日本化学会誌(化学と工業化学)
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2000 巻, 3 号
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総合論文
  • 金政 修司
    2000 年 2000 巻 3 号 p. 155-165
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    ルイス酸触媒による1,3-双極付加環化反応の立体化学制御の研究は,著者らによる最初の報告以来,遅々とした歩みを見せていたが,最近,ニトロン付加環化反応の不斉触媒化が報告されて以来,大きく注目されるに及んでいる。本報では,合成化学的に最も重要な意味をもつニトロンおよびaci-ニトロ化合物付加環化反応のルイス酸触媒による立体化学制御に関する著者らの研究をまとめた。電子不足アルケンを用いたニトロン付加環化のルイス酸触媒反応,電子過剰アルケンを用いたニトロン付加環化反応のルイス酸触媒によるレギオ,立体化学制御,触媒的エナンチオ選択的ニトロンおよびaci-ニトロ化合物付加環化反応について報告する。
  • 水主 高昭, 小幡 透, 下茂 徹朗, 染川 賢一
    2000 年 2000 巻 3 号 p. 167-178
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    環状共役エノン類およびジエノン類の光付加環化における基質特異性と配向選択性等の現象を,PM3-CI法によるフロンティア分子軌道(FMO)法を用いて解析し,それらの支配要因を明らかにした。まず,2-ピロン類は,電子求引性または電子供与性アルケンと三重項反応を起こすが,その周辺([2+2]または[4+2]),位置(3,4-または5,6-付加)および配向(hhまたはht)選択性は,初期過程での位置·配向選択性を決める3-βまたは6-β間2中心FMO相互作用と,生成したビラジカル中間体のFMO作用による周辺選択的閉環反応に依存する。
    2-ピリドン類の電子求引性アルケンとの間の励起一重項または三重項での配向,位置および立体選択的[2+2]付加環化には,静電作用に加え前者で4中心のFMO作用,後者で2中心FMO作用が支配要因となる。これらのFMO法を最近問題となっている2-シクロヘキセノンや2-シクロペンテノン等のエノン体の環化反応の配向解析にも適用した。その三重項反応の配向選択性は主に初期過程のFMO作用に支配されるが,シクロペンテノンの場合ビラジカル中間体のFMOの影響が相対的に大きくht体を生成しやすくなると推定される。
    これら環状共役エノンとジエノンの光付加環化における基質特異性と配向位置および周辺選択性の関係がそのFMOの性質から説明できる。
一般論文
  • 野島 繁, 飯田 耕三, 小林 敬古
    2000 年 2000 巻 3 号 p. 179-186
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    リーン燃焼排ガス用脱硝触媒として,スチーミング処理で活性化を行ったメタロシリケート担持Ir触媒は脱硝活性が飛躍的に向上することがわかった。活性化担持Ir触媒を実用触媒としての適用性を見るために,種々の耐久性評価試験を行った。その結果,本触媒は700°Cのスチーム雰囲気およびリッチ雰囲気での強制加熱試験においては安定な脱硝活性を有する。また,ガス中にSO2が共存する場合においても活性低下は促進されない。一方,本触媒は450°C付近のリーン雰囲気ガスでは安定な活性を維持するが,500°C以上のリーン雰囲気ガスにおいて徐々に劣化が認められる。しかし,劣化した触媒を化学量論雰囲気ガスにさらすことにより容易に再生する。さらに,リーン雰囲気ガスと化学量論雰囲気ガスを交互に供給することにより,安定なリーン脱硝活性を有する特徴を持つ。
    リーン雰囲気で劣化した触媒は活性点であるIr金属のバルク内の結晶構造に変化がなく,表層が酸化されていることから,劣化原因はリーン雰囲気中の酸素でIr金属表層が覆われたためと考えられる。また,本被覆酸素は化学量論雰囲気ガス中の炭化水素等により容易に除去される。
  • 上川 直文, 市川 広之, 伊月 郷, 石井 さやか, 掛川 一幸, 佐々木 義典
    2000 年 2000 巻 3 号 p. 187-193
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    Fe3+とM2+(M=Ni,Cu,Co,Zn)を含む複シュウ酸塩を,金属硝酸塩水和物のポリエチレングリコール(以後PEGと略す)溶液を353 K,3h加熱処理することで調製した。シュウ酸塩は,PEG溶液中のPEG-陽イオン複合体が硝酸イオンによって酸化されることで生成した。得られたシュウ酸塩の構造と陽イオン組成は,出発物質であるPEG溶液の組成だけでなく,PEG分子量にも依存した。PEG分子量の増加により,得られたシュウ酸塩の結晶化度や粒子の大きさが増大した。これらの事実を理解するためにPEG溶液中のPEG-陽イオン複合体の生成過程について二つのモデルを検討した。それらは,Fe3+とM2+のPEGへの配位が独立に起こると仮定するものと協同的に起こると仮定するものである。これらのモデルを用いてPEG溶液の陽イオン組成と得られたシュウ酸塩の陽イオン組成の間の関係式を導いた。モデルから導かれた関係と実験結果を比較した結果,Fe3+がPEGに配位するとき,その近傍で常にM2+のPEGへの配位が起こることがわかった。
  • 永原 肇, 八島 啓介, 正本 順三
    2000 年 2000 巻 3 号 p. 195-203
