,単核の錯体[2],は,[1]に対するジニトリルの量を多くすることにより,また,複核錯体[3],[5]は,[1] [4]に対して 1/2 量のジニトリルを使用することによって選択的に合成できることがわかった。トルエン,ベンゼンに対して可溶性の単核錯体[2]は溶液中で比較的不安定でゆっくりとアジポニトリルを放出して不溶性の複核錯体[3]に不均化することが見いだされた。また,単核錯体[2]は一酸化炭素と常圧,室温で反応し,遊難のアジポニトリルを放出してカルボニル錯体を生成した。
  • 石井 洋一, 佐々木 一郎, 碇屋 隆雄, 佐分利 正彦, 吉川 貞雄
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 465-472
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    プロキラルあるいはメソ形構造の 1,4-または 1,5-ジオールからアルケンへの水素移行反応において,Ru2Cl4((-)-DIOP)3 が有効な触媒となり光学活性の γ-または δ-ラクトンを光学収率 ~16.9% で与えることを見いだした。この反応は均一系錯体触媒の反応としては例の少ないエナンチオ場区男仮応に分類される。不斉誘導の方向はジオールの置換基の位置により決定され,γ-置換ジオールは R 体のラクトンを過剰に生成するのに対し β,β'-二置換ジオールはカルボニル基の α-位が S の絶対配置をもつラクトンを優位に与える。またジオールのエナンチオトピックなヒドロキシメチル基の一方を選択的に脱水素して光学活性なヘミアセタールを与える第一の不斉誘導と,ヘミアセタールの異性体問での脱水素速度の違いにより動力学的分割の起こる第二の不斉誘導の両方がこの反応に関与していることが判明した。
  • 北村 隆範, 城 崇
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 473-478
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    飽和カルボニル化合物およびニトリルの一酸化炭素および水による水素化反応を検討した。溶媒としてテトラヒドロフランを用いた場合には,反応条件下でロジウムカルボニル錯体が溶液中に一部溶出したが,ジオキサン-ヘキサン(3:7)混合溶媒を用いるとロジウムカルボニル錯体の溶出はまったく認められず,反応が不均一系で進行していることを認めた。水素化反応は,α,β-不飽和化合物の α,β-位の炭素一炭素二重結合のみが選択的に水素化された。しかしホルミル基は本触媒により水素化されてアルコールを生成した。触媒は一酸化炭素および窒素気流下では安定で,反応活性および選択性を低下させることなくくり返し反応に使用が可能であった。アクリル酸メチルを基準として,これに立体的な置換基を導入したり,置換基の数を増加させた場合の反応速度の減少度は均一系よりも不均一系の反応の場合にいちじるしい傾向を示した。またできるだけ条件を同じようにして反応を行なった場合,不均一系反応の方が均一系におけるよりも水素化速度が大きいことを認めた。
    Rh4(CO)12 は反応条件下でロジウムカルボニルクラスター陰イオンを生成し,これがイオン交換樹脂に固定化されて不均一系反応が進行しているものと考えられる。
  • 洪 邦夫, 三瀬 孝也, 山崎 博史
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 479-485
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Rh4(CO)12 を触媒として, CO 加圧下で各種置換ベンゼンとアクリル酸メチル[1]の反応を行ない,置換ケィ皮酸メチル[2]を得,配向性におよぼす置換基の効果について調べた。また,ベンゼンとの競争反応を行ない,相対反応速産と部分反応速度因子を求めた。反応速度にはそれほど大きな差はなかったが,置換基によりつぎの順に増した。オルト位の部分反応速度因子(fo)に比較的大きな差が認められ,その大きさの順は相対速度の順に一致した。一方, fm と fp はほぼ同様の値を示した。
    [1]のアリール化にさいして生成する水素の受容体について調べる過程で[1]と等モル量の酢酸ビニルを添加するとアリール化生成物の収量が向上することを見いだした。これを利用し,ビニル化生成物収量の比較的低いキシレンやナフタレンなどの二置換ベンゼンから[2]を好収量で得た。また,その位置異性体比率を求め,一置換ベンゼンの反応との比較を行なった。
  • 岡野 多門, 森本 馨, 小西 久俊, 木地 実夫
