【要旨】現在、本邦には約500万人の認知症患者がおり、2030年には1,000万人に及ぶと予想されている。その主たる原因疾患であるアルツハイマー病に対し2021年6月、世界初の根本治療薬aducanumabが米国で承認された。Aducanumabはアミロイドβタンパク（Aβ）に対する抗体で軽度認知障害（MCI）を主な適用としており、早期発見の重要性はさらに増している。筆者は、WEBで施行でき、認知機能の縦断的変化の評価が可能な認知機能検査「脳検」を開発した。「脳検」を活用することにより、aducanumabの投与対象者の決定や医療費の有効活用に役立つと期待される。また筆者は、健常高齢者の認知機能の維持・改善を目的とした音楽体操による介入を、紀伊半島の東紀州地域で行ってきた（御浜-紀宝プロジェクト）。5年間の継続により、加齢による認知機能の低下が有意に抑制された（御浜-紀宝フォローアップ・プロジェクト）。「脳検」を活用することにより、aducanumabの投与対象者の決定や、音楽体操を含む運動を中心とした非薬物療法の導入、さらには生活習慣病の管理の厳格化などに役立つと期待される。

【要旨】認知予備力とは、脳の病理や加齢の影響を受けても認知機能の低下を抑える個人の潜在的な能力を意味する。この認知予備力はそれまでの教育、仕事、余暇活動経験や病前知能などが関連し、さまざまな精神・神経疾患の発症時からの機能に影響を及ぼすことが予測される。この認知予備力の考え方は、さまざまな精神疾患や神経疾患においても考慮すべき事項と考えられる。実際、医療従事者は、患者の診断・治療や予後の見通し、社会復帰の可能性等を考える際に、このような個人の背景や資質を念頭に置くことも重要であり、認知予備力を定量化できる測定法があると大変有用である。我々は、幅広い年齢層にも適用し、臨床で有用な日本人向けの認知予備力評価法の開発を行うとともに、精神疾患や神経疾患に対する認知予備力を検討している。これまでに脳腫瘍患者を対象にした認知予備力の研究はほとんどない。腫瘍摘出手術後の患者の機能的予後を予測することは重要である。脳腫瘍患者を対象に、腫瘍摘出後の認知機能に対する認知予備力の影響について検討した。結果、上縦束の損傷が術後のワーキングメモリの低下に影響し、仕事の複雑性が高いほど、手術後のワーキングメモリが低下しにくい可能性が示された。病前の仕事での認知的活動の蓄積が認知予備力を高める要因となり、脳腫瘍摘出手術後のワーキングメモリの低下に対して、保護的に作用した可能性が考えられる。

This study was aimed to devise the shortened version of the Western Aphasia Battery （the WAB）.　A factor analysis of scores of 203 aphasics on the WAB was performed to clarify the factorial structure of the WAB.　Among eight factors which were interpreted, six factors oral language, phonogram word com-prehension, ideogram word comprehension, serial writing and copying, phonogram writing, and auditory comprehension were closely related to aphasia.　Thirteen test items with higher factor loading on the six factors were selected.　Further a cluster analysis was per-formed on the scores of the WAB.　From the result six test items of the thirteen test items were withdrawn and five test items were added.　Consequently the shortened version of the WAB consists of twelve test items taking twenty or thirty minutes for most aphasics.　It can classify about 90% of aphasics into Broca’s, Wernike’s, grobal, and amnestic aphasia.　The shortened version of the WAB is appropriate for screening aphasics.　And the using with the WAB makes it more practical.