日本化学会誌(化学と工業化学)
Online ISSN : 2185-0925
Print ISSN : 0369-4577
2000 巻, 12 号
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総合論文
  • 石戸谷 昌洋, 中根 喜則, 柴藤 岸夫, 大江 収, 遠藤 剛
    2000 年 2000 巻 12 号 p. 831-840
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    塗料,接着剤,封止材等の熱硬化性樹脂に利用可能な新規架橋システムを開発した。
    本技術の骨子は,化学的に活性であり,かつ有機溶媒や樹脂に難溶性のために,熱硬化性樹脂への利用が限定されていた多価カルボン酸のカルボキシル基をアルキルビニルエーテル類との付加反応により,ヘミアセタールエステル(1-アルコキシエチルエステル)に変換する潜在化手法にある。この潜在化多価カルボン酸は,常温では安定で,さまざまな有機溶媒や樹脂類に優れた溶解性を示すが,加熱硬化時に熱解離反応によりカルボキシル基を再生し,エポキシドと強固な架橋構造を形成する。このヘミアセタールエステルとエポキシドの硬化反応を利用した新規架橋システムは,一液型で優れた耐酸性雨性を有し,かつ大気中に放出される有害な有機化合物量を削減できる自動車用塗料として工業化されている。
一般論文
  • 中林 浩俊
    2000 年 2000 巻 12 号 p. 841-849
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    酸化ジルコニウムの結晶構造とその粒子表面に存在する酸点および塩基点の性質との関係を知るため,450°C付近の低温度のか焼で単斜晶または正方晶の単一構造を有する試料をそれぞれ調製し,それらの酸塩基触媒特性を比較した。
    塩化酸化ジルコニウム水溶液をアンモニア水で加水分解するとき,到達pH値を調節することで,生成する酸化ジルコニウムの結晶構造が異なり,pH3とpH7で調製した場合にはほぼ単一相の正方晶と単斜晶がそれぞれ生成した。それらの単位表面積当たりの酸塩基量を測定したところ,いずれの構造でもほぼ同等の酸塩基点の密度を示した。しかしながら,NH3とCO2の昇温脱離スペクトルから,低温度か焼で得られた単斜晶試料で強い酸点と塩基点の両方が存在することがわかった。さらに,1-ブテン異性化反応では,単斜晶構造の微粒子が最も高い活性を示すとともに,反応の活性化エネルギーの値も低くなることが判明した。この強い酸点と塩基点は,単斜晶構造の酸化ジルコニウムの微粒子化に伴う粒子表面の構造欠陥に起因するものと考えた。
  • 岡島 俊哉, 橋川 茜
    2000 年 2000 巻 12 号 p. 851-858
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    AFB18,9-オキシド(1)の二つの立体異性体(エキソ体(exo-1)およびエンド体(endo-1))のSN2型求核置換反応の反応性に対する溶媒和の影響を検討するため,反応部位をモデル化した化合物3a,6a-ジヒドロフロ[2,3-b]フラン2,3-オキシド(IおよびII)を用いて,分子軌道法により検討した。
    計算の結果,以下の知見を得ることができた。
    1)エキソ体(I)の求核置換反応においては,オキシラン酸素に対して溶媒(H2O)分子が立体障害をほとんど受けることなく配位できるため,遷移状態(TS)が効果的に安定化される。一方,エンド体(II)においてはAFB1骨格に由来する立体障害のためオキシラン酸素に対する溶媒の配位が効率的に行われず,TSが十分安定化されない。すなわち,溶媒効果により求核置換反応に対するエキソAFB1オキシドの高い反応性が説明できる。
    2)エンド体のTSにおいては,オキシラン酸素に対するH2O分子の配位はoutside,backsideおよびinsideからの三方向に限定される。エポキシ環開裂により酸素上に生成する負電荷を安定化し得る能力(TSを安定化する能力)は,outside>backside>inside配位の順となり,主に立体因子に由来していると考えられる。
    3)配位溶媒の数が増加するにしたがい,IとIIの反応のTSに対する溶媒和による安定化の差は顕著になる。すなわち,実際の水中における反応を考える際,エキソ体が特異的に高い反応性を示すことが予測され,実験事実と一致する。
    4)配位溶媒の数が増加するにしたがい,Iの反応(エンド攻撃)の活性化エネルギーは著しく小さくなる。すなわち,IのSN2型求核置換反応はオキシラン酸素への溶媒の配位により著しく加速される。IIの反応(エキソ攻撃)においては,三分子配位系の活性化エネルギーが二分子配位系よりも高くなる。これは,B環と溶媒分子との立体障害に起因すると考えられる。
    このように,溶媒効果はAFB18,9-オキシド(1)のエキソ(exo-1)およびエンド異性体(endo-1)のSN2型求核置換反応の反応性に大きく寄与していることが示唆される。
  • 瀧澤 孝司, 巣山 隆之, 山口 淳一, 三日市 晋
    2000 年 2000 巻 12 号 p. 859-869