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 486-493
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    酸,塩基に安定な水溶性ホスフィン P[CHR(CH2CH2O)nCH3]3(n=1,2,3,R=H,CH3)を合成し,これらの水に対する溶解度およが水一有機溶媒の二相系における分配平衡を測定した。その結果,ホスフィンの親水性はその分子中の酸素原子数に応じて増加した。水を用いる触媒反応おけるこのホスフイン配位子の有用性を,強塩基性条件下での水性ガスシフト反応をモデルとして検討した。W(CO)6-水溶性ホスフィン系触媒は 1mol・dm-3 KOH 水溶液中でも有効に機能し,水溶性の cis-およびtrans-W(CO)4L2(L=ホスフィン)が触媒活性種であることを見いだした。[RhCl(cod)]2- 水溶性ホスフイン系触媒は 1mol・dm-3 KOH 水溶液中だけでなく有機溶媒との二相系においても高い活性を示し,その触媒活性がホスフィン自身の分配平衡定数の大きさに対応することを見いだした。これらの結果は,この触媒反応が水相に存在する錯体種によって行なわれていることを示す。ロジウム系触媒は水-有機溶媒の二相系で一酸化炭素と水によるオレフイン類のヒドロホルミル化反応に対しても高い活性を示した。
  • 金田 清臣, 小林 雅也, 今中 利信, 寺西 士一郎
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 494-502
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    著者らは, Rh6(CO)16-ジアミン(ピリジン)系が温和な条件下で水性ガス変換反応の活性をもつことを見いだし,この変換反応をニトロ基,カルボニル基,炭素二重結合の還元およびオレフィンのカルボニル化に応用した。これらの反応の特徴はつぎのとおりである。1)各種添加物の効果は水性ガス変換反応と還元反応とでは,いちじるしく異なる。ジアミンの窒素上のメチル置換は還元反応を促進するが,逆に水性ガス変換反応の活性を減少させる。2)Rh-H 結合の求核性は添加物で制御できる。 α,β-不飽和アルデヒドの還元においてピリジンは炭素こ二重結合還元生成物(1,4-付加)を,ジアミンはカルボニル還元生成物(1,2-付加)を与える。3)オレフィンのカルボニル化では添加物濃度を変えることにより,アルコールとアルデヒドが選択的に得られる。4)アリルアルコールの反応ではジアミンにより 1,4-プタンジオールが,ピリジンにより γ-ブチロラクトンが生成する。5)ジアミンをポリスチレンで固定化すると均一系よりも水性ガス変換反応に高い活性を示す。
  • 和田 冨美夫, 紫牟田 正則, 松田 勗
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 503-506
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Interconversion among anionic metal clusters(M=Ru, Os) formed in the basic water gas shift reactions has been studied under various conditions by using three kinds of bases, KOH, NEt3 and DBU(1, 8-diazabicyclo[5.4.0]undece-7-ene). In the Ru-DBU system, [FIRu3(CO)11]- and [H2Ru4(CO)12]2- were mutually converted. The composition was found by IR spectroscopy to depend oh the relative ratio of the CO and H2 partial pressure, and no [H3Ru4(CO)12]- was detected. The result is in contrast to the known interconversion between [EIRu3(CO)11]- and [H3Ru4(CO)12]2- in the presence of the other bases. [H2Os4(CO)12]2 formed with DBU was stable when treated with carbon monoxide at 120°C for 5 h.
