日本化学会誌(化学と工業化学)
Online ISSN : 2185-0925
Print ISSN : 0369-4577
2000 巻, 1 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
総合論文
  • 大久保 正夫, 松尾 浩二
    2000 年 2000 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    C-Mg,N-MgおよびO-Mg結合を持つマグネシウム反応試剤とNO2,CO,CNなどの官能基を持つ諸基質の反応において,正常(付加,縮合)および異常(ラジカル)生成物の収率分布は,一電子移動(SET)効率の相対的目安としての両成分の酸化および還元電位の差(ΔE=Eox−Ered)と相関させることができる。これをΔE-解析法と称する。
    アニリンから導かれるN-Mg反応試剤は適度に大きなEoxを持ち,反応性が穏やかで反応支配因子の探索に好都合であり,N-Mg反応試剤の関与するすべての反応がC-Mg,O-Mgの反応とともに分類され性格づけられた。さらに,強力配位子を添加剤として加えると,ΔEの大きい反応に潜在的に含まれるSETを掘り起すことができ,この方法で正常生成物の収率も改善された。
    反応の一般的特性(I,II)を次に記す:I)反応試剤および基質からの正常生成物が形成するためには,SETとσ錯形成(例:>C=O…Mg<)とが必要である;II)適当な過剰量の反応試剤が反応の後段階の生成物形成過程の補助に必須である。II)は,発生したラジカル種の対と過剰反応試剤分子からなる集合体がつくる一種の閉鎖環境内で後段階が進むことを意味し,初期条件(電位の差)と最終収率分布とを相関させるΔE-解析法が多段階反応でも有効である理由の根拠となる。以上の知見を基礎に,マグネシウム反応試剤を正確に活用するための一般的指針が提出された。
一般論文
  • 小野 勲, 北村 伸, 黒田 聡, 佐藤 佳孝, 稲吉 倫子
    2000 年 2000 巻 1 号 p. 13-18
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    N-(フェニルアルキル,2-ピリジル,または2-ピリジルメチル)-o-スルホ安息香酸イミド類2-5をエタノールおよびベンゼン溶液中で光照射した。エタノール溶液中ではベンズアミド7,9,11,14が,ベンゼン溶液中では2-フェニルベンズアミド8,10,12,15が生成した。しかし,N-ピリジル-o-スルホ安息香酸イミド(5)の場合,ベンゾナフチリジノン13も生成した。環化反応はS1状態から起こることが三重項消光実験から明らかにされた。これらの光化学反応は二酸化硫黄が脱離して生成したビラジカルを経由して起こると推定された。N-プロピル-o-スルホ安息香酸イミド(1)のメタノール剛性媒体を15Kで光照射した後のESR測定では,g=2.0048のモノラジカルおよびメチルラジカルのシグナルが観測されたが,ビラジカルは検出できなかった。
  • 井上 浩義
    2000 年 2000 巻 1 号 p. 19-23
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    本研究は,高リン血症の治療のために,消化管内において食物性リン酸を効率的に吸着除去する物質としての陰イオン交換樹脂のリン酸吸着性に関する基礎的な知見を得ることを目的とする。被験物質として,現在高リン血症治療薬として広く用いられている炭酸カルシウムならびに各種陰イオン交換樹脂を使用する。実験は,15mmol dm-3リン酸溶液に対する被験物質のリン酸吸着実験(in vitro実験)およびラットに被験物質を経口摂取させた場合のふんおよび尿中リン量の測定実験(in vivo実験)を行った。in vitro実験の結果,陰イオン交換樹脂は,リン酸吸着量では炭酸カルシウムに及ばなかったが,非常に早い吸着速度を示し,また,溶液のpHの影響を受けにくいという結果を得た。一方,in vivo実験では,炭酸カルシウム投与群のふん中リン量は対照群に比べて,1.58倍に増加したが,陰イオン交換樹脂PAA-B投与群では1.77倍と炭酸カルシウム投与群よりもさらに優れたリン酸吸着性を示した。以上のことから,単位重量当たりに多くの陰イオン交換基を有する第一級·第二級ポリアミン型陰イオン交換樹脂は,新規な高リン血症治療薬となる可能性があることが示唆された。
  • 永原 肇, 八島 啓介, 正本 順三
    2000 年 2000 巻 1 号 p. 25-31
