AFB
18,9-オキシド(1)の二つの立体異性体(エキソ体(exo-1)およびエンド体(endo-1))のS
N2型求核置換反応の反応性に対する溶媒和の影響を検討するため,反応部位をモデル化した化合物3a,6a-ジヒドロフロ[2,3-b]フラン2,3-オキシド(IおよびII)を用いて,分子軌道法により検討した。
計算の結果,以下の知見を得ることができた。
1)エキソ体(I)の求核置換反応においては,オキシラン酸素に対して溶媒(H
2O)分子が立体障害をほとんど受けることなく配位できるため,遷移状態(TS)が効果的に安定化される。一方,エンド体(II)においてはAFB1骨格に由来する立体障害のためオキシラン酸素に対する溶媒の配位が効率的に行われず,TSが十分安定化されない。すなわち,溶媒効果により求核置換反応に対するエキソAFB
1オキシドの高い反応性が説明できる。
2)エンド体のTSにおいては,オキシラン酸素に対するH
2O分子の配位はoutside,backsideおよびinsideからの三方向に限定される。エポキシ環開裂により酸素上に生成する負電荷を安定化し得る能力(TSを安定化する能力)は,outside>backside>inside配位の順となり,主に立体因子に由来していると考えられる。
3)配位溶媒の数が増加するにしたがい,IとIIの反応のTSに対する溶媒和による安定化の差は顕著になる。すなわち,実際の水中における反応を考える際,エキソ体が特異的に高い反応性を示すことが予測され,実験事実と一致する。
4)配位溶媒の数が増加するにしたがい,Iの反応(エンド攻撃)の活性化エネルギーは著しく小さくなる。すなわち,IのS
N2型求核置換反応はオキシラン酸素への溶媒の配位により著しく加速される。IIの反応(エキソ攻撃)においては,三分子配位系の活性化エネルギーが二分子配位系よりも高くなる。これは,B環と溶媒分子との立体障害に起因すると考えられる。
このように,溶媒効果はAFB
18,9-オキシド(1)のエキソ(exo-1)およびエンド異性体(endo-1)のS
N2型求核置換反応の反応性に大きく寄与していることが示唆される。
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