  • 渡部 良久, 高月 邦彦, 山本 道弘, 坂本 不可止, 辻 康之
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 507-511
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    一酸化炭素と水を用いる水性ガス転化反応(WGSR)条件下,種々のアルデヒドを用い増炭素反応を行なった。ケトンとホルムアルデヒドあるいはベンズアルデヒドを,塩基とケトンに対して 0.1mo1% のロジウム触媒の存在下, WGSR 条件下(一酸化炭素初圧,70気圧), 180℃ で反応することにより,α-メチル化あるいは α-ベンジル化生成物が得られた。また α-ピコリンおよび γ-ピコリンをホルムアルデヒドと同様な WGSR 条件下反応することにより,対応する 2-および 4-エチルピリジンが得られた。さらに,アルデヒドを,塩基存在下 WGSR 条件下反応させることにより,α-水素を 2 個有するものは,二量化してのち,水素化を受け飽和アルコールに,また,それ以外のアルデヒドは,水素化を受け対応するアルコールを与えた。
  • 吉窟 道明, 藤原 祐三, 谷口 宏
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 512-519
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    パラジウム塩によるオレフィンの芳香族置換反応を利用して,アリル化合物にベンゼン環をベンゼンにより直接導入する反応を Pd(OAc)2/AcOH 系および Pd(cF3CO2)2/CF3COOH 系の両系を用いて検討した。Pd(QAc)2/AcOH 系における酢酸アリル[12]や安息香酸アリル[14]などのアリルエステル類の反応では正常の反応が起こりフェニル化物が一段階で得られた。またハロゲン化アリル類の反応でに多数のジフェニルーおよびトリフェニルプロペン化合物が得られ反応の選択性はよくないが,トリフェニルポスフィンを添加すると 1,3-ジフェニルプロペン[19]が選択的に合成できる。一方, Pd(CF3CO2)2/CF3COOH 系を用いて酢酸アリル[12]あるいは安息香酸アリル[14]を反応させると正常なフェニル化反応は起こらないで,新しいタイプのアシル-0-結合切断-フェニル化反応が起こりシンナムアルデヒド誘導体[29],[32]が一段階で合成できることが明らかになった。この反応は p-ベンゾキノンを酸化葡として添加するとパラジウムに関して触媒的に進行する。これらの生成物の生成経路についても検討した。
  • 小杉 正紀, 石川 高広, 野上 達哉, 右田 俊彦
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 520-526
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    パラジウム触媒を用いる臭化アリールとアリールトリブチルスズとの反応を非対称ビアリールの合成という観点から研究した。本反応は基質,試剤ともに広範な置換基の存在に対して有効であり,非対称置換ビアリールの合成によい反応である。ただしオルト位に置換基をもつアリールスズ化合物は生成物聾え筋った.本反応咽生成倣ハミラジウム触媒の配位子であるトリフェニノレポスフィンか瀾与することを明らかにした。また基質の置換基が生成物の生成におよぼす影響(酸化的付加段階),試剤の置換基が生成物の生成におよぼす影響(メタセシス段階)を調べた。前者は大きな効果を示すが・後者の効果は小さかった
  • 彦岡 三宏, 内山 主治, 鈴木 剛彦, 山崎 康男
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 527-532
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    パラジウみ触媒鴬よび塩基の存在下にジアリールヨードニウム塩とオレフィンの反応を検討した。触媒はパラジウム(0),パラジウム(II)いずれも有効であり,塩基として酢酸ナトリウムを用いた場合に反癒はもっとも速く進行した。溶媒は非プロトン性極性溶媒がよく,またメタノールのような還元性溶媒も有効であったc速度論的検討を行なった結果,反応速度嫉ヨードニウム塩,ガレフィンおよび触媒にそれぞれ一次であったかジフェニルヨードニウム=プロミドとスチレとの反応における見かけの活権化エネルギーは 18.3kcal/mol であった。
  • 井上 祥雄, 大橋 玲二, 豊福 正典, 橋本 春吉
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 533-536
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    パラジウム(0)-トリフェニルポスフィン触媒によるブタジエンと二酸化炭素の反応を研究した。カルボン酸塩とくに酢酸塩を添加することにより六員環ラクトン,(E)-2-エチリデン-6-ヘプテン-5-オリド,の収率が大きく向上することがわかった,一方この反応の副生物であった C9-カルボン酸,すなわち 2-ビニル-4,6-ヘプタジエン酸はジシクロヘキシルカルボジイミドの存在下で N-アシル尿素誘導体として収率よく選択的に得られた。
  • 田中 正人, 小林 敏明, 坂倉 俊康
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 537-546
