年間のガスおよびエーロゾルのイオン成分の樹木等への乾性沈着量を求めるために, ガス, エーロゾルのイオソ成分の長期間の簡便な測定手法として4段濾紙法を検討し, この測定手法を用いて奈良市で1993年7月より1995年6月まで2年間にわたりガス, エーロゾルのイオン成分の大気中濃度を測定した. さらにこれらのガス, エーロゾルのイオン成分濃度と既存の樹木等に対する乾性沈着速度を利用して乾性沈着量を求めた.
乾性沈着量の測定の基礎としての大気中の酸性とアルカリ性のガスおよびエーロゾルのイオン成分濃度の同時測定は4種類の濾紙を用いる4段濾紙法(F
0:PTFE濾紙 F1; ポリアミド濾紙, F2: 6%K
2CO
3+2%グリセリソ混合水溶液含浸濾紙, F
3: 5%リン酸+2%グリセリソ混合水溶液含浸濾紙) を検討し, この方法によりガス (SO
2,HNO
3,HCl,NH
3) およびエーロゾルのイオン成分 (SO
42-, NO
3-, Cl
-, Na
+, NH
4+, K
+, Ca
2+, Mg
2+) の濃度測定を行った. この結果, ガス濃度の平均値はSO
2: 76.2nmol/m
3 (以下, nmol/m
3を省略) [1.83PPb; 20℃ (以下,PPb: 20℃ を省略) ] , HNO
3: 27.3 [0.66] , HCl: 31.8 [0.76] , NH
3: 115 [2.76] , エーロゾルのイオソ成分濃度の平均値はSO
42-: 52.3, NO
3-: 47.7, Cl: 45.1, Na
+: 34.4, NH
4+: 121, K
+: 9.4, Ca
2+: 20.5, Mg
2+: 6.2であった.
乾性沈着量を求めるためにインファレンシャル法によりガスおよびエーロゾルのイオソ成分濃度と様々な表面 (裸地, 農地, 落葉樹針葉樹) の沈着速度より試算を行った. この結果, SO
42-およびNO
3-の沈着量の平均値は各々, 裸地0.83, 1.5mmolm
-2/月 (以下, mmolm
-2/ 月を省略) , 農地0.99, 1.6, 落葉樹0.74, 2.0, 針葉樹1.17, 2.6であり, 針葉樹がSO
42-, NO
3-共に最も沈着量が多かった. なお, 湿性/ 乾性沈着, 分別採取装置で採取した代理表面法によるSO
42-およびNO
3-の乾性沈着量の平均値は各々0.692, 0.601mmolm
-2/ 月であることより上記の様々な表面に比べて少なかった. また, インファレンシャル法による乾性沈着量の試算の結果, 様々な表面に対するSO
42-およびNO
3-の乾性沈着量はエーロゾルのイオン成分よりもガスのほうが多く,例えば,針葉樹に対するSO
42-およびNO
3-の沈着量についてはガスの割合がSO
42-で59%, NO
3-で77%であった.
このような乾性沈着量, 特にHNO
3ガスの沈着量は針葉樹に対して多く, 樹木に沈着した酸性物質が雨により洗い流されて高濃度になった雨が樹幹を通じて流れ, これが土壌や樹木の根系に影響を与えると考えられ, これまで湿性沈着量のみでは植物被害の評価が困難であったが, 乾性沈着量を考慮することにより植物影響を理解することができた.
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