ポリプロピレン系およびポリエチレン系など主として疎水性合成繊維への各種界面活性剤-アニオン,カチオンおよび非イオン活性剤-の吸着性を研究するため,これらの活性剤の酸性水溶液中(pH3.4)における数種の合成繊維のζポテンシャルを測定し,これより表面電荷密度を求め,さらに繊維表面の単位面積あたりの吸着量を算出し,各繊維について比較した。
アニオン活性剤SDSおよびDBSの場合,その濃度増加とともに,正のζポテンシャルを有するポリアミド系6-ナイロンおよびポリエステル系テトロンでは,そのζポテンシャルは正より負に転じて増加し,活性剤の吸着に静電結合の関与のあることを示唆したが, ポリビニルアルコール系ビニロン, ポリアクリロニトリル系カシミロン, ポリエチレン系ハイゼックスおよびポリプロピレン系パイレンなど, 負のζ ポテンシャルを有する繊維では, いずれもその-ζを増し,活性剤の吸着にvar der Waa1s力などの関与のあることを示唆した。またSDSよりDBSの方が活性剤濃度の増加による-ζの増加度が大きく,DBSのベンゼン環の吸着への関与が示唆された。
カチオン活性剤DPBの場合,その濃度増加とともに,負のζ ポテンシャルを有するビニロン,カシミロン,ハイゼックスおよびパイレンでは,ζの符号を負より正に転じて増加し,活性剤の吸着に静電結合の関与のあることを示唆したが,正のζ ポテンシャルを有する6-ナイロンでは,+ζの変化がみられず,静電的反ばつ力が作用し,また同じく正のζポテンシャルを有するテトロンでは,+ζが増加し,活性剤の吸着にvan der Waals力などの関与もあることが示唆された。
非イオン活性剤PEGの場合,その濃度増加とともに,繊維自身のζポテンシャルが負でしかもその値の大きいカシミロン,ハイゼックスおよびパイレンなどでは,-ζ が減じ,やがて一定値を示して,オキソニウムイオンの生成を示唆したが,その他の繊維ではこのようなことは認められなかった。
イオン性界面活性剤の濃度増加による表面吸着量は,膨潤度の小さい疎水性繊維ほど大であった。また繊維の疎水性,親水性のいかんにかかわらず,繊維と活性剤の電荷が同符号の場合にも,活性剤濃度の増加とともに,その表面吸着量が増大し,活性剤の吸着にvan der Waals力の関与のあることを示唆した。特にポリエチレン系およびポリプロピレン系の繊維では,大きい負電荷を有するにもかかわらず,アニオン活性剤の表面吸着量が特に大きいことより,活性剤の吸着にその炭化水素鎖の寄与が大きいことが示唆され,その染色に特に困難が多いとされているこれらの繊維用の染料の有する性質,構造などを推定する上に,これらの事実は有用であろうと考えられた。
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