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    有機ハロゲン化物が,塩基存在下パラジウム錯体触媒によって末端アセチレソとともにカルボニル化され,アセチレンケトンを与えることを見いだした。ヨードベンゼンとフェニルアセチレンからの 1,3-ジフェニル-2-プロピン-1-オン(DPP) の合成反応について,反応方法を検討した。パラジウム触媒の配位子としては, R2P(CH2)4PR2(R=フェニル,ブチル,シクロヘキシル),1,1'-ス(ジフェニルホスフィノ)-または 1,1'-ビス(ジフェニルアルシノ)フェロセン が, DPP 選択率および反応速度の両面で優れていた。アルシン類はホスフィン類より CO 挿入速度が大で,このことがアルシン類による高 DPP 選択性の理由であると推論した。 PdCl2(PPh8)2 触媒では,低 CO 圧下では DPP 選択率がいちじるしく低下するが, PdCl2(dppf) を触媒に用い,低温で反応させることにより,常圧でも高収率にDPPを得ることができた。塩基としては, PKa の大きな第三級アミンがもっとも好ましく,また炭酸ナトリウムも使用可能であった。本反応は,ハロゲン化物については種々の官能基をもつ芳香族ハロゲン化物アルケニルハロゲン化物こ,アセチレンについては無置換アセチレンを除く末端アセチレン化合物に一般に応用可能であった。
  • 小杉 正紀, 亀山 雅之, 佐野 寛, 右田 俊彦
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 547-551
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    パラジウム触媒存在下で臭化アリールと(ジエチルアミノ)トリプチルスズとの反応で N ,N-ジエチルアニリン誘導体を生じた。この反応はアライン機構や SRN1 機構によるものでなく,新しいタイプのアミノ化であることがわかった。この反応の適応範囲と限界を調べた結果,種々のアミノスズ化合物に対するこの反応の適応にはかなりの制限があり,アミノスズ化合物の構造と生成物の収率との間に特別な関係は見いだせなかった。
  • 鈴木 繁昭, 金平 浩一, 藤田 芳司, 大寺 純蔵
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 552-557
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    プレニル基の 3-メチル-1,3-ブタジエニル基への変換方法について検討し,エン型塩素化反応により2-クロロ-3-メチル-3-ブテニル基とし,ついでパラジウム錯体一酢酸ナトリウムにより脱塩化水素させる方法を見いだした。この脱塩化水素反応は,アセタート経由であり,パラジウム錯体は塩化物からアセタートへの変換およびアセタートからの脱酢酸反応の両方を触媒していると推定される。この 1,3-ジン合成法と,シグマトロピー反応または分子内 Diels-Alder 反応とを組み合わせ, one-pot エで不飽和アルデヒドや二環性酢酸エステルの合成を行なった。
  • 西村 哲郎, 内山 正治, 鈴木 剛彦, 山崎 康男
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 558-560
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Palladium-catalyzed arylation of allyl and 2-methylallyl alcohols with diaryliodonium salts has been investigated. The reaction proved to be useful in converting aromatic hy d r ocarbons to the corresponding arylpropanals in two steps. Thus, 3-(p-isopropylpheny1) - 2 methylpropanal(cyclamaeldne hyde)a nd 3-(p-isobutylphenyl)-2-methylpropanaall(dlielyhyde), which are perfume for soap and toilet, were obtained from isopropylbenzene and isobutylbenzene in 78 and 82% yields, respectively.
  • 吉田 朗, 渋江 明, 小宮 三四郎
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 561-563
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Reductive elimination of ethane from trimethyl(triphenylphosphine)goldap is strongly accelerated by the addition of dimethyl acetylenedicarboxylate. S-shaped logistic time-yield curve suggests the autocatalytic property of this reaction. In fact, addition of the reaction. product, methyl(triphenylphosphine)gold( I ), into the reaction mixture diminish the induction period. A mechanism involving an unstable Au( III )-Au( I ) bimetallic species has been proposed.
