ビスマスの分光光度定量法として硫酸を試薬に用いる方法を研究した。種々濃度の硫酸酸性溶液におけるビスマス塩の吸収スペクトルを測定し,ビスマスは225~232mμ を極大とする一つの吸収帯を示すこと,硫酸濃度の増加とともに極大波長は長波長へ移動し,吸光度は9~10Nの硫酸濃度までは減少するが,それ以上では上昇することを知った。つぎに酸濃度を1.8Nに規定し,その場合の極大波長227.5m/μ を測定波長として,検量線,温度,放置時間,共存イオンの影響等を検討した。常法では30ppmまで,示差法によれば90ppmまで直線性が得られ,温度,放置時間の影響も少ない。検量線の方向係数は常法では0.0447,示差法では0.0176,誤差はそれぞれ約1%であった。アンチモンが共存する場合,特異な吸収スペクトルを示すことを発見し,硫酸酸性ではビスマスとアンチモンが特異な反応を起すことを予想した。本法の特長としては,操作が簡単であること,精度がよいこと,特殊な発色試薬を必要とせず,硫酸のような安価な試薬で比較的精度よくビスマスを定量しうること,示差法を併用すれば,0.1~90ppmの広範囲の試料に適用できること等を挙げることができる。
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