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    トリオキサンの重合用としての連鎖移動剤を目指して,長鎖アルキル基を含む新しいホルムアルデヒドアセタールを合成した。前報では1-オクタデカノールを連鎖移動剤として用いた長鎖アルキル基を有する新しいポリ(オキシメチレン)の合成について報告した。しかしながら,1-オクタデカノールを使用した場合には,一方の末端は熱的に安定なオクタデシルオキシ基であるが,他方の末端は熱的に不安定なヒドロキシ基である。両末端が熱的に安定なポリマーが要望される。この目的のために,1-オクタデカノールとホルムアルデヒドジメチルアセタールを出発物質として,カチオン交換樹脂を触媒として,アセタール交換反応により,ホルムアルデヒドメチルオクタデシルアセタール,ホルムアルデヒドビスオクタデシルアセタールを合成した。生成物質の確認は1H-NMR,マススペクトル,および元素分析により行った。また,炭素数が38よりなる長鎖アルキル基のホルムアルデヒドアセタールも合成した。
  • 末次 一博, 山田 裕司, 小西 久俊
    2000 年 2000 巻 1 号 p. 33-36
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    皮膚刺激の少ない香粧品材料のための紫外線防御剤を開発することを目的として,シリカゲル表面に紫外線吸収能を有するシンナムアミド基を化学結合により固定化した表面修飾シリカゲルを作製した。可視および紫外光の透過率により評価を行ったところ,内部に細孔を持たない微粒子タイプのシリカゲルを素地として調製した化学修飾シリカゲルは,可視光に対して透明で,紫外線の透過を遮断する効果があることが認められた。また,これらの表面修飾シリカゲルを皮膚に塗布したところ,透明性が高く違和感がない特徴があった。
  • 清水 慶昭, 川口 正博, 久保田 靖子, 東村 敏延
    2000 年 2000 巻 1 号 p. 37-44
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    産業廃棄物の利用という観点から,ビール工場で大量に排出されるビール仕込かす(大麦と副原料を糖化後,濾過したときの残さ)の吸着剤としての利用を試みた。用いた試料はビール仕込かすをふるい分けして得たタンパク質含有量が多い画分(Pr)と繊維質が多い画分(Hr)ならびにそれらに三官能性橋かけ剤(1,3,5-トリアクリロイルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン,TAF)を反応させて合成した橋かけ体である。これらの基質に対する金属イオン(Ca2+,Ni2+,Cr6+,Hg2+,Fe3+,Cu2+,Co2+)および酸性染料(C.I.Acid Orange7,C.I.Acid Red88)の吸着性をバッチ法で調べた。PrはHrに比べて金属イオンをよく吸着したが,特に,Fe3+,Hg2+およびCu2+を非常によく吸着した。Ca2+はPrにもHrにも吸着されなかった。また,PrはHrに比べて酸性染料をよく吸着するが,とりわけ親水性のC.I.Acid Orange7よりも,より疎水性のC.I.Acid Red88を非常によく吸着した。また,PrもHrもTAFによる橋かけにより,酸性染料の吸着量は著しく増加したが,金属イオンの吸着量は逆に減少した。したがって,Prはそのままでも酸性染料や金属イオン用吸着剤として有効であり,さらに橋かけすることにより酸性染料用吸着剤として優れたものとなる。
  • 丸山 隆雄, 大泉 毅, 種岡 裕, 南 直樹, 福崎 紀夫, 向井 人史, 村野 健太郎, 日下部 実
    2000 年 2000 巻 1 号 p. 45-51
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    北東アジア地域の人為活動に由来する大気中硫黄の循環を検討するため,同地域で産出あるいは使用される石炭,石油および日本国内で使用量の多い中東産石油などの硫黄同位体比を燃焼実験により測定した。
    中国炭(30種),ロシア炭(5種)の硫黄同位体比(δ34S)は,単純平均値±標準偏差でそれぞれ,7.8±11.0‰, 4.5±4.8‰を示した。また,揚子江以北地域で産出あるいは使用されている中国炭のδ34S値は揚子江以南と比較して明らかに大きな値(5-6‰程度)を示し,これは両地域における石炭の形成環境の違いによると推測された。これらのδ34S値は日本国内で使用量の多い中東産石油の値に比べ,明らかに高い値であった。我が国の日本海側地域における降水やエーロゾルの非海塩性硫黄のδ34S値は冬高夏低の季節変動を示しており,これらの結果は,大陸の化石燃料燃焼により発生した硫黄酸化物が,日本海を越えて我が国の日本海側地域に酸性降下物として降下していることを示していると考えられる。
  • 松井 隆尚, 松下 洋一, 菅本 和寛, 徳田 陽之助, 小玉 義和, 中田 一則, 小田 誠, 山内 博利
    2000 年 2000 巻 1 号 p. 53-61