  • 長谷川 良雄, 岡村 清人
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 564-571
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ケイ素原子と炭素原子が交互に結合した骨格からなる重合体であるポリカルボシランは,その熱分解生成物として炭化ケイ素を与える。そのため,炭化ケイ素繊維を始めとする炭化ケイ素系セラミック材料の前駆体として用いられている。合成され跨セラミックスの性質がポリカルボシランの特性に影響さむれるにもかかわらず,その特牲には不明な点が多く残されている。得られたポリカルボシランの構造が,その合成方法により異なることに着目して, 3 種類の合成方法でポリカルボシランを合成し,分子量,固有粘度,赤外吸収スペクトル,紫外吸収スペクトル, 1H-,13C-,29Si-NMR スペクトルの測定,および,化学分析を行ない,それらの分子構造を調べた。その結果,その分子構造は平面的であり,鎖状構造を含み,ポリカルボシラン分子を構成するケイ素原子について,その結合状態で分類すると,それらは 3 種類に分類できることが明らかになった。すなわち, 4 個の炭素原子と結合したケイ素原子(SiC4), 3 個の炭素原子と 1 個の水素原子と結合したケイ素原子(SiC3H), x 個の炭素原子と(4-x)個のケイ素原子と結合したケイ素原子(SiCxSi4-x, x=1,2または3 )である。
  • 久留 正雄, 渡辺 淳, 山灘 浩司, 小沢 幸三, 内田 登喜子
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 572-579
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    斜めに橋かけされた[4](1,1')[4](3,3')[3](4,5')フェロセノファンの構造を X 線結晶解析により決定した。この結晶は単斜晶系,空間群 A2/a,z=8 で,格子定数は α=21.825(5),b=8.721ゆ(2),c=16.971(4)Å, β=103.88(2)°である。異常な斜めの橋かけによるこの化合物のひずみは,主としてフェロセン核のコンポメーションの変形となってあらわれている。すなわち,二つのシクロペンタジエニル(Cp)環はねじれ形に回転し,環同士の平行性をたもてずに二面角 8.7° でたがいに傾いてゆいる。また, Cp環-Fe-Cp 環の間はかなり圧縮されていて,その距離は 3.220Å を示した。
    つぎに,上記化合物を含めた多橋かけフェロセノファン類の電子スペクトルを測定し, d-d 吸収帯のシフトと分子構造との関係を検討した。テトラメチレン鎖の橋かけ数と d-d 吸収帯の間に比較的よい相関があり,橋かけ増加にともない短波長シフトする。さらに,この吸収帯は Cp 環-Fe-Cp 環の間の距離が短くなると大きく短波長シフトし,しかもその間にかなり良好な直線関係があることを見いだした。
  • 佐藤 久美子, 中島 覚, 渡辺 正信, 本山 泉, 佐野 博敏
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 580-585
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Mossbauer 分光法を用いた広範囲な研究から,フェロセン誘導体の酸化過程において,特殊な電子状態を示す化合物が存在することが見いだされてきた。本研究ではジブチルビフェリシニウム三ヨウ化物(DBBF+I3-),テトラメチル[2]フェロセノファンーヨウ素付加体の結晶構造解析およびその温度変化について報告する。二核フェロセン混合原子価錯体 DBBF+I3- は鉄原子が二価と三価のものが共存するが,温度によって混在型から平均型へと過渡的な電子状態を示すようになる。このような電子状態は分子構造の異方性だけでなく置換基の分子運動にともなう分子の充填状態の変化や鉄原子とヨウ化物イオンとの相互作用の変化に関係することが明らかになった。
    また橋かけフェロセンは金属塩によって,一電子酸化物にいたるまでに電子対を供与した付加体を形成し,鉄原子は金属塩との相互作用により異方的な電荷分布を示すようになる。とくにヨウ素化合物の場合,一電子酸化物と付加体とが共存しており,鉄原子とヨウ素との相互作用が動的であることが明らかになった。
  • 若槻 康雄, 山崎 博史
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 586-591
