日本化学会誌(化学と工業化学)
Online ISSN : 2185-0925
Print ISSN : 0369-4577
1987 巻, 11 号
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  • 花田 禎一, 大川 誠, 曽我 直弘
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1861-1866
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    高周波スパッター法により,ZrO2-Al2032成分系非晶質膜を作成し,それらの非晶質膜の密度,屈折率,熱膨張およびAIKaX線発光スペクトルの測定を行なった。本2成分系において,ZrO2濃度が0~67mol%の組成域で非晶質の膜を作成できた。密度や屈折率は,ZrO2濃度が15と50mo垂%付近にそれぞれ極大および極小を示した。熱膨張係数は,ZrO2濃度が15mol%付近で極小を示した。AIKaX線発光スペクトルの化学シフトから求めた膜中のAl3+イオンの平均酸素配位数は,ZrO2濃度とともに5から,5より小さい値へと変化した,一方,密度と屈折率のデータから算出したZrO2の分子屈折の値の変化から求や撫Zri4+イオンの酸素配位数は,ZrO2が15mol%以下の非晶質膜中では6より小さい値であったが,ZrO2が20mol%以上の非晶質膜中では,ZrO2濃度によらず6で一定であった。これら非晶質膜中の陽イオンについての平均酸素配位数のZrO2濃度依存性は,物性の組成依存性とよい対応を示した。
  • 泉谷 敏英, 斉藤 栄子, 山本 良一, 堂山 昌男
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1867-1874
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    高周波スパッター装置によりMoとAlを同時に蒸着し金属多層膜を作製したe膜はMo(110)面とA1(111)面が非常によく基板に平行に配向した多結晶膜であった。明瞭なサテライトピークが数多く認められ結晶秩序度はきわめて高い。X線回折パターンの積層周期による変化を調ぺたところ,メィゆゆンピークの半値幅は周期が60Åから増大し40Åで極大に達し,ふたたび減少した。ピーク位置も同時ぼゆに高角度側にシフトした。周期が40Å以上の線のX線回折パターンのシミュレーションは,拡散層を取り入れた台形モデルでかなりよくできた。膜の面内方向の電気抵抗を4.2~280Kで測定した。長い周期の膜は70K以下でほぼ一定の抵抗値になり,ρ(280)/ρ(4.2)は約1。2と小さいeこの範囲では抵ゆ抗は周期の逆数に対して直線的に増加する。しかし50Å以下の周期では抵抗が急激に増加し負の抵抗温度係数(TCR)を示すようになる。この領域でも膜はアモルファスではなく,微細な結晶紋からなる。
  • 坂口 裕樹, 谷口 昇, 世利 肇, 足立 吟也, 塩川 二朗
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1875-1879
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    スパッター法により作製されたアモルファスLaNi5薄膜のキャラクタリゼーションを行なった。また,水素吸蔵特性についても調べ,その結果を蒸着膜の場合と比較した。
    スパッター膜の密度は約69・cm-3であり蒸着膜より大きく,パルクより小さいことがわかった。熱伝導率は,膜試料においては約2W・m-1・K-1であり。塊状試料より大きいことが示された。
    種々の基板上に形成されたLaNi5スパッター膜について,水素吸収一放出サイクルに対する耐久性,ならびに基板との密着性を調べた。その結果Ni基板上のLaNi5膜は耐久性が大きく,かつ基板との密着性に優れていることがわかった。これは基板と膜の熱膨張率の差が小さいためと考えられる。
    スパッター膜に吸収される水素量は,膜厚1.3μmのものでLaNi51式量あたり約2.4個でありバルク試料の半分以下であった。また,蒸着膜より吸収水素量が大きかったのは,スパッター膜がやや結晶性を帯びているためと思われる。膜中の水素濃度の水素圧力依存性を調べたところ,水素濃度は圧力の増加とともに単調に増大し,バルク試料において見られるような圧力プラトーが現われないことがわかった。
  • 中山 則昭, 森谷 勲, 新庄 輝也
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1880-1885
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Mn-Sb積層膜の透過電子顕微鏡観察を行なった。膜厚300ÅのSb膜をトリアセチルセルロースフィルム基板上に基板温度室温で蒸着すると,粒径約500ÅのC面配向多結晶膜が得られる。このような配向性Sb膜上にMnを蒸着すると,Mnの蒸着膜厚40Åの場合にもMn原子はすべてSb原子と反応し,Sb層上にエピタキシャルに成長した金属間化合物MnSb(膜厚100Å)が生成される。
  • 村中 重利, 坂東 尚周, 高田 利夫
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1886-1890
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    反応性蒸着法によって異なる条件下で5種類の非晶質酸化スズ膜を蒸着し,その組成および熱処理にえよる構造変化を119Sn Mossbauer 効果,TG,DSC X線回折によっで調べた。非晶質膜の組成は蒸着条件に依存しSnO1.3~SnO1.5であった。膜は多孔性の微細構造を示し,蒸着時の基板温度が低いほどより顕著であった。非晶質膜を空気中で加熱した場合には200℃ 付近で完全に酸化され非晶質のSnO2となり,370℃ 以上で結晶化しルチル型SnO2となった。一方,窒素ガス中では400℃ 付近でも結晶化が始まり,α-SnOおよびルチル型SnO2の二相に不均化反応した。
  • 寺嶋 孝仁, 坂東 尚周
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1891-1895
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    金属鉄を(~10-5Pa)の高真空中で蒸着したのち,(~10-1Pa)の酸素ガスを導入して表面酸化を行ない,金属鉄膜上に酸化層を形成し,さらにその上へふたたび金属鉄を蒸着する操作をくり返して金属鉄と酸化鉄の多層膜を合成した。金属鉄と酸化鉄のくり返し周期に対応してX線回折において低角度にBraggピークが観測され,金属鉄層と酸化層が平坦に周期性よく積み重なっていることが確認された。鉄膜の表面において酸化を受ける厚さは,鉄膜の厚さには依存せず,ほぼO.7nmであり,形成される表面酸化層に磁化が非常に小さい。この酸化層は著者らがすでに報告しているFe3O4超薄膜になっている。蒸着やた鉄膜の厚さが2nm以上の場合,鉄層は連続的な膜状で磁化は膜面内にあって強磁性的な磁化曲線を示した。鉄膜の厚さが1nmのときは,鉄層はもはや連続的ではなく室温では各結晶子の磁化はゆらいでおり,超常磁性的な磁化曲線となった。鉄層の厚さがO.7nmでは鉄はほとんどすぺて酸化されていた。
  • 中島 健介, 岡本 祥一, 小林 健吉郎
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1896-1900
