認知神経科学
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19 巻, 3+4 号
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特別講演
  • 渡辺 茂
    原稿種別: 特別講演
    2017 年 19 巻 3+4 号 p. 109-117
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】本稿では動物における共感とはどのようなものであるかを述べ、特に共通経験の役割を論ずる。他個体の嫌悪の表出は観察個体に、いわば生得的に負の情動を起こす。しかし、観察個体にも同じ嫌悪経験がある場合にはその共感が増強される。薬物で誘導される快感でも他個体が一緒に薬物投与を受けると薬物強化効果の社会的促進が見られる。しかし、拘束ストレスなどでは他個体と一緒に拘束されるとストレスは減弱する。つまり、この場合、共通経験は抗ストレス作用を持つ。動物でもヒトと同様に、自分が他者と比べて不公平に不利益な状態に置かれると不公平嫌悪が見られる。しかし、自分が不公平に利益のある状態では嫌悪が弱いか、全く見られない。このことは嫌悪的な事態(拘束など)でも、好ましい事態(摂食など)でも見られる。これらのことは、動物の情動状態が自分の状態そのものより他個体の状態との比較に依存することを示唆する。

招待講演
  • 岡崎 慎治
    原稿種別: 招待講演
    2017 年 19 巻 3+4 号 p. 118-124
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】近年の認知機能のアセスメントの動向として、検査で測定される認知機能は単一の内容(知能や読み能力)から複数の構成要素に変化してきたことを挙げることができる。そこでは、知的能力を認知処理およびそのプロセスからとらえ、個人の認知処理様式の強い部分と弱い部分を明らかにし、強い面で弱い面を補うことを指導や支援で促すことにつなげることが可能という仮説を理論的に背景にもつことが多い。このような特徴は、とりわけ小児の発達障害を中心とした学齢期の児童生徒の認知評価とその支援への認知特性アセスメントへの検査適用として受け入れられてきた。中でもルリア(Luria, A.R.)による脳における高次精神機能の機能的単位に関する理論と、これをダス(Das, J.P)が発展させた知能のPASS(プランニング、注意、同時処理、継次処理)理論は、認知機能のアセスメントに係る理論的背景の一つと考えられている。ここでは知能のPASS理論ならびに関連する研究知見について概観すると共に、PASS理論を理論的背景として小児の認知機能評価に利用できる日本版DN-CAS認知評価システム(Das・Naglieri Cognitive Assessment System;DN-CAS)について述べた。

シンポジウムII 神経心理学的検査
  • 山下 光
    原稿種別: シンポジウムII 神経心理学的検査
    2017 年 19 巻 3+4 号 p. 125-132
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】神経心理学的評価は、対象者のパフォーマンスを測定することで広汎な認知機能の状態を査定する技法である。その対象領域には記憶、注意、処理速度、推論、判断、問題解決、空間認知、言語等が含まれる。欧米諸国では、神経心理学的アセスメントは神経科学と心理測定学に関して博士課程レベルのトレーニングを受けた臨床神経心理学者が担当する。しかし、わが国の神経心理学は、主に神経内科医や精神科医によって発展させられてきた経緯がある。そのため、近年神経心理学的アセスメントの需要が増加しているにもかかわらず、実用的な検査が少ないという問題がある。また、様々な欧米の検査が邦訳され使用されているが、その妥当性や信頼性、有用性は確認されていない。わが国の神経心理学が今後も発展を続けていくためには、医学と心理学がそれぞれの専門性を尊重した新しい協力関係を構築することが必要である。

  • 荻野 竜也
    原稿種別: シンポジウムII 神経心理学的検査
    2017 年 19 巻 3+4 号 p. 133-143
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】実行機能を中心に、神経心理学的検査の発達的研究と、発達障害を対象とした神経心理学的研究の知見をいくつか紹介した。発達的研究では、多くの検査得点に明瞭な発達的変化が認められ、しかも特に強い変化を示す年齢域は検査得点によって異なることが示された。特定の検査得点と他の検査得点の相関を検討すると、被験者の年齢群によって相関を示すかどうかが異なる場合があり、検査結果の解釈に注意が必要である。

    ADHDとPDDを対象とした研究では、多くの検査得点が対照群との差を示すだけではなく、そのプロフィールは病型によって異なっていた。就学前の複数の検査得点を用いて就学後の読字能力を予測でき、発達性読字障害のリスクを早期に判断できる可能性が示された。