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    表題化合物の合成とX線結晶解析を行なった。(η-1,2,3-トリメチルシクロペンタジエニル)(トリフェニルポろフイン)ジメチルコバルト(III)の結晶は単斜晶系, P21/n で, α=14・960(6),b=16.059(4) c=10.157(5)Å, β=99.49(2)℃, U=2406.9Å3, Z=4 であった。(η-メトキシカルボニルシクロペンタジエニル)(トリフェニルホスフィン)ジメチルコパルト(III)の結晶は単斜晶系, P21/n で α=16.277むむ(2),b=9.798(3), c=15.295(2)Å, β=104.18(1)°, z=2364.9Å3, Z=4 であった。構造はそれぞれ 3022, 2998 個の回折強度から Patterson 法で解き, R=0.043 および R=O.054 まで精密化した。各シクロペンタジエニル陰イオンの安定構造を非経験的分子軌道法計算によって求め,結晶解析によってえられたコバルト(III)への配位状態のそれと比較した。トリメチルシクロペンタジエニル陰イオンは配位によって環が拡大し,平面性からのずれも大きい。メトキシカルボニルシクロペンタジエニル陰イオンの安定構造は環とメトキシカルボニル基との強い共鳴効果の存在を示し,コバルト(III)への配位にさいしてもこの効果は片較的よく保持されていた。 Co-P 結合距離には明確な差がみられ,シクロペンタジエニル上の置換基の電子的影響がコバルト原子におよんでいることがわかった。
  • 篠田 純雄, 中村 健一, 斉藤 泰和
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 592-597
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    カルボキシラト橋かけ二核ロジウム(II)ホスフィン錯体の核スピン結合定数(1J(RhP),2J(RhP),1J(RhRh),3J(PP))を拡張 Huckel 分子軌道法を用いる Pople-Santry 近似により検討した。この錯体に特徴的な大きな 3J(PP)の値は,主として 4dz2 軌道からなる Rh-Rhσ および σ* 軌道の存在と関連する。すなわち, P(3s) 軌道係数は小さいが,これらの軌道が最高被占軌道・最低空軌道近傍にあるためエネルギー差が小さく,大きな 3J(PP)値を与えており,金属間a結合のある二核錯体の特性が反映したものといえる。単核錯体の 2J(PP)trans も同程度に大きな値をもつが,この場合は軌道係数・エネルギー差がともに大きな軌道対が支配的であった。PMe3, PMe2Ph, PMePh2 の電子供与能を P(PH3)のクーロン積分の変化としてモデル化し,二核ロジウム(III)との配位結合性格を評侮した。原子緬s動道間相互分極率 1π(RhP)に対して Rh(5s)-P(3s)重なり population および Rh-P 結合 population は直線関係にあり,1π(PhP) には a 結合の強さが反映している。また,実測 1J(RhP)は 1π(RhP) と並行関係にあるので,1J(RhP) の値自体をこの錯体における Rh-Pσ 結合強度の尺度と考えることができる。
  • 榊 茂好, 丸田 勝彦, 大久保 捷敏
    1985 年 1985 巻 3 号 p. 598-604
    発行日: 1985/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    水銀(皿)エチレン錯体,[HgH(C2H4)]+ の構造,配位結合を ab initio MO 法により検討し,典型金属エチレン錯体,[Li(C2H4)]+,代表的なオレフィン錯体, [PtCl3(C2H4)]- と比較した。[Li(C2H4)]+ では静電的安定化の寄与が大きく,[HgH(C2H4)]+ ならびに [PtCl3(C2H4)]- では電荷移動相互作用の寄与が大きい。とりわけ,水銀錯体ではエチレンから水銀への供与相互作用の寄与が重要であり,白金錯体ではエチレンから白金への供与相互作用と白金からエチレンへの逆供与相互作用が同程度重要であった。つぎに,遊離 C2H4,[Li(C2H4)]+,[HgH(C2H4)]+ に金属イオンの反対側から H2O を接近させ,エチレンへの求核攻撃反応を検討した。遊離 C2H4 への H2O の接近により全エネルギーはいちじるしく不安定化し,[Li(C2H4)]+ の場合,溶媒和と見られる全エネギーの安定化は起こるが,H20がC-O結合を形成できる距離まで接近しようとすると全エネルギーは不安定化する。[HgH(C2H4)]+ の場合, H2O の接近は C-O 結合距離のごく近くまで,ほとんどエネルギー障壁なしで進行することが示された。このような求核攻撃反応の電子的過程,ならびに水銀錯体が,求核攻撃反応を促進する理由を orbital mixing により明らかにすることができた。
feedback
Top