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    イオン注入法による物質合成の最大の特徴は,被注入物質と注入イオンの非熱平衡状態での反応過程にある。それゆえに,イオン注入法を用いることによって,従来の手法では高温に加熱することなしには困難であった高融点材料の薄膜化や,まったく新しい機能性材料の非加熱プロセスでの合成が期待される。本研究では,スパッタリング法で作製した膜厚170と300nmのTi薄膜にB+イオンを高濃度に注入して,高温機能性材料として期待されるTiB2の合成を行なった。イオン注入は,加速電圧を60kV,注入量を7.14×1017,2.30×1018 ions/cm2にして行なった。二次イオン質量分析(SIMS)による注入イオンの深さ方向分布の測定によれば,このような高濃度注入でも注入イオンの平均射影飛程はLSS理論による計算値とよく一致した。2.30×1018 ions/cm2の注入のとき,ホウ素の最大濃度は,固相反応で作製したTiB2におけるホウ素濃度を上回った。X線分析によってホウ素イオン注入したTi薄膜中には,TiB2の微結晶が生成していることを確認し,その生成過程について検討した。膜厚170nmのTi薄膜にホウ素を注入した直後では,4.2から350Kの広い温度範囲にわたってO.3ppm/K以下という非常に低い抵抗温度係数を示した。焼鈍実験の結果,この特異な電気抵抗特性は注入膜の微細構造に起因するものと推察された。
  • 小林 健吉郎, 飯田 一郎, 岡本 祥一
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1901-1907
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    スバッタリングによりCrを添加したY2O3薄膜を作製した。この薄膜の不純物準位のエネルギー準位と光誘起電荷移勘過程におよぼす役割を知るため,電極Cr添加Y2O3薄膜-電極の三層構造から成る試料を作製し光電流の測定を行なった。-光束法で測定した光電流の分光スペクトルから,450nmより短波長側で価電子帯からCr5+への電荷移動型吸収が生じ,390nmでCr5+が光励起され,この光励起状態から伝導帯に電子が移勘することが確講された。二光束法で測定した光電流の分光スベクトルからは,伝導帯の底から2eVに酸素欠陥準位が存在し,熱平衡状態では電子は占有されていないことが明らかになった。
  • 臼井 博明, 高岡 義寛, 山田 公, 高木 俊宜
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1908-1915
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    クラスターイオンビーム(ICB)法は,低速大容量のイオンビームを発生することのできる新しい薄膜形成技術である。ICB法では,従来化学的に取り扱われてきた微小なクラスターや固体物理的に取り扱われてきた超微粒子とは異なった巨大クラスター,すなわち100~2000個の原子が緩く結合した塊状原子集団をイオン化,加速して薄膜形成に用いる。そのため,イオンの運動エネルギーや電荷の効し果に加え,クラスター独特の性質も相まって,特徴ある薄膜形成が可能となる。ここでは,ICB法における膜形成機構の特徴を明らかにするとともに,金属,半導体,化合物,有機物などの各種薄膜の作成例を述べ,低温結晶成長,エピタキシャル成長範囲の拡大,結晶系の制御,極薄多層膜形成,超平坦膜の形成や化学的組成の制御が可能となることを示す。ICB技術は,従来の熱平衡下での手法とに異なった新しいプロセス技術として,半導体メタライゼーション,三次元デバイス,新材料開発や高機能有機薄膜作成などへ幅広い応用可能性をもつ。
  • 松原 覚衛, 小柳 剛, 高木 俊宜
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1916-1923
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    クラスターイオンピーム(ICB)による薄膜形成におけるイオンの電荷の効果について考察した。絶縁性ガラス基板と接地したAl蒸着基板(導電性基板)に同時蒸着したBi,Te薄膜成長過程での結晶ら構造の変化と一軸優先配向性結晶成長について基礎研究を行ない,つぎのことがわかった。イオン化.加速したクラスターピームは薄膜形成の初期過程での結晶核形成に大きな影響を与え,結晶構造によって異なる特定の結晶軸方向に優先的に薄膜成長が起こる,基板上にイオンが存在する場合の核形成について,電子軌道結合モデルを仮定して理論計算を行ない,特定軸への優先配向性薄膜成長についての有益な知見を得た。
  • 大橋 正夫, 溝口 修二, 山中 昭司, 服部 信
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1924-1927
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ZrCi4蒸気とN2およびNH3を用いて,RFプラズマCVD法によるβ-ZrCIN薄膜の合成を行なった。ZrCl4-N2系では膜の生成は認められず,ZrCl4-NH3系ではZr欠損のZrNが生成した。ZrCl4N2-NH3系において,ガス混合比NH3/N2=1/5で反応を行なうと,基板温度400~600℃ で黄色のα-ZrCINが生成し,これをN2気流中630℃で熱処理すると,淡黄緑色のβ-ZrCINが得られた。膜の光透過性は良好で,走査型電子顕微鏡観察によると,β-ZrCINの微細な板状結晶が基板に垂直に成長していた。α-ZrCIN膜をNH,気流中で熱処理すると,膜より塩素が除かれ,非晶質のZr-N膜が生成した。β-ZrCIN膜だけでなく,非晶質Zr-N膜にもリチウムがインターカレーションすることを見いだし,二つの膜のエレクトロクロミック特性を調べた。
  • 川崎 三津夫, 林 一範, 築山 良男, 羽田 宏
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1928-1933
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    光CVD法によるアモルファスシリコン薄膜の形成機構を明らかにする目的で,とくに初期の核形成過程に注目した実験を行なった。反応ガスにはジシランを使用し,パルスキセノンランプを光源として,SiO2基板上に堆積するSi核の数密度について検討した。微小なSi核は,化学的な増幅法により容易にコロイド銀に増幅されることを利用して検出した。測定された核数密度は,光照射量の増加とともに,初期にはほぼ直線的に増加するが,その後明らかな飽和現象が現われる。飽和密度は基板温度が低い方がより高くなる傾向を示す。飽和現象は,薄膜の島状成長を示唆するもので,前駆体ラジカルの表面拡散の存在を裏づけている。また,飽和前の初期核生成速度は,少なくとも150~250℃の範囲では,高温ほど大きくなる。これは,核生成反応の性質を反映したものと考えられる。さらに照射パルスの総数を一定にして,パルス間隔を長くしていくと,あるところまでは,核数密度の変化は起こらないが,ある臨界値(パルス間隔の)を超えると急に減少する。この特異なレスポンスについて,速度論的な観点から考察を行なった。
  • 木枝 暢夫, 水谷 惟恭, 加藤 誠軌
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1934-1938
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    CVD法によって,VCl4-N2-H2-Ar系の混合気体から,石英ガラス基板上に窒化バナジウム薄膜を析出させた。析出温度800℃以上で窒化バナジウムが生成し,900℃ 以上で基板と密着した薄膜が形成された。析出温度,気体の全流量,および原料気体の組成が,析出速度,析出相および薄膜の微構造に与える影響を調ぺた。析出速度は析出温度に依存し,1000℃付近を境にその傾向が変化する。低温側の領域で,析出速度のArrheniusプロットの傾きから見かけの活性化エネルギーを求めると約180kJ/molとなり,析出が表面反応に律速されていることを示している。このときの析出速度に対する各原料気体の分圧の影響を検討した結果,窒化バナジウム薄膜は,基板上に吸着したVCl4とH2が反応して生成した活性なバナジウムと,気相中のN2が反塔して析出していろことが予想された。
  • 後藤 孝, 平井 敏雄
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1939-1945
