染料と金属との配位結合性に関して, ペーパークロマトグラフィーとポーラログラフィーの二手段を用いて検討した。
染料と金属塩をエチレングリコールまたは水中で加熱すれば,ある種の染料は金属と反応していわゆる配位結合体を生成するが,その結合体はペーパークロマトグラフィーの挙動が原染料のそれと全く異なるので,反応の有無は容易に識別できる。その際使用する展開剤は1)15%ピリジン,2)60%酢酸,3)
n-ブタノール・ピリジン・水5:3:5,4)
n-ブタノール・酢酸・水4:1:5の4種が適当である。
次に反応液にブリトン・ロビンソン緩衝液を加えてポーラログラフィーに付すると,結合のない染料は波形に変化がなく,結合があるものは明瞭な波形の変化が生じる。
しかも染料の化学構造の差異によって変化には単に波高が低下するものと,半波電位が負位にずれるものとの二つの現象がみられる。すなわち染料の発色団が結合に関与しないものは前者に,関与するものは後者に属する。
用いた金属塩はクロムミョウバン,アルミミョウバン,重クロム酸カリ,クロムおよびアルミの酸化物ならびに水酸化物,アルミン酸ソーダであるが,実験結果より染料と反応する金属は「イオン」の形であるべきと考えられる。
また反応前後の波形の観察よりアゾ型媒染染料では反応は二つの段階で進行し,まず,1)染料の一方の-OHとアゾ基が結合に関与し,次に,2)残りの-OHが結合に関与すると考えられる。
以上二つの分析手段はいわゆる「媒染性」の端的な識別手段として役立つし,更に染料の化学構造を推定するための参考にもなりうる。
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