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    スギ(Cryptomeria japonica D.Don)の辺材および心材の炭化をいろいろな温度で行い,炭化生成物である木ガス,木タール,木酢液および炭化物の物質収支を調べた。木ガスの主成分は炭化温度600°Cまでの温度域で一酸化炭素と二酸化炭素,また600°C以上では水素とメタンであった。炭化温度400°C以上で木酢液と木タールの収率の合計はほぼ一定となり,各木酢液成分組成は互いに類似した。スギ材の炭化は300-600°Cでカルボニル基,オレフィン基およびラジカルを生成する熱分解を活発に起こしながら進行し,さらに600°C以上になると脱水素反応などによる芳香族多環構造を次第に形成することを,FT-IRおよびESRスペクトル測定結果などから推察した。炭化温度400°Cおよび800°Cで調製した炭化物の気相吸着実験結果の比較から,炭化温度400°Cの炭化物でアンモニア吸着が速く,また炭化温度800°Cの炭化物で硫化水素吸着が速いことがわかった。
技術論文
ノート
  • 三浦 啓彦, 田中 克典, 齋藤 潔, 高田 朋典, 長谷川 正木
    2000 年 2000 巻 1 号 p. 69-73
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    Coumarin dimers generally show high reactivity in ring-opening polyaddition reaction with diamine to give a high-molecular-weight polyamide. However, the reaction of anti head-to-tail 4-styrylcoumarin dimer with hexamethylenediamine gave no polyamide at all. It was found that after the first ring-opening reaction by amine, styryl group on cyclobutane ring unexpectedly decreased electrophilicity of carbonyl group and disturbed the second ring opening reaction. After the first ring-opening, IR peaks of carbonyl group in the lactone ring and olefin group in the styryl group, remarkably shifted to the lower wavenumber. Based on the observed IR spectral shifts, unusual stabilization of the second lactone ring was shown.
速報
  • 務川 高志, 白石 振作
    2000 年 2000 巻 1 号 p. 75-77
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    The reaction of trimethylenemethane with various alkyl-substituted p-benzoquinones was investigated. The reaction of 2, 5-di-tert-butyl-p-benzoquinone with 2-(trimethylsilylmethyl)allyl acetate(1) was conducted with palladium(0) as a catalyst to afford 1:1-C=C-cycloadduct 2 in good yield. Similarly, 1:1-C=C-cycloadducts 3, 4, 5 and 6 were obtained with 2, 6-di-tert-butyl-p-benzoquinone, 2, 3, 5, 6-tetramethyl-p-benzoquinone, 2, 3, 5-trimethyl-p-benzoquinone and 2-methyl-1, 4-naphthoquinone, respectively. On the other hand, the reaction with methyl-p-benzoquinone afforded the complicated mixture. As is the case with Diels-Alder reactions, the cycloaddition of trimethylenemethane with p-benzoquiones occurred towards C-C double bond. So, the reaction of trimethylenemethane with substituted p-benzoquinones is effective in the synthesis of methylenecyclopentane-fused cyclohexenediones having various substituents.
feedback
Top