日本化学会誌(化学と工業化学)
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1997 巻, 11 号
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  • 原 宏
    1997 年 1997 巻 11 号 p. 733-748
    発行日: 1997/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    環境庁の全国規模の酸性雨調査結果などをもとにして,日本の降水のイオン組成,濃度,湿性沈着量を考察した.1989年4月から1993年3月までのデータから降水量加重平均イオン組成を算出すると,次の3種の成分からなると考えられた.1)海塩由来の,ナトリウム,塩化物,マグネシウムイオン,2)大気汚染物である二酸化硫黄,窒素酸化物から生成した硫酸と硝酸,3)アンモニアやカルシウム化合物のような塩基性物質.もともとの硫酸,硝酸の約70%が中和され,その結果pH4.76になり,各地点の値の範囲はpH4.5-5.8であった.硫酸,硝酸,アンモニアの濃度の指標である硫酸硝酸,アンモニウムの各イオンの年平均濃度と年間湿性沈着,およびその範囲(かっこ内)は,それぞれ,19.3(2.6-29.5),14.1(1.8-25.0),18.3(0.6-29.8)μmolL-11,26.6(4.7-49.8),19.4(3.1-40.8),25.9(1.1-55 .4)mmolm-2y-1であった.各イオンの濃度と沈着量の,全国平均値とその標準偏差を算出し,これらの量の空間分布は,全国的に一様であることが示唆された.主要イオンについて,日本海側と太平洋側における濃度と沈着量の季節変動が確認された.日本海側において非海塩性硫酸イオンの濃度と沈着量はともに冬季に増大した.硝酸,アンモニウム,非海塩性カルシウムなどのイオンも同様な季節変動があった.しかし,太平洋側はこのように明確な変動は見られなかった.これらの季節変動をY大陸からの長距離輸送の関係で考察した.また,もともとの硫酸,硝酸の濃度の和と,観測された水素イオン濃度を基本とした指標を用いて,降水のイオン組成を日本の降水化学と,欧州,北米のそれを比較した.欧州ではもともとの硫酸,硝酸の濃度が高く,中和の程度も小さいので,pHもこの三者の間で最も低い.北米はもともとの硫酸,硝酸の濃度は欧州よりも高い場合が多いが,中和の程度も比較的多いのでpHは欧州と同等であった.日本はpH,もともとの酸濃度ともに欧米の中間的な位置にあった.さらに,非海壌性硫酸イオンと硝酸イオンの濃度と沈着量嬉ついて,地球規模で論じた.
  • 村田 道雄, 松森 信明, 橘 和夫
    1997 年 1997 巻 11 号 p. 749-757
    発行日: 1997/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    有機化合物の立体配置を解析する目的で,二次元NMR上観測される炭素一水素間の遠隔スビン結合(2,3JC,H)を用いた方法を考案し,天然物を用いてその有用性を実証した.2,3JC,Hの測定には,hetero half-filtered TOCSY法(HETLOC)と位相検出HMBC法(PS-HMBC)を用い,主に鎖状構造上に存在する不斉炭素の相対立体化学を帰属する方法の開発を試みた.その結果,2,3JC,H3JH,Hに加えて,一部の系ではNOEを併用することによって,隣接するメチンや,メチレンをはさんだメチンの系には本方法が有効であることが明らかとなった.マイトトキシンなどの複雑な構造を有する天然有機化合物に本方法を適用した結果,大部分の立体配置の帰属に成功した.
