日本化学会誌(化学と工業化学)
Online ISSN : 2185-0925
Print ISSN : 0369-4577
2002 巻, 2 号
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総合論文
  • 渡辺 正, 仲村 亮正, 小林 正美
    2002 年 2002 巻 2 号 p. 117-128
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/04
    ジャーナル フリー
    光合成の初期過程で光→電子エネルギー変換を駆動する光化学系コア(反応中心)の分子構築につき,クロロフィル(Chl)類の分子変性を極小にできる抽出 · 分析手法とさまざまな分光計測を用いて検討した結果,酸素発生型光合成生物(高等植物 · 藻類 · ラン藻)の光化学系Iコアには1分子のChl a′(多量色素Chl aのC132-エピマー)が存在し,反応中心P700の必須部品となっていることを確認した.そのほか,嫌気性の光合成細菌Heliobacterium chlorumHeliobacillus mobilisの反応中心を構成するそれぞれ2分子のバクテリオクロロフィル(BChl)g′と81–OH–Chl a,緑色硫黄細菌Chlorobium tepidumの反応中心に存在する2分子のBChl a′,ホヤと共生する海産の酸素発生型原核藻類Acaryochloris marinaの反応中心を構成すると考えられるChl d′を初めて検出するとともに,緑色硫黄細菌の一次電子受容体であるBChl 663と,酸性環境に生息する光合成細菌Acidiphilium rubrumの持つZn–BChl aの構造を決定した.これら新規な微量機能色素の発見 · 同定は,光合成分子機構の議論進展に資すると考えられる.
一般論文
  • 森下 真也, 磯貝 嘉宏, 伊東 一彦, 砥綿 真一, 阿部 勝司
    2002 年 2002 巻 2 号 p. 129-133
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/04
    ジャーナル フリー
    水酸化ニッケル(II)の析出したカーボン粉末[Ni(OH)2/C]をカソード分極後,X線回折,磁気測定ならびにTEM観察を行った.カーボン粉末の表面に析出した水酸化ニッケル(II)の1.4%以上が電気化学的に還元されて金属ニッケル微粒子を生成した.生成したニッケル微粒子が充放電反応の活性点として作用するため,Ni(OH)2/Cの添加によって水素吸蔵合金負極の初期活性化が促進された.
  • 望月 千尋, 佐藤 光史, 中村 勲, 松原 知宏, 吉田 岳史, 大槻 哲也
    2002 年 2002 巻 2 号 p. 135-140
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/04
    ジャーナル フリー
    エタノール中で,テトラエトキシシランとグルコースを反応させ,糖のケイ素に対する錯形成を利用したアルコキシドの加水分解の制御によって,安定なSiO2膜形成用プレカーサー溶液を調整した.ジエチルアミンを含む最終溶液は,スピンコート法によって石英ガラス基板に対して均一に塗布され,600 °C以上の焼成により,膜厚約500 nmの透明で亀裂のないSiO2膜を与えた.600 °Cおよび1000 °Cで焼成した膜のXPSの測定から,焼成膜中に窒素は残存しないことを確認した.プレカーサー(前駆物質)溶液から粉を得て,TG-DTA測定により熱的性質も検討した.また,得られたプレカーサー溶液にグラフトポリマーで安定化した金クラスター含有アルコール溶液を,ケイ素に対する金の物質量の比(Au/Si)を0.01–0.1の範囲で混合し,金クラスター分散SiO2膜の形成についてさらに検討した.得られたクラスター分散SiO2膜の金クラスターに基づく表面プラズモン共鳴バンドは,金含有率の増大に比例したブルーシフトを示した.金クラスターの結晶子サイズを,膜のXRDから検討し,金含有率に依存しないことを明らかとした.
  • 野村 正幸, 中田 真一, 濱田 文男
    2002 年 2002 巻 2 号 p. 141-145
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/04
    ジャーナル フリー
    アセト酢酸エステルあるいはベンゾイルアセトンとヘキサメチレンテトラミンの反応を室温下,炭酸アンモニウム添加水溶液中で行い,相当する1,4-ジヒドロピリジン誘導体(DHP)を簡便,効率的に得た.DHPを空気酸化して,相当するピリジン誘導体を定量的に得た.これら反応の反応機構を検討した.