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Si-Ti-C-H-Cl系の熱力学的平衡を数値計算によって求め,SiCl4, TiCl4, OCl4, H2 ガスを用いたCVDとの比較を行なった。数値計算によって,生成する相の種類(たとえばsic+Tic ,sic+Tic+C,Tic+Ti3SiC2など)が予測され,実験結果と比較的よく一致した。この系でのおもなガス種は(H2).(HCl),(SiCl2),(TiCl3)などであり,(H2),(HCl)平衡分圧は温度による変化がほとんどないが,(SiCl2)平衡分圧は温度の上昇とともに増大し,(TiCl3)平衡分圧は温度の上昇とともに減少する。固相〈Sic〉の理論生成効率は温度の上昇とともに低下するのに対し,固相〈Tic〉の理論生成効率は温度の上昇とともに増大する。SiC+TiC相中における組成比SiC/(SiC+TiC)は,計算値と実験値はほぼ一致したが,計算からはその比が温度の上昇とともに小さくなることが予測されるのに対し,実験からはその比がやや増大する傾向が認められた。これは固相〈SiC〉の生成に関する速度論的効果が影響をおよぼしているためと考えられる。
  • 横尾 俊信, 湯浅 章, 神谷 寛一, 田中 勝久, 作花 済夫
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1946-1951
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ゾル.ゲル法によりアンチモンをドーピングしたTiO2薄膜を調製し,その光電気化学的性質を調べた。ESCAにより調ぺた結果,600℃で20分間熱処理したTiO2(アナタース)中のアンチモンはSb3+として存在することがわかった。Sb3+はTiO2中に侵入型で固溶してTio2の電気伝導度を増加させるが,その固溶度限は約1mol%である。光電流は薄膜の電気伝導度の増加の結果として0.5mol%Sb2O3,で約26mA.cm-2となり,若干増加するが,それ以上ドーピングするとかえっでいちじるしく低下し,とくに5mol%Sb2O3では約3mA.cm-2と約1/10に減少した。これはSb3+がTiO2のバンドギャップ中に不純物準位を形成し,それが再結合中心として働くためであると考えられる。TiO2中のSb2O3は光照射下で溶解し,ドーピング種としては好ましくないという結果を得た。
  • 峠 登, 松田 厚範, 南 努
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1952-1957
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ジルコニウム n-ブトキシドとシリコンエトキシドを出発原料とするゾル.ゲル法により,ジルコニアZrO2 薄膜,およびZrO2 を高濃度(50mol%以上)に含むZrO2-SiO2コーティング薄膜を作製した。これらのアルコキシドを空気中の水分を利用して加水分解し,湿度を制御したグローブボックスち中で,ディッピング法によりコーディングを行なつた。コーティング雰囲気の湿度が高くなるにつれて,得られる薄膜の光透過率は減少し,薄膜の表面は粗くなった。これは,雰囲気中の水分によってコーティング薄膜中の未反応アルキル基が急激に加水分解され,ジルコニウムの酸化物あるいはその水和物が析出するためである。しかしながら,コーティング雰囲気の相対湿度を20%以下にすることにより,透明性の高い薄膜が得られた,ZrO2-SiO2系薄膜の屈折率は,SiO2含量の増加とともに直線的に減少し,SiO2含量を100mol%へ外挿したときの値は,溶融石英ガラスの屈折率にほぼ一致した。さらに,ZrO2を高濃度に含む均質な薄膜は,耐アルカリ性に優れ,耐アルカリ性コーティング膜としての応用が期待される。
  • 辰巳砂 昌弘, 南 努
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1958-1963
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ゾル.ゲル法を用いてLi2O-SiO2系非晶質薄膜を作製した。得られた薄膜は無色透明で,仕込み組成からの組成ずれがなく,Li濃度が比較的低い場合には,その表面はきわめて平滑であった。薄膜の導電率は熱処理温度に依存しており,熱処理温度が高いほど大きくなる傾向がみられた。結晶化温度付近の熱処理により,対応する組成の超急冷ガラスに近い導電率のものが得られた。このことから,得られた薄膜は超急冷ガラスの構造に比較的近い構造をとっているものと考えられる。また,Li濃度が比較的低い場合には,有機物の燃焼温度よりも低い熱処理温度で導電率がいったん高くなる現象がみられた。これは,ある程度有機物を含有した状態で,導電に都合のよい構造が形成されるためと考えられる。導電率の組成依存性からは,膜中のLi濃度を高めても,必ずしも導電率が高くならないことがわかった。これはLi濃度が増すと,乾燥過程でデ空気中のCO2と反応してLi2CO3が一部生成し,加えられたLi+イオンが有効に導電に寄与しなくなるためと考えられる。
  • 石山 純一, 白川 哲朗, 黒川 洋一, 今泉 真, 斎藤 正三郎
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1964-1969
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    活性炭またはアルミナ担持の高分散ニッケルおよびコバルト触媒が,セルロース-金属水酸化物ゲル膜またはアルミナー金属硝酸塩ゲル膜の前駆体から熱分解により調製された。ゲル膜前駆体は,ゾル.ゲル法により,それぞれ多孔性セルロースゲル膜または塩化アルミニウムから調製した超微粒子アルミナゾルから作製した。調製触媒の金属粒子の大きさは,均一な前駆体ゲルのゲル網目により鋼御される。このようにして調製した触媒の反応性を,1,3-および1,5-シクロオクタジエンの水素化反応により検討した。ジエンからモノエンへの選択性および活性は,触媒の粒径が小さくなるにつれて増加する傾向を示した。また,本触媒を通常の含浸触媒と比較したところ,モノエン選択性は同程度かそれ以上であったが,活姓はRaney触媒より低かった。これは,調製のさいに金属粒子が担体により被覆されることによると思われる。本調製法は,活性炭またはアルミナ担持の高分散金属触媒を一挙に調製することができるとともに,一般に行なわれている超微粒子触媒の担体上への固定化プロセスを簡略化することができる。
  • 菊地 英治, 伊藤 公紀, 藤嶋 昭
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1970-1974
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ビス(アセチルアセトナト)オキソチタン(IV)TiO(acac)2の0.05mol/dm3エタノール懸濁液を噴霧原液とするスプレーパイロリシス法で導電性ガラス上にTiO2の薄膜透明電極を作製し,光電極特性を調ぺた。膜の厚さは原料液の噴霧量,とほぼ比例しており,100cm3噴霧した場合の厚さは,約200nmである。膜の構造はX線回折図および合成温度(300~400℃)からアナタースの微結晶体であると推定された。結晶粒径は20~50nm程度である。これらの電極のドナー密度は,1017~1018cm-3,フラットパンド電位は-0.2~-0.4V vs.SCEであった。光電極としての量子効率は,低いもので20%程度,高いもので40~60%であった。この値ぽ熱酸化膜電極やスパッター膜電極とほぼ同等である。また,この電極の光電流は立ち上がりが急で,フラットパンド電位付近で大きな電流を取りだすことが可能である。スプレーパイロリシス法はきわめて簡便で安価な薄膜形成法であるが,このように優れた特性を示すTiO2薄膜電極を作製できることがわかった。
  • 久保田 昇, 山崎 周一, 佐藤 栄一
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1975-1979
