pH4.0硫酸水溶液とアセトンの7:3混合溶液中,遷移金属である銅あるいは鉄イオンとアスコルビン酸の混合系に塩化アリルを加え,30℃12時間振盪を行ったところ,比較的高収率でアリルアルコールを得た。そこで,この反応系の様式解明と応用を目的として,ヒドロキシル化反応におよぼす金属イオン,雰囲気,基質の濃度,基質,pH,溶媒および配位子の変化の効果および塩化ナトリウムの添加効果について検討を行った。その結果,アルゴン雰囲気下,銅(I)イオンとアスコルビン酸の組み合わせが最もよい結果を与え,また,基質1molに対して1/1000の濃度の銅イオン/アスコルビン酸の組みでも活性を示すことが判明した。基質として,3-トシル-1-プロペン,1-クロロ-2-ブテンおよびシンナミルクロリドを用いて行ったところアリルクロリドばかりでなくアリルトシレートでもヒドロキシル化が進行し,また,1-クロロ-2-ブテンの反応では1-位と3-位のヒドロキシ体の混合物が生成した。これらヒドロキシル化の反応性はアセトン含量が富むほど,また,pHが7に近づくほど低下した。一方,反応溶媒に酢酸緩衝液を用いるとアセトキシル化が進行した。さらに,塩化ナトリウムは,反応の遅延効果を示した。一方,銅(I)イオンと配位子としてカテコール,アセチルアセトン,および酒石酸ジメチルを用いて反応を行ったところ,いずれもほぼ同様な活性を示した。これらの実験結果から,この反応では,銅(I)イオンとアスコルビン酸との錯体とアリルクロリドとの反応でπ-アリル銅クロリドを形成し,この錯体に水酸化物イオンあるいは酢酸イオンが求核的に攻撃することによりヒドロキシル化あるいはアセトキシル化が完結するものと推定した。
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