  • 平田 博文, 間山 素美, 大野 雅子, 加茂 直樹, 柳下 宏
    2002 年 2002 巻 2 号 p. 147-154
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/04
    ジャーナル フリー
    Pseudomonas cepacia リパーゼ(PCL)による1,2,3-プロパントリイル=トリブチラート(1)と脂肪族第二級アルコール(2)とのエステル交換を12種の有機溶媒と15種のアルコールを用いて30 °Cで検討した.四塩化炭素中で4-ノナノールが唯一反応が起こらなかった.エナンチオ選択性(E値)は基質構造[2の炭素数(CN)]によって変化し,2-,3-,4-アルカノールでそれぞれCN = 8,9,10で極小を示した.かさ高い溶媒を除いてlog Eは溶媒の疎水性(log P)とほぼ負の相関性を示したが,かさ高い溶媒中では他の溶媒に比べてlog Pから期待されるよりも低いE値であった.この相関性は基質構造によって変化することが認められた.ラセミ体中のエナンチオマーの初速度定数(k)を検討した結果,(S)体のk値は2-,3-,4-アルカノールでそれぞれCN = 8,9,10で極大を示した.かさ高い溶媒を除いてlog kはlog Pとほぼ正の相関性を示し,その傾きは(S)体の方が(R)体よりも大きかった.かさ高い溶媒中では他の溶媒に比べてlog Pから期待されるよりも高いk値を示した.以上の結果から,エステル交換のエナンチオ選択性は基質構造および溶媒の性質 · 構造の組合せに依存することが結論できた.また,溶媒が関与する活性サイトモデルを考え,それによる解釈も試みた.
  • 畑中 研一, 栗原 史恵, 久能 めぐみ, 奥田 章博, 粕谷 マリアカルメリタ, 明石 満
    2002 年 2002 巻 2 号 p. 155-158
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/04
    ジャーナル フリー
    硫酸化多糖から考案された糖質高分子である硫酸化ポリ[2-(グルコシルオキシ)エチルメタクリラート]と線維芽細胞増殖因子(FGF)との相互作用を調べることを目的として,2-(グルコシルオキシ)エチルメタクリラート(GEMA)を重合し,硫酸化することによって,硫酸化度(グルコース残基あたりの硫酸基の数)が1.07,2.13,3.86の硫酸化ポリGEMAを合成した.合成した硫酸化ポリGEMAを用いて細胞増殖実験を行った結果,側鎖型の糖質高分子にもFGFを活性化することが確認された.FGF-1とFGF-2は,それぞれ高硫酸化度の硫酸化ポリGEMAと低硫酸化度の硫酸化ポリGEMAに強く活性化されることが示唆された.
  • 岩元 和敏, 井上 真吾, 荻野 美春, 城田 章弘, 田島 秀一
    2002 年 2002 巻 2 号 p. 159-163
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/04
    ジャーナル フリー
    微小電極を使い,架橋ポリ(アリルトリメチルアンモニウムクロリド) (PATMAC)のゲル膜に周期的電圧変化を加えることで,数時間にわたって膜厚の周期的変化が安定に持続することが確かめられた.膜厚変化の振幅は電極間電圧に比例し,また膜を膨潤平衡するのに用いたNaCl水溶液の濃度に依存し,0.03–0.05 mol/dm3NaCl水溶液中で膨潤平衡に達した膜で最も大きくなった.さらに,5本および10本の微小電極を並べて,順次電圧を切り替えることにより,膜表面に一方向に伝搬する波が生じることが確かめられた.
  • 渡邉 健太郎, 石原 達也, 山中 雅彦
    2002 年 2002 巻 2 号 p. 165-168
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/04
    ジャーナル フリー
    メラミン硬化型塗膜のひび割れに及ぼすメラミン樹脂の2-メチルヘプタンに対する親和性の影響についてミネラルスピリットトレランス(MST)を用いて検討した.
     MSTの異なるメラミン硬化型塗膜の耐候性試験を実施した結果,MSTの高いメラミン樹脂を配合した塗膜はひび割れが発生するまでの時間が短く,ガラス転移温度,橋かけ密度,破断強度および破断伸び率の変化が大きいことがわかった.また,初期の橋かけ密度は,MSTの高いメラミン樹脂を配合した塗膜の方が著しく低くなっていることがわかった.
     耐候性試験時間が120, 240, 360, 480時間の塗膜を赤外分光光度計を用いて分析した結果,アルキル基(2900 cm−1)とエステル(1730 cm−1)の吸光度比およびメラミン(1550 cm−1)とエステル(1730 cm−1)の吸光度比から,塗膜中のアルキル基およびメラミンの残存率が低下していることがわかった.また,MSTの高いメラミン樹脂を配合した塗膜の方が残存率の低下が大きいことがわかった.