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    N-シアノアミジンは一般にアルカリに対して不安定であるが,芳香族のN-シアノベンズアミジン類5は比較的安定で,低温でアルカリ存在下に二硫化炭素を作用すると,N-(N-シアノベンズイミドイル)イミドジチオ炭酸塩12を生じ,このものは酸性下で環化して,最終的に6-アミノ-4-アリール-2H-1,3,5-チアジアジン-2-チオン類6を生成した。6をアルカリで処理すると転位が進行し,6-アリール-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール11を,また酸加水分解ではチアジアジン環の4位が選択的に攻撃を受けてN-ベンゾイルチオ尿素15を与えた。また,6とアミンとの反応も同様に4位で進行し,N-チオカルバモイルベンズアミジン19を生成した。一方,求電子試薬であるヨウ化メチルをアルカリ存在下に作用させると,2,4-ビス(メチルチオ)-6-アリール-1,3,5-トリアジン類21を与えた。
  • 郡司 天博, 鈴木 慶宜, 阿部 芳首
    2000 年 2000 巻 12 号 p. 871-875
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    ポリ(Si-イソシアナト-Si-メチルシラザン)(MPZ-6)のセラミック前駆物質としての性質を明らかにするために,MPZ-6の焼成時におけるセラミック収率,炭素含有率,および29Siと13Cならびに15N交差分極/マジック角回転核磁気共鳴(CP/MAS NMR)スペクトルを測定した。MPZ-6をアンモニア中で焼成すると,400°C付近からイソシアナト基および炭素成分が脱離し始め,700°Cまでにほとんどの炭素成分が脱離し,Si3N4-SiO2の組成からなる窒化酸化ケイ素が生成した。この過程を29Si,13Cおよび15N CP/MAS NMRスペクトルの変化から追跡すると,焼成温度の上昇に伴ってシリルメチル基やシリルイソシアナト基によるシグナルが消失し,窒化酸化ケイ素の構造単位であるSiNnO4-n(n=0-4)によるシグナルのみが見られた。また,炭素成分の脱離により13C CP/MAS NMRスペクトルのS/N比が低下した。MPZ-6を1400°Cで焼成した試料は非晶質であった。
  • 渡部 修, 長井 勝利
    2000 年 2000 巻 12 号 p. 877-883
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    漆は酵素反応で硬化する天然塗料で,温度,湿度,酵素活性などの因子が硬化反応に大きな影響を与えることが知られている。1)また,伝統的に多くの試薬,材料が添加剤として漆に使われてきているが,2)硬化反応に対する影響や反応機構はよくわかっていない。添加する試薬の種類によっては反応阻害を起こし,硬化不良や塗膜を形成しない場合も数多くある。
  • 高橋 正博, 池田 珠美, 笹川 哲広
    2000 年 2000 巻 12 号 p. 885-889
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    2-ethylhexyl hydrogen-2-ethylhexylphosphonate(2-ethylhexyl phosphonic acid mono-2-ethylhexyl ester, EHPNA, HR)を含浸させた高分子吸着剤によるサマリウムの吸着速度に関する検討を攪拌槽を用いて行った。
    Smの初期吸着速度N0は,H+濃度[H+]が0.1mol m-3以上では,H+濃度の増加とともに減少した。H+濃度が0.1mol m-3以下では,吸着速度に対するH+濃度の依存性はほぼ零となり,液境膜内でのSmの物質移動が律速になる傾向が認められた。また,Smの初期吸着速度は,EHPNA担持量[¯‹CM›H¯‹CM›R]の増加とともに増加し,Sm濃度[Sm]0Tの増加とともに減少する傾向が認められた。
    総括容量係数Ksavと粒子外容量係数kFavの値をもとに算出される粒子内容量係数ksavは,EHPNA担持量の2乗に比例し,Sm濃度の2乗に逆比例した。また,H+濃度が4mol m-3以下では,H+濃度の1乗に逆比例する傾向が認められた。
    総括抵抗1/Ksavに対する粒子内拡散抵抗1/ksavの比は,pHならびにEHPNA担持量の増加とともに著しく低下する傾向が認められた。
  • 鎌滝 裕輝, 古明地 哲人, 山田 正昭
    2000 年 2000 巻 12 号 p. 891-900
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    都市域における大気エーロゾル(TSP)中のイオン成分の動向からその動態や化学的な根拠を解明するために,都内の5地点における5年間の調査を実行し,実験を行った。
    採取は大量大気捕集器を使用し,5地点で1993年5月から1998年3月までの毎月1回24時間(ただし,山間地の小河内は72時間)行った。
    TSP濃度は,ろ紙に捕集されたエーロゾルを重量法により測定し,大気捕集量から求めた。また,抽出した試料からpH,EC,カチオン,アニオンをそれぞれ測定した。
    TSPは,5年の間で1995年11月を境にして変動が大きくなる動向を示し,都市域の濃度は,山間地の2.4倍以上であった。
    総イオン成分量は,EC値により代用できることが明らかになった。
    [H+]濃度は,都市域より郊外,山間地の方が高くなる傾向を示した。また,H+を保持するための対イオンは,ろ紙の保持実験および観測された[H+]濃度と[SO42-]濃度との相関性からSO42-であることがわかった。さらに,[SO42-]濃度は山間地よりも都市域,郊外で高い濃度であることから,中和される前のH2SO4の濃度も同様に高いことが推測された。
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