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ピロリン酸土水素カリウムおよびホウ酸を含むチオシアン酸カリウム-塩化パラジウム溶液からのパラジウム電析について検討した。パラジウム(II)イオンを含む酸性チオシアン酸溶液での金翼析出の電位は,パラジウム(II)イオンを含有しないときより正電位側で,水素発生が少ないことが認められた。パラジウム(II)イオンを含む酸姓チオシアン酸溶液にピロリン酸二水素カリウムを含有したときは,含有しないときよりパラジウムの析出は負電位側であり,また,ホウ酸を含有したときはさらに負電位に移行した。ピロリン酸二水素カリウムはH2発生の限界電流密度を大きくし,電極表面のpHの変動をおさえる緩衝作用が認められた。また,ピロリン酸二水素カリウムあるいはホウ酸を含まないパラジウムめっきでは亀裂が生じやすいが,ピロリン酸水素カリウムおよびホウ酸の含有はその改善に効果が認められた。ピロリン酸二水素カリウムおよびホウ酸を同時に含有したチオシアン酸カリウム-塩化パラジウム溶液から得られたパラジウム電析ではカソード電流効率が高くなり,また,その電析面に対しては亀裂の減少および平滑化に効果を示すことが認められた。
  • 玉浦 裕, 阿部 正紀, 伊藤 友幸
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1980-1987
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    フェライト.めっき法によれば,常圧下,50~90℃ の水溶液中において直接,基板上にスピネル型フェライト膜を堆積させることができる。現在まで報告してきた各種めっき法に関する研究のうち,“回転円板法”,“薄液膜法”,“スプレー.スピンコート法”の3法によって得られた結果に関して考察した。基板とフェライト膜との付着性は,基板表面上のOH基,COOH基により増大する。回転円板法での膜堆積速度は1.0~1.5nm.min-1であり,他の2法では20~30nm.min-1と約20倍であった。薄液膜法では,膜堆積速度は,NaNO,(酸化剤)濃度が0.01mol.dm-3付近では濃度に依存し,0.02~0.04mol.dm-3ではほぼ一定となった。また,回転円板法以外の方法では,膜の優先配向がみられ,Fe3O4,膜では(100)面,CoxFe3-xO4(x=O.04)膜では(111)面が膜面と平行となった。配向性はNaNO2濃度に依存した(薄液膜法)。これらの結果と膜表面の電気化学的測定の結果から,表面ではFe2+-richの状態と酸化状態とで起こる2種類の反応が関与するものと推定された。
  • 美濱 和弘
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1988-1994
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    NaCl(001)へき開面上および(110)硯磨面上にMgOと金属(Au,FeおよびTi)を同時蒸着をすることにより,単結晶薄膜中にエピタキシャル成長をした微結晶が一様に埋め込まれた複合膜を作成し,電子顕微鏡を用いて観察した。MgO-Au複合膜の場合,数nmの大きさのAu微結晶の厚さは高々数原子層であることがわかった。MgO-Fe複合膜の場合,Feは1nm見当の微結晶として成長し,500℃,数時間によりα-Fe鍬結晶の成長,また,1000℃ の熱処理により高温相であるγ-Fe微結晶が室温まで焼入れされることを見いだした。MgO-Ti複合膜の場合は前の二つの場合とは異なって,まず1nm以下の大きさの秩序空孔をもつTi1-xO微結晶として成長し,この試料の1000℃,数分間の熱処理によりMgO膜中にスピネル構造をもつMg2TiO4,微結晶の成長が認められた。
  • 中前 勝彦, 山口 勝也, 谷川 聡, 角谷 賢二, 松本 恒隆
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 1995-2000
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
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    水蒸気プラズマ処理によりポリ(エチレンテレフタレート)(PET)フィルムの表面処理を行ない,表面のぬれ姓およびコバルト金属薄膜との接着姓におよぼす表面処理の効果について検討し,つぎの結果を得た。(1)ごく短時間の水蒸気プラズマ処理によりPETフィルム表面のぬれ性は大きく向上した。このPETフィル.ムにコパルトを真空蒸着あるいは高周波イオンプレーティングした場合のコバルト薄膜の接着性は,未処理の場合よりもいちじるしく増大した。(2)水蒸気プラズマ処理時の高周波電界出力が小さい(25W)場合には,PETフィルムの水との接触角は処理時間が長くなるにつれて徐々に低下したが,高周波電界出力が大きい(100W)場合には,短時間の処理で接触角は最小となり,その後増大した。一方,コバルト薄膜の接着性は,高周波電界出力が小さい場合には,短時間の処理で最大となり,大きい場合にはほぼ一定であった。(3)水蒸気プラズマ処理を施したPETフィルム上にコバルトを真空蒸着あるいは高周波イオンプレーティングしたとき,コパルト層の磁気特性が特異的挙動を示した。
  • 中島 健介, 岡本 祥一, 小林 健吉郎, 岩木 正哉
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2001-2003
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    N2+ ion implantation has been made to the 200 nm thick iron films. The analysis of the X-ray diffraction patterns revealed that at the dose of 4.0×1016 (N2/cm2), nearly 35%of cubic iron in the film was transformed to body-centered tetragonal FeN, with orientation of its c-axis perpendicular to the film plane. Saturation magnetization of the implanted film at R. T. increased 2.8%, which can be interpreted by presence of Fe16N2. The expected value of the saturation magnetization 4 πM8. of Fe16N2 was calculated to be 23.5 kG. The nitrogen implantation also induced magnetic anisotropy perpendicular to the film plane.
  • 伊藤 秀章, 山口 浩文, 中 重治
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2004-2005
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Polycrystalline (Mn, Zn)Fe2O4 films were prepared on silica glass substrate by CVD using three kinds of acetylacetonatocomplexes, Mn(acac)2, Fe(acac)3 and Zn(acac)2.H2O as starting materials. These complexes were evaporated at a reduced total pressure of 10 Torr and at temperatures of 205°C, 140-150°C and 85°C, respectively and transported with nitrogen carrier gas to the deposition zone. The growth conditions and magnetic properties of the polycrystalline (Mn, Zn)Fe2O4 films were as follows. deposition temperature: 500-600°C, oxygen gas flow rate: 10 ml/min, reaction time: 20 min, saturation magnetization: 50 emu/g, coercive force: 80 Oe and Curie temperature: 270°C.