  • 羽賀 史浩, 中島 剛, 山下 圭三, 三島 彰司
    1997 年 1997 巻 11 号 p. 758-762
    発行日: 1997/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    再生可能な有機資源であるバイオマスの発酵によって得られるエタノール水溶液の有効利用を目的として,アルミナ担持コバルト触媒上でのエタノールの水蒸気改質反応,C2H5OH+H2O→2CO+4H2,における触媒の粒子径と触媒性質の関係について検討した.コバルト原料の異なるアルミナ担持コバルト触媒を調製し,常圧流通式反応装置を用いて定常反応実験,昇温反応実験(TPR)および昇温脱離測定(TPD)を行った.エタノールの水蒸気改質反応の活性序列は,Co(CVD)>Co(Chloride)>Co(Carbonyl)>Co(Acetate)>Co(Nitrate)となった.平均結晶子径は,コバルト原料によって変化し,Co(Carbonyl)を除いて反応選択率とは逆の序列となった.水蒸気共存下におけるCo(Nitrate)触媒に吸着したエタノールのTPDスペクトルについて,COxのピーク(主に二酸化炭素のピーク)は結晶子径が減少するにつれて高温側ヘシフトした.このことは,水蒸気改質反応の選択率が金属の高分散化により高くなることを示している.エタノールの水蒸気改質触媒に対する粒子径効果は,エタノールが転化したCOxの吸着状態およびCOのメタン化の反応活性と関係があることがわかった.
  • 鳥居 一義, 塩谷朋 弘竹, 吉岡 敏明, 奥脇 昭嗣
    1997 年 1997 巻 11 号 p. 763-768
    発行日: 1997/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    形態や結晶性の制御に有利な液相反応による希土類リン酸塩の合成法として,リン酸トリメチル(TMP)の加水分解を利用する均一沈殿法を検討した.実験は10mMのTMPと塩化ランタン水溶液をステンレス製封管に入れ所定温度,所定時間,空気浴恒温槽中で反応させた.TMPの加水分解には130℃ 以上を要し,160℃,4時間で,2-3μmのモナザイト型針状リン酸ラタンが定量的に沈殿した.酢酸ナトリウムによりpHを4以上に保つか,メタノールを大量(50vol%)に加える等,結晶成長を抑制することにより,沈殿物は球状凝集粒子となった.この凝集粒子の平均粒径は酢酸ナトリウム濃度30mMの時0.63μm,メタノール50vol%の時0.85μmであった.TMPの加水分解によるリン酸ランタンの合成において,水素イオン触媒反応による加水分解が支配的になるのはpHが約2.4以下のときであった.
  • 西田 正志, 石井 大道, 吉田 烈
    1997 年 1997 巻 11 号 p. 769-776
    発行日: 1997/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ヒドロキシカリックス[n]アレーン-p-スルポン酸ナトリウム(n=4,6,8,以下Nan1n.と略記す)とジルコニウム(IV)(以下ZrIV,他の金属イオンも同様に元素記号で略記する)およびHfIVの難溶性錯体,(ZrO)3(14H-2)・7H2O,(HfO)3(14H-2)・16H2O,(ZrO)4(16H-2)・20H2O,(HfO)4(16H-2)・22H2O,(ZrO)7(18H-6)・16H2O,(HfO)7(18H-6)・5H2Oを調製し,水に対する溶解度を20℃ において測定した.これらの錯体の溶解度はどのNan1nについてもHfIV錯体よりもZrIV錯体の方が大きかった.また,これらの錯体の溶解度に対する水素イオンや共存陰イオン濃度の影響を検討したところ,錯体の溶解度は[H+]=0.1M-0.3Mで最も小さいこと,塩化物イオンや硝酸イオンの共存はほとんど影響しないこと,硫酸水素イオンは溶解度を増し,その程度はZrIVとHfIV錯体で異なることがわかった.硫酸水素イオンのこの濃度効果をZrIVとHfIVの相互分離に応用する試みを行った.他方,Nan1nは通常Zr鉱石中に不純物として含有されているAlIII,TiIVおよびFeIIIとは沈殿を生成しなかった.これらはZrが大量に共存するときでもほとんど沈殿せず,Nan1nを用いるZrIVの沈殿法によりほとんどのTiIVとFeIIIを,また60%程度のAlIIIを除去することができた.精製したNa818-ZrIV錯体をシュウ酸水溶液に溶解し,次いで陰イオン交換樹脂カラム処理することによりZrIVとNa818を高収率で分別回収することができた.
