リン酸水素カルシウムの加熱による脱水およびリン酸の縮合過程を中心として,リン酸水素カルシウムの熱変化を総合的に研究した。
リン酸水素カルシウム2水塩CeHPO
4・2H2Oを常圧下で加熱していくと,115~210℃間の段階的な吸熱変化を経て,X線的に完全な無水リン酸水素カルシウムCeHPO
4となるが,この間の脱水量は19.8%程度(理論量20.9%)であり,なお約1%の結晶水が残り,このものの赤外吸収スペクトルには,この水分に基づく吸収が認められた。また,2水塩に認められたP-OHの吸収以外に,2790cm
-1および1450~1300cm
-1にもP-OHの伸縮振動および変角振動のものと思われる吸収が認められた。この約1%の水は360℃までの加熱で徐々に失われる。360℃以上になるとゆるやかな脱水変化が起こり,450℃付近までにはγ-ピロリン酸石灰となるが,この際にも,X線的に完全にCeHPO
4が分解してγ-ピロリン酸石灰となっても,約1%の水分が残っており,このものの赤外吸収スペクトルには結合水に基づく吸収とP-OHに基づく吸収がわづかに認められた。γ-ピロリン酸石灰は少量の水を含む準安定な形態と考えられる。
このほか,920cm
-1,720cm
-1に吸収極大を持っP-O-Pの吸収も認められ,この吸収は時間の経過,温度の上昇とともに徐々に増大し,特に720cm
-1の吸収はγからβ,そしてα-ピロリン酸石灰と転移するにしたがって高波数側に移動した。これはγ,β,α-ピロリン酸石灰の順にP-O-Pの結合が強まることを意味するものと思われる。このほか,リン酸水素カルシウムおよびその加熱生成物のク溶性についても若干の検討を加えた。
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