  • 魚崎 浩平, 軽部 登, 門脇 通, 佐藤 真理, 喜多 英明
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2006-2009
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    CdSexTe1-x(0<x<1) thin films were deposited on Ti sheets from an acidic solution (pH=1.4) containing 1 mol.dm-3 CdSO4 and SeO2+TeO2, the total concentration of which was 1 mmol.dm-3. Although the stable structure of CdSe is wurtzite, all the deposited films had zinc blend structure. The lattice constant depended on the SeO2/TeO2 ratio in solution.
  • 半那 純一, 小門 宏, 清水 勇
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2010-2012
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    A novel method for preparing amorphous Silicon films is proposed, in which silane is decomposed oxidatively to afford the precursors responsible for the deposition by a chemical reaction with fluorine at reduced pressure. The proposed technique is quite simple and provides a feasibility of controlling over the chemical structure and the hydrogen content in the films through the external parameters in the gas phase reaction. The films show high photoconductivity comparable to those pre pared by rf-glow discharge of silane.
  • 吉田 泰彦, 柏木 邦宏, 村山 洋一
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2013-2018
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    有機薄膜に金属を均一に含む有機-無機の擁合薄膜の作製とその特性について検討した。メタロセンとしてジクロロピス(η-シクロペンタジエニル)チタン[TiCl2(cp)2]を用いて,真空蒸着と高周波イオンプレーティングを行ない,それぞれの方法で得られた[TiCl2(cp)2]有機薄膜の構造や湿度特性について比較,検討した。
    真空蒸着により得られた膜は[TiCl2(cp)2]を昇華精製したことと同じであり,膜のX線回折パターンは[TiCl2(cp)2]の結晶であることを示している。高周波イオンプレーティングにより生成した膜はかなりの橋かけ構造を有しており,種々の溶媒に不溶であったが,X線回折パターンからは,[Ticl2(cp)2]の結晶構造が残存していることがわかった。高周波イオンプレーティングでえられた膜の抵抗率は,湿度に大きく依存することが明らかになり,湿度センサーとしての機能を十分もっていることが判明した。
  • 長田 義仁, 水本 明, 鶴田 洋明, 重原 淳孝, 山田 瑛
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2019-2024
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    プラズマ重合法により金属フタロシアニンおよびテトラアルコキシ金属フタロシアニンの高分子薄膜を合成し,光電変換能と光還元触媒能におよぼす中心金属,および配位子置換基の効果について検討した。その結果,銅フタロシアニン重合膜は4.8×10-3%の,また,遊離のフタロシアニンおよびフタロシアニンと他の金属錯体は10-4~10-6%の変換効率(10=mW/cm2透過光下)を示し,その効率は光強度の減少とともに増大した。また,テトラアルコキシ金属ブタロシアニン重合薄膜の光電変換は10-4~10-5%の効率を示し,対応する無置換フタロシアニンの金属錯体にくらべ,10~100分の1に減少した。得られた銅フタロシアニン重合膜を触媒としてメチルピオロゲンの可視光還元反応について検討したところ,これらの重合膜は相当する低分子分散系とほぼ同程度の光還元触媒能を示すことがわかった。
  • 田尾本 昭, 町田 育彦, 二挺木 克洋, 浅川 史朗
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2025-2030
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    フタロシアエン蒸着膜の結晶性におよぼす蒸着速度の影響を明らかにし,配向性を有するフタロシアニン-配位子混合錯体蒸着膜の形成を試みた。フタロシアニン蒸着膜の結晶性は,蒸着速度が遅くなるりにしたがって向上した。基板温度が常温でも,蒸着速度を100A/min以下で蒸着することにより,基板温度を200℃にたもって蒸着した場合と同程度に結晶性の良好な薄膜が得られることを見いだした。つぎに,30A/minの蒸着速度で,鉄ブタロシアニン(FePc)と1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(DPP)の二元蒸着を行なった。赤外,可視吸収スペクトル測定および蛍光X線分析から,二元蒸着膜はFePcの面の両側にDPPが配位して混合錯体を形成しており,DPP/FePcが2の組成比であることが明らかになった。また,X線回折測定から,二元蒸着膜は12.1Aの面間隔をもって配向していることがわかった。以上のことから,蒸着速度を制御した二元蒸着法により,配向性を有するFePc-DPP混合錯体薄膜の形成が可能であることが明らかになった。
  • 稲垣 訓宏, 山本 浩三
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2031-2037
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    プラズマ中から電荷をもたないラジカルのみを取りだし,そのエネルギーを利用してポリマー薄膜の作成を試みた。
    まず,20kHzの周波数でグロー放電させ,正.負パイアスを印加した二つのメッシュ電極を設け,ラジカルのみを引きだした。ラジカル濃度は放電管の内圧が低いほど,また,メッシュ電極に近いほど高い。このラジカルビームをポリエチレン表面に照射すると,プラズマ照射と同様に表面に極性基の導入がなされ,表面エネルギー約60kN/mとなる表面親水化が可能となる。
    スチレン蒸気にラジカルビームを照射すると,ポリマー薄膜が形成される。ポリマー生成速度はプラズマ照射の約1/4と遅いが,この薄膜はプラズマ照射から得られたものと異なり,多量のフェニル基を含有したポリスチレンに似たポリマーである。ラジカルビーム法ではモノマーの分解反応を抑制してポリマー化が可能である。
  • 大坂 武男, 平林 和彦, 小山 昇
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2038-2044