  • 安蘇 芳雄, 西川 陽介, 石倉 要治, 小倉 文夫, 大坪 徹夫
    1997 年 1997 巻 11 号 p. 777-783
    発行日: 1997/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    有機伝導性錯体における,拡張共役したπ電子系に由来する相互作用とヘテロ原子間相互作用に基づく多次元的ネットワークの構築が期待できる複素芳香環置換テトラチアフルバレン(TTF)誘導体として,複数のチオフェンが置換した4種のTTF誘導体1-4を,容易に入手可能なチオフェン誘導体から収率良く合成した.2,3,6,7-テトラ(3-チエニル)TTF(1)および2,3-ジ(3-チエニル)TTF(2)の構造をX線結晶解析によって明らかにし,分子の外側に配置されたチオフェン環の硫黄原子を介する分子間相互作用があることがわかった.CV測定においていずれのチオフェン置換TTFも2対の可逆な1電子酸化還元波を示し,それらの電位からチエニル基は,TTFに対して電子求引性基として働いている.2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQF4)との電荷移動錯体はいずれも10-7-10-8Scm-1の低い伝導度しか示さなかったが,テトラチエニル置換TTF1,3は10-1-10-2Scm-1の比較的高い伝導度を示すヨウ素錯体を生成した.
  • 瀬戸 孝俊, 今成 真
    1997 年 1997 巻 11 号 p. 784-789
    発行日: 1997/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    セリンのラセミ化反応はセリンとインドールからのレトリブトファソの合成経路における重要な反応である.PsendomonasPutide菌体より抽出した低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ(EC5.1.1 .10)をポリアクリルアミドにより固定化し,粗酵素と固定化酵素におけるセリンのラセミ化反応の速度を灘定・解析した.粗酵素と固定化酵素における両反応ともMichaelis-Menten型の式に従った.粗酵素溶液反応では,L-セリンからのD-セリン生成反応のMichaelis定数(Km)が4.1×10-2M(1M=1moldm-3),その逆反応のKmが1.8×10-2Mであり,Kmおよび最大反応速度(Vm)とも,正逆反応の間に約2倍の違いがあった.固定化酵素では,真のKmが粗酵素の場合の約1.1-1.4倍となり,ゲルを大きくすると測定上のKm値が増大した.固定化酵素のVmは粗酵素の場合の60-70%であった.KmとVmの変化の程度は正反応と逆反応とで常にほぼ同じであった.固定化酵素による固定床流通式反応において,実験誤差範囲で23日間活性劣化が認められなかった.本固定化酵素は,セリンのラセミ化反応に対し良好な活性・寿命を示した.
  • 小役丸 孝俊, 田渕 研三, 樋口 光夫
    1997 年 1997 巻 11 号 p. 790-798
    発行日: 1997/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    青果物鮮度保持剤(エチレン除去剤)としてポリ(4-ビニルピリジン)-臭素錯体に着目し,ピリジン樹脂の合成条件と得られる樹脂の構造と樹脂一臭素錯体の性質との関係を調べた.ジビニルベンゼンを架橋剤として,4-ビニルピリジンの重合を水懸濁系,メタノール分散系および有機溶剤添加水懸濁系にて行った.水懸濁系での重合では比較的粒子が大きく強度の高い樹脂が得られたが,比表面積が小さかった.メタノール分散系では比表面積の大きな樹脂が得られたが,凝集粒子が微粉化し易く実用化が難しかった.t-ペンチルアルコールとトルエンとを添加した水懸濁系での重合により,実用的な大きさと強度を持った多孔性樹脂が得られた.この有機溶剤添加水懸濁系ではジビニルベンゼンの一部をスチレンで代替することができ,より低コストの実用的な樹脂が得られた.
    ポリ(4-ビニルピリジン)一臭素錯体の低分子化合物モデルとしての4-エチルピリジン-臭素錯体はエチレンガスと反応して1 ,2-ジブロモエタンを生成し,1,2-ジブロモエタンはポリ(4-ビニルピリジン)に容易に吸着された.このことからポリ(4-ビニルピリジン)-臭素錯体によるエチレンガスの除去は,錯体中の分子状臭素がエチレンに付加し,生成物は樹脂中に吸着保持されるためと考えられた.また,樹脂の比表面積が大きいほど,除去速度が大きいことから,樹脂-嗅素錯体内部へのエチレンガスの拡散浸透が反応の律速段階であると考えられた.