     よって,メラミン硬化型塗膜の耐候性試験によるひび割れはメラミン樹脂のMSTに影響され,MSTの高いメラミン樹脂を配合した塗膜の方が短い時間でひび割れが発生することがわかった.MSTの高い塗膜の方が短い時間でひび割れが発生するのは,初期の橋かけ密度が低いために塗膜への水分の透過が多くなり,塗膜の加水分解が生じやすくなり,著しい塗膜物性の低下が生じるためであると推定できる.
  • 手嶋 勝弥, 青柳 誠, 彦坂 眞一
    2002 年 2002 巻 2 号 p. 169-173
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/04
    ジャーナル フリー
    印刷分野において発泡抑制剤として使用される,トリメリット酸無水物のマイクロカプセルトナーを,コアセルベーション法の一種である相分離(冷却造粒)法により作製した.冷却造粒法は樹脂溶解度の温度依存性を利用した相分離方法であり,マイクロカプセル壁の多層化を可能にした.前報2)で課題となっていたトナー帯電の不安定性は,しん物質であるトリメリット酸無水物と帯電制御剤(CCA)との反応に起因すると考えられていた.本研究では,材料面でCCAとして中性カルシウムペトロネートの選択,あるいは作製面でカプセル壁の多層化およびカプセルせん断力の緩和により,しん物質とCCAの反応を抑制することで,マイクロカプセルトナー帯電を安定化させた.本研究で作製されたマイクロカプセルトナーは,印刷分野で要求される発泡抑制性能基準を十分に満たしていた.
  • 杉本 太, 礒野 禎三, 小紫 和彦
    2002 年 2002 巻 2 号 p. 175-181
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/04
    ジャーナル フリー
    水中のマグネシウムイオンを炭酸カルシウム共沈法を用いてフレーム原子吸光分析(F-AAS)により簡便に定量する方法を検討した.
     マグネシウムイオンを含む検水に,8 gCa L−1の塩化カルシウム溶液15 mLおよび20 w/v%炭酸カリウム溶液15 mLを加え,室温で30分間の攪拌を行うと,炭酸カルシウムの沈殿物にマグネシウムイオンが定量的に共沈する.生成した沈殿物は0.45 μmのメンブランフィルターでろ別した後,これに(1 + 11)塩酸10 mLを加え,15分間浸漬して溶解させた後,蒸留水で100 mLとし,F-AAS用の測定検液とした.
     検水200 mLを用いた場合の本法における検出限界(空試験値の3σ)ならびに定量下限(空試験値の10σ)はそれぞれ,0.9,3.2 μg L−1(n = 5)であった.この炭酸カルシウム共沈法は50–400 mLの範囲で検水量の影響を受けず,水中のマグネシウムイオンをF-AASにより簡便に分析する前処理法として用いることができた.
  • 北見 秀明, 渡辺 哲男, 北原 滝男, 高野 二郎
    2002 年 2002 巻 2 号 p. 183-188
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/04
    ジャーナル フリー
     本研究では,ゴルフ場規制農薬37種類を測定対象物質として着目し,ディスク型固相抽出法を用いて,その分析法の検討を行った.その際,排水基準に定められている揮発性有機化合物11種類に含まれていないアセトンを抽出溶媒として用いることに着目し,その有効性について調査した.その結果,蒸留水,河川水,降水を用いた添加回収試験において,アセトンで抽出しヘキサンに転溶する方法(アセトン/ヘキサン転溶法)は,排水基準項目に定められているジクロロメタンを使用しないで済むことから,実験室環境のジクロロメタンの混入を気にせずに前処理を行うことができる上に,回収率および変動係数の面でも優れていることから,かなり有効な抽出方法の一つであることがわかった.
     また本測定方法を用いて,東京都町田市において2000年7月から2000年12月までの期間,ゴルフ場規制農薬37種類の環境モニタリング調査を河川水,降水について行った.その結果,河川水,降水,すべて全農薬37種類において不検出であった.