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    1-ナフチルアミンをアセトニトリル溶液中で電解酸化することによって,電極上に電解重合膜(ポリ(1-ナフチルアミン)(PNA))が生成することがわかった,PNA膜は,支持電解質のみを含む水溶液およびアセトニトリル溶液中で可逆な酸化還元応答を示し,電気化学的に活性であった。0.2=mol.dm-3過塩素酸ナトリウムを含む水溶液(pH1.0)およびアセトニトリル溶液中での式量酸化還元電位(Eo')の値は,それぞれ0.22および0.15Vvs.(飽和塩化ナトリウムカロメル電極)であった。水溶液中において,Eo'vs.pHプロットは直線となり,その勾配は約-57mV/pHであることから,PNA膜の電極反応には水素イオンと電子が1対1で関与していることが明らかになった。膜の電気伝導度は10-7~10-6S.cm-1であった。PNA膜の赤外吸収スペクトル測定の結果およびPNA膜が水溶液中で電気化学的に活性であり,しかもその酸化還元応答がpHに依存するという事実から,PNAはアミノ基に対して1,2-位および/あるいは1,4-位でC-NH-CおよびC=N-C結合で重合した構造になっていると推定された。
  • 浅川 史朗, 関 美登利, 斉藤 幸廣
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2045-2051
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    水面展開法で得られた,シリコーングラフト架橋型三元共重合体(ポリ(ヒドロキシスチレン)一ポリ(ジメチルシロキサン)一ポリスルホン,以下HSポリマーと略記する)の薄膜構造について,HSポリマーの単分子膜,累積膜の構造を解析することにより,比較検討した。HSポリマーの単分子膜は,表面圧一表面積曲線の解析から,水面上で疎水性のジメチルシロキサンを空気側に,親水性基を水中に向けた配向構造を有していることが明らかとなった。単分子膜を基板上に累積した場合も,三層以上の累積で基板の影響から解放され,単分子膜と同じ配向を維持することが,XPS,水の接触角測定から明らかとなった。水面展開法で形成された薄膜においても,その表面は累積膜と同じ性質を示し,配向構造を有していると推定された。HSポリマーを6層以上累積した膜の気体透過性は,水面展開法で形成された膜の気体透過性と一致し,両者は本質的に同じ性質であることがわかった。また,これらの配向構造は,気体透過性に何らの影響も与えていないことが明らかとなうた。
  • 江 資航, 中村 朝夫, 西沢 耕治, 戸田 不二緒
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2052-2057
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    細孔直径40Aの多孔難ガラスを用い,[3-(2-アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシランを孔内に導入することによって,アニオン選択性のイオン交換膜をつくった。未修飾の多孔性ガラス膜はガラス表面の解離したシラノール基(Sio-)のために表面が負に帯電している。この膜は,カチオン選択牲を示す。シラン水溶液を用いて修飾することによって多孔性ガラス膜の表面電荷の符号を反転させることができた。この膜を用いて,塩化カリウム,硝酸カリウム,酢酸カリウムの各溶液中のアニオンの膜内における見かけの輸率を膜電位の測定によって求めた。修飾した多孔性ガラス膜の電位発生機構はTheorell-Meyer-Sieversのモデルによって説明できる。修飾に用いたシラン水溶液の濃度が高くなるにつれて膜のイオン選択能が高くなるが,膜表面の固定電荷密度は0.11mol.dm-3で飽和する。塩化カリウムの溶液中に塩化銅(II)を溶かすと,修飾した多孔性ガラス膜の膜電位は低下した。これは,膜の固定電荷密度の減少によるものと考えられる。このことから,Cu(II)イオンは修飾した多孔性ガラス表面のアミノエチルアミノ基と配位していると予想される。
  • 下村 政嗣, 国武 豊喜, 井上 弘徳, 小野 宜昭
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2058-2063
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    マイクロブロセッサーで制御されたフィルムパランスならびにフィルムリフトを作製した。圧力センサーには,ウィルヘルミー法を採用し,ロードセルによる圧力検出システムを用いた。圧力センサーからのフィードバック機構により緩和モードでの衷面圧一面稜等温線(π-A曲線)の測定が可能となった。五相パルスモーターとポールネジを用いたパリヤー駆動系ならびにパルスモーターとタイミングベルトを用いたリフト駆動システムを採用することで,高精度,低振動化を可能とした。圧力変動許容幅など数多くの作動パラメーターを任意に設定するととで測定の高精度化を計らた.圧力,面積,温度に関するデータは,RS 232Cインターフェースでパーソナルコンピューターに実時間で転送し,BASICによるデータ解析(π-A曲線の作製,比較,圧縮率-面積等温曲線の作製,累積比の算出など)を行なう。すべての測定データおよび測定条件はフロッピーディスクに保存できる。測定プロセスの自動化と高精度でのデジタル制御により,再現性の高いπ-A曲線の測定ならびに累積膜作製を可能とした。
  • 石井 淑夫, 室 淳子, 山越 康夫, 清水 正春
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2064-2069
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    墨流しを,Langmuir-Blodgett法の周辺技術として見直した,多量の墨汁を水面上に滴下することによって得られた高表面圧墨膜の上にアラキン酸のベンゼン溶液を滴下し,水面上に展開圧より高いために生じた油滴が広がるまで,墨膜を少しずつ取り去ったのち,方眼紙上に移し取り,アラキン酸単分子膜の分子占有面積を測定した。また,低表面圧墨膜を利用して,タンパク質単分子膜などLangmuir-Blodgett膜を作製することの難しい物質についても方眼紙上に移し取ることができた。さらに,紙上に分子が付着していることを確かめるために,含フッ素高分子界面活性物質を墨流し法によって方眼紙上に移し取り,ESCA測定から.フッ素原子の存在を確認した。
  • 大江 浩, 田嶋 和夫, 佐野 博敏
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2070-2075
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    鉄(III)イオンを含むLB膜を得るために,ステアリン酸鉄正塩塩基性ステアリン酸鉄,長鎖を有するコハク酸鉄の累積を試みた。イオン交換法によらず,あらかじめ合成し単離した塩を水面上に展開し,単分子膜を形成した。塩基性ステアリン酸鉄がもっとも累積しやすく101層まで累積することができた。累積した塩基性ステアリン酸鉄LB膜についてキャラクタリゼーションを行ない粉末試料と比較した。X線回折の測定から,LB膜中では分子は二重層構造をとっているが,鉄イオン面の間隔は粉末試料にくらぺ約0.22nm短くなっていることが確認された。ATR法によるIRスペクトルではカルボニルの吸収が粉末試料にくらべ鋭くなり線形に変化が見られた。このことからLB膜中では分子配向がとくに極性基付近で変化していることがわかった。また,LB膜は粉末試料の融点89℃より20℃ 以上低い温度で膜構造が非可逆的に破壊されることが確認された。LB膜中での分子間相互作用が粉末試料中にくらべ弱くなっており,熱安定性が低下していることがわかった。
  • 塩沢 豊志, 福田 清成
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2076-2082
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    長鎖脂肪酸,アルコール類,エステルなどの単純な長鎖化合物は,より複雑な機能性分子を含むLB膜の作成にさいしてマトリックス物質としてしばしば用いられている。これらの分子との混合によって安定な凝縮型単分子膜が得られ,LB膜作成が助長されることが多く,また,膜中における機能性原子団の配列.充填.会合状態を制御することが可能である。本研究ではこれら基本的な化合物のLB膜について各同族列ごとに鎖長を連続的に変え,累積比測定からX型およびY型累積の起こる条件を明らかにした。さらにX線回折像の長面間隔から膜中の秀子醜列を決定し,これらの結果を化学構造との関連において検討した。酸やアルコール類ではY型累積で複層溝造のみが得られるのに対し,エステル類は条件によりX,Y両型の累積が起こるが,累積時の型によらず,メチルエステルでは複層構造,エチルエステルでは単層構造が安定形である。これらの結果は機能性分子を含むLB膜の構造制御に一つの指針を与え,たとえばマトリックス物質として酸やアルコール類を用いれば機能性原子団を複層構造中に保持し得るのに対し,エチルエステルを用いれば単層構造中に配列制御が可能である。
