アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)の環境動態を明らかにすることを目的にして,秋季に,東京湾海水,東京湾に流入する河珊の水と底泥,下水処理場への流入水と二次処理水および家庭用合成洗剤について,LASの同族体・異性体別の濃度を調査した。これらの試料で見いだされたLASの組成はそれぞれ異なり,LASが受けた生物学的,物理的化学的過程を反映した。
(1)LASは下水処理によって9割除去されたが,その際,処理水では直鎖アルカンの炭素数が多い同族体(長鎖長同族体)および直鎖アルカンの2の位置にスルホフェニル基をもつ異性体(2ph異性体)がほかとくらべてより減少した。
(2)LASが河川に流入すると,長鎖長同族体と2ph異性体は容易に底泥へ吸着しまた生分解を受けるため,河規水ではこれらの成分が減少し,底泥では増加した。
(3) しかし東京湾海水では,長鎖長同族体と2ph異性体の割合が流入する河川水や下水処理水よりも増加しており,LASの組成は家庭用合成洗剤に近くなった。これは,河川底泥が間欠的な増水でまき上げられ,そしてその中に含まれていたLASが溶存態および懸濁態で海域に流入するためと考える。
このように河川の底泥中の化学物質は,流入先の湾の水質汚染に寄与する可能性をもつ。
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