  • 梅田 実
    1997 年 1997 巻 11 号 p. 799-805
    発行日: 1997/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    近赤外域に感度を有するトリフェニルアミン骨格を有するトリスアゾ顔料を電荷発生層(CGL)に用いた積層感光体の高感度化について検討した.電荷発生材(CGM)と電荷輸送材(CTM)間で外因型の光キャリヤー発生を生ずる電子移動反応サイトの数の向上に着目して研究した.CGM粒子上のCGM数を増加させる目的から,トリスアゾ顔料粒子の分散に関する検討を行った結果,40℃ で258時間分散したCGL塗工液を用いた積層感光体の量子効率が,従来の常温分散した場合に比べ2.1倍も高感度化することを見いだした.この高感度化した感光体の量子効率は,電界強度3×107Vm-1において0.8であった.この値は,半導体レーザー光に対し現在最高水準の感度を示すチタニルフタロシアニンを用いた積層感光体のそれと同じであった.高感度化したアゾ顔料粒子を,X線回折,吸収スペクトル,電場変調吸収スペクトルおよびTEM写真により調べた結果,一次粒子の大きさが不揃いであるため,二次粒子は空げきを多く抱えていることがわかった.積層感光体においては,電荷輸送層塗工によりCTMはCGLだけでなく二次粒子の内部にまでしみ込み,多数のキャリヤー発生サイトをCGL内に形成する.以上のように,光キャリヤー発生を生ずる外因型の電子移動サイト数の増加に基づき,最高水準の高感度感光体をトリスアゾ顔料で達成できた.
  • 葉山 正樹
    1997 年 1997 巻 11 号 p. 806-810
    発行日: 1997/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    抗菌性第四級アソモニウムイオンをインターカレートした層状三リン酸二水素アルミニウム化合物の合成を試みた.インターカレーションは,あらかじめ調製した層状三リン酸二水素アルミニウムAlH2P3O10(以下ADHPと略記する)のブチルアミンインターカレーション化合物と第四級アンモニウム塩水溶液とを反応させたとき,および,第四級アンモニウム塩水溶液にブチルアミンを共存させてADHPと反応させたときに進行した.
    得られたインターカレーション化合物はAl[R']2P3O10([R']は第四級アンモニウムを示す)と決定され,種々の細菌に対して抗菌作用を示した.また,層間に保持された第四級アンモニウムイオンは熱安定性が向上することがわかった.
  • 杉崎 俊夫, 大畑 和弘, 鈴木 憲一郎, 影山 俊文, 守谷 治
    1997 年 1997 巻 11 号 p. 811-815
    発行日: 1997/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Organofunctionalized silica gel was readily prepared from the organostannio silica gel, which had dib utyl or tributylstannio group, and (3-methacryloxypropyl) trimethoxysilane. The reaction in the presence of acid or base catalyst proceeded with the elimination of organotin group to produce the silica gel having a high content of the organofunctional group.
  • 杉山 一男, 磯部 佳愛, 白石 浩平
    1997 年 1997 巻 11 号 p. 816-820
    発行日: 1997/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Polyetherurethaneureas (PEUU-Si) including the tetramethyldisiloxane moiety in main chain were obtained from a typical two step polyaddition of polytetrahydrofuran (PTHF) to 4, 4'-methylene-bi s (phenylisocyanate) (MPI) in the presence of 1, 3-bis (3-hydroxypropy1)-1, 1, 3, 3-tetramethyldisiloxane (TMDS), using ethylenediamine (EDA) as a chain extension reagent. Polyaddition with a molar ratio of 1: 2: 1 for PTHF + TMDS: MPI: EDA gave the PEUU-Si in the mixed solvent of dimethyl sulfoxide and isobutyl methyl ketone, where the molar ratio of TMDS was changed from 0.2 to 1.0. From the XPS spectra and the contact angle measurements, it was found that the TMDS moiety was located on the surface of the PEUU-Si film in air and hydrophobicity was increased with increasing the molar ratio of the TMDS moiety. It was also found that PEUU-Si adsorbed bovine serum albumin. The tensile modulus of PEUU-Si showed E= 66-120 MPa.
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