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    両末端基が封鎖された長鎖のアルキル基を含む新しいタイプのポリ(オキシメチレン)を合成した。ホルムアルデヒド(メチル)(オクタデシル)アセタールをトリオキサン重合の連鎖移動剤として使用することにより,メトキシ基およびオクタデシルオキシ基で両末端が封鎖されたポリ(オキシメチレン)を得た。1H-NMRの解析により,重合反応で使用したホルムアルデヒド(メチル)(オクタデシル)アセタールはほとんど消費された。1H-NMRの測定によりホルムアルデヒド(メチル)(オクタデシル)アセタールはポリオキシメチレン中に化学結合していることが確認された。ホルムアルデヒド[ジ(オクタデシル)]アセタールを連鎖移動剤とする場合には,重合反応で使用したホルムアルデヒド[ジ(オクタデシル)]アセタールはほとんど消費された。ホルムアルデヒド[ジ(オクタデシル)]アセタールがポリ(オキシメチレン)中に化学結合をしている証明が得られた。得られた重合体の還元粘度は複雑な挙動を示し,溶液中でポリマー末端のオクタデシル基がある程度会合していることを示唆した。炭素数38の長鎖アルキルアルコールのホルムアルデヒド(アルキル)(メチル)アセタールを連鎖移動剤としたときには,重合体は95°Cで融解の挙動を示した。これは,長鎖のアルキル基の融解に基づくものと思われる。還元粘度の挙動も,高分子鎖末端の長鎖アルキル基の会合を示唆した。1H-NMR法により算出したC38H77基の測定値は,重合系に供給したC38H77OCH2OCH3量より計算された値より低かった。これはC38H77基のメチレン連鎖がC38H77基測定溶媒中で強く会合しているためと思われる。
  • 坂井 悦郎, 中村 明則, 矢野 豊彦, 城 安市, 大門 正機
    2000 年 2000 巻 3 号 p. 205-210
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    セメントによる都市型廃棄物の減容システムを考える場合,リン化合物あるいは二水セッコウなどがセメントの主要構成化合物であるエーライトの水和に及ぼす影響を明らかにすることは重要となる。したがって,エーライトの水和および水和生成物に及ぼすリン化合物あるいは二水セッコウの添加による影響について検討した。
    初期水和について,水和発熱を伝導熱量計により測定した。エーライトにリン酸-水素カリウムを添加した場合,エーライトの水和は遅延された。その遅延効果は,1.5%(P2O5換算)添加のとき最大となった。一方,二水セッコウを添加した場合,10%(SO3換算)添加まで,添加量の増加に従ってエーライトの水和は促進された。反応時間28日における生成するケイ酸カルシウム水和物について,リン酸-水素カリウムあるいは二水セッコウを添加した場合,それぞれP2O5あるいはSO3を含み,CaO/SiO2比は無添加のエーライトの場合に比べ大きな値を示した。P2O5あるいはSO3は,カルシウムを伴い,ケイ酸カルシウム水和物中に入ったり,また,ケイ酸カルシウム水和物の形態にも影響していると考えられる。
  • 渡部 修, 長井 勝利
    2000 年 2000 巻 3 号 p. 211-216
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    漆工芸で使われている添加剤を,それに含まれる成分から系統的に九つの試薬グループに分類し,それらの試薬が漆液の反応性に及ぼす影響について検討し,ウルシオールの逆ミセル構造を基にして,その影響を考察した。添加試薬の硬化反応への影響,ウルシオールのカテコール環の化学反応への影響,添加試薬の反応性を,それぞれ硬化時間の測定,塗膜の変色の測定,熱脱離分子質量分析から調べた。
    その結果,フェノール類,芳香族アミン類,脂肪族アミン類,二重結合を二つ以上持つ不飽和脂肪酸がウルシオールと反応性があることが認められた。また,漆液の反応性に及ぼす添加試薬の促進あるいは阻害効果はそれらの分子構造によって決まることが確認できた。
  • 豊田 昌宏, 盛屋 考治, 稲垣 道夫
    2000 年 2000 巻 3 号 p. 217-220
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    膨張黒鉛は,大きな重油収着能を示し,自身重量の80倍程度のA重油あるいは原油を収着した膨張黒鉛から,圧搾法で収着した重油のおよそ80%を,また吸引濾過法でも収着した重油の50-70%を回収することを見いだした。しかしながら,吸引濾過法による回収では,粘性の高いB重油およびC重油では,回収がほぼ不可能であった。この吸引濾過法では,膨張黒鉛特有のかさ高さを壊すことはなく,再収着に使用できた。しかしながら,回収を繰り返すことにより,収着量,回収量は減少していった。
    一方,回収された重油ともとの原油との間には,炭化水素組成分子量および水分含有量に差は認められず,回収された重油は,そのまま使用可能であることが明らかとなった。
技術論文
  • 渡辺 聡志, 久 英之
    2000 年 2000 巻 3 号 p. 221-228
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    シリコーンゴムの耐熱性向上に効果的に寄与するカーボンブラック(CB)の最適化を,その品質特性との相関性を検証することにより試みた。評価対象特性には一次粒子径,ストラクチャー,灰分,硫黄分,トルエン着色透過度,結晶子の厚さ(Lc),揮発分,CB表面の酸素原子量を比表面積当たりで示した指標(O/S)の8項目を選んだ。これらの特性評価を目的として12種類のCBを選定あるいは試作した。品質特性が平均的と考えられるCBを用いて添加量の影響を調べ,シリコーンゴムに対して0.5から1.0重量部の配合で耐熱性向上効果が顕著に認められた。CB製造時の熱履歴と関係するLcは,値が小さいほど耐熱性付与能力が大きかった。O/Sは耐熱性付与能力との相関が認められ,具体的には0.14mg/m2以上のCBが優れていた。この他の六つの品質特性は,耐熱性との相関が認められなかった。これらの事実からラジカル捕捉能が発揮されやすい資質を有するCBが,シリコーンゴムの耐熱性向上に効果的に作用することが推論された。
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