  • 佐藤 登, 平尾 浩一, 林 栄治, 片桐 元
    2002 年 2002 巻 2 号 p. 189-194
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/04
    ジャーナル フリー
    正極にLiMn2O4を,負極にグラファイトを用いたリチウムイオン電池は,エネルギー密度と出力密度が大きい点で自動車用駆動源として期待されている.しかし,自動車用途では低温から高温までの広い範囲で電池が使用されるため,特に高温領域におけるサイクル劣化が問題になる.45 °Cの温度条件下でサイクル劣化を起こしたリチウムイオン電池に対して,正負極の劣化状態について解析した.
     正極の構造変化についてESRとNMRを用いて解析したところ,スピネル型LiMn2O4は,ヤーン · テラー効果により正方晶Li2Mn2O4に変化したことが確認された.スピネル型LiMn2O4に比べて正方晶Li2Mn2O4ではリチウムの拡散が遅くなることから,この結晶の転移が容量低下と内部抵抗の上昇の一因となっているものと考えられた.
     また負極表面では,サイクル劣化により新たな皮膜が形成されていることがXPS測定により確認できた.この皮膜には電解質であるLiPF6の分解成分が含まれていたために,皮膜が厚くなることが電池の内部抵抗上昇の一因になっているものと考察された.
  • 大門 啓志, 磯部 敏宏, 引地 康夫, 太田 敏孝
    2002 年 2002 巻 2 号 p. 195-199
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/04
    ジャーナル フリー
    Al2(SO4)3–NiSO4系硫酸塩固溶体の加熱分解によって生成した高反応性のNiAl2O4スピネルの部分還元反応について調べた.マイクロ波を用いた水溶液の急速な乾固によって,NiSO4が固溶した無水Al2(SO4)3が生成した.Ni2+イオンは65 mol% (NiSO4/(NiSO4 + Al2(SO4)3))までの広い範囲にわたって無水硫酸アルミニウムの結晶格子に固溶する.この無水硫酸塩は900 °Cで分解してスピネル,酸化ニッケル,η-アルミナを生成した.Ni含有率で約20 mol%から50 mol% (NiO/(NiO + Al2O3))の範囲で,ほかの結晶相が共存することなく,スピネルの格子定数は直線的に変化した.スピネル粉末の圧密体を炭素粉末中に埋め込み,加熱して部分還元した.700 °Cまでの加熱で,NiOがスピネルから分離して,スピネル中のアルミナの高濃度化をもたらした.NiOならびにスピネルと共存する状態で,800 °C以上で金属Niが生成した.スピネルの格子定数は,スピネル中のNi含有量の減少とともに小さくなった.1200 °CまではNiO,金属Niならびにスピネルが共存したが,1300 °Cでの加熱により,α-アルミナ/金属Ni複合体が生成した.
  • 大淵 真一, 北村 千寿, George R. NEWKOME, 米田 昭夫
    2002 年 2002 巻 2 号 p. 201-210
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/04
    ジャーナル フリー
    置換基に炭素ドナー原子を有する2-置換-8-キノリノールを合成し,二価のパラジウムや白金と第二の単座配位子存在下にシクロメタラト錯体を合成した.M-C(sp3)結合を持つ五,五あるいは五,六-キレート環は安定であるので,キレート環のCα,Cβに付いた置換基と単座配位子との立体相互作用が認められた.単座配位子がピリジンのような,小さな分子では相互作用はあまり大きくはないが,トリフェニルホスフィンのようなかさ高い分子では顕著な相互作用が現れる.錯体のX線構造解析の結果,Cβに結合している二つのエステル基はトリフェニルホスフィンのベンゼン環の二つと近い距離にあり,その結果,M-P単結合の自由回転を阻害していることが認められた.このような3隣接位置換基の立体相互作用はエステル基プロトンの1H-NMRスペクトルの吸収移動と分裂の様子からも推定できる.そこで,本報ではCαについた置換基や単座配位子を変化させて実験を行い,反応に使用できる単座配位子の構造や条件を明らかにした.そして,メトロニダゾール(2-methyl-5-nitro-1-imidazoleethanol)やAZTなどの特徴ある単座配位子を用いて新規なシクロメタラト錯体を合成し,立体的な特性について検討を行った.