  • 徐 新非, 川村 真一, 江良 正直, 筒井 哲夫, 斎藤 省吾
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2083-2089
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    アゾベンゼン単位を含みアルキル基とメチレン基の長さを適切に設計した一連の両親媒性物質を合成し,水面上の単分子膜の性質を表面圧-面積曲線により考察した。Langmuir-Blodgett法により石英基板上にLB膜を作製し,累積時における単分子膜の面積減少を追跡することにより累積形式を調べた。累積形式は水相のpHに強く依存することがわかった。X線回折を解析することにより膜構造の形式を調べた。膜構造の形式は累積形式を制御することで必ずしも制御できるものではなく,むしろ成膜分子の化学構造を非常によく反映するものであることが明らかとなった。LB膜における紫外.可視域の吸収スペクトルを測定した。吸収スペクトルから長軸および短軸方向にある遷移モーメントに基づく吸収強度の比を半定量的に解析し,その結果を用いてX線長周期の値と分子モデルとの比較,さらに発色団のH-会合についての知見と合わせてLB膜中での発色団の三次元的配列状態を考察した。アゾベンゼン誘導体がもつティルとスペーサーの長さの違いでLB膜における発色団の配向と凝集状態がかなり異なることがわかってきた。
  • 長村 利彦, 鎌田 重信, 小川 禎一郎
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2090-2094
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    11-(9-カルパゾリル)ウンデカン酸とパルミチン酸の混合単分子膜系について,その集合および配向特性,光化学的性質などの検討を行なった。表面圧-分子占有面積曲線から,約13mN.m-1を境にして二つの凝集構造の存在が示された。累積膜の吸収スペクトルは溶液中にくらべて,すべてのバンドが約5nmレッドシフトし,カルバゾリル基の会合が示された。偏光吸収スペクトルから,単分子累積膜中でカルパゾリル基は,その短軸および長軸を基板面に対して約35度傾けて配向していることが示された。単分子累積膜のモノマー発光の蛍光異方性坊は,高粘度希薄溶液中にくらべていちじるしく小さく,カルバゾリル基間のエネルギー移動が示された。このような結果から,累積膜中でカルバゾリル基は十分近接して存在し,相互作用していることが示された。
  • 西川 智志, 国府田 隆夫, 十倉 好紀, 入山 啓治
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2095-2100
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    メロシアニンLB膜における色素の配向について調べるために,電場変調吸収スペクトルを種々な配置で測定した。極性をもつメロシアニン色素分子は励起状態と基底状態の永久双極子モーメントが大きく果なっているために,電場により分子の励起エネルギーが大きなStarkシフトを示す。このため,膜内分子の配向が電場変調吸収スペクトルに敏感に反映される。
    得られた結果の解析から,メロシアニンY膜構造の隣接する二層について吸収スペクトルが異なること,膜面に垂直な方向の色素分子の双極子モーメントの変化が約O.26Debyeであること,発色団は膜面にほぼ平行な構造をしていることなどが結論された。
  • 鵜沼 豊, 友野 孝夫
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2101-2107
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    水面上に展開した100%メロシアニン色素の単分子膜の吸奴スペクトルの時間変化を測定することにより,水面上における分子会合状態の時間変化を直接とらえた。J会合体は色素の水面上への展開直後に生成し,時間とともに徐々に崩壊してタイマーとなることがわかった。下層液のpHを低くすると,J会合体の崩壊速度が速くなることがわかった。これはCd2+イオンが色素のカルボキシル基を橋かけしてJ会合体を安定化させているためであると考えられる。J会合体の崩壊速度の温度依存性は単純ではない。J-bandのピーク高が初期の1/3以下になってからは温度が高いほど速度ははやい。しかし,初期においては,26℃に最小値がある。これは熱によるアニーリングの効果によるより安定で均一なJ会合体の生成と熱運動によるJ会合体の崩壊の競争関係によるものと考えられる。水面上での放置時間の異なるLB膜を作製しその偏光顕微鏡観察をした。J会合体は1μm弱の複屈折を示す微結晶となっていることがわかった。垂直入射および斜め入射の偏光スペクトルを測定することによって,タイマーはJ会合体よりも水面に対して立っていることがわかった。
  • 佐藤 博保, 川崎 昌博, 東 照一, 西山 泰史
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2108-2112
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    シアニン色素の一種である3,3'-ジオクタデシルチアカルボシアニン=ヨージドとアラキン酸との混合単分子膜を,Langmuir-Blodgett法によってSbをドープレたSnO2半導体基板上に作製し,その吸収スペクトルを測定した。また,この単分子膜を付けた半導体基板を電極として光電変換の実験を行なった。光電流作用スペクトルを吸収スペクトルと比較した結果,色素のモノマー,ダイマーのいずれを光励起してもほぼ同じ電子注入効率が得られることがわかった。また,単色光を用いて固有電流量子奴率の値を測定し,その電極電位依存性を調べた。以上の結果から,この単分子膜系における光電変換の機構について考察する。
  • 朴 秀吉, 青木 幸一, 徳田 耕一, 松田 博明
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2113-2118
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    両親媒性ニトロキシドラジカルである2,2,6,6-テトラメチル-4-オクタデシル-1-ピペリジニルオキシル(TEMOPO)を単独で,あるいはTEMOPOとアラキン酸(イコサン酸,以下AAと略記する)との種々の割合での混合物を水相上に展開し,表面圧-面積曲線を測定し,状態方程式でシミュレーションした。また,TEMOPOおよびTEMOPOとAAとの混合物の単分子膜を種々の表面圧下でLangmuir-Blodgett(LB)法により光透過性酸化スズ電極の表面に移し取った。転写率は15mN/m以上の表面圧下でO.95以上であった。電極に固定されたLB単分子膜の電極反応をサイクリックボルタンメトリーにより調べたところ,同一条件で作製した電極でもボルタンモグラムの形状にはばらつきがあり,ボルタンモグラムの図積分から求めた電気量から見積もった電極反応に関与しているTEMOPOの量は,表面圧-面積曲線から見積られる値よりもつねに小さいことが見いだされた。両親媒性トリス(2,2'-ビピリジン)ルテニウム錯体を用いた対照実験の結果との相違から,親水性部位の親水性の強さの違いを考慮して,TEMOPOのLB単分子膜の構造と安定性について考察した。
  • 藤平 正道, 西山 勝彦, 米山 博之
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2119-2123
