スチレンの重合に影響を与えるカーボンブラックの作用,とくに表面官能基との関連性について検討を試みた。 ブラック試料は市販品および実験室的に化学酸化,熱酸化ならびに加熱真空排気処理を行なったものを用いた。スチレンとブラックとを真空下で,膨張計に充テンし,50℃で重合率の時間的変化を測定し,誘導期と重合速度を求めた。得られた実験値はそれぞれブラックの重合禁止作用と促進作用の大きさに相当する。ついで両作用と表面官能基との関係を調べ,つぎの結果を得た。
誘導期は,ブラック表面のキノン量約0.5meq/g以下ではほぼキノン量に比例するが,それ以上の領域ではキノン量の増加によってむしろ減少する。なおキノン比率(全酸素量に対するキノゾ量)と誘導期との関係を調べたところ,キノン比率が大きくなると禁止作用も大きくなることがわかり,さきのキノン量と禁止作用との関連性も,このキノン比率の概念を用いることにより,満足すべき説明が与えられた。
重合促進作用は,キノン比率が大きくなると禁止作用と同様に大きくなること,そしてまた全酸素量が増加するとそれにつれて増加することがわかった。さらに禁止作用の大きいブラックは,一般に促進作用も大きかった。
禁止作用は,ブラック表面のキノン基に起因するとのKrausの説に矛盾しなかったが,キノン比率の概念を用いることによって,キンン量と禁止作用および促進作用との相互関連性を明らかにすることができた。
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