  • 亀田 朝美, 西森 裕樹, 小村 聡宏, 小池 政行, 日野 哲男, 上橋 崇志, 前山 勝也, 米澤 宣行
    2002 年 2002 巻 2 号 p. 211-218
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/04
    ジャーナル フリー
    α-メトキシカルボン酸1は五酸化ニリン-メタンスルホン酸混合物等の酸性媒体の存在下芳香族化合物2と反応して特異的に脱一酸化炭素-α,α-二重アリール化を起こすが,2-メトキシ酢酸(1d)はほかのα-メトキシカルボン酸(1)とは異なった反応挙動を示す.2-メトキシ酢酸(1d)の酸性媒体存在下での芳香族化合物2との反応の検討の過程において,トリフルオロメタンスルホン酸を酸性媒体として用いるとFriedel-Crafts型アシル化生成物,ジアリールメタン4に加えてアントラセン誘導体10が得られることがわかった.この反応について想定しうる経路に対応するモデル化合物の反応の生成物から想定した経路の妥当性を評価した.その結果,芳香族化合物としてベンゼン(2f)を用いた場合以外は,2-メトキシ酢酸(1d)のTfOH媒介反応では,α-ヒドロキシアセトフェノン同族体7および11,1,1-ジアリールエタンジオール誘導体14,および1,2,2-トリアリールエタノール誘導体17を順次経てアントラセン誘導体10が生成することがわかった.
  • 日野 哲男, 浪江 勤, 中村 博之, 米澤 宣行
    2002 年 2002 巻 2 号 p. 219-222
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/04
    ジャーナル フリー
    ザンドマイヤーシアノ化試剤として四面体型のテトラシアノ銅(I)錯体を用い,生成物の単離 · 精製方法として昇華を行うことで,一群のフッ素含有の多官能性芳香族化合物である4-ハロ-3-トリフルオロベンゾニトリル(1a–c)の効率的な合成方法が達成できた.相当するジアゾニウム塩から目的のニトリル1a–cへの変換反応においてシアン化銅(I)は目的のニトリルをよい収率で与えなかったのに対し,K3[Cu(CN)4],Na3[Cu(CN)4],およびK2[Cu(CN)4 · NH3]の3種の四面体型シアノ銅錯体がザンドマイヤーシアノ化試剤として有効であることがわかった.また,これらの錯体の中では銅(I)錯体の2種が銅(II)錯体に比べて高い収率で反応を進める傾向があることが確認された.ニトリル1a–cへの変換反応はSNAr機構で進行しているものと考えられる.
  • 大河内 宗隆, 増井 大, 山口 素夫, 山岸 敬道
    2002 年 2002 巻 2 号 p. 223-229
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/04
    ジャーナル フリー
    カルボン酸銀-BINAP錯体は水や酸素に対して安定であり,シリルエノールエーテル類やケテンシリルアセタール類を求核試薬とする向山アルドール反応の高活性な触媒となる.種々のアルデヒドやケトエステル類を基質とした向山アルドール反応はDMF溶媒中短時間で完結しアルドール体を定量的に与えた.より反応性の低いケトンの場合,ケテンシリルアセタールを求核試薬とすると脂肪族ケトンは高収率でアルドール体を与え,芳香族ケトンではアルドール反応とともにシリル基移動反応が認められた.カルボン酸銀-BINAP錯体はα,β-不飽和ケトンに対する向山マイケル付加においても良い触媒となった.カルボン酸銀-BINAP触媒は求核試薬を強く活性化することによりアルドール反応を進行させると考えられる.
技術論文
  • 坂井 淳一, 安東 政義, 内山 武夫, 藤沢 一, 北畠 睦己, 豊泉 和樹, 広瀬 克利
    2002 年 2002 巻 2 号 p. 231-238
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/04
    ジャーナル フリー
    再生可能資源として入手の容易な日本イチイ(Taxus cuspidata)を新規抗癌剤Taxol®(Paclitaxel)(1)ならびに1の関連タキソイドの供給源として検討するため,日本イチイから誘導したカルス(イチイ培養細胞)に着目し,カルスの誘導方法,安定した増殖培養条件,1ならびにその関連タキソイド類の分離,生産方法を検討した.
     その結果,イチイカルスの誘導および安定した増殖を示す培養条件を見いだし,その生産物の抽出,分離方法を詳細に検討することにより,Taxol(1)を含め1の生合成における中間段階と考えられるタキソイド合計10種類とアビエタン1種類を単離同定した.また,本カルスはイチイ樹皮の含有量に匹敵する1の生産(乾燥カルス基準で0.01%)と,低酸化度のタキソイドTaxuyunnanine C(2)を始めとするその14位同族アシル化体3–6を極めて高い収率(乾燥カルス基準で総計0.49%)で生産しており,この結果は1の本カルスによる生産の可能性ならびに1および1の修飾化合物へのタキサン骨格供給源としての可能性を示唆する.
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