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    電子供与体(D),増感色素(S),電子受容体(A)部位を有する両親媒性化合物の単分子膜を累積することにより,新しい電気化学的ホトダイオードを作成した。本研究で用いた両親媒性化合物では,ビオロゲンが,A,ピレンあるいはポルフィリンがS,フェロセンがD,としてそれぞれ作用する。これらの三つの部位を金透明電極(AuOTE)上に空間規則的に配置する,すなわち,AIS/DあるいはD/SIAのようにAuOTE上に累積すると,光誘起された電子の流れが起こり,光電気化学セルで光電流が検知された光電流は膜のA,S,Dの空間配置に依存して方向が逆転し,これは膜のエネルギー準位図と一致した電子の流れとなっている。また,このような三層系だけでなく各層を累積した形,すなわち,AAA/SSSS/DDD,DDD/SSSS/AAAの形のホトダイオードも作製した。三層系で得られた光電流よりも大きな光電流が得られ,その方向は期待される方向と一致した。
  • 加藤 貞二
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2124-2130
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    2-heptadecylimidazole(2-HI)は下層水のpHが5より小さい酸性で,気/水界面に宋定な不溶性単分子膜を形成するが,pH7よりアルカリ側では崩壊圧の低い不安定な膜に変わる。これは酸性でにイミダゾリル基の3-位の窒素がプロトン化されヘッドグループの親水性が増すのに対し,アルカリ性では親水性が足りないためである。ところがpH7,9,10でも下層水中に10-6mol/l(0.1ppm)オーダーの銀イオンが存在すると崩壊圧が50mN/mを越す非常に安定な単分子膜に変わる。これは2-HIと銀イオンが反応して2:1の錯体を形成するためである。単分子膜展開前後の銀イオン濃度変化を原子吸光光度計で定量し,単分子膜による銀イオンの錯体取り込みを確かめた。銀イオン濃度が高くなると錯体の形が変わり,単子膜はいくぶん不安定になる。イミダゾールの錯体安定度定数を援用して2-heptadecylimidazoleの錯体形成性を検討した。このような希薄な録イオン濃度で(2:1)最締錯体が一挙に形成される理由は,配位子である2-HI分子の表面相におげる局所濃度が極端に高いためである。2-heptadecylimidazole単独ではあらゆる累積条件で累積できないが,下層に適当に希薄な濃度の銀イオンが存在するとLB法で容易に累積できる。累積はY型であった累積膜のX線回折測定から,膜分子は基板にほとんど垂直にY型に累積していると推定された。累積膜のIRスペクトルの測定から,累積膜中でも銀錯体が形成されていることが確かめられた。
  • 二挺木 克洋, 町田 育彦, 田尾本 昭, 浅川 史朗
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2131-2137
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    高配向性のフタロシアニンLB膜を作成するために,フタロシアニン-リガンド錯体を用いた。[{N-docosyl-4,4'-bipyridinium(1+)-N'}(pyridine)(phthalocyaninato)iron(II)]bromideは気-水界面で単分子膜を形成し,基板上にZ型のLB膜として累積されたのに対し,長鎖のアルキル基を有さないbis(pyridinb)(phthaladyaninato)iron(II)ではLB膜が得られなかった。極限占有面積,X線回折および偏光赤外分光の測定結果からは,フタロシアニン環は基板に対して約35度傾き,たがいに重なり合うようにして配向していることが明らかとなった。電気伝導度を測定したところ,膜面内方向で10-7±2S/cm,膜法線方向で10-12S/cm以下となり,大きな異方性をもっていることが明らかとなった。膜面内方向の電気伝導度は鉄フタロシアニンよりも高く,一次元のフタロシアニンーリガンドポリマーと同程度となったが,これはLB法によりフタロシアニン環の重なり合いを制御することによって導電性が増夫するような軌道の重なりが生じたことによるものと考えられた。
  • 福田 晃峰, 小山 俊樹, 英 謙二, 白井 汪芳, 北條 舒正, 中原 弘雄, 福田 清成
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2138-2143
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    金属-Schiff塩基錯体の一つで高い酸素吸着能を示すサルコミン錯体の界面薄膜における諸機能に対する興味から,長鎖を付与したサルコミン誘導体,N,N'-disalicylidene-2-hexadecyl-1,3-propanediaminatocobalt(II),nickel(II)およびcoPPer(II)錯体を含庫した。各錯体の水面上単分子膜について表面圧-面積曲線を測定したところ単子膜の挙動は金属の種類によって異なり,コバルト(II)錯体がもっとも安定な単分子膜を形成することがわかった。コバルト(II)およびニッケル(II)錯体の極限面積は約65A2,銅(II)錯体のそれは98A2であった。これらの結果は膜中における錯体骨格部分の配向の相違を反映している。Langmuir-Blodgett法を用いることにより,これら錯体のY型累積膜が得られた。各LB膜について赤外および可視.紫外偏光スペクトルを測定した結果,コパルト(II),ニッケル(II)錯体では骨格部分の長軸を膜面に平行に,短軸を垂直にして配列しているのに対し,銅(II)錯体では長軸,短軸とも膜面に対しかなり傾いていることがわかった。なお,X線回折およびエリプソメーターにより膜厚を測定した。
  • 神田 精一, 孫 淳信, 大川 久和子
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2144-2147
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    結晶または常温の溶液中ではジチオオキサミド類はトランス形と考えられている。その2個のN原子上にそれぞれ1個ずつ疎水基を置換した分子を単分子膜として気水界面に展開し,シス形をとらせ水中からCu2+イオンを拡散させ配位結合により配位高分子膜を調製した。通常の溶液反応で得られる配位子:銅のモル比1:1の配位高分子(バルク試料)と比較するため特大のトローフで数mgの崩壊膜を調製し,CHN 分解,赤外吸収,磁気,電気伝導度,示差熱などの測定を試みた。また,気水界面におけるtrans→cis転移がエネルギー的に可能であることを示すために遊離の配位子の溶融状態における赤外吸収ピークの温度変化を測定し,転移の活性化エネルギーとして約11kJ.mol-1という値を得た。得られた結果を総合すると,疎水性の大きい置換基,たとえばドデシルエステル置換基などを含む配位高分子膜において立体特異性が顕著に認められた。
  • 川口 武行
    1987 年 1987 巻 11 号 p. 2148-2156
    発行日: 1987/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    長鎖アルキル基を有する3,3'-フェニレンビス[アクリラート]単分子膜および累積膜の光化学反応について検討した。diicosyl3,3'-(m-and P-phenylene)bis[trans-acrylate](m-および p-PBEA)は,カルボキシル基などの親水性基を含まないにもかかわらず,水面上で安定な凝縮性単分子膜を形成した。この単分子膜は液体凝縮状態では紫外線照射により膨張したのに対し,固体凝縮状態では収縮した。また,得られた膨張膜は有機溶媒に不溶であった。赤外吸収および紫外吸収スペクトルから,膨張は光による橋かけ反応により,収縮ぽモノマーのオゾン分解によることが示唆された。m-およびp-PBEAの膜はLB法により固体基板上にそれぞれY型辱およびZ型膜として累積された。これらの累積膜に紫外米を照射すると膜は大部分不溶化した。不溶化は水面上の膜の場合と同様,主として橋かけ反応によると推定された。また,累積膜中での反応速度がキャスト膜や溶液中での反応速度よりも大きいことから,この不溶化反応は二重結合の空間秩序を必要とする光化学反応であることが示唆養れた。m-PBEA累積膜に電子線を照射(加速電圧:5kV,ビーム径:50A,照射速度:3~33m/s)したところ,線幅O.14~0.85μmの丈夫なネガ型レジスト画像が得られた。それに対してキャスト膜では,線幅0.6~2.6μmの比較的太い画燥は得られたが,画像部分の膨潤やはく離が観察された。
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