    年齢に応じた標準得点を揃えることが難しく、また年齢ごとの各検査得点が反映する認知機能が十分に明らかにされていないことが今後の課題である。また、発達障害の諸病型に関して検査の感受性や特異性に多くを期待できず、臨床上の重要性は限られそうである。

  • 足立 耕平
    原稿種別: シンポジウムII 神経心理学的検査
    2017 年 19 巻 3+4 号 p. 144-148
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】てんかん外科治療場面では神経心理学的検査により手術前後での認知機能の変化を測定する。これまでの研究では左側頭葉前部切除後に言語性記憶の低下が生じやすいことが知られている。また、筆者らの検討では左側頭葉前部切除例では検査上だけではなく、患者本人も記憶力の低下を感じている例が多いことが明らかとなった。このように神経心理学的検査の結果は患者本人が感じている主観的な認知機能の変化と結び付けて解釈をしていくことが重要である。

  • 松井 三枝
    原稿種別: シンポジウムII 神経心理学的検査
    2017 年 19 巻 3+4 号 p. 149-157
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】意味性認知症の1症例による神経心理学的アセスメントを紹介し、その意義を考察した。症例は意味性認知症に特徴的な言語の表出理解の障害(呼称・理解の障害)を特異的に示し、アルツハイマー型認知症とはかなり異なる様相を呈していることを、神経心理学的アセスメントから明らかにした。意味性認知症であるにかかわらず10年間仕事を全うできた理由は、認知予備能の高さ、残存する言語理解の特徴、人格の安定性、本人を取り巻く人々への十分な説明、家族の熱心さが関係していると思われる。精神疾患において、神経心理学的アセスメントをとりいれることは、診断や治療のための医療従事者相互の理解や家族や当人を取り巻く人々への説明のために有用でありかつ重要なことといえる。また、神経心理学的検査を実施する際に、臨床観察から得た定性的情報を十分に盛り込み、神経心理学の多くの蓄積を応用する柔軟性が臨床現場では重要である。

総説
  • 髙尾 昌樹, 美原 盤, 新井 康通, 広瀨 信義, 三村 將
    原稿種別: 総説
    2017 年 19 巻 3+4 号 p. 158-163
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】110歳以上(超百寿者)4例の脳病理所見を検討した。アルツハイマー病の変化は、3例ではintermediateレベルにとどまり、十分な老人斑と神経原線維変化の存在を認めた症例はなかった。1例はprimary age-related tauopathyであり、老人斑はほとんど無く、神経原線維変化が優位であった。パーキンソン病やレビー小体型認知症病理は認めなかった。高齢者認知症の原因疾患として注目されている海馬硬化症は認めなかったが、一部の海馬でTDP-43沈着を認め、“cerebral age-related TDP-43 pathology and arteriolosclerosis” (CARTS)の初期ともいえる状態であった。近年注目される、aging-related tau astrogliopathy (ARTAG)という、加齢に関するアストロサイトのタウ沈着が全例でみられた。脳血管疾患は軽度であった。加齢とともにアルツハイマー病は増加するとされているが、超百寿者まで検討すると、そういった予想は当てはまらないかもしれない。また、アルツハイマー病以外の加齢に関する病理学的変化も目立たず、脳における加齢変化を検討する上で、超百寿者の脳を解析することは重要である。

  • 村井 俊哉, 生方 志浦
    原稿種別: 総説
    2017 年 19 巻 3+4 号 p. 164-170
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】脳損傷後には、依存性、感情コントロール低下、対人技能拙劣、固執性、引きこもりなど、社会的場面における行動に様々な問題が生じてくる。前頭葉は社会的行動と関連する重要な脳領域であるが、その損傷の直接の結果として生じる行動障害は、アパシー、脱抑制、遂行機能障害という3つの症候群として考えることが可能である。アパシーは内側前頭前皮質、脱抑制は眼窩前頭皮質、遂行機能障害は背外側前頭前皮質の損傷とそれぞれ特異的に関連しているとの主張も見られるが、実際には病変と症候の対応関係はそれほど明解ではない。個々の症例における評価と対応においては、実生活の中で問題となる社会的行動障害がどのようなきっかけで生じるかを分析し、必要とされる具体的な能力の獲得を目指すことが必要である。

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